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124 精霊とレンズ。

『誤解だ』


 泣いてぐしゃぐしゃになっている俺の頭上で、声がした。


《精霊さん、何の事だ》


『全て本当だ、だが償う機会と知識を与えただけだ、我々にココまでの苦しみを与えるつもりは一切無い』


《そうか》

『お前に資格は有る、償い知識を得た、以前のお前とは違う』


《そんな程度で言えるワケ無いだろ、格が違う、本当に生きる世界が違うんだ》


 出来るなら、よりココを知っている者の方が良い。

 地位も富も有る、曇りの無い経歴とネネが好む容姿。


 優しく賢く、ネネを愛せる相手。

 悲しませず、守れる相手。


「そこまで卑下されなくとも」

《俺に出来る事は限られてる、何十年も向こうで考えた》


 けど、権力も地位も、それを得られる何かも無い。

 しかも、既に形になっている関係に割って入れば、いずれ誰かが不幸になる。


 だから諦めた。


 諦めたのに、もしもを考えてしまう。

 もしも知り合いだったら、もしも傍に居てくれたら、もしも結婚出来ていたら。


 途中で諦めた事が、頭の中で勝手に進む。

 もしも傍に居てくれたら、きっと背中を押してくれただろう、もっと何かを知る事が出来ただろう。


 けれど、俺は何を与えられる。


 向こうでもココでも、ネネが必要とする事を与えられるのは僅か。

 単に捕まらなかった犯罪者、王子様でも何でも無い。


 ましてや2人分なんて、どう足掻いたって無理だ。


『欲しければ与えてやる』


《はは、力が欲しいかってヤツな。けどソレ、俺のじゃないだろ、俺は俺の力だけで幸せにしたかった》


 けど無理なんだ。

 ネネの事を思うなら、俺は我を通すべきじゃない。


 世界を幸せにする遊園地を広めた偉大な来訪者。


 もし俺が親なら、兄弟なら。

 こんな男じゃなくて、王子様の方が良い。


『では確かめてみるが良い、ココの王子とやらを』




 目の前に現れたのは、ネネと同じ髪と目、肌の色を持つ男。


《君は、誰だろうか》


《レンズだ》

《あぁ、女王の兄》


 声だけは聞いた事が有るけれど。

 成程、どちらかと言えば僕よりレオンハルトに似ている。


《そう、会えて良かったよ、相変わらず弱っていそうだけれどね》


《ルーイ王子か、世話になった》


 ネネから聞くに、相当に気が強い男の筈が。

 どうした事だろうか。


《また、何か有ったのかな》


《ネネの事だ》


 叔父だとは聞いている。

 けれど、どうしても名を呼ばれると、コレは嫉妬なんだろうか。


《そう》


《何十年、向こうで考えてきた、思ってきた。けれど俺は人種だ、しかも平凡で凡庸な単なる人種、何も勝てない。だからアンタに譲る、けど忘れるな、俺はネネの近くに居る事を》


 コレは敗北宣言でありながら、宣戦布告。

 だからなのか、どうしてか怒りが湧く。


《なら、君も魔獣にでもなれば良いんじゃないかな》

《そんなの俺じゃない、違う何かが入るも同然だ、純粋な人種じゃないアンタには分からないか》


 あぁ、本当に気が強い。


《そうだね、そんな些末な事を気にして大きな機会を逃している君には、全く分からないだろうね》

《アンタには些末な事でも、ネネにはどうだろうか、その魔獣化はネネが願った事なのか?》


 うん、僕は彼が大嫌いだ。


《ネネが願った事だけが幸福に繋がるワケじゃない、先回りも愛しているからこそ、それに待つ事もね》

《待てる程度か、何だ、力んで損した》


《事情を知らない君には》

《アンタ王子様なんだろ、法でも何でも捻じ曲げれば良い》


《分かって無いね君は、そんな事をしてネネが》

《魔獣化と同じだろ、必死になって狂って、ネネに選択肢を与えなかった。違うか》


《いや、ネネは断れた》

《そっちこそ、何も分かって無いんじゃないか、ネネがどれだけ優しいか》


《分かっているよ、だから君を叔父とした、もう揺らがない地位だね》


《どうだろうな、俺には悪魔の女王が付いてる、記憶を消すなんて容易いぞ》


《そんな事をすれば》

《先回りだ、アンタみたいな性悪で捻じれた王子様より、俺の方が幸せにしてやれる》


 あぁ、本当に大嫌いだ。


《僕は魔獣だ、嘘なんて簡単に見破れるんだよ》


《はぁ、やっぱりアンタは嫌いだ》

《そうだね、僕もだよ》




 ルーイに呼び出され、部屋に来たんだが。


『彼は』

《あぁ、レンズだよ、女王の兄》

《それにネネの叔父だ》


《彼はレオンハルト、僕の側近でもう1人のネネの相手》

《あぁ、アイツ本当に面食いだな》


《しかも僕とは違う方向性だからね》

《声が良いな》


『あぁ、どうも』


 一体、どうなっているんだろうか。


《真面目で誠実で律儀、けれど稀に、僕より手を出すのが早かったりする》

『アレは』

《まだ清い身なんだろうな、違うならヒナに言って捥ぎ取るぞ》


『未だ、ですが』

《そうか、なら良い》

《ふふふ、僕が我慢してたのに、ネネに唾を付けた罰だよ》


《見かけ通りの肉食かよ》

《実はそうでも無いんだ、この年まで逃げ回っていたから、僕と共にネネを試す材料にさせられた》


《叔父としてはぶん殴ってやりたいが、ネネの何が良い》


『全てですが』

《詳しく言え》

《さもないと、女王の力で記憶を消させられちゃうよ》


『匂いも優しさも強さも、全てです。非の打ち所も無く、俺にとって完璧な女性です、寧ろ俺には勿体無いとすら思っています』


《けど、引かないんだろ》

『尽くしたいと思う女性はネネだけです、他は必要無い、比べるまでも無く彼女しか居ないんです』


《遊園地が無くてもか》

『はい、才能を愛したワケでは有りません、なら俺達が養うだけで十分ですから』

《本当なら、寧ろその方が良かった。ネネには地位が与えられた、富も名声も、手に入らないモノはもう殆ど無い》


《分かってはいたが、そこまでか》

《そうだよ、だから僕らも悪戦苦闘してる。なのに、香水を贈ろうだなんて、本当に意地が悪いね》


《いや、アレは》

《冗談だよ、女王だろう。でも、だからこそ、少し考えれば止めた方が良いと分かった筈だ》


《未だなのは、正直驚きだった》

《まぁ、僕らも初動が遅かったからね、血税だろと言われ贈れずに居たんだ》


《あぁ》


《悔しいよ、折角なら何処かの王族の養子にしてしまおうか、それなら対等に戦える》

《いや、それも結局は俺の力じゃない、受け取れない》


《なら、僕らの立場で次は考えてみてよ、実はさして差異は無い。有るのはほんの僅かな時間と場所の差、ただそれだけだよ》


《断る、もう十分に考えた》

《つまりは未だ考えて無かった道、なら考える筈だ、勝手にね》


《お前は本当に性格が悪い》

《ネネにも良く言われるよ、レオンハルト、送ってあげて》

『あ、はい』


《じゃあな》

《またね》


《はいはい》


 一体、何なんだろうか、コレは。




《君は、本当に不器用だね》


『我々は、失敗だとは思っていない』

《だろうね、スズランの姫が得られる幸福の量に、確かに違いは出る》


『だが幸福とは必ずしも量では推し量る事は出来無い』

《けれど質が良いだけでも、真の幸福とは限らない、花火の様に短い幸福は惨めさを呼ぶ》


『間違いかどうかは、人種が決める事』

《そうだね、正解も不正解も、決めるのは人種》


『あぁ、我々は介入出来無い』


《けれど、後悔しているからこそ。また、姿を消しても聞いているのは分かっているのに、ね》


 後悔しているからこそ、王子様達に引き合わせた。

 分かっていたのに、機会を与えた。


 結末を分かっていながらも、手を差し伸べた。


 僕ら悪魔としては、精霊の方が遥かに複雑さを持っていると思う。

 けれど精霊にしてみれば、僕らの方が遥かに複雑らしい。

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