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160 旧怠惰国。

都合により、オリアスの口調を若干修正しました。

 遥か昔、怠惰国は混乱期にありました。

 1人は宗教を使い精霊や悪魔の存在を人々から消し去り、1人は治癒の魔法で人種を死に至らしめ、1人は国を統治しました。


 ですが、簡単な事では有りません。


 とある王族候補は母と通じ。

 とある王族候補は無辜の令嬢を凌辱し。


 とある貴族は自死した。


 シシュファス暦1000年。

 西暦では1200年頃の事。


 それまで精霊と悪魔は、手を出す事を禁じていました。

 礎の為、免疫の為、敢えて人種に手を貸す事はしませんでした。




《そもそも、シシュファス暦を知らないんだが》

『混乱を避ける為、悪魔や精霊だけが使う暦です』

「あぁ、であればコレは精霊や悪魔が現れてから、凡そ1000年後の事。なんでしょうか」


『大体そうです、数え始めたのがシシュファスが女を食べたからです』

《その、シシュファスも知らないんだが》


『バイコーンは分かりますか、ユニコーンと対となる存在です』

「ユニコーンは純血、つまり、不純ですかね」


『はい、そしてシシュファスはビゴルヌの対となる存在です、ビゴルヌは善良な男を食べます』


《そうなると、善良な女か?》

『はい、ですのでバイコーンと比較され、シシュファスはとても痩せていたそうです』


《不純な者を食べるバイコーンは、肥え太ってたワケか》

『はい、シシュファスの上半身は灰色に青い目の痩せた牝狼、そして下半身は山羊と雄鶏の脚が互い違いに付いています』


「結構、不自由かと」

『はい、ですので、そこに居ただけです。食べに行ったワケでは無く、シシュファスがシシュファスとして自覚した年を、シシュファス暦としたんだそうです』

《成程な》


 悪魔にも精霊にも、自覚は重要な事なんだな。


「コレ、かなり予備知識が必要かと」

《だな》

『陶芸工房は暫くお休みです、乾かす期間ですから』

「10日後に乾燥が終わるそうです」


『はい、それまでには、読めると思いますが』


 絵が差し挿まれてはいるが、コレ、結構な厚さだぞ。


《いや、今回は何処かの悪魔に頼ろうと思う》

『私の記憶が抜けているせいですか』


《いや、ヒナには他にして貰いたい事が有る》

『何でしょうか』


《自分がしたい事をする、何がしたい》


『普通が、してみたいです』

《よし、じゃあ大人は作戦会議をする。夕飯前には帰るから、ヒナはヒナで他にもしたい事を考えておけ》


『はい、分かりました』




 久し振りに、血反吐が出ましたが。

 コレを、皆さんに教えるのは。


「コレは、中々に酷かと」

《だから言うつもりは無い、下手に水を差すのも気が引けるだろ》


「ですね」

《ただ、もし何か尋ねられたら、言うつもりだ。それだけ覚悟が出来てるか、若しくは気付いたって事だしな》


「シイラさんの事を言っていますかね」

《まぁ、けどクラム夫人だって相談員をしてたんだ、気付くかもな》


 理不尽で不条理な事実。

 けれど、まだヒナちゃんに準備が出来ているとは思えない。


 怒りや悲しみに飲み込まれ、間違いを犯して欲しくない。


 ただ、和解は望んではいません。

 世には話が通じない者も、一定数居るんですから。


「レンズは、凄い方と対峙しましたね」


《あぁ、妙さんのオバサンな》

「私の事を他人の事として話させて頂きましたが、とても加害者を擁護されて、思わずぶん殴ってしまいそうでした」


《だろうな》


 誤解が有ったんじゃないか、受け取り方の問題じゃないか、そもそも深く考え過ぎじゃないか。

 私が言われ傷付いた言葉を網羅しているかの如く、全て、害意や悪意無しに吐き出していた。


 良かれと思い、善意から。

 優しさ、から。


「レンズには辛い事を押し付けてしまいますが、要約して頂けますか」

《元々、俺に貸し出されたんだ、尋ねられた事だけなら教えてやるよ》


「まるで悪魔ですね」

《おう。さ、誰にすべきか》

『まぁ、私だろうねぇ、オリアスだよ。はい、その本に追記しておこうかね、72柱の悪魔について』


 初老の、女性、でしょうか。

 お声もお姿も、正直。


《オッサンなのか、オバサンなのか》

「レンズ」

『あぁ構わないよ、年を取ると、大体はこうなるからねぇ』


《アンタは何番なんだ》

『59番目、あぁ、最後の。そうそう、そこだよ』


 天使名、Harahel(ハラヘル)、全てに偏在する者。

 無礼・忘恩・僭越。


 科学、投資、宝物と銀行。

 占星術、そして印刷と本。


《子供を従順にする為に呼び出される、か》

『まぁ、そこは先ず親を従順にしますがね』


 不妊症を防ぎ、敵味方の好意を操り。

 知的な豊かさを保護する天使であり、悪魔。


《この本に憑いてるワケじゃ無いだろう》

『そうだね、私は偏在する者、だからね』


《なら先ず、このシシュファスについて教えてくれないか》

『真面目だねぇ、さ、最初に有るよ』




 2000年に1度。

 上半身は灰色に青い目の痩せた牝狼、そして下半身は山羊と雄鶏の脚が互い違いに付いているシシュファスは、善良なる女を食べる。


 初めてシシュファスが女を食べ食べたのは、今から約1500年程前。


 精霊や悪魔が自意識を獲得し、暫くしての事。

 聖獣でも魔獣でも悪魔でも無い、シシュファスがそこに現れた。


 けれどシシュファスにも、直ぐには自意識が芽生えず。

 ただただ、地面に座り込むだけ。


 そうこうするウチ、シシュファスの居る場所に地殻変動が起こり、シシュファスは谷間に取り残された。 

 けれどシシュファスは、その場からは動こうとはせず、増え始めた人種にも興味を示さなかった。


 そんなある日の事、好奇心旺盛な人種がシシュファスの居る谷間を探索し、シシュファスに出会い。

 暫くの後、人種はシシュファスの谷と名付け、遺体を放り込む様になった。


 けれどもシシュファスは反応を示さず、その不自由な足で動き回る事も無く。

 ただただ、目の前に積み重なる遺体を眺めるだけ。


 そして遺体は腐敗し、その土地に養分を与え、シシュファスの周囲には草木が茂る様になった。

 それでもシシュファスは相も変わらず、遺体が投げ込まれる場所に居ただけ、だった。


 そんな歳月が過ぎ、すっかり茂った谷間の森の中。

 また、人種は谷間へと投げ込んだ。


 だが、それは人だった。

 そして、まだ生きていた。


 シシュファスは立ち上がり、その女の前に向かうと。

 女は意識を取り戻し、シシュファスの姿に驚き、沈黙のままに震え上がると。


 あっと言う間に、食べられてしまった。


 そして女はと言うと、転生し宿星となり、シシュファスの谷を守る者となった。

 けれど谷は今、深い運河の底。


 シシュファスは精霊により移動させられ、シシュファスの谷は諍いを避ける為にと、来訪者により分断され運河となった。




《また、新しい情報が必要なんだが》

「そこは私が、宗教家が来訪者として現れ、人々を扇動しようとした時期の事かと」

『そうだねぇ、けれど精霊や悪魔の存在を人々から消し去ったのは宿星、また別の者だよ』


「成程、因みにですが、年代に若干の差が有る気が」

『大体、だよ』

《シシュファスは幸せなんだろうか》


『今はビゴルヌと一緒に、試練の谷間に居るからね、幸せだろうさ』


《試練の谷間》

『何、民間伝承だよ。苦痛から逃れる事が出来るかどうかの、最後の、唯一の谷間』


「聖獣や魔獣からの死を、賜れなかった者の最後の砦、でしょうか」

『そこでも食べて貰えなければ、日頃の行いが悪かったって事だからねぇ、良く躾けに使われてるんだよ。特に、厳しく言う場合、だね』


 そうやって、あんまりにも悪さをしていると、シシュファスにもビゴルヌにも食べては貰えないよ。

 試練の谷間に落ちた後、足も何もかもがチグハグなまま、一生餓え続け苦しむ事になるよ。


「見事に、融合なさっているんですね」

『まぁ、食われた子が形にしてくれたからね、大恩人だよ』

《成程な》


『さ、暫く掛るだろうけれど、頑張るんだよ。そろそろ、2人が戻って来るからね』


 妖精に愛された者と、悪霊種。

 2人はどちらも、私には無縁だからね。


《助かった、ありがとう、お礼はどうすれば良い》

『伝える事、だろうかねぇ』


 読まれなければ、本とは言い難いからねぇ。

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