125 叔父と姪。
「あの」
《お前はあんなに性格が悪いヤツで、本当に良いのか》
「と、申しますと」
《ルーイに会った、精霊に連れられてな》
「あ、そうでしたか」
《何でアレだ、なら俺でも良いだろ》
「いや、顔と年齢、ですかね」
《ならレオンハルトだけで良いだろうが》
「アレでも男臭いギリギリなんですよ、それにどちらかだけだと、私が負けます」
《全く分からない》
「私も、以前は複数だなんて全く分からなかったんですが、独特のバランスが存在するんですよ」
《どちらかだけだと、逆にダメなのか》
「ダメと言うか、私が、押し負けます」
《はぁ》
「いや、他にもですよ、均衡を保てるんですよ。過不足無く維持し、制御するにも、アレが適切なんです」
《惚れ込み過ぎるのが怖いか》
「まぁ、それに加減もです、また図に乗られたら本気で殺したくなるので。安心して一緒に居られるのが、アレ、かなと」
《だけか》
「庶民は、ちょっと、無理ですね」
《まぁ、だろうな、程度が低いのは何処までも低いしな》
「けど地位で選びたくは無いですし、かと言って地位を下げても欲しくない」
《で貴族位を受け取らされた》
「出来るなら、中流家庭が良かったんですけど、事が事なので」
《全部無しに出来たら、どうする》
「正直、面倒です、また知り合って探り合うとか超面倒です」
《干物女》
「更年期オジサン」
《お、また泣くぞ》
「何で泣いてたか教えて頂けますか」
《腹違いの妹も、弟も結婚した、だから姪や甥にも恵まれた。理解されてても、腫れ物扱いだった。そんな中でお前達の事を考えてた、姪なら、子供ならどうするべきか》
「私なら、やっぱり背中を押してます。無責任にも、年下として、姪として」
《だよな、そう改めて考えると、情けなくなったんだ》
レンズは嘘を言っています。
でも、ネネさんは気付いてません。
「でも、責めません、向こうの私なら」
《けど、コッチの姪だもんな》
「まだ良く分かってませんから」
《だな、示さなきゃ分かって貰えないしな》
『レンズと一緒にウ〇コします』
《出ないけど付き添う》
『はい、宜しくどうぞ』
どうしてか、ヒナに嘘が分かる時と分からない時が有るんだが。
多分、精霊の匙加減なんだろうな。
《どうした》
『どうして嘘を言いましたか』
《俺はネネの事が好きだ、けど言うつもりも無い、叶える気も無い》
『何故ですか』
《ネネの為だ、どう考えても、今はネネを幸せに出来る道筋が見出せない》
『見出せたら言いますか』
《時と事情によるな、どっちがネネの幸せになるか、次第だな》
『レンズでは幸せに出来ませんか』
《今はな、王子様に選択肢を与えられてるが、かなり複雑で時間が掛かる》
『好きは悲しいですか』
《獣と魔獣は読んだか》
『はい、虎も人種も悲しんでいました』
《黒豹も、悲しかったから奪おうとした、櫛なんか口実だ》
『ネネさんが悲しんだら奪いますか』
難しい事を。
《それも、時と事情による》
『悲しいと好きは一心同体ですか』
《だな、表裏一体、切り離せない。死なれたら悲しいだろ、好きなら尚更、興味が無いなら死のうが何だろうがどうだって良い》
『虎は好きだったのでしょうか』
《虎なりに、獣なりに愛してた、けど人種や魔獣にはなれなかった》
俺の様に、拘っていたから。
『何で溜め息ですか』
《俺の力だけで、ネネを幸せにしたかった》
『向こうでは無理でしたか』
《探さなかった、希望を折られたく無くて、何も調べなかった》
本当に居ると知ったら、会いたくなる。
そうして会えば、絶対に触れたくなる。
他が疎かになる。
だから、何もしなかった。
『言いません、ネネさんなら怒ります、悲しみます』
《あぁ、アイツにウ〇コさせんのは、日に3回までにしよう》
『はい、分かりました』
今でさえ無理なんだ。
やっぱり向こうでも、ネネに会わない事が正解だったんだ。
「スッキリしましたか」
『はい、けどレンズはまだまだです』
《見てきたかの様に言うな》
「チョコレートアイスでも食べに行きましょうか」
《この流れでか》
『ロッキーロードを食べに行きます』
《ヒナまで》
『ナッツとマシュマロが美味しいです』
《本当にな、あの相反するのが良い》
「抹茶、流行らせては如何ですか」
《あぁ、そう言えば無いな》
「まぁ、紅茶戦争と同じく、そうした事が起きない様に封殺しているんだそうです」
《成程な》
「それに外貨を必要としていないんですよね、もう全部有るんですよ、魔改造や自家製で何とかなってしまう」
《いつか行ってみるか》
『はい』
「では、アイス屋さんに行きましょうか」
《おう》
『おー』
僕こそ、ヒナ様に必要なんでしょうか。
いつか、僕の事が要らなくなってしまうかも知れない。
喜ぶべき事なのに、僕は何故、どうして喜べないんでしょうか。
《どうした》
執事君が尋ねて来るのは、アレ以来か。
「僕は、ヒナ様が成長しては、不必要とされるかも知れません」
《本当に、どうした》
「成長を喜ぶべき筈が、僕が要らなくなる事を喜べません。だから、僕は成長して頂きたく無いのでしょうか」
《獣と魔獣を読んだのか》
「僕が虎なら尽くします、けれど、もし足りないなら然るべき方にお渡しするべきです。なのに僕は、虎の様に、喜んで譲る事が出来無いかも知れません。僕には何が足りないんでしょうか」
困った、女に泣かれるより困る。
《足りないんじゃない、少し認識の外に有るだけだ》
「アナタの問題に、僕は何も出来なかった。この先、ヒナ様が困っても僕は」
《出来る、教える、悲観するな。今直ぐに出来無くても良い、だから焦るな、認識出来る様にする》
「ですが、教えるより」
《ネネも言ってただろ、知り合うのは意外に疲れる。今のお前で良い、大丈夫だ、ヒナにはお前が必要だ》
困った。
予想外の場所が、予想外に爆発した。
しかも何の予兆も無しに。
どうする。
誰が最も適切だ。
俺か。
「すみません」
《いや、アズール、もっと読め。お前なら自分でその何かが分かる筈だ、だから似た物を沢山借りて読め、いや俺が選ぶから読め》
「それで、分かるのでしょうか」
《弟も甥も居た、分かる、俺に任せろ》
「はい、宜しく、お願いします」
コレは絶対に良い兆候だ。
間違えない、間違えさせない。
次こそは、絶対に。
《成程ね、けど焦りは禁物、何度も何度も読み返すのも読書》
《で、1冊だけか》
《だってもう、ショックを受けてるんでしょ?なら柔らかくて、ゆっくり染み込むのが良いって》
《そうか、ありがとう》
執事君に効果が有るって事は、レンズにも効果が有るって事よね。
大丈夫かな。
《余計な事を言う気は無いけど、思うだけなら、別に良いんじゃない?》
《お子様め、じゃあ試しに思うだけで触れずに居てみろ》
《ごめん、でも》
《一応、新しい要素を教えられた、悔しいが考えはする》
《別にアナタに不幸になれ、だなんて思って無いんだからね?》
《分かってる》
真剣に読んでるけど。
本当に大丈夫かな。
《ブラコン》
《引き籠り》
《大丈夫?》
《一緒に居なければ、そう辛くも無い》
一緒に居るのに辛いって。
お父さんも、そうなのかな。
どうにもならないし、任せるしか無いのは分かるけど。
辛いな。
辛い事、どうにかならないかな。
《私は、どうすれば良いと思う?》
《自分の立場に置き換えて、どうして欲しいか言ってみたら良いんじゃないか》
《まだ、全部分かって無いのに?》
《それも込みで言ってみろ、全部、惜しんだ方が失敗する。信じてるなら言った方が良い、知らなくても間違いじゃない事も有る、後は結果が受け入れられるかどうかだ》
《結果》
《1回言った程度で気が変わる相手か、1回で自分が全て誤解無く伝えられるか、何度でも伝えられる気力が有るかだ。1回で全て終わらせたいなら止めとけ、まだ材料や気力が足りない、中途半端になりそうなら止めとけ》
お母さんに、お父さんの事を信じて欲しい。
受け入れて欲しい。
仲良くして欲しい。
幸せになって欲しい。
でも、お母さんが拒絶するのも分かる。
だって、私が裏切られたら。
やっぱり私だって逃げる。
でも。
《でもでもだって》
《なら止めとけ、中途半端な言葉は傷付けるだけだ、多少我慢しても死なないだろ》
我慢出来るギリギリまで。
言葉をいっぱい溜め込んで、整理して。
そしたら何か、分かるかも知れないし。
それこそ良い言葉が思い浮かぶかも知れないし。
《うん、そうしとく》