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152 魔獣と能力。

《それで、何が欲しいの?》


《分からん》

《何それ》


《取り敢えず身を守る何かは欲しい》

《もっと具体的な願いが無いと、多分、誰も来ないよ》


《だよな》


 向こうの(ヒト)種は欲張りだって聞いたけど、レンズもタエも違う。

 本当に特に無くて困ってる。


《俺、全然詳しくないけど。こう、誰かを傷付けちゃう能力は、良くないと思う》

《確かにな、成程、だから攻撃系も必要なのか》


《そうなの?》

《ココにはお前が居るし、人種も少ないから平和だけど、少し都会に出ると物騒なんだ》


《あぁ、向こうの人種が増えたんだってね》

《まだ判別不能なのだとか、敢えて放し飼いにされてるだとか、色々な》


 やっぱり、タエが言う通り。

 人種が多くなると揉め事が増えるんだ。


《何で、揉め事を起こしたいんだろ》

《あー、いや正確に言うと、起こしたくて起こしてるのは少ないだろうな》


《そう?この前、山羊飼いの所に、動物愛護?とか言うのが来て、大騒ぎしてたみたいだよ?》

《はぁ、それは敢えて揉め事を起こしたい派、珍しい稀少種》


《そっかー》

《で、そいつはどうなったんだ?》


《悪魔が来て、引き摺りながら何処かに連れてったって》


《それ、悪魔かどうか、どう分かるんだ?》


《んー、勘?》

《感覚かぁ》


《うん、何となく分かる》


《なら、ヒナはどうだ》

《悪魔、けど人種だって言われたら、そうだなって感じ》


《願いは、どう分かるんだ》


《強く願ったり言うと、聞こえてきたりする。何処からでも分かるし、何処に居るかも分かる》

《それは、どんな人種なのかも、か》


《うん、それだけは、誰にでも全部分かる》

《けど、自分が叶えられる願いが無いなら、聞こえないか音量が小さいか》


《うん》


 タエがどうしたいか、どうして欲しいか。

 今なら、前より良く分かる。


 知識も有るし、契約したし。

 触れるともっと、良く分かる。


《無意識で無自覚な願いはどうなる》

《合致してたら分かる、けど言わないし、言えないから無理だと思う》


 埋まってる願いを掘り出す事は、俺らは出来無い。

 でも、精霊や悪魔には出来る。


《シトリー》


 レンズは地面に話し掛けた。

 何してるんだろ。


《どうしたの?》

《シトリーって悪魔が居るんだけど、出て来たく無いらしい》


《あぁ、鷲か鷹みたいな服で、髪が不思議な柄の悪魔》

《そうそう》


《山羊飼いの所に来た人種を引っ張って帰ったの、シトリー騎士爵らしいよ》

《アイツ、本当に忙しそうだな》

《そうなんです、なのでアナタの不安定で不確定な願いに協力する事は出来ません。他の悪魔だろうとも、精霊だろうと》


 影から出て来た。

 凄い、流石悪魔。


《そっか、分かった、ありがとう》

《いえいえ、では》


《凄いねレンズ、悪魔と知り合いが多い》


《そうか、普通は単独か》

《うん、みたい、共有はしないからね》


《空を飛ぶのはどうだ?》

《途中からだと難しいみたい、どう飛べば良いか、俺達は最初から分かってるけど》


《歩くか走る、しか、分からないからな》

《翼を生やせば良いみたいだけど、得たからって使いこなせるかは別みたい》


《いきなり上手く馬に乗れるワケでも無いしな、だよな》

《与えるのは知識とかだけど、経験じゃないからね》


 経験は簡単に与えられない。

 けれど、精霊や悪魔なら別。


《なら、影に潜る、か》

《良いね、何かカッコイイ。けど真っ暗らしいよ、だから上も下も分からなくて、溺れちゃうみたい》


《はぁ、難しいな》


《向こうで、考えなかったの?》


 レンズは向こうから戻って来たらしい。

 けど、外見はこのまま。


《もう、途中から戻れると思って無かったんだ》

《何で?》


《俺は悪い事をしたから、その罰だと思ってた、ずっと》


《まだ良く分からないけど、本にしたら、そんなにいけない事だったの?》

《いや、けど、誰にでも読ませるべき本じゃなかった。もっと相手を選んで、もっと注意喚起をして、もっと悪用を防ぐべきだった》


《ココに、もし被害者だって言うのが来たら、どうするの?》




 そこな。


《正直、今はもう、本当に被害者だったのか疑ってはいる》

《なら、嘘を見破る能力は?》


《それもな、得ても良いのかって、思ってる》


 騙されたなら、騙したい筈。

 仕返しをする機会を潰すのは、正直、気が引ける。


《じゃあ、聞いた時だけ答えて貰ったら?》

《それだと、一生居る事になるかも知れないんだろ》


《傍に置きたくないの?》


《あぁ》

《何で?》


《妙さんや他人に対してじゃない、俺だけの気持ちだって、ちゃんと理解してくれるか》

《うん、そうする》


《最終手段だと思ってる、果ては逃げだとか、まだ反省してないんじゃないかって思われたく無いんだ》


 どう思おうが、自由だ。

 それこそ被害が有ったなら、言う権利だって十分に有る。


 けど、俺なりに償ったつもりだ。

 なのに。


《一緒に居る誰かも、巻き込まれるのが嫌なんだね》

《あぁ、得れば得た分だけ、評価される事になる》


 金、幸福、相手。

 明らかに見合わない様なヤツが、不釣り合いなモノを持っていたら、殆どの人間が悪感情を抱く。


 不公平だ、何か不正が有るんじゃないか、騙されてるだけじゃないか。


 それらは正義感と言う皮を被って、時には石を投げる資格が無いヤツらでさえも、殴る快感を得る為に正義を振り翳す。

 反応を得る為、同意を得る為、肯定される為に。


《やっぱり、嘘が見抜けるのが良いと思う、魔道具にして貰ったら?》


《魔道具に、する、とは》

《えへへ、レンズ知らないんだ》


《おう、教えてくれるか?》


《じゃあ、何で今日は来たの?それだけじゃないよね》


 コレは、教えてやりたいが。

 妙さんの同意が必要、だよな。


《対価には、ちょっと難しい所だな》

《えー、じゃあ凄い情報なんだ》


《まぁ、そこそこな》


 コレで揉められたら、本当に困るしな。




『何か、やっぱり、流石だなって思いましたね』


《それは、どの事だ》

『レンズさんが先に名前を出したんだって、教えてくれたんですよ』


 だからお礼はレンズさんに、って。


《すまん、他意は》

『無いのは分かってますよ、ヒナちゃんのお兄さんだし、ネネさんのオジサンは私のオジサンも同然なんですから』


 あ、コレ、余計な事だったかな。


《そこまで、老けて》

『いやいやいや、けどほら、老衰で亡くなるまで頑張ったって聞いてたので』


《最早、祖父か》

『やっぱり、嫌、ですかね?』


《いや、誤解が無いなら良いんだ》

『無いです無いです、お兄ちゃんだなって、凄く良く分かりましたから』


 構い過ぎない、程良い距離の看病。

 看病って、落ち着いて対応される方が良いなって、振り返って改めて感じた程。


 抜け漏れが無いって言うか、接客のプロだからか、とも思ってたんですけど。

 やっぱり、兄弟が居るからこそ、距離感と接し方が上手いんだろうなって。


 ネネさんとも話してたんですけど。

 弟さんの事、今は、どう思ってるんでしょう。


《それで、もし良ければ》

『あぁ、是非、格安でお醬油が手に入る場所ですし。でも、どうなんですかね、結局はそう知り合うのって』


 何も知らないって方が、良いのでは。


《そこも考えたんだが、俺には隠すにしても大き過ぎる恥なんだが。誰しも、少なからず小さな恥が有ると思うんだ》

『でも、だからって。私も考えましたけど、そこまで、変える事が良く分からなくて』


《あぁ、アレの半分は、聖獣や魔獣の独占欲だろうな》


『独占欲、ですか』

《横に居れば、確実に繋がりが有ると分かる様な外見的特徴が有るんだ、押し負けたのも有るんだろうな》


『成程』


 ペアルック的なヤツですか。

 子供となら、したいんですけど。


 やっぱり、あまり共感出来ませんねぇ。


《まぁ、コレはあくまでも予想だし、試しに妖精に聞いてみれば良いんじゃないか》


『んー、求められたら困るんですが』

《問題の事は分かるが、夫婦も所詮は付き合いだろ、話し合いを止めたらいずれどちらかが爆発するぞ》


『それは、困りますけども』

《妥協点を探り合うのすら嫌なら、別れた方が良い、どうせ碌な事にはならないんだ》


『傷付けちゃうのが、怖いんですが』

《そこを承知しての事だろ、その痛みは相手のモノだ、妙さんが我慢する事じゃない》


 流石、プロお兄ちゃん。


『すみません、まだ覚悟が出来無くて』

《正直、そこは俺もだ、土産屋の件を妖精には伝えて無いんだ》


 女性用と、男性用が有るって。


『あぁ、本当もう、何から何まで』

《いや、俺が与えられない事をヒナに教えてくれたんだ。コレはもう、単なるお節介だ、気にするな》


 良い人なのに、誤解されたままは何か、癪ですね。

 いや、先ずは自分、自分の事を何とかしないと。


『前向きに、検討させて頂きます』

《おう、無理はするなよ、誰も望んで無いんだからな》


『ですよねぇ』


 良い世界なのに、どうにも怯えちゃう、つい警戒しちゃう事が逆に申し訳無いのに。

 分かるのに、分かってるのに、つい奥手の受け身になっちゃうんですよね。


 本当、どうにかしないと。

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