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163 大罪・美食。

 美食国の成り立ちは、ざっと言うと来訪者が絡んでいた。

 事の発端は北欧諸国に避難していた美食国の王族の血筋が、王族としての立場を退くと同時に、来訪者と婚姻を果たし海へ出た。


 つまりは美食国の血筋には来訪者の血が入っている、しかもそれが正式にも記録されている、稀有な存在。


 そして美食国は国と言うより、連邦共和国に近い形で形成され。

 土地を持たず、他国の寄港地を拠り所にし、海での全権を握っている。


《そもそも海の全権を掌握する事に、誰も何も言わなかったのか》

『まさか、ココまで海運業に頼る事になるとは、思ってもいなかったからね。大陸が、まだ繋がっている時だよ』


《だとしても、対価に土地を手放すのは》

『何、貸し別荘だけ持っている、そうした事と同じだよ』


《そして最悪は取引をしない、片や洋上でも生きられる、か》

『それに他の島国もだ、彼ら彼女達の知恵や技術は、得難いモノだからねぇ』


《飛び抜けてるな、美食国だけは》


『記憶をね、すっかり消したんだよ、来訪者が』


《それは》

『家族も同意の上だ、けれども記憶が全く無い事を周囲に知られては、あの子の努力も無駄にさせかねない。飛び道具の対価だよ、土地を手放し、記憶を手放させた対価だ』


 無かった事にさせる。

 だからこそ、無理にでも塞いだ傷口は開く事無く、周囲だけに存在する様になった。


《そうか》

『その子が得た能力は、船の製造の知識、それと記憶の消去だね』


《商業系なのか》

『いや、ただ船に慣れた少女、ただそれだけだよ』


《だが、ココまで仕上がるものか》

『それなりに長い歳月が掛り、それだけ来訪者や宿星も関わった、それこそ大陸を分断したのも美食国の者と一緒になったからねぇ』


《そこそこ、来訪者の血が濃いんだな》

『だからこそ、それだけ厳しい掟も有るんだ、美食国の者だと名乗る者に未だに会った事は無いだろう』


《あぁ、無いが》

『初見で赤の他人に関わる事は無い、必ず誰かを介し会う意外は、偽者だと思った方が良いねぇ』


《そうか、ありがとう》

『いや脱線しちまったね、さ、旧怠惰国の先代達の活躍をご覧なさい』


《あぁ、助かる》




 あれからまだ、数日しか経っていないんですが。


「かなり読みましたね」

《口語が殆どだったからな、結局は補佐で補った形だ》

『読むのが辛いのも居るだろう、それに何でも、書けば良いってワケでも無いからねぇ』


「成程」

《でだ、俺としてはやはり、特定の相手に対して嘘が分かる魔道具の製作を考えてるんだが》


「何が問題ですか」

《妙さん達に反対されたら、止めようと思う》


 それは、無いとは思いますが。


「1つでも反対が有れば、でしょうか」

《おう》


「だけ、ですか」

《それと死角用のスタンガン、ダメなら説得、以降は相談だな》


「投げっぱなしも良い所では」

《すまん、まだ必要に駆られて無いんだと思う》


「まぁ、だとは思いますが」

《傷付かない無敵になるだとか、万能になるだとかは、結局はヒナの為じゃなく俺の為になる要素が多過ぎる気がする》


「かも知れませんが」

《多分、ヒナが望む事は普通だとか大多数だと思う、けどまだ俺の中で加減が分からないんだ。俺が逸脱しないだろう範囲が、そこなんだ》


 そもそも、何を求めるべきか、ですもんねレンズは。


「分かりました、では私は賛成します」

《良いのか、最後の最後で反対する手が使えないぞ》


「レンズが万が一にも人質に取られた場合、ヒナちゃんの面倒事が増える事になります、少なくとも自衛の範囲で妥当だと判断しました」


《そうか》

「コレから回られるんですか」


《あぁ、忙しいだろう、ソッチも》


 今、問題の真っ只中に放り出されて。

 いえ、正確に言うならば、怠惰国で不条理に巻き込まれていると言っても過言では無いのですが。


「まぁ、はい」

《どんな問題だ》


 コレは、何処まで言うべきなんでしょうか。


「例えば、ですが。散々に傷付けておいて、縋って来る心理とは、どの様なモノでしょうか。因みに男で、10年弱疎遠だった者、です」


《無かった事にしたいんだろうな》

「やっぱり、ですよね」


《知り合いか》

「はい」


《対処出来るか》


 今、心配を掛けるワケにはいきませんよ。

 レンズが身を守れるかどうかなんですから。


「はい、玉響(たまゆら)ちゃんも居ますから」

《あぁ、今日は来てたな、少し借りても良いか》


「聞き出す気ですか」

《いや無駄だろ、能力についてだ》


「反対するかも知れませんが」

《なら説得するか得ないかだ》


「分かりました」

《おう、助かる》


 出来るなら、誰にも反対して頂きたくは無いんですが。

 敢えて、反対する誰かが居るかも知れないんですよね。




《私としましては、問題は無いかと。ですので、はい、賛成です》


 意外さと驚き、でしょうか。


《俺の事を知った上でか》

《はい、如何なる事をなさったか、どう人生を過ごされたか。ネネ様より、ネネ様が知るであろう全てを、お伺いしております》


《そうか。ならコレは答えなくても良いんだが、ネネの今の問題は、対処が可能か》

《はい、ネネ様なら可能かと》


《何故、排除しない》

《私はネネ様の世話係、ですが過保護に育てるつもりは御座いません》


《育てる、か》

《はい、ネネ様は幾ばくか過保護に育てられた様にも思います。だからこそ、この苦難にも、何かしらの学びが有るかと。ですが、害しか残らないのであれば、直ぐにも殿下達が排除なさるかと》


《敢えてか》

《ネネ様は迷ってらっしゃいます、理解する事を、敢えて排除する事を》


 初恋の方。

 だけでは無い、懐かしさや期待、それらが真に裏切られる事を恐れている。


 ですが、目を逸らしてはならない事。


《必要だろう事を、独断と偏見で決めた》

《はい、ですが間違いならば、直ぐに訂正させて頂くか。若しくは、正当性を認めて頂きます》


《どんな学びが得られると思う》

《人種の弱さ、繊細さ、そしてネネ様の強さです》


《勘か》

《はい、そしてお兄様は意外にも穏やかですから》


《あぁ、居たんだったな》

《はい》


 人種は脆く弱い。

 短命であり、精霊の叡智とも繋がる事は無い。


 けれどネネ様は、賢くお強い。


《助かった、ありがとう》

《いえ、では失礼致しますね》


《いや、1つ良いか》

《はい、何でしょう》


《願いは聞こえるのか》


《私が叶えられる事は僅か、ですので、あまり耳にする事は御座いません》


《能力を、尋ねても構わないか》


《石の成せる事、その程度で御座います》


 そして石にも様々な性質が御座いますが、私の出来る事は僅か。

 ご相談なさるなら、きっと他の方が宜しいでしょう。




「私は反対です」


 多分、時間的に私が最後かと。

 と言うことはつまり、皆さんは賛成なさった。


《何でだ》

「皆さん賛成でしょうから、私は反対します」


《天邪鬼か》

「得る必要が、本当に有るのでしょうか。それはある意味、運命に逆らうも同義では」


《確かに、すまん、考えてもいなかった》


 私も、特に深い意味は無く反対したので、適当に言っただけなんですが。

 意外と、運命論者なんですねレンズさんは。


「どんな能力であれ、本来無かった筈の能力を得る、それは本当にレンズの船と呼べますか」

《テセウスの船か》


「もっと欲しい、そう欲張りにならず、極めて控えめに生きられるとどうして言い切れるのでしょうか」


 明らかな難癖なんですが。


《ヒナの為になるかどうか、だけじゃ不足か》

「大義名分も同義では。しかも被害者だったから、そう欲張らない自信は、一体何処から来るのでしょうか」


《そもそも、俺の正常性を疑ってるのか》

「いずれ狂うかも知れない、ですね、更なる安全装置を要求します」


《確かにな、認知症や統合失調症の想定はして無かった。取り上げる権限をヒナと、サレオスに任せる》

「ちょっ、ウチのを巻き込まないで下さいよ」


《なら何を悩んでるのか言え》


「何故、脅迫されているんでしょうか」

《図書館の後、直ぐに帰っただろう》


「アレは、サレオスに言われた事を思い出しただけで」

《だけ、か。自信の無さ、若しくは疑心暗鬼についてか、それ以外か》


 言わないと、帰ってくれなさそうですよね、コレ。


「それ以外です」


《どうして言えない》


「彼に聞かれては困るからです」


《分かった、で、まだ反対か》

「いえ」


《じゃあサレオスにも任せる、宜しくな》

「もー、何でですか」


《言える様になったら権限から外す、じゃあな》


 何故、私に絡むのでしょう。

 生命の心配なら不要な筈なのに。


 もしかして、コレも償いの一種、でしょうか。


『やっと帰ったね』

「あの、任されてしまいましたが」


『年上の責任感、償い、それと身内だからこそだろうね』


「成程」


『やっぱり、君を外に出すんじゃなかった。君には自身と僕の事だけを、考えて欲しいのに』

「アレの事は殆ど考えてもいませんよ、アレ以来」


『なら何を考えてるの、思考はそこまでは読み取れないよ』


「アナタの事を考えてます」


 不死の解き方について。

 どうすれば、不死では無くなるか。


 どうすれば楽になるか。


『嬉しいよ、ありがとう』

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