136 農家の子。3
『宜しくお願いします』
『はい、宜しくお願いしますねぇ~』
以前に畑を貸してくれた農家さんが、実は同じ場所から来た人だったとネネさんから聞いたので。
今週からお世話になる事にしました、私は1週間農家します。
なので妙さんが作ったモンペを着て作業します。
《不思議と似合うな》
『だねぇ』
『ありがとうございます』
『うん、では、始めますよ』
《おう》
『はい』
最初からです。
木や根っこを取り除いて、石も取り除いて、雑草も取ります。
それから畑にする為に、クワでこやします。
《コレ、魔法でどうにか》
『それねぇ、モグラの魔獣さん探してんだけど、ココら居ないんだわ』
多分、妖精が追い払ったのだと思います。
《あぁ》
レンズも気付いたみたいです。
『まぁ、練習練習。お兄ちゃん、こやすの出来るんでしょう、ちょっとやったらお願いね』
「はい」
ちょっとは、半分でした。
《はぁ、疲れた》
『お兄ちゃん、宜しくね』
「はい」
アズールがやると直ぐに終わりました。
秒でふかふかです。
《一瞬で》
『まぁまぁ、はい、次は畝を作るよ』
今日は大根とネギを植えます。
『ちょっと難しいです』
『だよねぇ、向こうに有る道具を何でも使って良いから、こうなる様にしてみてねぇ』
『はい、そうします』
土壁を塗る道具が丁度良かったです。
『うんうん、良いねぇ』
『でも遅いです』
『比べるとね、けど自分で食べる分を作るなら、誰も気にしないから大丈夫』
《そろそろ、腰が》
『カッコつけるからだよぉ、レンズさん。はい、こうする、こう』
大股開きで、畝を作ってます。
《クソ、本当に楽だな》
『でしょう』
畝が出来たら、休憩です。
《はぁ、疲れた》
『もー、体力が無いねぇ、ウチのお父ちゃんは日暮れまで働いてたよぉ』
《尊敬するわ》
『でしょう』
妙さんは、家族の事を話す時嬉しそうです。
でも戻らないんだそうです。
『どうして戻りませんか』
『あー、ストーカーは分かるかな?』
『ずっと後を付ける犯罪ですか』
《酷いと写真を勝手に取られてたり、嘘を言い触らされたり、だな》
『そうそう、名前も連絡先も知らないのに、何度も家に来られてねぇ。引っ越ししたんだけど、ダメだったんだよねぇ、轢かれちゃったんだ』
『どう殺したいですか』
『ふふふ、考えもしなかったけど。そうだねぇ、透明人間になっちゃって、誰にも相手にされなければ良いかもねぇ』
『あんまり恨んでません、不思議です』
『恨んでるのは、寧ろ回りかねぇ』
コレを聞いて、言わないワケにはいかないよな。
《俺は恋愛指南書を売ってた元ホスト、それのせいで被害が出た》
『あぁ、知ってる知ってる、あの事件の前に騒がれてた人でしょう。そっかぁ、何処かで見た事が有ると思ってたんだよねぇ』
《そうか、顔写真を見たんだな》
『いや、友達からね、気を付けろって。でもねぇ、読んだけど別に、アレを犯罪に使う方がどうかと思うよ?』
《けど、人の殺し方付きで包丁を売った様なもんで》
『そんな事言ったら、やれ何とかマニュアルだニュースだ、全部がダメじゃない?』
《そのつもりでも、結果的に被害者が》
『アレね、私らは八つ当たりだって思ってるから、大丈夫大丈夫。本が有ろうが無かろうが、するヤツはするんだもの、気にしたらダメだよお兄さん』
向こうでも同じ事を聞いていた筈なのに、どうしてこんなにも違うんだろうな。
《ありがとう》
『いやいや本当だよ、私は寧ろ面白く読んだよ。好きな人にこんな事をされたら、そりゃコロッと行くだろねって、良い勉強になったよ。まぁ、使う前に殺されちゃったけどね』
《ちょっとウ〇コしてくるわ》
『あいよー』
『一緒に行かなくて大丈夫ですか』
《おう》
ヒナが居た方が。
コレはくる。
『よし、いよいよ作付けです、準備は良いですかねぇ』
『はい』
《おう》
「はい」
『では、よーい、ドン』
子供が相手でも、手加減はしませんよ。
大人と子供の違いを分からせるのも、大人の仕事ですから。
おや、少年、中々に良い筋ですね。
ですが負けませんよ、実家が農家を舐めないで下さい。
「負けました」
『ふふふ、久し振りにムキになりました』
《とうとう負けた》
『レンズはもう少し鍛えた方が良いと思います』
《おう、そうする》
私らに知られてるのは嫌かも知れないけど、大変だったって知ってるし。
結局は直接裁判にならなかったんだし、気にしなくても良いと思うけど。
まぁ、色々と有るんだろうし。
そっとしておこうかね。
『じゃあ、今回は私の魔法を、お見せしましょう』
妖精さんがくれた魔法は、成長魔法。
ぐんぐん伸びる、肥える。
《おぉ、雑草も無しにか》
『1種類ずつだけですけどね、だからこそ、ですね』
《なら複数は無理なのか》
『ですねぇ、成長させたいモノだけ、成長させてますから』
『出来ませんか』
「出来るとは思いますが、かなり集中力を使うので、魔力の消費が増えてしまうかと」
『けど、私はもうどう成長するか、すっかり頭に入ってるから出来るんだわ』
《成程な》
『じゃあ、2本足の大根も出来ますか』
『うんうん、出来る出来る、じゃあコレで試してみようか』
土をこやす魔法が無いから、畝を盛り上げながら作るんだけども。
まぁ、2本足の大根はね、ついうっかり思い浮かべちゃって出来たんだよね。
『おぉ、まるで走ってるみたいです』
『だよねぇ、でも食べちゃう、美味しい』
『大根の煮物を食べたいとネネさんが行ってました、とっても羨ましがっていました』
『そこまで、そんな豪華でも何でも無いのにねぇ』
『私には家庭料理が有りません、お祖母ちゃんのお料理の味を少し覚えている程度です』
わぁ、どうしよう。
とんでも無い家で育ったなんて。
ネネさん、何も言ってくれなかったよ。
どう、言えば良いんだろう。
《俺も無いぞ、殆どな》
『あ、あぁ、あ。すみません、少し知ってます』
《0と1って結構違うんだ、けど自慢してくれて良いからな。所詮は持たざる者と持つ者の悩みの差、程度だ》
『いっぱい教えて貰うと良いって言われました、ネネさんの家の味の半分は、家政婦さんの味なんだそうです』
『わぁ、凄い家の人だったんだねぇ』
《けどまぁ、それなりに色々と有るワケだ》
持つ者と持たざる者。
まぁ、高い農機具はそれなりにメンテナンスだやれ保険だ何だと、手間暇やお金が掛かりますしね。
『濃い味ですよぉ、ゴハンが足りなくなる味ですから、覚悟して下さいね』
『はい!楽しみにしてます!』
本当に、田舎の味。
家庭料理の味がした。
《何でだろうな》
『愛情、ですかねぇ』
『どう込めましたか』
『美味しくな~れ~、美味しくな~れ~、ですかねぇ』
『そうはしてませんでした』
『念じてました』
『いつですか、真剣な時ですか』
『味見と、煮込んでる時』
『次にしてみます』
目をこすり始めたって事は、昼寝の時間か。
今日は早いな、疲れたか。
《今日は誰の抱っこにする》
『アズールにします、あの木の下にします』
「はい、行きましょう」
気を使ってるんだか、何だかな。
『すみませんね、そこそこ知っちゃってて』
《いや、大して気にして無いんだ。それより本当に、何が違うんだろうな、ウチの料理と何かが違う》
『まぁ、お料理本って大概は健康志向ですからねぇ、けど私のは慣れた味の目分量。汗をかいた時は濃くして、あんまりの時は少し薄く、それだけですよ』
《けどなぁ、何か違うんだよなぁ》
『味見して貰いましたからねぇ、合わせた様なモノですから』
《確かにな、味見な》
俺もヒナも出されたまんまで食ってたから、それもそうか。
『そんなに田舎料理って良いモノなのかって、そう思ってたんですけど。コレ、私に有るモノ、なんですよね』
《だな》
『あの、アレ、どうすれば良いんですかね?』
《出来るなら、可哀想だとかは言わないでくれ、まだ完全には理解して無いんだ》
『勿論、可哀想は差別の始まりだって、良く父に怒られましたから』
《そうか、そこはお節介だったな》
『いえいえ、言う人っていっぱい居ますからねぇ。けど、少し困りました、知り合いにも何にも周りには居なかったので。どうすれば、どう言えば良いんですかね?』
普通、こうだよな。
《アレに遠慮させる、誰にでも受け止めきれる事じゃないんだ、気にしなくて良い》
『でも、ネネさんは多分、知っているんですよね』
《あぁ、アレが最初で、俺は最近拾われた。偶に血反吐の掛け合いをするが、アンタはしなくて良いからな、誰だって得手不得手が有る》
『すみません、遠慮させて頂きます。つい、どうしたら良いか、多分コレからも固まってしまうので』
《良い良い、そうした時の合図がウ〇コなんだ》
『ウ〇コ』
《悲しい時だとか、困った時のウ〇コ》
『成程、使わせて頂きます』
《おう》
誰にでも言う事じゃない、それはもう分かってはいるんだしな。