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147 海の魔獣と来訪者。4

 幼いから、無知だから。

 不自由だったから。


 誰も、その危険性を教えてくれなかったから。

 恥だとは知らなかった、知れなかった環境だったから。


『あの人、凄い酷かったんです』

《ほう》


『全く共感してくれないし、冷たいし、勝手に誤解するし。兎に角、凄く、責めてきたんです』


 私、川口には嘘を見抜く魔法は無いですが。

 彼女が嘘を言っている事は分かります。


《成程、苦情の申し立てで宜しいですかね?》


『別に、そこまででは無いですけど』

《遠慮しないで大丈夫ですよ、苦情を申し立てれば最悪は解雇も出来ますから》


『だから、別にそこまでして貰いたいワケじゃなくて』

《全く共感してくれないし冷たいし、勝手に誤解するし、責めてきたんですよね?》


『そう、ですけど』

《大丈夫ですよ、通常なら誰が苦情を申し立てた結果の解雇か、そうした事は向こうには伝わりませんから》


『別に、辞めて欲しいワケじゃ』

《居て良いんですか?》


『私が、避ければ良いだけですし』

《そうですね、ですが問題は報告しなければならないので、その相談員の記録用水晶と共に提出してきますね》


『だから、問題にしたいワケじゃ無いんですってば』


《分かりました、ではご用件をお伺い致しますね》


『もう良いです』

《そうですか、では報告に行ってきますね》


『だから!愚痴をちょっと聞いて欲しかっただけって言ってるじゃない!!』


《そんな事、仰いました?》


『それ位、相談員なら察してくれたって』

《相談室利用の際の注意事項、お読みになりました?》


 1.正直に話す。

 2.虚偽報告をしてはならない。

 3.暴言や暴れる等の行為は禁止。


 相談員は施設の管理者により選ばれた素人ですので、必ず合う合わないが発生します。

 無理をせず他の相談員に切り替え、お互いに快適に相談室を使いましょう。


 コレ、忘れてるんですかね。


『読みました、けど』

《失礼します、怒鳴り声が聞こえましたが、問題ですか川口さん》


 あぁ、シトリーさんの登場に真っ青になってる。

 既にイエローカード盛り盛りなんだろうか。


 じゃあ、良いか。


《全く共感してくれないし冷たいし、勝手に誤解するし、責めてきたんだそうです。クラムさんが》

『ちょっ』

《事実でしょうか》


 長考。

 如何に誤魔化すか考えているんでしょうね。


『そう、感じただけで、別に苦情と言うワケじゃ』

《愚痴をちょっと聞いて欲しかっただけって言ってるじゃない、だそうなんですが、もしかしたら私が聞き逃していたかも知れないので確認をお願い出来ますでしょうか》


『そん、確かに言って無かったかも知れませんが、相談員なんだし』

《はぁ、問題の検証が終わるまでは有料の外部の相談室をご利用下さい、以降は自室待機を命じます。違反した場合は罰金、最悪は送り返される事を覚悟して下さい》


『何で、ちょっと愚痴を言っただけなのに』


 コレこそ、加害者心理の実態。

 嘘を嘘と認識しなかったり、大きな問題を小さく捉えていたりする。


 きっと、私の事をバラした人も、この程度の認識だった。

 大した事は無いだろう、大袈裟だ、と。


《戻って下さい、手間を掛けさせるなら、更に追加の罰金が加わりますよ》


『分かりました』


 彼女は反省した様に見えるけれど、単にどう言い訳をすれば()()()()()()だろう、そう考えているだけ。

 どうせ、叱られた事について納得はしていないでしょう。


《先ずはココの水晶を確認しますので、クラムさんの水晶を借りに行って頂けますか》

《はい》


 私は彼女(クラムさん)の嘘を知っている。

 いや、正確に言うと気付いてはいるけれど、敢えて気付かないフリをしている。


 私も、そうして欲しかったし。

 きっと、彼女はそうして欲しいだろうから。


《失礼します、クラムさん、今日って女の子が来ませんでした?》


「はい、どうかしましたか?」

《ウチでクラムさんに謗られた、言ってたんですけど、無いですよね》


「ご確認をどうぞ、禁止ワード2連発だったのでウチはもう出禁にしました」

《あー、すみません、念の為に記録用の水晶をお借りしますね》


「全く気にしてないので大丈夫ですよ、暫く休憩室にいますね」


《じゃ、また》

「はい、また」


 記録用水晶が無い間は、お互いを守る為に相談員は仕事が出来無くなる。

 歩合制だったら、本当に営業妨害なんだけど。


《借りてきました》

《どうも、どう見えましたか、問題を起こした方の彼女》


《アレこそ加害者心理の実態だろうなと思いました。嘘を嘘と認識しなかったり、大きな問題を小さく捉えていたりする。きっと私の事をバラした人も、この程度の認識だった。大した事は無いだろう、大袈裟だ、そう思っていたんだろうな》


《そうですね》

《反省した様に見えるけれど、単にどう言い訳をすれば()()()()()()だろう、そう考えているだけ。どうせ、叱られた事について納得はしていないかと》


《はい、結構です。どうなさいますか》

《勿論、出禁で》


《はい。それで、クラムさんが、本当に謗ったと思われますか》

《いいえ、寧ろ助言をした筈です、なのに彼女の禁止ワードを言った。同情して貰えなかったから、気に入る反応が引き出せなかったから、向こうと同様に少し大袈裟に騒いだだけでしょう》


《ですね。まだ、ココを出る心構えは難しいですか》


 平和で平穏な社会生活を送っていたのに、性転換をバラされた。

 だから男にしか興味が無いと言ったら、今度は同性愛者扱いされた。


 身も心も女なのに。

 産めないけど、なら閉経女性と同じ筈なのに。


 汚いモノ扱いか、腫れ物扱い。

 しまいには避難所で犯罪者扱いをされて、連行途中でココに来る事になった。


 向こうも、向こうの人間も嫌だった。


 でも、そんな時、以前のクラムさんと同じ夜間勤務になった。

 そして今回と同じ様に、言わなくても良いのに、と言ってくれた。


 普通に過ごしてくれた。


 良い人間も居るのは分かってる。

 けど、どうしても、もう傷付きたく無かった。


 だからずっと、外に出る事を拒絶してた。


《また、嫌な思いをしたら、ココにまた引き籠ります》

《構いませんよ、いつでもお待ちしております、なんせ仕事は幾らでも有りますから》


 どうしてか、殆どの者は独立したがる。

 雇うより、雇われる方が遥かに楽なのに。


《ありがとうございます》

《水晶をお返ししておいて下さい、それから少し、休憩して下さい》


《はい》




 基礎教育がまだなのか、性別が変えられる事を知らないのか。

 相談員は性別を変えていないと思い込んでいたのか、と思っていたんですが。


「まさかの、針小棒大系だったんですね」

《みたいです、以前にも似た騒動を起こしてたみたいですね》


 ココには自由と不自由が存在する。

 相談員ですら、相談を受け続けるかどうかを選べる。


 予め登録してある禁止ワードを言ったなら、とある禁止行動を行ったら、出入りを制限出来る。


 相談には乗りたいが、何事にも限度が有る。

 コチラとて人、いや人種なのだから。


「どうして、そうなるんでしょうね」

《自分大好き、自分こそ正しい、けど表立ってはそんな事は無いって言っちゃう系》


「あぁ」


 そろそろ、この仕事も難しいかも知れない。

 監督所内部の人員は減り続けている、つまりは問題児ばかりが残る事になる。


 仕事が無い日でもお給金は貰えるけれど、罪悪感が募る。

 いっそ歩合制か、ボランティアか。


 でも、そこまで思い入れが有るワケでも無い。

 面倒や不快感は出来るなら避けたい。


《私、今回の件で、そろそろ出ようかなって思いました》

「役所の方もですけど、運が良いのか、良い方ばかりでしたよ」


《でも例の揚げ物屋さんは、現地の方でしょ?》


「まぁ」


 彼女が人を避けるのは、良く分かる。

 けれど、いずれココは。


《けど、割合は低い》

「コレから先のココよりは、遥かにマシかと」


《でもでもだって、お給金をどうしましょう》

「そこですよねぇ」


 問題は、どう生きるか。


《お店をやれば良いって蛸も言ってた》


 蛤さん、影から出て来て何を。

 と言うか、も、って。


「も」

《浜の人種達が言ってた、雑貨屋が1軒だけは寂しいって》


「あぁ、雑貨屋」

《雇って下さい》


「えっ、そこはせめて、共同経営では」

《だって雇うより雇われる方が気楽じゃないですか、それに共同経営になると権利関係が面倒ですし、私は雇うより雇われたい》


「何故か、私が雑貨屋をやる前提なんですが」

《品物選びとかは一緒にしますよ、一従業員として》


「じゃあ、何を並べれば良いんですか」

《最初は周囲のお店の品物を並べるだけでも良いと思うんですよ、それこそ海辺ならお土産屋さんって定番ですから》

《綺麗な貝とか有る》


《じゃあ貝殻とかサンゴが有るなら置いちゃいましょう》

「オーナーと経営者、とかでは」


《絶対に嫌です、案は対価です、雇って下さい》

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