13 インフェルノの回想録1。
そうして第一層では、裁定が行われ。
第二層、愛欲者の地獄へは徒歩で。
ミノス王の石像の後ろに階段が有り、少し降りた程度で辿り着いた。
第二層、愛欲者の地獄
愛を伴わない肉欲に溺れた者が、全裸で暴風の中を翻弄される、だけ。
ココでも、ほんの少しだけ、面白そうに見えてしまっていたけれど。
フクラガエルが破裂してもいけないので、ガス抜きを行う事に。
「この神曲を作ったダンテ氏は、幼い頃にベアトリーチェと出会い一目惚れ、その9年後に再びすれ違いに再熱。ですが、思春期なのかツンデレなのか、どうでも良い女性2人に適当な詩を送り。悪い噂が流れベアトリーチェに挨拶すら無視され、許嫁と結婚」
《ほう》
「一方のベアトリーチェは銀行員と結婚、数人の子供を残し24で死去。その死を知り詩を読み漁り神曲を作り上げた、とされているので、ココが甘いのかも知れませんね」
『はい、ですね』
《あぁ、成程》
フクラガエルが収まり。
次へ行く事に。
コレも、隠し階段。
と言うか、もしかしてアンドレアルフス侯爵が即席で作っている可能性も有るな、と。
そう思いながらも、地獄への階段を降りました。
が、流石悪魔。
ユノちゃんに神曲の概要を説明しやがりました。
『因みに、神曲の主人公の案内役はウェルギリウス、古代ローマの詩人です。かのダンテが尊敬していたそうですが、辺獄に居た所を彼の女神ベアトリーチェにより案内役を任されたそうで』
《んー》
分かりますよ。
尊敬していた人を辺獄落としは、全く納得いきませんよね。
「まぁ、もう少し先も見てみましょう」
第三層、貪食者の地獄。
大罪の大食や美食を行った者が落ちる地獄。
《昔にしたら大食らいは困るのは分かるし、お肉が苦手でベジタリアンになるとかは分かるんだけど。過度な加工をした美食も大罪だよね、なのに大罪は主に大食って事にしてて、そも人造肉って良いのかなって思う》
「まぁ、加工の線引きが難しいので、なら線引きしてみろオラとは思いますけど。利権が絡んでの事かと」
《だよねぇ、エコを謳ってるけど、じゃあその加工にどれだけの資源と費用が掛かってるんですかって。はぁ、まだ、向こうの方が合うのかも》
「かもですね」
ココは泥まみれで大小様々なケルベロスに追われ、食べられてウ〇コになって出て、また泥の中で再生する。
ソレを繰り返す地獄、らしいんだけど。
機械仕掛けの3つ首の犬が追い掛けたり、食べたりしてるだけ。
それこそエコの為、ケルベロスに見える魔法を掛けられて、食べられては再生してて。
何だか少しシュールだった。
第四層、貪欲者の地獄。
過度な倹約家と過度な浪費家が落ちる地獄。
倹約家と浪費家が互いに罵り合いながら、どう見ても一息には転がせない金銀財宝が詰まった袋を転がそうとし、時には勢い余って潰される事も有るが。
また何処からか体が生え、再び罵り合いながら、何処へともなく転がしていく。
《やっぱ、何かシュールに感じちゃう》
「ですよね」
なんせ一寸法師サイズで行われているので、借りた虫眼鏡で見ていましたから。
『罪人が多いので、拡張するより縮小が先かと』
《成程》
この頃には、ユノちゃんなりに地獄を咀嚼し始めたのか、フクラガエルから戻っており。
そのまま進む事になり、そして今回も、隠し階段を降り。
第五層、憤怒者の地獄へ。
三途の川の解説に有った、冥界へ繋がる川ステュクス川がココに流れており。
泥沼の中、言い争いから始まり殴り合い、嚙み付き合いの喧嘩をし続けている。
「いつか、ふと飽きそうですよね」
《分かる、疲れるし飽きるよね》
『ですが、怒りの発露は依存してしまうそうで』
《あ、一時停止以外の効果は無いって、聞いた事有る。厳しく叱っても無意味だから、如何に工夫するか、って》
「それでも非常に難しい相手にはどうすれば良いんでしょうかね、他人ならまだしも、身内の場合」
『苦痛を回避する為に怒る、若しくは発散させる為に発露するそうですが、関わらないのが1番では』
あぁ、ココは異世界だった。
そう思い出させられた。
幾ら暗闇の川辺とは言えど、ココは地獄。
インフェルノ。
「万人が大切に育てられる、そんな事がそもそも無理ですもんね」
『はい、無駄なら捨てれば宜しいかと』
《そうなると、やっぱりゼンの方が理解出来るかも、執着を捨てるしか無いって事なんだし》
「あぁ、ソッチでしたか」
《ん?》
『身内が居なければ死ぬワケでは無いんですから、捨てれば宜しいかと、そう申し上げたつもりでした』
《あー》
『取捨選択がなされる可能性が有る、とその立場を弁えているなら、諭されただけで十分に効力を発揮するかと。ですが、そうでは無い、と何故か思い込んでいる者には怒りを露にせざるを得ない。ココは憤りだけでは有りません、憤らせた者も落とされます」
どうしてか、ふと溜飲が下がり。
アレの事だと思い出し、ユノちゃんの言葉が重さを増した。
自分が執着しているからこそ、こうして苦しい事は理解していても。
納得出来る材料が、まだ少ない。
《あ、違うからね、捨てろって事じゃないから》
「ですけど」
『分別は必須かと』
《うん、そうそう、ちゃんと分解して分別して捨てないとね》
「ありがとう」
《いえいえ》
『では、次に参りましょう』
アンドレアルフスさんが地面に手を近付けると、取っ手が勝手に起き上がるの。
さもずっと有りましたよって顔で、土に覆われた戸が開いて、隠し階段が出て来るんだけど。
ランプの灯りの有る、綺麗な洞窟の階段なんだよね。
しかも、毎回少しずつ違うの。
「あの、コレ、アンドレアルフス侯爵の魔法では」
『はい』
《あ、そうだったんだ、ありがとうございます》
「ありがとうございます」
『いえ』
寡黙だけど言う事は言ってくれるんだよね。
しかも綺麗な孔雀色の髪の毛で、それこそマツゲも。
もしかして、体毛全部。
と言う事は、下の毛も。
いや、そもそも全剃り?
すね毛は?
すね毛生えて無いとか。
えっ、無駄に気になる。
《あのー》
『ご想像にお任せします』
凄い。
やっぱり考えてる事、全部読まれてる。
楽なんだよねコレ。
慣れ過ぎちゃったらどうしよう。
「まさかの休憩所」
『はい、第六層、異端者の地獄の上層部に位置します』
コレより先こそ真の地獄、とされ。
ディーテの市、と呼ばれる円環の城塞は、本来ならば堕天使と重罪人の収容所。
けれど煌々と燃える様に明るい、休憩所だった。
《あ、もしかして合わない人向け?》
「成程」
『お任せします』
《行く、なんなら代わりに》
「いや無理しなくて良いですよ、私は全く平気なので」
《でもさぁ》
「フクラガエル」
《ん?》
「フクラガエルご存知ですか、可愛いカエル」
《知らないけど》
「私は憎い相手が居るので寧ろ楽しめるんだと思いますけど、無理しない方が良いですよ」
《行く、知っときたいし》
『では、このまま向かいます』
第六層、異端者の地獄。
異教徒は自分の名が書かれた墓石を建てられ、墓の中で焼かれる。
けれどココでは、自身が信じる宗教を押し付けた者や、無理矢理に改宗させた者が焼かれている。
「油断させてからのマジ地獄ですか」
《確かに》
そしてココの獄卒の方も、牛頭と馬頭。
『元はミノタウロスとケンタウロスです』
《あぁ、ココでも同じなんだ、牛頭さんと馬頭さん》




