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135 農家の子。2

『ただいま〜』

《お帰り!ちゃんと帰って来てくれた》


 まだ、私の言った事を理解してはいなかったか。


『勿論ですよぉ』

「お疲れ様です、ありがとう御座いました黒蛇さん」

《全くだ、血筋にも知識が無いと、こうなるとはな》


 そう簡単に人も人種も家は捨てない、と、教えたんだがな。


《何だよ、仕方無いだろ》

『はいはい、お土産ですよ』


《わぁ、綺麗な紙》

『東の国の紙、和紙ですよ』

「丈夫で薄いが有名なんですよ」

《私には無いのか》


「有りますよ、はい、リンゴ飴。妙さんが厳選してくれました」

『いやいや、そこまででも。コッチの品種にはまだ慣れて無いので、形と色だけですよ』


「皮が厚いからか、傷んでても直ぐには分からないんですよねぇ」

『うんうん、アッチのは薄いから直ぐ分かるんだけど、本当にコッチのは皮が厚いからねぇ』


 食が交流を深める便利な道具。

 だが、水だけで生きる蛍の妖精には、未だに分からないか。


《妖精、戻って来たのだ、言う事は無いのか》


 世話の掛かる子供を押し付けられたが、まぁ、学ぶ意欲は有ったので助かったが。

 問題は、素直に物事を言えるかどうかだ。


《もっと学ぶから、ちゃんと待っててくれよな》


 あぁ、女の方はもう既に、コヤツの欠点に気付いているのか。


『何処にでも私の様に優しかったり、アナタを毛嫌いしない人種は居ます。それだけで決めないで下さい、それだとコッチが不安です』


《俺は、タエだけで良い》

《馬鹿者め》

『他を見て、あらアッチの方が良かったな、なんて思われるのは嫌なんですよ。なので良く人種を知って下さい、話はそれからです』


 全く、こうなるだろうからと。

 幾つかの単語は、決して口には出すなと言っておいたと言うのに。


「もし不安なら、私の妖精だったモノを紹介しますから、見て回っては如何ですか?」


 お節介め、そこまでしてやる価値が有るかも分からないと言うのに。


《じゃあ、タエより良いのが居なかったら、認めてくれるのか》


『んー、認めるだけ、恋人にするかはまた別』

「ですよね」

《もー、何なんだよぉ、俺を助けようとしたり困らせたりして》


「公平さを保つ為です、知るのは選ぶ側の権利。良く知った後でやっぱり違った、だなんて別れたら、本気で羽根をもぎ取りますからね」

『ネネさん優しいなぁ。うん、もうちょっと学んだ姿が見たいから、頑張っておくれ』


《分かった》


 血筋に記憶が無い理由は幾ばくか分かるが、それにしてもだ。


『さ、先ずはちょっと料理でもしますかね』

「いえお疲れでしょうし、また今度でも」


『いえいえ、農家は体力勝負。大丈夫大丈夫、任せて下さいな』




 まさに、ご飯を食べる為のオカズ。

 お出汁も効いてるんですが、お醤油が主役の煮物、夏野菜のダシ。


 そして自家製の筋子。


「お米が幾ら有っても足りない」

『気に入ってくれて良かった、何の変哲も無い田舎料理なのに』


「いえいえ、コレこそ私が求めていた郷土料理です」

『そんな大袈裟な、お醤油を多めに入れればこんなもんですよぉ』


「いいえ、コレを私の故郷の味にします」


『ふふふ、都会の人は本当に面白いなぁ』

「何処か旅行に行く度に、ココが両親の実家なら今頃はどんな風に過ごしてただろうって、本気で憧れてたんですよ」


『なーんも無いよ、山と川、村と海。そんなんばっかりで、私は都会の端っこが羨ましかったなぁ。だってちょっと行けば、何でも買えるんだもの』

「そこですよね、車が無いと大変だって」


『そうそう、免許は必ず取るもんで、冬はもう雪だけ』

「学校のお休みが長そうだなと思っていたんですが」


『その分、夏休みは短いんだわ』

「けどエアコン要らず」


『それはそう、夏休みに都会に行って死ぬかと思った』

「ですよねぇ、真夏でも夜は肌寒い」


『ふふふ、あの子みたいに、何でも良く見えちゃうんだろうかね』

「ですね、でもコレは本当に美味しいです」


『ふふふ、ありがとう』


 いや本当に、本気でマジですからね。




《1つだけ良いか》

『はい、黒蛇さん、何でしょう?』


《いずれ何処かの誰かと、婚姻を果たす気は有るのか》

『そりゃ有りますよ、子供は欲しいですし、家族が居ないと何だかんだ心細いですからね』


《では、少なくともアレは、無いだろう》


 今思うと、お父さんは実はしっかりしていました。

 仕事ばかりだけれど、お母さんが困れば助けていたし、褒めはしないけど貶さなかった。


『ですね、無垢ですけど子育てに無垢は不必要でしょう、私は完璧では無いのでしっかりした旦那が欲しいですから』


 純真無垢って、最初は良いかも知れませんけど。

 多分、何でも常に教え続けるのは、疲れると思うし。


《お前は、何故戻らない》


『生き返っても、面倒を掛けそうなので』


《そうか》

『あの、こうした事って、尋ねても良いものですかね?』


《非難しないのならば。尋ねても問題無いか、先ずは聞けば良いだろう》

『じゃ、聞いてきますね』


《あぁ》


 黒蛇さんは黒ゴマを擂り潰し。

 ネネさんは、せっせとインゲンの筋を取っている。


 ネネさんには、どんな戻らない理由が有るんでしょうか。


『戻るつもりは有りますか?』

「いいえ、無いですね、妙さんはどうですか?」


『私も、アレです、ストーカー被害に遭ってたんですけどね。なんせ田舎なもんですから、取り合って貰えず、その男の軽トラに轢かれた所で記憶が途切れてるんですよ』


 何もして無いんですよ本当。

 お手伝いでお店で売り子をしてて、そこからです、何も特別な事はして無いのに。


 気が付くと付き合ってるとなって、全く面識が無いもんですから冗談だと思ってたんですけど。

 そのまんま、コッチは連絡先も知らないのに、とうとう家に来られていきなり出掛けようと言われて。


 ビックリしましたよ、最初はお父さんが追い返して、次に兄が追い返して。

 んで姉があんまりだって言って、警察へ。


 けどダメでした。

 連絡先を全く知らないと言っても、付き合ってるんだろう、と。


 アレですね、悪魔の証明ってコレかと思いましたよ。

 付き合って無い証明、幾らスマホを見せても取り合って貰えなかった。


 けど、女の警察官さんがね、偶に見回りに来てくれるって言ってたんですけど。

 まぁ、それで今度は色恋沙汰を警察に持ち込む酷い奴だ、って。


 近所は半々でしたね。

 スマホ見せて、それでやっと信じてくれても、折角好きになってくれたんだから付き合ってみたらどうかって。


 何かね、私に選ぶ権利は無いのかって思うと、段々腹が立ってきて。

 そのまま少し都会に行ってみたけど、まぁ、合わない合わない。


 で、少し離れた八戸に引っ越したけど。

 何処からバレたのか、見付かって轢かれました。


「私は、贅沢かも知れませんが、兄弟姉妹全員が凄い優秀で。就職もダメ、男に浮気されて、一人暮らしを引き上げる途中でした」

『あらー、大変だ』


 私、ストーカーのせいでもう、ビッチ扱いでしたよ。

 スマホ見せても、証拠を消しただけだろう、何かしたんだろうって。


 だから引っ越したんですけどね。


「正直、両親には申し訳無いとは思いますが、向こうよりコチラの方が幸せになれるかと」

『うんうん、私も、言ったら絶対に分かってくれるだろうと思います。それにお兄ちゃんも、お姉ちゃんも』


「私も、そう思ってます、向こうって合う合わないが有るんですよ」

『だよねー、ココが合わないのも居るだろうし、うんうん。仲間だねぇ』


「ありがとうございます、話してくれて」

『良いの良いの、あの黒蛇さんが一緒に居るんだもの、ネネさんだって良い人でしょうよ』


 紹介所に行った際、教えて貰ったんですよね。

 選ぶ基準の1つに、妖精とか魔獣が付いてる人種なら、特に安心だって。


 そして邪な願いを叶える者は、人種だけだ、とも。


「すみません、最近、涙腺が脆くて」

『分かるよ、私も、分かって貰えて嬉しいもの』


 マトモに話した事も無いのに、私が何かしたんじゃないかって、古い知り合いですら疑ってきた。


 家族以外、私が悪いって事にしたがった。

 やれモテる自慢がしたいのか、だの、実は付き合ってたんじゃないかだの。


 本当に、何もして無いのにね。

 名前だって、いきなり家に来られて初めて知ったのに、ね。


 だから、誰かと関わりたいとは、あまり思えなかった。


 何もしてないのに責められるって、本当に気力が削がれるし。

 悲しい事しか、無いからね。

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