16 ラウム男爵と準備。
ラウムさん、ヒナちゃんが言う通り。
本当にフワフワした可愛い人だった。
けど、答えが真っ直ぐなの。
《うん、なのでネネちゃんを補佐する側に回るね》
「どうしてそうなります?」
《あのね……》
私がもう偽ユノについて情報を残したのに、まだココに居るって事は。
何かしらのやり残しが有るか、単に時期じゃ無いからか。
で、やり残しって何だろうってなると。
ヒナちゃんは正直、悪魔さん達の国に居るから何とかなると思うんだけど。
「私、ですか」
《うん》
「そんな頼りない、ですね、まぁ」
《ヒナちゃんの事もだけど、ラブズ、王子達が居るじゃん?》
「忘れてたのに」
《まぁ、安心出来たら次に行けるかもって言われて、腑に落ちたんだよね》
「つまり、心配させ続ければ」
《凄い、親離れしたがらない反抗期の子供じゃん》
「成程、このパターンも有るんですね」
《で、ヒナちゃんからの呼び出し以外は、向こうでラブズの様子を伺おうかなって魂胆。ふるい落としも出来るなら、しちゃう感じ》
「それはちょっと、助かります」
《でしょ、だからネネちゃんも、あんまり考え過ぎないでヒナちゃんと関わるのが1番かなと思って》
「毎回、助けて頂いてますもんね」
《良いの良いの、慣れてる方が率先する方が効率が良いし、お手本が居たから》
「お母様ですか」
《ううん、叔母さん、お母さんの妹の方》
「ほう」
《いや、本当に普通の人、だと思ってたんだけど。学校に行けない子用の学校に、少しだけ通ってたんだって》
「あぁ」
《ね、良い見本が居たから出来ただけ。きっと他の悪魔さんと一緒に居れば、ネネちゃんも慣れるよ》
「失言が怖いんですが」
《記憶を消して貰えば?ラウムさん出来るんだって》
「えっ、ヒナちゃんの記憶を?」
《うん、記憶も大切な宝物だから、出来るんだって》
「あぁ」
《大丈夫、余計な事は言わないよネネちゃんは、根本が違うもん》
「それだけ、なんですかね」
《うん、言う人はもっと初手でサラッと言っちゃうから、大丈夫です》
「子育て、怖い」
《ほら、先を考えられるんだもん、大丈夫大丈夫》
「倍、相談する時間が増えますが」
《それもほら、成長の糧になるじゃん?》
「この教育者性質め」
《そうそう、もし向こうで良い人を見付けたら、親を越える子沢山家族になるのもアリかなと思って》
「国の為にも助かるとは思いますけど、凄い振り切れ方ですね」
《ココでなら教師も良いけど、向こうの教師ってちょっと、人生擦り切れちゃう感じじゃん?》
「まぁ、殆どの学校では、そうかと」
《かと言って、一部のしっかりした学校に就職したとしても、私に何が出来るのって思うの》
「正直、ユノちゃんには楽しく幸せに生きて欲しいです」
《なら、奥の手は子沢山家族かなって。結局は自分が思う正しい道を歩いて欲しいワケだし、そうした子を多く排出するなら、里子もアリだよねと思って》
「私には、そこそこ茨の道に思えるんですが」
《絶対に出来るとは思わないけど、ほら、相手次第じゃん?》
「まぁ、はい」
《で、もし良い人に出会えたら、それが運命なのかもと思って》
「でも選ぶの、大変ですよ」
《もうガンガンにふるい落とす、って言うか方法を教えて貰ったし》
「なん、教えて下さい」
《向こうでのだよ?》
「あぁ、くっ」
《正直、どっちも良いと思う、勘的に》
「ぐっ、勘」
《ほら、ネネちゃん補佐しないとじゃん?はいぐぬぬ》
「ぐぬぬ」
《で、今日から私はネネちゃん補佐係、良いかな?》
「良い、ともー」
《はい、じゃあ次はネネちゃんね。私の相談だけで終わっちゃったから、後は宜しく》
「へぃ」
グルグルと悩んでいたけれど、ふわふわラウム男爵が目に入ると。
思わず感覚が異世界に飛んでしまった。
なりたい顔ランキング上位に入りそうな、可愛いけど綺麗系。
しかもコチラに馴染みの良い、黒髪に黒い瞳。
僅かにアジアや東欧が入った様な、完璧なお顔立ち。
《私、可愛い?》
「はい、とっても」
《素直ね、ふふふ》
うん、このご尊顔なら何を言っても大概の事は許されるレベル。
いや、顔だけで何でも許すとか何処の古代ギリシャ時代かよ、とは思うんですが。
何か、どストライク感が有る。
「正直、羨ましいです」
《コレね、誰にでも好かれる様な顔になってるの、だから誰にでも良く見えるの。愛される為に》
悪魔の秘儀か。
「成程」
《でもね、誰にでも愛されたいワケじゃないの》
「分かります」
《大丈夫、ココの者は向こうより重視しないわ》
「まぁ、変えられるそうですが」
《アナタはダメよ?十分だもの、原因を顔や姿に求めてはダメよ、真の原因は向こうだもの》
悪魔のカウンセリングは強力だ。
芯を捕らえて揺さぶって、余分な事をふるい落としてくれる。
「ありがとうございます」
《いえいえ、そう言えば何か、ご相談が有るのよね?》
「はい、実は……」
雛祭りの前にお正月だろう。
ですが、ユノちゃんと私はお餅で満足してしまっていた。
けれどヒナちゃんには、出来ればおせち、三日とろろ。
そして欲を言うと七草粥までを、セットで味わって頂きたい。
意外と好評なんですよ、外国の方に。
基本的にはクリスマスに全力を出し、新年を迎えた段階で、直ぐに日常へと戻る。
新年が始まる、始まったんだなと言う感慨が、欧米諸国の方には薄いそうで。
しかも着物が見放題、義姉の親族の方々が毎年、新年を迎えてから帰って行くんですよね。
《良いじゃない、二クロスにお願いするつもりだったのよね?》
「はい、ですが適格者が居れば誰でも良いです」
《分かったわ、それとお着物よね》
「はい、ただ、対価をどうしたものかと」
《そんなの、喜んでくれる事が対価よ、ふふふ》
天使属性、全ブリでは。
《何でも揃うのに、何でです?》
《だって、個性が均一化されちゃうじゃない?》
「成程」
おせちもお雑煮も、着物も遊び道具も全部、揃っちゃった。
悪魔さん、何でも作れ過ぎ。
凄い。
《コレで杞憂が消えたわね?》
「はい、ありがとうございます」
《ありがとうございます》
《ふふふ、じゃあ、恋バナをしましょうね》
「そんな、対価は」
《皆のは、けど私へのお礼》
《あらー、それは確かに支払わないといけないもんねぇ?》
《どちらに、どちらが良い面が有るのか、知りたいわ?》
「ふぇい」
《じゃ、私は日程調整してくるね?》
《そうね、行ってらっしゃい》
「ふぇい」
この時のネネちゃんの顔、超複雑で可愛かった。
だって、照れて困ってるんだもん。
分かる。
虐める男子の気持ち、分かる。
《って、事なんだけど》
お正月を、ヒナ様の為にご用意して頂いていたとは。
「ありがとうございます」
《いえいえ、寧ろ相談無しに準備してごめんね?》
「いえ、きっと早々に相談から準備と移り、コチラに言う間が無かったかと」
《そうなんだよぉ、爆速だった》
「では明日はどうでしょう、学習の日では有りますが、コレも経験ですので」
《うん、ありがとう》
「いえ、では教師の方々にもご連絡しておきますので、お任せ下さい」
《あ、実は準備してたとか有る?》
「いえ、雛祭りだけでしたし、そうした案が出ているとの事だけでしたので」
《それ誰かな?》
「ゼパル侯爵からお話を頂いていました」
《成程、じゃあまた連絡するね》
「はい」
ヒナ様は今、学園へ通う為の準備中です。
敢えて人種と同じ様に、学生服の採寸を行い、仕立てる準備をし。
夜には眠る前に勉強道具と登下校用の鞄を眺め、とても嬉しそうにしています。
即日入学が可能なので、何故なのだろうと思ったのですが。
準備とは、この為に有るのだと思いました。
楽しみにお待ち頂く事も、1つの良い機会だと学びました。




