150 とある役所の人種。
『3番さーん、コチラにお越し下さーい』
私は監督所近くに新設された役所の、臨時窓口を担当しています。
「宜しくお願いします」
『はい、変更手続きと、新規の身分証発行ですね』
「はい、本当に、短期間に何度もすみません」
『いえいえいえ、まだ2回目ですよクラムさん、それに直ぐにはご決断が難しい事ばかりだったでしょうし。本当に良いんですか?ココにはストーカー規制法も有りますよ?』
聖獣や魔獣でも、稀に異常に入れ込んで問題を起こす子も居るんですが。
「ありがとうございます、はい、大丈夫です」
大丈夫そうですね。
『では、コチラへ』
「はい」
情報保護の観点から、口頭での確認が必要な内容の場合。
個室へとご案内させて頂いております。
『ではでは、外見年齢の修正と身分証の新規発行、それとご婚姻の登録ですね』
「はい、宜しくお願いします」
クラム・カノンさんは、ココに来て約半年の方。
最初は監督所での集団登録を利用、前回はココで名前と外見の変更。
そして今回は、ご成婚と外見年齢の修正等など。
正直、魔獣や聖獣が相手となると、外見年齢の変更って本当に良く有る事なので。
全く、何も遠慮なさらなくても大丈夫なんですが。
クラムさんは向こうの方、私達の常識とは少し違う。
『年齢修正の確認をお願いしまーす』
《はいはいはい、あら、やっぱりそう変わらないのねぇ》
『ですよねぇ、なのに気にしてらっしゃって、何だか不憫です』
《それも、私らに無い個性だもの、そこも好かれる理由じゃないかしらね》
『あぁ、成程』
《はい、年齢修正確認しました、次はご成婚の件かしら》
『はい、戸籍の筆頭はクラムさんのまま、第1戸籍欄にはフランス語でRouilleさんが入ります』
《あら美味しそうねぇ》
『ですよねぇ、思わず私もそう言ったら、敢えてコレが良いと気に入ったのだそうです』
《ふふふ、やっぱり海の魔獣さんは不思議ね》
『あ、第2戸籍欄にはCielさん、シェルでは無くシエルにするそうです』
《どちらも素敵な名前ね、はい、確認をお願いね》
向こうでは高度な道具で登録するそうですが、ココでは手書きです。
『はい、スペルチェック良し、日付け良し。記入漏れ無しです』
《では登録係へお願いしますね》
『はい、ありがとうございました』
そして登録係でも再度口頭での確認もして頂いて、次は発行係へ。
《ほう、良いご縁に恵まれたんですねぇ》
『はい、その様で、花束を持ってらっしゃいます方です』
《あぁ、アレはねぇ、ココへの贈答品だろうね》
『えー?まだ2回目ですよ?』
《この系統の方々はね、手間を掛けさせる事を本来は恥とするんだよ》
『へー、他の方はバンバン変えまくってますけどね』
《そう言うのはね、大概は直ぐに消えるものだよ》
来訪者様を送り返す、と言う処分が有ります。
最近ですが、私もココで1度だけ見掛けました。
と言うか、私が担当していたので、返却リストに初めて加えたんですが。
結構居るんですよね、返却リストに。
『あの方は、大丈夫ですよね?』
《聖獣と魔獣が居るのだし、大丈夫。いや、寧ろ大変だろうね、ふふふ》
まだ独身なので良く分かりませんが、大変そうだなとは思います。
凄いラブラブが溢れてますし、心配したり警戒もしてますから。
『あ、お花は良いんですよね?』
《持ち込み禁止類で無ければ、特例、ですがね》
『花瓶を用意しないと』
《僕が用意しておくよ、はぁ、偶には立ち上がらないとねぇ。確認を頼めるかな》
身分証の再発行、それとルイユさんとシエルさんの新規身分証。
『はい、オッケーです』
《じゃあ、最後に部長に確認を、僕は花瓶を探しに行くよ》
『はーい』
身分証はとても大事なので、部署の偉い方、部長に最終確認と同席をして頂きます。
《大変お待たせ致しました》
「いえ」
『では、一緒にご確認をお願い致します』
クラムさんの場合ですと、外見年齢と任意の生年月日、来訪日。
現在のお名前、性別、後見人か保証人施設の名称が表に表記されます。
そして実年齢と向こうでの生年月日は、特殊なインクで書かれます
裏には現在のご住所、髪と目の色と肌の色、それと使用可能言語。
この使用可能言語、コレをマメに変えてくれる方、意外と少ないんですよね。
「はい、間違い無いです」
『では続きまして、ルイユさんの身分証のご確認をお願い致します』
魔獣や聖獣の場合は、表に大体の生年月日に変化を得た日付け、外見年齢や特徴と性別が記載され。
種属名や名前は裏に、特殊なインクで書かれます。
『念の為に訪ねるが、この色を赤毛と呼んで良いのだろうか』
『分かります、どちらかと言うとオレンジですよね』
《あくまでも記号として当て嵌めた場合の事ですから、ご心配頂かなくても大丈夫ですよ》
『なら問題無い、次はシエルのだな』
『はい』
《宜しくお願いします》
シエルちゃんは幼体では無いんですが、人種の知識に不安が有るからと言う事で、準成人扱いとなっています。
なので婚姻には保証人が必要なのですが、もしかして、あの容器の中でしょうか。
『書類にお間違いは無いですか』
《準成人には不満ですが、はい、間違い無いです》
『婚姻には保証人が必要となりますが』
《はい、遠い親戚です》
《かなり遠いがな》
瓶の中には、蛤では無い貝の方が。
魔獣や聖獣化が珍しい場合、全く同じ外見のモノが居ない、戸籍が無い場合も有るので。
この場合、更に保証人が必要となるのですが。
《では、この場合》
『ワシが保証人では難しいかの』
貝さんの横には、小さくて可愛らしい蛸の魔獣さんが。
初めて生で見ました。
《では契約を宜しいでしょうか》
《おう》
『うむ』
保証人とご本人様、そして役所の上級職員を含めた4人の体液を混ぜ、婚姻受理証と保管書に割印として入れます。
コレは魔獣や聖獣が万が一にも暴走した場合の抑止力ともなりますので、保管は特に最新の注意を払う事になります。
《はい、契約が完了致しました》
《どうすれば成人として認めて貰えますか》
《積み重ね、かと》
《そうだぞ、まだ日が浅いんだ、焦るな》
『そうじゃよ、気にしとる間は成人では無い、気にせん頃には成人と認められるじゃろ』
「ですね」
《頑張る》
「程々でお願いします」
クラムさんとシエルさんの髪色は、少しお揃いなので正直憧れます。
良いですよね、お揃い。
《では、婚姻受理証のお渡しとなります》
『あ、はい、コチラです。どうかお相手の方の為にも、暴走はなさらないで下さいね』
《はい》
『では、以上となりますが、何かご質問や分からない点は御座いますか?』
「あの」
《すみません、私はココで失礼させて頂きますね》
『あ、はい、ありがとうございました』
もしかして、本当にお花をくれちゃうんですか。
「あの、贈答品は不可とは聞いているのですが、お受け取り頂けますか」
本当にくれるんだ。
ただお仕事してるだけなのに。
『あの、特例ですからね?こんなお気遣い頂かなくても、もっと凄い方も来ますし、大丈夫ですからね?』
「そうした方々の代表とは申しませんが、せめてものお礼と労いです」
色んな花の種類が入ってて、コレ絶対、高いのに。
『ありがとうございますぅ、直ぐに飾らせて頂きます。あ、帰りのお支度を、忘れ物に気を付けて下さい』
「はい、ありがとうございます」
ヤバい来訪者も、良い来訪者様も居るって言うのは知ってたんですけど。
やっぱり目の前にすると、こんなに違うんだなって思わされますね。
《ほれ、そうだったろう》
『はい、持ち込み禁止類は無しかと、確認をお願いします』
《うむ、無いねぇ》
『ありがとうございます』
《構わんよ、さ、お送りしてやんなさい》
勉強大変だったけど、うん。
やってて良かった、来訪者専用窓口。
『ありがとうございます、お気を付けてお帰り下さい』
「はい、コチラこそ、本当にありがとうございました」
『いえいえ、また何時でも、お気軽にご相談下さいね』
「はい」
あぁ、暫く癒しに満たされちゃうなぁ。
ヤバい来訪者、暫く来ないで欲しいなぁ。