168 姫サーの姫。2
俺としては、だが。
何処かでそうした成功体験を見たか、知った。
そうして成功体験を重ね、もう後戻りが出来無くなった。
《常に笑顔でニコニコしてたヤツが、急に真顔になっただけで、緊張感が走るだろ。だからもう、したくても後戻りが出来無い、しかも偽りの姿だったと知られたら叩かれるだろ》
言葉を出す為に、シイラは手をワキワキしてるが。
よっぽど、コイツの方が天然だと思うがな。
「こう、他にも見本が有って、そっちにシフトするとかは」
《どれも、メリットが少なく思えてるんだろうな、利が無ければ動かない》
「でも、どう思われてるかは、分かってる筈ですよね?」
《だな、だからこそアイドルも同じ対応をし続ける、それと同じだろうな》
「成程、アイドルの素質が有る」
「確かに」
「ですけど、ちょっと、絡み方が問題では?」
《だな、何処にどう皺寄せが出るか分からないが。何故なんだろうな、シイラ》
「あー、尋ねてみたんですが、自分の範疇じゃない。だそうで」
《はぁ、シトリー》
《何故、他の者を呼ばないのでしょうか》
《慣れてるからだな、何故アレが野放しなんだ》
《試験は問題無く受かりましたし、大きな罪も犯してはいない、止める理由が有りませんから》
《はぁ》
「あの、質問を宜しいでしょうか」
《はい、何なりと》
ネネは意外と冷静だな。
「以降も、問題を起こさない、その認識で宜しいでしょうか」
間が開いたな。
《どう、お答えしましょうかね》
「分かります、海外映画で犯罪抑止をするモノ。ですがアレは仮定、コレはほぼ確実に起こるのでは」
《はい、ですね》
《あぁ、アレか、SFの》
「全力で関わりたく無いですが、もし何か被害が及ぶなら食い止めたいんですが」
《それが例え、子の成長に繋がるとしても、でしょうか》
ナイフの危険性を知らなければ、ナイフの扱いは雑になる。
そしていきなり大きな怪我をするか、最悪は誰かを殺してしまうかも知れない。
「あの、では私は、傍観するに1票で」
真っ先に口を開いたのは、クラム夫人だった。
そして次には、シイラが。
「私は、その、あまりにも免疫が無いので、控えさせて頂きます。多分、事態を悪化させてしまうかも、知れないので」
《あぁ、英断だ、関わるだけが良い事ばかりじゃないんだ》
「ですね、監督所でも無理せず、ですから」
で、問題はネネだ。
「極論を申し上げます。いっそ、封殺し、現れない様にすれば良いだけでは」
《確かに一理あるが、だが》
「最初から蚊が居なかったら、困らないですよね」
《まぁ、そうだが》
「録音を聞いたんです、アレと凄く似た話し方を、向こうで」
《まさか、浮気相手か》
「はい、声は違うので違う方だとは思いますが、出来るなら私はこの世から抹殺し続けたい」
《心中お察し申し上げますが、少なくとも今は、無害。独断と偏見で断罪をなさっては、最早、独裁政権も同じかと》
冷静に憤るタイプだったか。
「そこなんですよね、私には毒でも、もしかすれば誰かの薬になるかも知れない」
《ですが、免疫を持つモノは少ない》
そこが問題だ。
いや、なら俺が身に付ければ良いだけ、か。
《俺が獲得する、そうすれば今後の対策も考えられるだろう》
「レンズ、カッコつけても見直しませんよ」
《良いでしょう、では、その様に》
私は善意から、地獄の王宮の侍女の仕事を紹介したのですが。
《何アレ、マジで、嫌がらせにも程が有るんじゃないの?》
『何の事でしょうか』
《はー、ガキだからってマジで舐めてたわ。でもいい加減にしなよ?やって良い事と悪い事の》
《ヒナー、帰ったぞー》
《あ~、お帰りなさ~い、お邪魔してますね~》
またレンズから危険信号が出ています。
《あぁ》
《あのぉ~、前回のお礼に、ケーキを焼いて来たんですけど。一緒に食べませんか?》
《あぁ》
《あ、じゃあコレ、お願いしますね》
以前は排除しようとしていたのに、何故でしょうか。
《それで、仕事の方は決まったのか》
《それがもう、全然でぇ~》
『私が王宮の侍女の仕事を紹介したのですが、何故か不満が有る様です』
《あ、いや、それはお試しで~。でも凄く厳しいって言うか~、何か変な噂が回ってるのか~、凄く働き辛くて》
《へぇ、どう大変だったんだ》
《何かもう~、少しでも何かする度に~》
『水晶を取り寄せましょうか』
《はぁ?》
レンズから、楽し気な雰囲気が立ち込め始めました。
どうしてか、この女性が怒りを露わにしているのに、です。
《大丈夫か?何か喉に詰まったみたいだな》
《あ、ごめんなさ~い、謝り過ぎて喉が潰れちゃったみたいで》
『貰ってきますね、水晶』
《ちょっ、良いの良いの、大丈夫だから~。私って、ドジだから~、何か知らない間に失敗してたかも知れないし~》
『過度な叱責はいけない事です、直ぐに監査を入れます』
レンズは、どうして静かに笑っているのでしょうか。
《まぁ、大袈裟にして欲しくない、誰かを責めて欲しくないって事だろ》
《そうなんですよ~、誰かが私のせいで傷付いて欲しくなくて~》
『同じ間違いが他でも有ってはいけません、悪しき行いは直ちに是正されるべきです』
《で、でも~》
《まぁまぁ、ケーキが来たぞ、食おうヒナ》
『はい、分かりました』
どうしてレンズは中立の立ち位置を守っているのでしょうか。
《あぁ、美味いな》
《ありがとうございます~》
『メゾンドショコラと全く同じ味です、凄いですね』
褒めているのに、女性は感情の波が激しく。
レンズは肩を震わせ笑っています。
全く意味が分かりません。
《そ、それ、有名なお店なのかな~?》
『はい、パティシエの来訪者が作ったお店です。なので材料を厳選し、何処の店も全く同じ味が作り出せないとされているので、是非お店で働くか新しくお店を出す事を推奨します』
《コレは、偶々、そこら辺で売ってた材料で》
『何処でですか、あのお店の材料は他では手に入らない筈です、もしかすると闇取り引きの証拠になるかも知れません』
《あー、何処だった、かなぁ~》
『大丈夫です、許可を頂ければ匂いを追跡し、何処をどう歩いたかが直ぐに分かります』
《ヒナ、ならコレをじっくり味わってからでも、良いんじゃないか?》
『分かりました、そうします』
不法売買や闇取り引きは、違法行為です。
最悪は生食として売った場合、死者が出てしまう場合も有ります。
なのに、どうしてレンズは悠長に、にこやかにケーキを食べているんでしょうか。
《紅茶のお代わりを頼む》
アレは実に面白かったな。
ケーキを完食して直ぐ、逃げる様に出て行った。
『何で止めましたか』
《アレはな、悪しき見本であり道化だ、違うかシトリー》
《はい、ご明察の通りです》
『私は何も面白くありませんでした』
《だろうな。面白いと感じるには、一定の知識や教養、それに経験が必要になる》
《本来でしたら、スズランの君にもお見せしたかったのですが、扱いを間違えれば酷い事故となってしまう》
《あぁ、だな。だが、見せてやりたいな》
『シトリー、どうしたら私も面白くなりますか』
《コレばかりは、経験ですし。幾ばくか性根に黒いモノが無いと、楽しめませんから》
『お仕事は出来てましたか』
《あぁ、いいえ、全く。料理も掃除も洗濯も、全てが中途半端、ですがやる気が有れば問題は無かったのですが》
《男に色仕掛けばかりか》
《いえいえ、男女問わず、でしたよ》
《ふふふ、傑作だな》
『解説して下さい』
《ダメだな、滑稽さを説明しても、大して面白くならない》
《ですね》
《お、膨れたな、適切だ》
不満や不服な時は、頬を膨らませと教えていたんだが。
今か、成程な。
『レンズは意地悪ですか』
《いや、コレばかりは本当、直ぐには分からない事なんだ》
《ですが、もしかすれば、彼が解説出来るかも知れませんね》
『アズール、説明して下さい』
「僕でも、少し、いえかなり難しいかと」
《だろうな》
成長って、コレかよ。
けどまぁ、アリだな。
『んー』
《はいはい、どうどう、後でネネ達に話して説明して貰おうな》
『そうします』
すまん、説明は頼んだ。