169 姫サーの姫。3
ジュリアは敢えて呼ばず、今回はネネとシイラ、クラム夫人に妙さんを呼び鑑賞会を開いた。
俺が家に帰るまでの経緯を、アズールが水晶で記録していたからな。
「レンズ、ぶん殴りに行きたいんですが」
《まぁ待て、続きが有る》
あの女は化けの皮を脱ぎ着し、ボロが出始めた所で止めた。
メゾンドショコラの件だ。
『メゾンドショコラのケーキと全く同じ味でした』
《おう、なんせメゾンドショコラのガトーショコラだからな》
この水晶を持ってケーキ屋に行ったが、店員が買いに来たとの証言も得た。
アイツは早々にボロを出した、多分ガキだからと舐めてたんだろうな。
『何故そんな事をしますか』
《どう思う、シイラ》
「あー、見栄、ですかね」
《ネネはどうだ》
「虚栄や嘘を、悪だと認識していない、とか」
《クラム夫人はどうだ》
「んー、それらを含んでいたり、自尊心や自己肯定感が異常に高い。ですかね」
《ヒナ、怒鳴り込まれた時どう思った》
『何かを勘違いしているのかと思いました、先入観は良くないと言われたので、嘘については感覚を遮断していました』
《俺はヒナのケーキの感想で、直ぐ嘘だと分かった、だから面白かった。続きを流すぞ》
しどろもどろになりヒナに追い詰められる姿は。
本当に滑稽で、実に愉快だったんだが。
『何が面白いのか分かりません』
「それは多分、ヒナちゃんには黒い部分が全く無いからですよ」
『うんうん』
「ですね、私にも有りますし」
「私にも有るので、正直、面白く感じてしまいましたね」
『私には何で分かりませんか』
「それは経験と知識の差かと」
「はい、だけでは無いですが、そうかと」
「私達には其々に、彼女に良く似た嫌な思い出が有るから、ですね。私は、姉がコレでした」
『あらー』
「そうなんですね、すみません」
「いえいえ、いつか言おうかなと、なので機会をありがとうございます」
『姉妹なのに嫌な思いをしましたか』
「コレ、どの位の事を言って、大丈夫ですかね?」
《大丈夫だ、問題無い》
『はい、宜しくお願いします』
「なら、私達は席を」
「いえいえ、大丈夫です。どうせ結局は他人の事、として今は落ち着いてますから」
そして中身は、そこらの物語かって位に良く聞く話だったが。
本当に有るんだな、家族にまで裏表を使うヤツが。
「ありがとうございましたシイラさん、1つ良いですか?」
「はい、何でしょう?」
「その、何故だと、思いますか」
「器用に裏表を使える自分凄い、使いこなせてる自分偉い、皆しないなんてバカじゃないの。でしたね、姉は」
知っているだけ、より、やっぱり身近に居た奴の言葉は違うな。
「成程、全く無かった観点です」
『本当に、逆に凄いですし。確かに器用ですから、でも、幸せだったんでしょうか?』
「多分、ですね、私にだけ見せて満足していたので」
《けど居なくなったら、意外と崩壊してるかも知れないぞ》
「ですよね、マウンティングもひけらかしも出来無くなってるんですから」
「でも、もしかしたら、私にだけじゃ無いかもですし」
「お茶汲みが居なくなって潰れる、とかの都市伝説が有るかと、それかも知れませんよ」
『あぁ』
《マジで有るからな、だからウチでは出来るだけ気を付けて見てた。目に見える業績だけで評価するのは、マジでヤバいからな》
シイラは、やっぱりかなり我慢するタイプだな。
『いつか辛いが面白いになりますか』
《もうかなり消化出来てたり、消化途中だと難しいかもな》
『ずっと、ココに有る気がします』
《消化は胃腸が動いてこそだろ、まだ有るだけだ、小腸か何かがまだ足りないんだろう》
『滑稽は難しいですか』
《だな》
ネネが、何か言いたげだが。
だよな、手をワキワキさせる方が珍しい。
「私、無声映画系が苦手なので、コレは滑稽とも少し違う気がするんですよね」
「分かるかも、私も苦手なんですよ」
「私もです、コレぶっちゃけ言うと、ざまぁ。だと思うんですよ」
『「「《あぁ》」」』
『ざまぁって何ですか』
「ざまあみろ、の略、ですよね?」
《だな。不快感を与えられた分だけ、天罰が下って気持ちが良い》
「私、水戸のご老公様、2代目の方が好きなんですけど」
「あぁ、分かります、優しそうですよね」
「古い作品なのに、良くご存知で」
「祖父が好きだったので、その影響ですね」
『コレが私の印籠です、でも小さいのであまり信用されません』
「わぁ、初めて見ました私、素敵な細工ですね」
「ウチのと結構違いますね」
『あ、其々に違うんですね』
『新しく作って貰いました、敢えて壊れる様にして有るそうです、その時代の技術を記念として残す為だそうです』
《成程な》
『私も、いつか笑える日が来るでしょうか』
《どうだろな、コレばかりは、どっちでも良いな》
「はい、例え黒い部分が無かろうとも、ヒナちゃんはしっかりしていますし」
『レンズさんが居るから大丈夫ですよ、それに面白い事って、必ず全員が笑えるワケじゃないですから』
「うん、ですね」
「そうね」
《もう少し、様子を見よう》
『分かりました』
少し不満げだが。
《ヒナ、この前の顔を見せてくれよ》
『あらー』
「わぁ、可愛いぃ」
「美幼女は何をしても美幼女、凄い」
「凄い事を教えましたねレンズ」
《結構前の事なんだけどな、やっと使い道が分かったらしい》
「成程、成長ってこの事だったのかも知れませんね」
《どうだ、滅ぼし続けるのは考え直せそうか》
「ですね」
本当に、道化にも意味が有るとはな。
《すみませんでした~》
『凄いわね、あの子』
「本当、意地でも曲げないなんて、逆に尊敬しちゃうわ」
《見習いたくは無いけれど、ね、ふふふ》
別に、嫌われたって死ぬワケじゃないし。
嫌なら辞めれば良いだけだし。
『君ねぇ、そこまでして変える気が無いなら、もう良いよ来なくて』
《は~い、分かりました~》
お店なら幾らでも有るし。
まだ若いし、最悪は結婚すれば良いだけだし。
別に、逆に媚びを売ってるのは他の奴らの方じゃん。
逆に私は、しっかり裏表を使ってるだけ、なのに。
「あぁ、君は雇えないんだ、他を当たってくれるかな」
《えっ》
「いやだって、喋り方1つ直せないのに、他の事なら素直に教えられて出来ますよって言われてもねぇ。ウチだって、それなりに企業秘密ってのが有るんだ、信用ならない子は置けないんだよ」
《でも、秘密をバラしたりなんて》
「どう証明するんだい」
《それは》
「すまないけど忙しいんだ、他を当たってくれ」
何で、どうして。
《あの》
《あ~、アナタねぇ~、残念だけれどウチでは無理なのよぉ~》
バカにしやがって。
《そんな、喋り方を誂うのって》
《あら~、私、誂ってなんか無いわよぉ~。そ・れ・と・も、何か証拠でも有るのかしらぁ~?》
《もう、良いです》
《あら~、ご多幸をお祈り申し上げますわねぇ~》
何よ、単なる個性じゃん。
誰だって、向こうではしてたのに。
何でよ、何なのよ。
『バアル・ゼバブ、例の女性がココへ戻って来たそうですが』
「あぁ」
『ちゃんとお仕事してますか』
「しているよ、なんせ最後の砦だからね」
『何故ですか』
「方言ならまだしも、言葉1つ直せないなら、やる気や本気度を認めては貰えない。誰だって、真剣に店で働いているのに、巫山戯た態度の者を雇えば意欲低下に繋がる」
『私は笑えませんでした』
「あぁ分かるよ、けれど同時に笑える意味も分かる。経験からして、あの失敗から先が見えていたからだ」
『先読みの力ですか』
「いいや、それこそ経験則から導き出された、未来予測だよ」
『こうなるだろう事が、分かっていたから面白いんですか』
「不快感は無かったんだね」
『はい、謎ばかりでした』
「なら、会いに行ってみると良い」
『はい、そうします』
誤解していただけかも知れない。
なので口調が少し荒かっただけかも知れない。
そう思っていましたが。
少し違いました。
《あ、アンタ、もしかして私の悪評を広めたんじゃないでしょうね》
『いいえ、私は何もしていませんが』
《じゃあ何で私は何処にも雇って貰えないのよ!!》
『口調を直せば良かったのでは』
《出来るワケ無いじゃない!ずーっとコレで通してきたのに、もし以前の》
「マリアちゃん」
《あ、いや、コレは演技の練習で》
『以前も私に怒っていたのも演技ですか』
《そ、そうそう、それにいけない事をしたから~》
「そうなんだ」
《うん、って言うか~、いつからココに来てたの?》
「最近なんだけど、全然違う所に居たんだ」
《そうなんだ~、折角だし、今度お茶しに行かない?》
「ごめんね、もう僕結婚相手が居るから、じゃあねマリアちゃん」
《うん、お幸せに~》
多分、この女性は演技をしないと、怖くて生きていられないのだと思います。
カメレオンに似ています。
でもカメレオンは笑えませんが、彼女は笑えるのでしょうか。
『カメレオンは安心しますか』
睨んで何処かに行ってしまいました。
やっぱり良く分かりません。
「サーカスの道化師は、どうだろうか」
『凄いなと思います、さっきの男はバアル・ゼバブだったんですね』
「あぁ、分からなくとも問題無い、分かっても問題は無い事が世には有るかも知れない」
『人種は謎がいっぱいです』
「だからこそ、精霊も悪魔も惹かれ続ける、求め続けるんだよ」
私には分からない事が沢山有ります。
お腹のコレが消化出来る様になるまで、まだ時間が掛かりそうです。