128 田舎暮らし。
「悪魔や精霊が居る魔法の有る異世界で、幼女とオジサンと可愛い執事君ともふもふ灰色兎と猫と、ほのぼの田舎暮らしでスローライフ」
《あぁ、俺もかなり勉強したぞ、アレ奥が深いな》
「私、そこまでは流石に」
《芋にトマトに香辛料、メガネにボタン、それと紅茶な》
「ですね、私も姉のお陰でボタンに違和感が有りましたから」
《いやボタンは本当に目から鱗だった、アレ中世で普及させるだけで、もう大金持ちだろ》
「なので絶望しましたね、何処まで内実が充実しているのか、と」
《あぁ、俺もまさか、敢えて古い時代のまま。半ば偽装してるとは思わなかった》
「あぁ、ココが最初なんですもんね」
《ハニトラされかけたんだってな》
「あ、言ってませんでしたっけ」
《よし、1発殴って来る》
「止めて下さいお爺さん、もう終戦から何年も経っているんですよ」
《ココの日本は負けないだろ》
「と言うか、争う事が無いかと」
《有ったらどうする》
「ずっと考えてたんですよね、絶対にトップの首だけを取っても終わらないだろうって。だから上から少しずつ削って、最小限に抑える」
《結構、好戦的だな》
「蹂躙されるか戦うか、平和の為なら戦います」
《話し合いで~》
「それで追い込まれて侵略される他に無いから、戦うしか無かった、前線に配置して差し上げますから頑張って話し合って下さいね」
《透明なガラスって、意外と近世なんだな》
「それに陶器も、歴史学専攻の方が混乱なさったのも良く分かります」
《居たのか》
「だそうで、結局は。そうですね、お読みになると言いですよ、歴史家と悪魔」
《どの棚だ?》
「さぁ、渡されましたので分かりません」
《中身は分かってるだろ》
「ネタバレしない派なんです、兄に死ぬ程くすぐられましたので」
《ほう》
「黒蛇さんカモン」
《やっとか》
成程、本気で苦手らしいな。
「そこまで苦手ですか」
《俺の地元では蛇はヤバいの代名詞なんだ、頼む、違う姿にしてくれないか》
「では、妖艶な姿の方で」
意味は分かったが、敢えて外してやろう。
《コレで良いか》
「違う、何で男性なんですか」
《気に入られても困る、それに女王への配慮だ》
「成程」
《俺の言う事より素直に受け入れるな》
「だって私を絶対に傷付けないですから」
《あぁ、守る為に居るのだからな》
『俺も』
《キツネもか》
「コンちゃん、待てませんでしたか」
『うん』
《結構、赤くないか?》
「コッチの種類なんだそうです」
《あぁ》
『俺も遊んできて良い?』
「良いですよ、行ってらっしゃいませ」
『うん』
《アンタは良いのか》
《あぁ、見張りは必要だからな》
《そうか、確かに女なら貴族の方が良いかもな》
「ですね、学ぶ間に婚約を受け入れちゃったら困りますから」
《そうだな、風習が違えば意図せず受ける事になる、お前も気を付けた方が良い》
《あぁ、全く不勉強だった》
「あら、あらあら」
『ネネさん、畝の設置が終わりました』
「あー、えー、次は苗を植えます」
《行ってこい、コレの面倒を見ておいてやる》
「では、宜しくお願いしますね」
どうして俺と2人きりなのかは、何となくは分かるが。
《どうしてだ》
《信頼と機会の問題だな、だがネネが許した、ゆっくり話し合おうか》
《何をだ》
《1つ、ココにも兄が居る事は知っているか》
《あぁ》
《あの背に居る、ネネは気付いていないが、守護神となったモノが居る》
《は?》
《風習が違えば意図せず婚約を受ける事になる、アレは通い婚の果てに勝手に結ばれた、我々が居ぬ間にな》
《アイツ、何を》
《告げずに成る事が出来る、だが、もう触れる事も叶わず意思疎通は不可能だ》
《良く有る事なのか》
《いや、そう覚悟が出来る者はそう居ない、どれだけ長く生きようともな》
《アンタは》
《お前の10倍は生きているが、そうなったモノを見たのは僅か。もしかすれば、触れ合う事が無かったからこそ、かも知れんな》
《どうして、俺に》
《女王は気付いているだろう、だがお前には気付く事すら出来無い。触れねばアレは存在を示さない、示せない、こうして伝える事が庭を共にする我々の使命だと思っている》
《庭》
《魔獣を得る気は無いのだな》
《無い、俺に力を得る資格は》
《重荷か、力には義務が伴う、ネネの事も重なり余裕が無いのだろう》
《あぁ》
《だが、ココでは持たない事の方が遥かに不自然だ。幼き頃より親しいモノに、安らかなる死、安らかなる家庭を齎すのが我々魔獣。確かにお前には女王が居るが、お前こそが、独り立ちすべきだとは思わないか》
尤もだ。
ヒナに守られ、死すらそう恐れてもいない。
頼っているつもりは無かったが、アレが有ったしな。
《ご尤も》
《自らの力で生きてきた自負が有るのだろう、だが、ココではそれは不自然な事。人種は単独では生きられない、群れ、仲間と共に生きている。きっと、悪魔も精霊も手を伸ばして欲しがっているだろう、それは他種属とて同じ事》
ココには妖精が居る、東の国には妖怪が居る。
精霊が居る、悪魔が居る、魔獣が居る。
《どうすれば》
《能力次第では、交わる必要が有るな》
交わる。
《まさか》
《主従関係が存在してる、我々から言う事は出来無い》
あの野郎。
《ちょっと、待っててくれ》
《あぁ、行ってこい》
何で、凄い怒りを向けられているんでしょうか。
《ネネ、ちょっと良いか》
「何で、怒ってらっしゃるのでしょうか」
『喧嘩は良くないです』
《大丈夫だ、喧嘩じゃない、ただ少し重要な話し合いが必要になった》
「何ですか」
《魔獣についてだ》
黒蛇さん、何を。
あぁ、優雅に手を振ってらっしゃいますが。
多分、能力を得る方法について、ですかね。
「あぁ、はい」
《すまん、少し借りるぞ》
『はい、穏便にお願いします』
《おう》
悪い事をしたつもりは無いんですが。
何でしょう、この圧力は。
兄弟に怒られると言うより、コレは最早。
親の圧。
「あの」
《何でアレとヤッた》
やっぱりコレか。
「身を守る為です」
《もっと他に》
「あのですね、アナタには私が居たりヒナちゃんが居ますが、私には誰も居なかったんですよ」
《それは》
「ココがどんな場所なのか、誰が味方で誰が本当の事を言っているのか、私には何も判断が出来無かった」
《だが》
「確かにユノちゃんは居ましたよ、でも、ユノちゃんは後から来て次が有った。私はココで生きる為に、出来るだけの事をしたんです、叱られる謂れは有りません」
《すまん、だが》
「私は後悔していません、例え記憶を失っても、また同じ条件なら同じ選択をします」
後悔はしていない。
けれど、ソレが回避出来る道が有ったか、何度も考えた。
でも、無かった。
信頼には基盤が必要となる、でも無かった。
0どころかマイナスだった。
《悪かった、ただ、もし》
「それは大丈夫です、ルーイ氏が手伝ってくれましたし、処女を捧げたワケでも無いですし」
《そうなのか》
「まぁ、男で男を受け入れたので、処女と言えば処女を捧げましたが」
《は?》
「本当に大変でしたからオススメはしません」
《は?》
「え?」
《いや、てっきり》
「な、そんな女だと思ってたんですか」
《いや、その発想は無かったんで、すまん》
「だってイヌ科と蛇ですよ、熟考した上の適切な判断だと思ってます、間違っても妊娠は困りますから」
《悪かった、本当にお前は賢い姪だ》
「はい、勿論。ただ、ユノちゃんにも驚かれたのは意外でした」
《そら驚くだろ》
「ですけど、女のままで3人の相手は無茶では?」
《3人?》
「蛇とキツネと妖精です」
《妖精はどうした》
「自立しました」
《は?》
「本当に、無知過ぎでは」
《すまん、勉強する》
「ヒナちゃんが居るから心配無いとは思いますが、寧ろヒナちゃんの為にも、多少は何か能力を得るべきでは?」
《蛇にも、言われた》
「あぁ、優しいですからね、黒蛇さん。何人も看取ったんですよ、ずっと、そう生きてきたんです」
《そうか》
「罪の事は置いといて下さい、怖いなら無害そうなのでも良いんですから、良く考えてみて下さい」
《分かった》
「素直」
《悪かった、ただ信頼して無いワケじゃない、心配と苛立ちだった》
本当に、年の近い叔父さんだ。
そりゃ怒りますよね。
姪が無謀な事をしたかも知れないと思ったら、あの圧も出る。
「安心して下さい、そこまで子供では有りませんよ、叔父さん」