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137 農家の子。4

『おはようございます』

《おう、山羊ミルク飲むか》


『はい、飲みます』


 大根を生やして、大根とイカの煮付けを作って貰って。

 食べて、お昼寝をしました。


 寝る前、妙さんは困っていました。


《妙さんはまだ少し若いから、お前の家の事は暫く言わないでおこう》


『はい、ウ〇コさせてしまいましたか』

《あぁ、ちょっとさせてたな。以降は、俺らと同じ場所から来たヤツには、特に若いのには言わない様にしよう。全く無関係な場所で育つと、どうしたら良いか良く分からないんだ。ヒナが普通の家を知らない様に、不思議な家の事が全く分からないヤツも居る》


『悲しませたり困らせるつもりは有りませんでした、謝るべきでしょうか』

《いや、ウ〇コ漏らしたんだ、そっとしとこう》


『はい、分かりました、言わない様にします』

《おう、さ、次はネギだな》


『はい』


 ネギも大根と同じで、畝を高くします。

 こやす魔法が使えれば、同時に使って下に生やす事が出来るそうなんですが、無いので土を掛けます。


《なぁ、こやす魔法だけで、本当に下に生えるのか?》

『そりゃもう、上以上にこやせば、それこそ空気並みにすれば。多分、出来ると思う』

『アズール、試してみませんか』


「雑草も生えてしまうと思うんですが、構いませんか?」

『是非是非、お願いします』


 はい、出来ました。


《おぉ、けど曲がるな》

『ぅうん、範囲が大きかったんだと思う、こう真っ直ぐにした?』

「いいえ、そこまでは、限定させる事が苦手なんだと思います。今までした事が無いので」


『あー、そこも練習しないとなぁ、出来るなら長芋も作りたいんだよねぇ』

《トロロか》


『そうそう、出来たら自然薯、東の国でも高いらしいのよ』


《それって、つまり、かなりの高等技術なんじゃないか?》

『そうなのかねぇ?アレ精が付くって言うし、あんまり食べられても困るだけじゃないかなぁ?』


《あぁ、それも有るかもな》


『精が付くって何ですか』

『明日も元気に動けるって事』

《鰻とかなぁ》


『あぁ、アレも筒が必要だか、あぁ、竹か』


《成程な》

『何ですか』


《こう、大根に石が当たると曲がるから、ちゃんと取り除けって言われたろ?》

『はい』

『長芋とか自然薯って、筒の中で育てるの、真っ直ぐ育つ様にって』


《商品価値もだけど、つまりは鮮度が保てるからなワケだ》

『そうそう、竹を使えば良かったんだぁ、そっかぁ』


『分かりません、もう少し詳しく教えて下さい』

『ネギはこう、本当はこう育つでしょ』


『はい、ウネウネします』

『長芋とかは、こう、もっとウネウネ潜って偶に絡んだりするの。それを竹で抑えて、真っ直ぐに成長させる』


『分かりました、でも竹はどうしますか、ココでの栽培は中庭だけと決まっています』

『中庭かぁ、家を建て替えかぁ、良いかも』

《こう、愛着とか無いのか?》


『やっぱり木造はちょっと、レンガの街並みを見て、良いなって』




 ずっと妙さんの近くで空気だった妖精が、突然泣き出しやがった。


《だから、街に行かせたく無かったのに》

『あー、はいはい、ちょっと失礼しますねー』

《いや、俺も混ぜろ、色恋沙汰に2人キリは不味い》


《何だよ、どうせお前も》

《判断するのは妙さんだ、嫌ならココで説得しろ》

『あぁ、すみませんね』


《いや、妖精との色恋沙汰としか聞いて無い。で、どうしたい妙さんは》


『あの、良いですかね?私も困ってて』

《何でだよ、分かるけど、俺は違うのに》

《ヒナ、アズールと生やしといてくれ》


『うん、ごめんねぇ』

『分かりました、頑張ります』

「はい」


 聞き分けが良くて本当に助かる。


《で、何が不満なんだ》


《俺の、お嫁さんになってくれると思ったから、だから》

『ならお返ししますね、今までお世話になった分も、家も』


《俺が建てたのに》


 建てたのか、凄いな。

 どうやったんだ。


『すみませんでした、好意を利用するつもりは無かったんですが、まさか好きだから手助けしてくれてるとは思いもしませんでした』

《まぁ、だろうな、向こうにそんな常識は無い》


《けど、俺、ちゃんと好きだって言ったのに》

《家族が好き、友人として好き、其々違うだろうが》


《けど》

『外を見てから、知ってからにして頂けませんか、そう誤解する様な子に育てたくは無いんです』

《だろうな、そうやって殺されたんだしな》


《俺は》

《好意を押し付けてるのは同じだろうが、しかも妙さんは知る猶予を、いつまでだ?》

『あ、いつかは、確かに決めてませんでしたね』


 アズールは、もう生やし終わったな。


《アズール、少し良いか》


「はい」


 走って来るか。

 元気だな。


《この妖精に知識を与える手段を出来るだけ全て挙げてくれ》


「それこそ口伝、本、それと精霊の加護を得る事かと」

《成程、精霊の加護か》


「ですが、かなりの苦痛を伴うそうで。頭痛だとか吐き気や眩暈、それらの後に、今度は感情の波が来るそうなので。あまりお勧めはされませんが、何か」

《コレが妙さんを好きらしい、だがあまりに人種の知識が無い》

《増やす、やる》

『それは、流石にして欲しくは無いかと、それでやっぱり無駄だったと思われても困りますし。そもそも、そうした事を知らないって事は、知ってて欲しくないって血族の願いを無駄にする事になるんじゃないかと』


「はい、そうかと」

《でも、俺は》

《あのな、知った程度で、どうして好かれると思う。他の血族が反対し》

『ワシは、構わんよ』


 声の方を振り向くと。

 同じ羽根の妖精が、もう1人。


《一体、いつから》

『今じゃな、また泣いとると思ってのぅ』


『あの、何とか説得を』

『何故、ワシらに血族の知識が無いのか、それは稀に出るモノは人種の血筋に混ざるからじゃよ。人種しか生まれんのじゃよ、蛍の妖精種を守る為に』


『ほら、このままだと家族と離れ』

『それでも構わんのじゃろ』

《うん》


『それは』

『知識を得ても郷に戻れば、その知識も何もかもが消える、問題無いじゃろ』

《やる》


『えぇ、レンズさん』

《どんなに苦しんでも必ず得られるモノじゃない、苦しさなんて関係無い、合うか合わないかだ》

『じゃの、ワシはそこだけは知っとるが、本当に凄いぞ。3日は起き上がれんし、少しでも動くと吐くらしいが止められん、本当に良いんじゃな』

《うん、やる》


『そんな』

《まぁ、郷に戻れば全部忘れるなら、アリだろ》


『でも』

『すまんのう、好意が怖いんじゃろ、そこもコレは分からんのじゃ。じゃが知れば気付くじゃろ、知ればコレも落ち着く筈じゃ。何、心配せんでも良い、得る為の対価じゃ』


 人種だけじゃない。

 誰でも、何かを得る対価を払う事になる。


《だな、妙さんが失うモノは無い。それでも好意を押し付けて来るなら、いや暫くウチに居れば良い、そのウチ勝手に忘れるんだろ》

『じゃの』


『友人には、戻れないんですね』

『残念じゃが、無理じゃな』


『なら、魔法を』

『ソレはもう、お主のモノじゃ、もしコレと契約が切れたらワシが与える。何、迷惑料じゃよ、家もじゃ』


『でも、それだと』

『家族が増えるかも知れん、それはどちらにしろ良い機会じゃろう。コレも経験じゃ、何、忘れるが経験は経験じゃて』

《何を言っても止められないだろうし、俺らは俺らで準備をしよう。紹介所や悪魔が居るんだ、大丈夫、返す手伝いを俺らもする》


『すみません』

《いやいや、同郷のよしみだ、良いな?》


『はい』


 強引だが、コレしか無い。

 なんせ他を、執着する精霊種も知ってるからな。


『まだでしょうか』

《あぁ、すまんヒナ、事後承諾で悪いが妙さんを預かる事になった》

『すみませんが、宜しくお願いします』


『ではお料理をお願いしても良いですか』

『勿論ですよ』


『最高位の賓客としてお迎えします、是非来て下さい』

『ありがとうございます』


 流石、女王の卵だな。


『では、ネギを収穫すべきでしょうか』

『ですね、それから準備をさせて下さい』

《おう》


 ネギ。

 焼き鳥、ネギ焼き、ネギ味噌。


 やっぱり、酒が必要だな。

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