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155 19番目の悪魔の相手。2

 白い美幼女は、買い物を終え店を出た直後。

 レンズさんの腕の中で、口を開けながら爆睡し始めた。


「彼女が安心している姿を見ると、自分の考えが正解だったのだと思うのと同時に、やはりお節介だったのではとも思っています」


 不要不急のお節介。

 もし自分なら、そう思い行った善意でも、他人が必ず喜ぶとは限らない。


《マジで、面食らっただけなんだが、どうして信じて貰えないんだろうな》

『それは君が賢さを売りにし、人当たりの上手さを売っていたから、逆の意味での信頼が勝っているのかもね』


「かも、ですね」

《いや、善人相手が不慣れなんだ、マジで》


「それは、ご家族は善人では」

《いや、アンタみたいに踏み込んで来なかった、普通だった》


「なら、私は偽善者かと」

《しないよりする偽善だろ、どうしてそう自信が無いんだ》


「逆にお伺いしますが、どうして自信が有るんですか?」


《そりゃ、実績が有るから、だが》

「無いです、実績皆無です、単に気に入られてココで平穏に過ごさせて頂いてるに過ぎない無能です」

『謙虚で可愛らしいだろう?』


 矛盾・艱難辛苦・犠牲・困難。

 要するに葛藤が大好物の悪魔は、良く葛藤する私が気に入っただけ。


 来訪者様、と呼ばれる様な存在でも何でも無い。

 リアルガチモブ。


《なら、アイスのケースにでも入ったのか?》


「してませんが、何でそうなりますか?」

《じゃあ、何か舐めて元の位置に戻した》


「してません、企業テロも犯行予告も殺人も死体損壊もしてません」

《けど、罪悪感が有る、だから俺に声を掛けてくれたんだろ》


「はい、ですが言いたく無いです」

《幼い子供に》


「無いです」

《痴漢冤罪》


「無いです、そもそも痴漢に遭った事も無いです」

《美人局》


「もー」

《本人には重くても、他人してみたら軽い、でも当事者にしてみたらどうか分からない。俺にしてみたらアンタは善人だ、俺に声を掛けてくれただけで、独断と偏見で無罪で善人指定する》


 ココで言い訳が出来る。

 知らないからこそ、そう言えるんだ、と。


「ありがとうございます、ですがアナタなら、誰に何を言われたら贖罪の終わりを迎えられますか」


 結局は納得しか無い。

 どんなに良い言葉を言われても、納得が得られないなら効力は薄い。


《だよなぁ》

「はい、ですよね」


『そろそろ、良いかな?嫉妬で狂いそうなんだけど』


 私には、未だに彼が冗談半分で言っているんじゃないかと思っている。

 けれど、レンズさんは。


《おう、じゃあ男と男の話し合いで、コレを頼む》

「あ、はい」


 美幼女が腕の中で。

 涎を垂らして爆睡している。


 良いんですか、今は赤の他人に抱かれてますよ。




《まさか、悪魔から惚気を聞かされるとは思わなかった》

『だろうね、君は悪魔に幾ばくか固定概念が有る、けれど彼女は僕を見てくれた』


《はいはい》


 天使名Levuiah(レヴィア)、19番目の悪魔サレオスが求める相手は。

 矛盾・艱難辛苦・犠牲・困難を良く知り、それらを内側に含む者。


 そして愛想が良く活発で、謙虚で、逆境にも諦めずに耐える者だと尚良い。

 らしい。


 しかも、後半部分は敢えて言わないで居るんだと。


『分かってくれるよね』


 圧が、本当に凄いんだが。

 コレも、外面との使い分け、か。


《まぁ、何でも言えば良いワケじゃないのは分かるが、それにしても彼女は自信が無さ過ぎだろう》


『そうかな。君の様に大概の事はそれなりに何でも出来る、と思って失敗の後に激しく落ち込む者よりは、ずっと好ましいと思うけれどね』


 嫌味に、嫉妬か。


《本気で嫉妬されても困るんだが》

『だって、僕は悪魔だよ、独占欲が強く本当なら囲って独り占めを続けたい。なのに、君が愚かな態度で彼女の心に割って入った、実に腹立たしい限りだよ』


《悪かった、本当に、想定が甘過ぎた》


 彼女が言った通り、贖罪の終わりはいつなのか、具体的には全く考えていなかった。

 いつか、何処かで誰かに許しを得たり、認められるかも知れない。


 そこまでしか、考えていなかった。


『許しの町、ジェヴォーダンの物語は知っているかな』


《いや》

『気が向いたら読んでみると良いよ』


《アンタ、それと、本当に自慢したかっただけか》

『君に自慢したと知ったら、きっと彼女は恥ずかしがるだろうから、ね』


 本当に悪魔だな。


《分かった、もう》

『彼女の友人になる分には構わないけれど、決して傷付けないでおくれね』


《あぁ、気を付ける》


 にしてもヒナ、本当に無防備だな。


「終わりましたか」

《おう、助かった》


「いえいえ、良い時間をありがとうございました」


 ヒナには、嫉妬はしないんだな。

 と言うかヒナ、服の端をいつの間に握ってたんだ。


 つか強いな、どうした。


《ヒナ》


 起きない。


「あの、もう少し享受させて頂いても」


 悪魔は、コレは良いらしい。


《すまん、頼んだ》

『では、僕の家に向かおうか、先程の本も有るしね』


 何処まで先読みして。

 いや、先読み出来てるなら、嫉妬しないで済むだろうに。


 本当に分からないな、悪魔は。


《あぁ、頼んだ》




 こんなにも強烈に嫉妬された事が無いので、思わず手が出てしまった。


『どうしましたか』

「あ、すみません、起こしてしまいましたか」


『いえ、微睡んでました』

《だな、にしても凄い音がしたが、大丈夫か?》


 家に着いて直ぐに、白い美幼女が少しだけ目を覚ましたので、レンズさんにお渡しした後。


 いきなりキスをされたので、ドンっ、と思わず肩パンしてしまった。

 片や彼は、反省0、ニコニコしてる。


「私の手も彼も無事です、骨は避けて思い切り殴っただけですから」


『恥ずかしいは可哀想です、手加減してあげて下さい』

『すまないね、今日はそうするよ』


 今日は。


《アナタも大変だな》

「いえ、別に、コレは偶々で」

『あまり無い機会だからね』


 ニコニコと。


「もう無くて良いんですが」

『償いは良いの?』


 この言葉に、本当に弱い。


《おいおい》

『冗談だよ、はい、例の本だよ』


 許しの町、ジェヴォーダンの物語。


「読みましたが、感慨深い本でした」

《そうか》


 美幼女、また直ぐに眠ってしまった。


『お茶は如何かな、ザクロのホワイトティーだよ』

《あぁ、ありがとう》


 多分、この美幼女は悪魔。

 審美眼が凄い、彼なら様々な事が吸収出来るだろうに。


 ウチの悪魔は。


『もう1度?』

「遠慮させて頂きます」


《なぁ、正直に言うと、繊細さとさっきの大胆さについても気になったんだ。因みに言うが、繊細さについては褒め言葉だからな》


「器用ですね、読みながら話せる」

《いや、読んでるフリだな、緊張するだろ》


「あぁ、ありがとうございます」


 流石、元ホスト。


『嫉妬した』

「心の中で軽く褒めただけなんですが」

《繊細だけど行動力が有る奴が、身近に居なかった、若しくは気付かなかった。出来るなら慣れたいし、その本質について知りたい》


「本質も何も、言わないといけない、そう学んだだけですが」


《そっか、実は知り合いも、そう言ってたんだ。けどかなり違うんだ、態度だとか、それこそ強気だったりする》


 出来るなら、堂々と言いたいけれど。

 それが出来無い理由が有る、だけ。


「それは、後ろ暗さが無いからかと」


《そこな、繊細だから器用だとは限らない、繊細だから控え目とは限らない筈が。どうしてか、同じ様な括りにしてた、繊細は器用で控え目だろう。そんな印象が固定されてるんだよな》


「他人の事として敢えて言いますが、自分が繊細では無い、そう区切っているからでは」


《成程な、確かに》

「いや、あくまでも一例ですからね、アナタがそうだとは限らない」


《キツめに叱られてたか、繊細か、じゃないとそうはならないと思うけどな》

「分かりません、自称繊細は山程居ますから」


《自称はそんな風には言わないだろ》


 良い事を言って下さってるのは分かるんですが。

 こんな会話程度で、何で嫉妬しますかね。


「何故邪魔しますか」

『何故、愚かで弱くて脆いモノを、敢えて選ぶのか分かるよね』


《あぁ、カモにし易い》

「私の事ですか」

『ううん、選ばれなかった者達の事だよ』


 何処から出て来たのか分からない、謎の本。


「救国の聖女。何ですかこの、ファンタジーな題名は」

《あぁ、ファンタジーな世界でファンタジーな題名を見ると、本当にそう思うよな》

『しかも、君達の母国語、だからね』


 表現が多彩だから楽しいそうですが、それは単に。

 なん、本当に泣くか刺しますよ、自分を。


「私も、読みます」

《おう》


 悪魔は、と言うか彼だけしか知りませんが。

 行動の邪魔は、しないんですよね。

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