15 鎌倉蛮族と贈り物。
今、内心焦っております。
ユノちゃんに言われ、思い出した、お正月。
この大事なイベントをすっかり忘れていたのです。
出来るなら、3月前には行いたい。
なので相談しようとしていた所だったんですが、ヒナちゃんが興奮気味に参られまして。
『鎌倉蛮族、私は居たと思います』
「可愛い。ギャップ萌えを初めて理解しました」
《コレそこに入る?》
『ギャップ萌え、私がですか』
「はい、鎌倉蛮族大好きですか」
『はい、鎌倉蛮族は強くてカッコイイです、好きになりました』
《あぁ、うん、分かったかも》
若干、物騒な言葉を言わせて喜ぶ系になりそうですが。
アレです、水戸〇門大好き幼女的な可愛さです。
『分かりません』
「ですよね」
《あ、そうそう、ヒナちゃんの好きな色とか有る?》
『無いです、全部好きです』
「尊い」
《じゃあ嫌いな食べ物は?》
『無いです、多分』
《じゃあ追々探してみるとして、好物も無い?》
『お芋のグラタンです』
「あ、ソチラで言うヤンソンの誘惑と呼ばれる料理です」
「あぁ」
『それとサーモンのクリームスープも好きです』
「生クリームやまろやかなお味がお好きですね」
『うん、はい、好きです』
「辛い物はご遠慮頂いていますし、酸味が強いモノは苦手でらっしゃいますね」
『あ、ちょっとお魚のカルパッチョは苦手でした、でも今は食べれます』
《じゃあセロリは?》
『アレはちょっと、嫌です、全部がセロリの匂いになるので存在から嫌いです』
《結構嫌いだ、じゃあ春菊は?》
『春菊のサラダ美味しいから好きです』
《おぉ、良い料理人さんが居るんだねぇ》
『はい、向こうから来た人に作って貰ってます』
「元々ココに居らした方に、専属の料理人をして頂いております」
『あ、王様にも専属の料理人が居るんですよ、ニスロク料理長』
「ソロモン72柱では無い方ですが、何でも作れる方だそうです」
《ネネちゃん聞いた事有る?》
「悪魔辞典では無いので知りませんね」
《けど大体は知ってたんでしょ?》
「72柱の方々で、有名な方程度です」
『あ、ラウムは知ってますか、凄く良い子ですよ』
「男爵をやっておられます、穏やかな女性でらっしゃいます」
『うん、ふわふわした優しい悪魔です』
「確か、宝に関わるカラスの悪魔かと」
『はい、です』
《ほらぁ》
「いや兄が気に入ってたんです、ムカつく奴の宝を全部ぶっ壊せるな、と」
《お兄ちゃん》
「いえ私の事でです」
『ご紹介差し上げます、きっと気に入って貰えます』
「ありがとうございます、では手土産を選びに行きましょうか」
《良いね、一緒に選んで貰える?》
『はい喜んで!』
可愛い。
よし。
取り敢えずはラウムさん経由で、ニスロク料理長におせちをお願いしよう。
「コチラ、向こうの方からの贈り物です、どうぞ」
ヒナちゃん達と、ラウムさん用の手土産を買いに街に出て、選び終えてお茶してたんだけど。
執事君ことアズール君が、同じく執事用の燕尾服を着た男の子に呼び出され、大きな箱を3つ抱えて帰って来たと思ったらコレ。
「贈り物、とは」
「支援物資と言えば分かる、と」
《どなたから?》
「匿名で構わないそうです」
匿名の支援物資。
《あしながおじさん?》
『多分、そうです』
ヒナちゃんを見てると、誰からの貰い物か分かったらしく。
ニコニコと手を振ってて。
「受け取らないと言う事は」
「無いですね」
《無いんだ》
『遠慮せずお受け取りして大丈夫です、コレは寧ろコチラ側からの対価ですから』
コチラ側って。
多分、悪魔的にはって事だよね。
「何も、していないのでは」
『星の子がココに居るだけで尊いんです、嬉しいんです』
偶に、ヒナちゃんに誰か宿った様になるんだけど。
コレが例の先代さんの知識か何かなのかな、って思う。
「じゃあ、頂きましょうか」
《うん》
ネネちゃんはお辞儀。
私とヒナちゃんは手をブンブン振ったった。
『うん、喜んでます』
「不思議意思疎通が」
『うん、はい、悪魔ですから』
「確かに」
偶に、ネネちゃんの方が柔軟性がエグい時が有るんだよね。
《じゃあ、着物はどうしようか》
「そこなんですよぉ」
便利に使われたく無い。
出来るだけ自由を獲得し、大した責任の無い立場で、貸し借りでも縛られたく無い。
なので、東の国に頼み辛いんですよね。
と言うか、実態を知らないのに無闇に頼み事をしたく無い。
こと契約に至っては悪魔こそが最も忠実だし、基本的に対価は妥当なので頼み事は遥かにし易い。
《やっぱり、悪魔さんかなぁ》
「取り敢えずはラウムさん経由か、若しくは、最悪はボティス侯爵かと」
《最悪?》
「居るだけで尊いとか言われたら、偏って関わるのは何か、不公平かと」
《あぁ、確かに、すっごい嬉しそうだったもんね》
「驚きました、リアルあしながおじさん」
顔を覚えようとしたのに、出来無かったんですよね。
認識阻害魔法らしいんですが、男性だった、としか覚えていられなかった。
《あ、意外とボディスさんだったりして》
「貰う謂れは無いんですが」
《ほら、全部知ってても一緒に居てくれるって、悪役側にしてみたら嬉しくない?》
「何処の悪役令嬢ですか」
《違うよ、戦隊モノだよ》
「あぁ」
《何かさ、関われば関わる程、切ないよね》
元神様だった。
なのに悪魔にされた。
「宗教観が真反対ですからね」
《取り込まないだけ、ならまだしも、悪役にされたらね》
「ユノちゃん、ココが合わな過ぎでは」
《かも、この前から何かおセンチかもかも》
「帝国か強欲の国に戻るべきでは?」
《でもヒナちゃんが心配なんだよねぇ、何が出来るってワケでも無いけど、離れ難い》
「けど切ない」
《よし、もう全部ラウムさんに相談して決める》
「それで決まらなければ」
《その次に他の誰かか、ボディスさん》
「まぁ、妥当かと」
《ネネちゃんは大丈夫?》
私は、正直ココを知れて良かったと思っている。
アレだけ疑心暗鬼になっていたけれど、少なくともココではとても安心して居られる。
それに。
「多分、帰るか帰らないかの差なんだと思います」
《あぁ、かも》
向こうは良き者が虐げられない世界、では無い。
けれどココは、良き者が必ず救われる、だろう世界。
立場の違い、見え方が違うからこそ、地獄への反応も違ったのだと思う。
「それに、まだまだ転移しまくって貰いたいですし、出来ればその勉強を最優先して頂きたい」
もうココだけで終わるかも知れない。
けれど、もし他が有るなら。
《うん、相談してみる》
「ですよね」
私は、お姉さんが欲しくなった。
ネネさんやユノさんみたいなお姉さん、家族が欲しくなった。
『家族が欲しいです』
「僕やネネさん方では」
『ユノさんはいずれ帰ります、ネネさんはいずれ結婚します、アズールもいずれ。結婚しないんですか?』
どうしてか、アズールはそんな気がした。
「僕は、そこまで拘りが無いんです。少し他と違い、誰かと一緒になりたい気持ちが薄いんです」
『妖精なのに』
「僕の寿命が及ぶとは思えませんが、一生ヒナ様に仕えるつもりです」
『何故です?』
「勉強になりますし、ヒナ様と居るのは意外にも楽なので」
『良く心配してますが?』
「それはまだヒナ様が幼いからです」
『どうしたら手が大きくなるんでしょうか』
「手だけは止めて下さい、不自由になりますよ。いっそ、ご結婚相手を探されてはどうですか」
『幼いのに?』
「ご婚約相手探し、と言い換えても構いませんが、ご家族と言えば夫婦かと」
お父さんとお母さんは夫婦だった。
でも全然、一緒に居なかった。
『ココの夫婦は家族になれるんですか?』
「はい、ですが先ず、ご友人探しからにしてみましょうか。ココにも学園が御座いますし、学ばれる間に家族が出来るかも知れませんよ」
『行きます』
行ってみたかったんです、学校。




