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12 特別授業2。

 今日はネネさん達は特別授業、実際の地獄の見学の感想等を話し合う日なので。

 私は鎌倉蛮族についての授業です。


《はい、では先ず一揆から、ですね》

『はい』


 先生はいつもの先生と違う男の先生、東の国から来て貰った日本史と世界史の先生です。


 ココに今の所は飢饉が無いので、一揆も無い、そしてこの先も起こらないそうです。

 何故なら、向こうとは違い既に法整備がしっかりしているから、だそうです。


《法整備で何とかなるのか、その一例がコチラです》


 出た、鎌倉幕府、それと御成敗式目。

 ネネさんが言ってました、この時の法整備の稚拙さこそ、蛮族していた証だと。


『コレが、当時の法律ですか』

《はい》


 確かに、当たり前過ぎて驚きです。




「確かに、驚きでしたね」

『はい、蛮族呼びも納得です』

《当時の他国も、この程度ですから、一周回って蛮族とは言い難いですけれどね》


『あぁ』

《ですが、非常に珍しい重装弓騎兵が居た事は、他国とは圧倒的に差が有りますね》


『重装弓騎兵』

《本来、弓兵の殆どが軽装です、それは馬に乗るなら特に。ですが重装弓騎兵、重い鎧を身に付け弓や太刀を担ぎ、馬に乗り暴れ回る》


『強そう』

《はい、そこが問題です。では何故、鎌倉蛮族との名称が出来上がったのか、ご紹介致しましょう》


 防衛に関する行為は協力し、巨大な堀も作り上げるが。


 敵が人質を盾にしていようとも、問答無用で弓で射る。

 そしてそれを考慮し、今度はコチラが人質を盾にし斬り込む。


 だが戦意を削ぐ為に大将首を掲げたが、逆効果となり、我先にと特攻を仕掛けられる。

 更には常に夜襲を仕掛け、遺体や汚物を投げ付ける。


 と言った、創作話が信じられたからこそ、だと。


『創作なんですね』

《ですが実際に他国との戦に勝ち、それだけの装備を持っており、御成敗式目が存在する事は事実。そして矢に便を塗る戦術は、前後の歴史において存在する。ですので、そう信じられてしまっても無理は無い、と言う事ですね》


『残念です、凄いのに』


《ココからは、悪魔の証明となります、悪魔の証明は分かっていらっしゃいますね》

『はい、存在しない証拠の呈示や、無い事を証明するのが悪魔の証明です』


《はい、その通り。文献には確かに存在しませんが、絶対に居なかった証明も出来ません。ですがココで疑問に思われるでしょう、居たならば何故、文献には残っていないのか》


『はい、ですね』

《では執事君、お答えをどうぞ》


「あ、はい」


 あまりの事に口を噤んでしまった。

 本人から口止めをされたか、若しくは上の者に口止めされたか。


 そもそも文献が焼失したか。

 本当に存在しなかったか。


 若しくは、当たり前過ぎたか。


《はい、正解です》

『あ、暗黙の了解を暗黙の了解のままにしたんですね』


《かも、知れませんね》


 確かに、戦術書の手引きにコレが書かれていては、情報漏洩の際には対策をされてしまう。

 こうした事は、心構えの無い中で行われてこそ、功を奏する筈。


 対外的には存在しない、その方が良い時代も有ったのでしょうね。




「実に勉強になりました、ありがとうございます」

『どの条項が気になりましたか、私はやはり13条と28条です』


「暴力は恨みを買う、偽りの訴えをしてはならない、ですかね」

『はい、向こうの子供でも分かる事です、流石に私でもそう分かるのに。大人用なんですよ、コレ』


「全ては教育、文字かと」

『それとやっぱり力です、鎮圧出来無いと机上の空論になります、力と文字。ネネさん、不便で大変そうですね』


 私は何処の国の文字も読めます。

 上手には書けませんが、何処の文字も書けるし読める、学校に行って無いのに。


 お勉強、してみたかったんです。

 文字のお勉強、でも、不要なんです。


「では、お教えになっては?」


『私が』

「はい」


『でも、書くのは』

「ヒナ様が読み聞かせをなさるのはどうでしょうか」


『読み聞かせ、した事無いです』

「では練習してみますか」


『はい!』


 そうして練習してみたんですが。

 私は不器用なのか、その国の言葉で読んでしまうのです。


 日本語に直して読む、が、凄く難しい。


「僕もですよ、自分の考えはこうして言葉に出来ますけど、文字を追いながらは慣れが必要かと」


 もしネネさんが喜んでくれたら、先代もきっと喜んでくれる筈です。

 うん、練習します。


『うん、はい、練習します』





 軽い休憩を終えて、次はもう1つの地獄について。

 って言うかネネちゃん、地獄が合うのか耐性が有るのか、私が休憩してる一瞬のウチに地獄巡りを終えてて。


 休憩前に、そこで初めて説明を聞いてたんだけど。

 うん、私に地獄は合わない。


《では、地獄の門まで戻ったと思いますが、如何でしたか》

「煉獄と辺獄が入り混じってるとは思いませんでした」

《ダブって見えてたから目が悪くなった感じだったよねぇ》


「なんなら酔いそうになりましたしね」


 地獄の門の先は、更に薄暗い森で、辺獄と煉獄が折り重なった異空間。

 改宗して無いってだけで全裸で蜂とかアブに刺される場所、けどダンテさんの願いだって事で、ココではあまりネネちゃんは不満は言わなかった。


 けど私は逆に凄く不愉快だった。


 だって向こうの地獄にはそんなの無いんだもん。

 確かにコッチ用に改良してるけど、結局は害した者が基準だし。


 いや、分かるよ。


《分かるんだけど、コッチの方がよっぽど理不尽で不条理だなって思った》


 ソレしか知らないで、ソレこそ正義だって教育されての事。

 って言うのは分かるんだけど。


「ソレを、ほら最高だろ、優秀だろって流布した方へ不快感なら、私にも有りますけどね」

《あー、ソレかも》


 自国アゲ、他国サゲって。

 諍いを起こすだけで、何の意味も無いと思うんだけどね。


「私も嫌いですよ、国を思ってキツい事を言ってる系の、自称愛国者風の人気取りの方」

《あー、近いかも、ソレ》


 影響力が有るって自覚してて、厳しく言う位なら、国政に出れば良いのにって思っちゃう。


「国に関わってらして、結構大変な方だったそうですよ、ダンテさん」

《へー、だからかも?》

《因みに、三途の川に相当するアケーロン川は、ギリシャ神話のカロンが死者の魂を冥界のハデスへ渡す為の川。ステュクス川の支流、とされています》


《あぁ、ギリシャ神話からなんですね、成程》


 何か、都合が良いなって思っちゃう。

 他の事は否定したり拒絶するのに、って。




「まぁ、船は貸し切りでしたし、私達には優しい船頭さんでしたし」

《居る方達はね、良いんだけどさぁ》


 相当、ユノちゃんの琴線に触れたらしく。

 次の地獄に行くまで、フクラガエルだった。


 そして船頭のカロンさんは、神様では無かった。

 役職名がカロン、だそうで日替わりで獄卒の方がこなしており、以前は辺獄が川を越えた先に有ったのだと教えてくれた。


 けれど辺獄は、洗礼を受けずに亡くなった程度で地獄に近い場所に落とされる事を良しとしなかった誰かが。

 三途の川の前、地獄の前庭に場所を移したらしい。


 まぁ、その事もユノちゃんをフクラガエルにする要因となった。


 そして川を渡った先には、巨大なミノス王の石像が玉座に座っており。

 体から生えているのか、無数の長い尾が亡者に巻き付き、その巻き付き方により何処の地獄へ行くのかが判定されていた。


 尾が3周していれば、第3の地獄。

 そして9周巻き付いていれば、第9の地獄へ。


 そうして駒の様に放たれると、真ん中に大きく空いた穴へと回転しながら飛ばされ、竹とんぼの様に落ちて行った。


 少しだけ。

 ほんの少しだけ、面白そうだと思ってしまったのは内緒だ。

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