表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

172/193

170 運命の人。1

 アレから少しして、ネネさんと夏休みについて話し合っていたんですが。

 私の庭に、男の人が現れました。


『音一さんだよね。僕の事、分から、無いよね』


「すみません、ちょっと思い出せません」

『榊原 大志です、父がお世話になりました』


「あぁ」


 ネネさんの心が、ザワザワした。

 そして目の前の人は。


『お友達でしたか』

「いえ、遠い知り合いで、既に疎遠になっています」

『本当に、父がすみませんでした』


「いえ、お気になさらず」


『ココが何処か分かりますか』

『いえ全く』

「明晰夢だとでも思って下さい、異世界ですから」


『異世界』

「はい」

『死に掛けでも無いのに不思議ですね、ネネさんと縁が有るみたいです』


「成程。詳しくは後でご説明しますので、先ずはお休みに」

『いえ、僕と関わるのはあまり気分が良い事じゃないだろうし、誰か他の方で大丈夫ですから』

『そのままの言葉が通じるのは私かネネさんですが、他はもっと混乱するかと』


「私は構いません、お好きにどうぞ」

『私はヒナです』

『ヒナちゃん、宜しくお願いします』


『はい、では家を案内します。暫くお待ち下さい』

「はい」


 最初はネネさんのザワザワの方が大きかったのに、今はこの男の人の方がザワザワしてます。


『何故そんなに心が動いているのでしょうか』


『顔に出てたかな』

『私は悪魔と(ヒト)種の子です、機微が分かります、ネネさんのザワザワより今のアナタのトゲトゲの方が大きいです』


『はー、そっか、本当に異世界なんだ』

『でも明晰夢で終わらせる事も出来ます、アナタが留まるかどうか、それ次第ですから。因みに言うとネネさんは留まります』


『そうなんだ』

『はい、向こうはクソですから』


『そうだね、うん』


 チクチク、トゲトゲ。

 重くて曇り空みたいに湿ってます。


『何をしましたか』


『僕は、何もしなかった』




 父は音一さんの家族と知り合いだった、音々さんと似た年の僕を引き合わせた事も有る。

 音楽の知り合いだった。


 大した関わりも無かったし、何度も会ったワケじゃないけれど。

 音一さんのお母さんが派手な分、控え目で大人しい子だなって。


 それに、交友関係の広い父の影響で、家族写真を良く見ていたから。

 多分、僕だけが良く覚えてるんだと思う。


『ネネさんが大して覚えて無かった事が痛かったですか』


『それも有るかも知れないけど、問題は父の事だね』


 音々さんがアレンジした曲をほぼそのままに、無断で自分がアレンジしたかの様に、ネットに載せた。

 音楽に幅広く関わっていて、本当に忘れていたらしく。


 後から聞かされた言い訳は、音々さんがアレンジした曲を再現しただけだ、と。


『それからどうなりましたか』

『向こうから訴えが有って、けれど謝罪も取り下げも要求されずに、縁切りだけ』


 そう聞かされた時、猛烈に怒りが湧いた。

 僕も音楽が好きだから、父親が有り得ない事をしてショックだった。


 そして当然、写真も見れなくなった。

 その時に初めて、好きだったんだなって。


 父親にキレたのはあの時が初めてで、本当にグチャグチャになった。


 好きだと気付いた時には、父親のせいで関われなくなっているし。

 初めて好きだと思った事に、ケチが付いたし。


『ココで話し合えば良いのでは』


『そうだね、ありがとう』




 全く覚えて無いけれど、会った事は有るらしい。

 もしかして、記憶を消してしまったんですかね。


「すみません、そうした方に色々と会っていたので」

『ですよね、ウチもです』


「あの、本当に気にしないで下さい、アナタに何の責任も無いので」

『もっと強く言って、謝らせる事も出来たかも知れない』


「いえ、謝られたら間違いが有ったと言う事になりますので。私はもう、受け入れるつもりは今でも有りません。偶々、似てしまっただけ、褒め言葉は私にも贈られたモノとして考えるつもりでした」


『けど無理だった』

「あの頃は、大人に幻想を抱いていたので」


『ほじくり返してごめん』

「いえ、今はもう消化出来ましたし、ありがとうございました。後はお好きにお過ごし下さい、善人には良い場所ですから」


『音一さんは、帰らないのかな』

「はい、他にも色々と有ったので」


『そっか、だよね』

「帰るにしても気にしないで下さい、アナタには何も思っていませんから」


『ですよね』


 何故、落ち込まれたのか全く分からない。


「あの、音楽は別に、そこまで好きでは無かったので」

『えっ、そうなの?』


「プロになろうと言う程では無いです、寧ろ遊園地が好きなので、その方が響いてるかと」

『何か有ったの?』


「最終面接で音一家の、じゃない方だとして落とされました、思ってたのと違うからと」

『うわぁ』


「高校ではコンカフェを企画したのに、全て乗っ取られました」

『凄いの居るなぁ』


「高幡 睦月です」


『あぁ、定期的に炎上してる子、同級生だったんだ』

「はい、そして中学では好きな人に作ったマフラーを盗まれ、それを好きな人が付けてました。別の子と一緒に登校して」


『そりゃ帰りたくなくなるよね』


「家族には申し訳無いと思いますが、産まれる場所を間違えたのかも知れません、ココの方が多少は性に合うので」


『そっか、本当に気にして無いなら、案内を良いかな』

「構いませんが、何故私なんでしょうか」


『流石に、お姫様に案内させるのはどうかと』

「ですよね」


 彼の事を全く知りませんし、何を考えているか分からないけれど。

 多分、ヒナちゃんが特に注意を向けませんし、勘からしても大丈夫な筈。


 多分。




『本当に異世界だなぁ』

「ですよね、分かります」


 この場所の名前は地獄(ゲヘナ)と言うらしく、獣人や妖精が本当に居る。


『ユニコーン』

「アレは基本無性だそうです、戦って負けた方が雌になるんだそうです」


『へー』

「帰りたいですよね」


『まぁ、そうだね、音楽をやってるから』

「ココにシーケンサー無いですしね」


『バンド組んでるんだ』

「凄いですね、頑張って下さい」


『あ、恋人とかって』

「今は既に婚約者が居りますので、ご心配無く」


『そっか』

「大志さんはどうですか、さぞモテるかと」


『バンドマンだからとか、顔でモテてもね』

「贅沢な悩みで」


『うーん』

「あの家族の中で、知らないですか、ウチの姉とか」


『知ってるけど、それは好みの違いとかなワケで』

「別れた恋人に、姉の胸を妄想して頑張った、と言われました」


『殴っておこうか』

「結構です、金銭的な制裁はしたので」


『それはそれじゃん』

「では金玉引っこ抜いて竿を八つ裂きにしといて下さい」


『それで足りる?』


「生き恥を晒し永久に引き籠もっていて欲しい、あんな遺伝子消滅すれば良い」


『そんなに好きだったんだ』


「好きってなんですかね、ココに居るせいか、寧ろ裏切られた事に対しての気持ちが大きい気がするんですよ」


『あぁ、うん、きっとソレだよ』


「ありがとうございます」

『いや、音一さんはモテると思うよ、こうしてても真面目さが伝わるんだし』


「チャラさを会得する時期を逃しただけかと、真面目さ位しか取り柄が無いので」

『いや、可愛いよ、うん』


「馬子にも衣装」

『そりゃ素直になれないよね、ごめん』


「すみません、アナタのように顔が良い人の言う事は、特に鵜呑みに出来ませんで」

『お姉さん大変そうだしね』


「おや、良くご存知で」


『ごめん、今でも偶に見てたから』


「だから直ぐに分かったんですね、私の事」


『まぁ』

「アナタを責める気は全く無いです、音楽が好きで頑張ってらっしゃるなら、寧ろ応援します。親の背を超える大変さは、良く分かりますから」


『好き、だったんだ』


「姉が」

『いや君が』


「珍しい」

『いや君、婚約者が居るんでしょ』


「まぁ、はい」

『えっ?嘘?』


「いやマジですよ、不思議な事に」

『いや本当に、どちらかと言うと、再燃した』


「地味好きなのか、申し訳無さを何かと混同しているのかと」

『最初はそうだったと思う。問題が起きてムカついて、写真を見れなくなると気付いて、凄く寂しかったんだよね』


 そこで気付いた。

 いつか会えるかも知れない、その可能性が無くなって、関われなくなった。


 もしかしたら、嫌われているかも知れない。

 憎まれているかも知れない。


 会えないだろう事が嫌だった。


「激情に何か混ざっちゃただけでは」

『そこも考えたけど、投げた、どうやっても関われないだろうから』


「ですね、向こうで会おうと言われても会わなかったでしょうし、話す事も無かったかと」

『だよね、でも、出来るなら一緒に帰って欲しい』


「記憶、多分ですが引き継げませんよ」

『あぁ、じゃあこのまま居ると、向こうではどうなるんだろ』


「行方不明か意識不明か、若しくは死ぬかと」


『でも、僕は死に掛けじゃない』

「私も多分そうなので、はい、どうなるか分かりません」


『もし、記憶が有れば』

「アナタの相手は無理かと、こうして劣等感が凄いですし、私の何が好きだったのか全く分からないので」


『何か、こう、クリスマスの写真とか見て。一緒ならこうしたいなとか、楽しそうだなとか、まぁ、ガキの頃の事だから』

「中身こうですが」


『思った通りって言うか、安心した、やっぱり良いなって感じに思った』


「素直に信じるなら、モテ期なんですが」

『だよね、しかもソッチは知らなかった、覚えてもいないだし』


「他にも、ちょっと有るので。すみません、以降はヒナちゃんとお願い出来ますか」

『あ、彼女も向こうの記憶有るんだよね、あの感じ』


「少し、中には幼い子も来るので」

『そっか、ごめんね、色々とありがとう』


「いえ」


 もう少しすれば、どうにか出来るんじゃないか。

 どうにか出来無いか、そう考えてた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ