151 海辺の雑貨屋の店主。
「すみません、お邪魔させて頂きます」
「いえいえ、どうぞ」
断るか流すかと思ったんだが、呼ばれるとは意外だった。
《俺はレンズ、コレの兄だ》
「あー、あの」
《あぁ、知ってるのか、俺を》
「はい、多分」
《難しいなら席を外すが》
「あ、いえいえ、どうぞ」
《本当に良いのか》
「はい、彼が止めませんし、私は詳しく知らないので」
『ではレンズの事を教えます、向こうに戻って最後まで償い続けました。ですが直接の裁判はしていません、事情聴取だけで容疑者にもなっていません、コレが向こうで書かれたモノと同じ本です。お貸しします』
《すまんヒナ、ありがとう》
『情報不足による誤解は避けるべきです』
《おう、だな》
「あの、どうぞ」
貝殻の様な髪色の何かは、本当にコッチに全く興味が無いんだな。
黙々と食事に集中してる。
《ありがとう》
『向こうの者、人である事は伝えていますが、記憶を消して欲しい場合は消します』
「あ、いえいえそんな、寧ろ引き合わせて頂いてありがとうございます」
「あの、ですがもしかすれば名も、お姿も変えている理由が有るでしょうし」
「そこですよね、あ、ただ私は犯罪を犯したりでは無く」
『それは聖獣が居るので心配はしていません』
「ですね、レンズに至っては魔獣も何も居ませんし」
《そこな、得るべき理由が更に増えたな》
「とても矮小で些細な事なんですが、まぁ、外見に自信が無いのと。知り合いと関わりたく無い、ですかね」
『嫌な思い出が有りますか』
「はい、ですね」
『分かりました、ありがとうございました』
《ふふふ、すまん、マジでコレなんだ》
「すみません、休憩のお邪魔をしてしまって」
「成程、先程のお客さんですね」
「あっ」
「冗談ですよ、すみません」
《すまないが、俺もネネも、監督所は出て無いんだが》
「あ、だから、ですよね。私は出てまして、ですが繋がりは殆ど作っていないんです」
「でしたら、無理には」
「いえいえ、正直、どうしようかと悩んでいた所だったんです。まだまだココの事を完全には理解し終えていない、しかもそう偽装するつもりも無い、かと言って全く繋がりが無いのも。けれど、どう、繋がりを作ろうかと」
「あの、では、ご結婚を?」
「はい、ただ、もう1人居まして」
だからヒナは繋がりを。
いや、無意識に無自覚に、か。
もう完全に遊びに集中してるしな。
「実は、私もなんです」
「良かった!同郷だからこそ、逆に否定されるんじゃないかと思って、繋がりを作るか迷っていたんです」
「私もです、望んでこうなったワケでは無い、寧ろ否定派だったのにと」
「ですよね、私もなんですけど、こうなってしまって」
「でも、ご結婚なさったんですよね」
「はい、流されたと言うか、押し負けました」
「分かります、全然、向こうと違うので」
「そうなんですよ、もう全身全霊で。ふふふ、何かお礼をしないといけませんね」
『構いません、何処かの誰かを助けて頂ければ結構です』
「本当、志が。あの、もしかして中身は」
《いや、大体この外見通りの年齢だが、悪魔の知恵で少し歪なんだ》
『はい、ココの事は良く分かりますが、向こうの事は良く分かりません』
「そうなんですね、それは何の遊びなんでしょう?」
『何色にするか、何に使うか相談させ合っています』
「あぁ、なら写真立てはどうでしょう、陶芸工房でお願いすると粘土を分けてくれますよ」
《成程な》
『次は陶芸工房に通います』
《だな》
「あの、こう。私は繋がりを持つ事を、あまり考えていなかったので、もしご連絡をしたい場合は」
『コレを差し上げます、宛先と名前を書いて、折って飛ばすと届きます』
「魔道具、でしょうか」
『はい、飛ぶ形ならどんなモノでも大概は飛びます、どうぞ』
「いえいえ、今から買いに行ってきますね、ありがとうございます」
温和そうで良い女っぽいが、大概は既に相手が居る。
だよな。
「ありがとうございました」
『何の事でしょうか』
「偶然かも知れませんが、同じ悩み、似た境遇の方に出会えた事への感謝です」
『偶然ですが、受け取っておきます』
「はい、どうも」
偶然の不思議な出会いでしたが、とても有意義な出会いでした。
子供って本当に凄いですよね。
新しい発見が有ったり、考えさせられたり。
ただ、人種の子は、こうはいかないんですよね。
ヒナちゃんを基準にするのは、かなり危ない。
《で、このまま妙さんの所に行くか?》
「あ、ですね」
『私は陶芸工房に行きます、宜しくお伝え下さい』
「もしかして、遠慮なさってますか?」
『はい、不意にウ〇コをさせてしまうかも知れないので、もう少し遠慮しておきます』
「分かりました、では、また」
『レンズはもう良いんですか、私はアズールと行けますが』
《分かった、気を付けてな》
『はい、では』
ある程度の事は話し合ったとは思うんですが、何か抜けが有りましたかね。
《じゃ、良くか》
「はい」
特に無いんだが。
いや、魔獣については有るか。
《能力の開示は基本厳禁なんだよな》
「まぁ、ですが一部は開示出来ますよ、酸素喰い。限定的に無酸素に出来る能力を持ってます」
《酸素喰い、何でだ?》
「切っ掛けは聞き間違いです、音一」
《あぁ》
「身を守るには防御だけより、1つ位は攻撃能力の高い何かをと思って、それもお願いしました」
《結構、魔法の操作って難しそうなんだが》
「なので操作は魔獣にお願いしてます、願えば叶うってヤツですね」
《で、しかも今も内側に居て、いつでも発動出来るのか》
「魔法が封じられている場所では無理ですが、魔獣封じが無ければ物理で何とか出来ますね」
《結構、想定がワイルドなんだよな》
「どんな場所なのか、全く分かってませんでしたから」
《しかも、ヒナみたいな味方も居なかった》
「でもレンズはココを分かっているんですし、身を守る程度で、それこそ何か新たに才能を貰っても良いのでは」
《幼年化》
「別に疑うつもりは無いんですが。何故でしょうね、女性が幼くなるのと、男性が幼くなるのとでは危機感に違いが出る」
《そりゃ男の性欲を甘く見てないからだろ》
「ですけどココでの研究結果が有るんですよ、男性が妊娠するとなると、性欲は抑えられる」
《まぁ、だろうな、妊娠しないからこそ箍が緩い。性欲を抑える必要性をあまり感じないだけ、だろ》
「大丈夫ですか?我慢して枯れられても困るんですが」
《香水屋にも言われたが、別に抑えるだとか我慢はしてないんだけどな》
「内面的には、もう老年期だから、ですかね」
《いやー、もう向こうに戻された時点で、消えてたも同然で》
『おー!お2人さーん!どうしました』
妙さんも走って来るのかよ、本当に元気だなおい。
「実はお店をご紹介したいなと思いまして」
『ほうほう』
《俺は妖精を借りたいんだが良いか?》
『どうぞどうぞ、おいでー、レンズさんがお話したいってー』
妖精は、飛ぶんだな。
《俺、また何かしちゃった?》
《いや、能力についての相談だ、良いか?》
《うん、良いよ》
『はい、じゃあ休憩で』
《お茶淹れるから、向こうで待ってて》
《おう》
やっぱり優しさは、知識だとか知能に直結するんだな。
凄いな本当、ほぼ別人じゃないか。
コレなら、心配は無用だろうな。
妙さんも妙さんで、特に違和感は無かった。
しかもネネが居るんだ。
多分、大丈夫だろう。