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134 農家の子。1

『わはね、気が付いたらココの森に居たんずよ』


「ココの、ですか」

『んだ』


 わいはー、たげ大きい木さ目一杯生えてらーって驚いて、ピンと来たんずよ。

 白神山地さ入ってまったって。


 けんど、わの家、八戸なんずよ。


「あぁ、海沿いの」

『んだんだ』


 したっけ、先ずは誘拐さされてまったんだべかなって。

 けど、わの家に大したじぇんこさ無いはんで、間違って誘拐されて放置されたんだべかねってもうグルングルン考えてた所さ。


 妖精さんがね、来たんずよ。


「成程、妖精さんが」

『んだね』


「失礼ですが、やはりご実家も、農家で?」

『んだ、お米と林檎、後桜の選定も手伝ったりしてらね』


「あぁ、お掘りの桜、林檎の手法だって聞いた事が有ります」

『んだね、弘前方式さ言うんずよ。でわは庭師さんさなりたかったんだけんど、多分ね、トラックさ轢かれて死んでまったんずよ』




 母国語の訛りって、翻訳されないんですね。

 辛うじて聞き取れる単語で、何とか会話が出来ているんですが。


 同じ国の中でも、敢えて英語を使う場合が有ると聞いてはいましたが。

 成程、コレか、と。


「申し訳無いです、私、両親も関東の者で聞き慣れず」

『“ですよねぇ、コッチで話しましょうコッチで、私の訛りは随分とキツいと言われていますから”』


「“すみません、助かります”」

『“いえいえ、それよりどうですか、貴族の暮らしって大変そうですけど。困った事は無いですかね?”』


 優しい、ちょっと同郷でヤバいのとかも見てきたので、優しさが染みる。


「“はい、あ、妙さんは東の国には行かれましたか?”」

『“いえいえ、けどお醤油は欠かせませから、村の方に買って来て貰ってます”』


「“分かります、冷奴にはガルムよりお醤油”」

『“うんうん、トウモロコシにガルムだと少し違う、やっぱりお醤油じゃないと”』


「“ですよねぇ、本当に、作って頂いてる方に感謝しか有りません”」

『“あー、お料理する方ですか”』


「“向こうではあまりして無かったんですけど、ココでかなり好きになりました。食べるのも、作るのも”」

『“羨ましい限りです、ウチの家は家庭料理ばっかりで、外の味に慣れて無いし知らないしで。外食は冒険ですよ”』


「あ、では、雇ってみては?あ」

『“ふふふ、このままにしましょう、私は慣れてますから”』


「すみません、ありがとうございます」

『“いえいえ、それで雇うとは、どう言う事ですかね?”』


「紹介所はご存知ですか?」


『“いいえ、どんな所です?”』


「黒蛇さん」

地獄(ゲヘナ)にしか無いが》

『わぁ、たげめんこいねぇ、はあ』


「あの、地獄(ゲヘナ)は名前が怖いだけで、何も怖くない場所ですから。一緒に行ってみませんか?」


『“綺麗なドレスが無くても行けますか?”』

「勿論です」


 そうして早速、農園を貸して下さった同郷を連れて行こうとしていたのですが。

 邪魔が入りました。




《何で俺が何も教えなかったか、分からないワケ?》


 あんまり向こうの(ヒト)種を近付けたく無かったのに、この女が来て、会って話したいって。

 しかも、連れ出そうとしてる。


「全く分かりません」

《好きだからなの、何で邪魔するんだよ》


「アナタ、悪霊種ですか?」

《は、違うし、タエを助けた妖精だし》


「幼稚」


《仕方無いだろ、蛍の妖精で、精霊とも殆ど繋がって無いんだから》

「えっ、では短命なんですか?」


《違うけど、人種と殆ど関わらなかった、関わるなって掟だから》

「あ、じゃあココの開墾は、流石にマズいのでは」


《別に、水源からは離れてるし、蛍の住処から遠いから問題無いけど。って言うか何で邪魔するんだよ、都会に行って戻って来なかったら、どうしてくれるんだよ》


 近くの村の人種は、大きい街に行ったっきり戻って来ない事も有る。

 だから、俺は行かせたく無かったのに。


「そこは、配慮不足でした。ですが、何も教えず囲うのは軟禁や飼うのと同じです、好きなら相手の為になる事をしなさい」


《でも》

「飼いたいんですか」


《それは違うけれど》

「では向こうに行く間、ウチの黒蛇を貸しますから色々と教えて貰って学んで下さい、話はそれからです」


 俺は弱いから。

 多分、逆らうと消される。


《分かった》

「出来るだけ異性には関わらせませんし、もし心配なら告白しておいて下さい」


《したいけど、蛍の成長前は、人種はあんまり好きじゃないって聞いてるし。もう、村の方に、好きなのが居るかもだし》

「妙さんの好みは知りませんけど、アナタの羽は綺麗ですし、お顔も可愛いんですから。一先ずは言うか諦めるかです、流石にもう急に中止は無理ですよ、食事って本当に重要なんですから」


《水しか飲まないから分からないけど、そんなに大事なのか?》

「大事です」

『おーい、準備出来ましたけどー、コレで良いかなー?』


「大丈夫ですよー。言うなら今です、直ぐに受け入れて貰えなかったら、その時は黒蛇に幾つか方法を教えて貰って下さい」


 コイツ、良いヤツなのか何なのか分からない。

 けど、悪いヤツじゃないのは分かる。


 けど。

 でも。


 黒蛇には、勝てる気がしない。


《分かった》

「ほら、先に行って下さい」


《うん》




 妖精さんが私を好き、だとは。

 全く、気付きませんでした。


『私の何が良いんです?』

《全部、優しいし、蛍を嫌がらないし》


 蛍の妖精の長老さんから聞いたんですけど、守る為に、敢えて人種は蛍が嫌いだって教えてるそうで。

 なのでコレ、どうしたもんかと。


『私は全然、少なくとも今の妖精さんの姿は好きですよ。でも、ネネさんも嫌がって無かったんですし、先ずはそこを長老と相談してみて下さいますかね?』


《ちゃんと、戻って来てくれるよな?》

『勿論ですよ、遊びに行くだけなんですから。大丈夫ですって、人種がいっぱいは苦手なので、だからココに住んでるんですから』


《本当に帰って来るんだな》

『はい、勿論』


《俺も人種の事、ちゃんと勉強するから、俺が好きだって事忘れるなよ》

『はい、ちゃんと考えておきます』


《分かった》

『はい、では行ってきますね』


《うん》


 妖精さんが親切だとは思っていましたけど、まさか、好かれているとは。

 しかも、ネネさんを巻き込んじゃって。


「すみません、今さっき引き止められた理由はコレだったんです」

『コチラこそすみませんね、何だか巻き込んでしまって』


「いえいえ、どうしますか?地獄(ゲヘナ)

『勿論、行きます、料理人かレシピが必要なので』


「では、行きましょう」

『はい』


 何で、私なんでしょうね。

 優しくて嫌わない人種なんて、何処にでも居るでしょうに。




『あぁ、いらっしゃいませ』

「私の同郷なんです、地獄(ゲヘナ)の案内の最中なので、ご案内させて頂きました」

『凄い、ココに香水って有ったんですねぇ』


『好きな香りも作れるから、もし何か有れば』

『アレ、有りますかね、石鹸の匂い』


『有りますよ、マリオット38かな』

『そうですそうです』

「分かります、私も好きな石鹸なんですよ」


『アレ良いですよねぇ、上品で清潔な、石鹼らしい石鹼の香り』

「ですけどコチラの方には不人気なんだそうです、なんだ石鹸か、そんな匂いなんだそうです」


『あー、濃いの付けてそうですもんねぇ』

『そこは少し誤解しないで欲しいな。折角の香水なんだから、もっと複雑で、自分らしい香りが良い。とされているだけなんだよ』


『アレ混ぜて、良い匂いになります?』

『勿論、具体的な好きな香りでも良いし、イメージでも構わないよ』


『あぁ、でも、高いのはあんまり』

「では私からのプレゼントで、代わりに家庭料理のレシピを教えて下さい」


『えー、いや本当に、田舎の家庭料理ですよ?』

「本当に嫌味じゃないんですが、両親共に都会育ちで、本当に田舎の家庭料理に全く馴染みが無いんです」


『じゃあ、試しに作るんで、見て食べて覚えてくれるなら。目分量なんですよ、作るの』

「素晴らしいです、私、まだ計量しないと作れません。あ、補佐も一緒で良いですか、料理上手な子が居るんです」


『おぉ、まぁ、でもやっぱり半額は出させて下さいよ。コレ、結構しますし』

『そこは僕の割引で、僕も向こうから来たんだ、宜しくね』


『わー、凄い、ココらにはいっぱい居るんですねぇ』

「あぁ、レンズの事も話したんですよ、良い事だけを」


『あら、もしかして悪い男ですかねぇ』

『かもねぇ、ふふふ、お茶はもうしてきたかな?』

「いいえ、実はそれも狙って来ました」


『成程、じゃあお茶にしようか』

「ありがとうございます」


 彼女達は、同郷の筈なのに。

 それからもずっと、コチラの言葉だけで話していた。


 気遣いなんだろうか。

 それとも。


『君達の言葉で話してしても、僕は気にしないよ』


『ふふっ、私、訛りがキツいんですよ。凄く』

『そう、成程』

「生憎と、はい、聞き取りはギリギリでした」


『良いの良いの、向こうでも地方の方に随分と驚かれたもの』

「あぁ、西の方って逆に驚きそう」


『そうそう、自分達だって凄い訛ってるのにねぇ』

「あぁ、しかも頑なに直さない」


『アレ何なんですかねぇ?』

「やっぱりプライド、ですかねぇ」

『ふふふ、不思議だね、同じ国なのに違う言語の様なんだね』


「いや南も凄いですからね」

『うんうん、アレは本当に何も分からない。ウチのは短く省略してるだけ、かなり規則性が有るからね?』


「ですよね、お陰でギリギリいけました」

『でしょ〜、お兄さんの方は有るの?訛り』

『どうかなぁ、ネットも殆ど使ってなかったし、そう遠くまで行った事が無いから』


『あぁ、なら私と一緒だ、私も殆ど出た事無いもの』

「マジですか」


『1回行って、混んでるわ人が多いわでもう、ダメだったんだよねぇ』

「分かります、住んでても嫌になる」

『そんなに?』


「もう、この中庭いっぱいに人がみっしり」

『けど乗り物だから出るに出られない、アレは本当に、死ぬかと思った』


「本当、定期的に倒れてる子を見掛けましたよ」

『やっぱりねぇ』

『凄い、小さい国だって聞いてたけど、そんなに大変なんだね』


「まぁ、インドの方よりはマシかと」

『アレね、凄いよね本当、乗り物の外に飛び出てるからね』

『本当に?』


『本当』

「本当です」


『凄い、ふふふ』

『でしょー』

「ですよねー」


 同郷と、こんな風に話せるなんて思わなかった。

 大概は首輪付きで、僕を侮蔑する様な目で見るか、全く気にしないか。


 あぁ、やっぱり外を見た方が良い。

 僕も毒花ばかり目にしていたせいか、期待が薄い。


『偶には同郷と話せるのも良いね』

『うんうん、あんまり説明しないで済むのは楽だねぇ』

「ですねぇ」


『だね』


 もう少し、僕も外と関わってみよう。

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