121 魔女と悪魔。
魔女は愛想が良く、特に高位の者に気に入られる事が有る。
そして他とは違い、幾ばくか目立つ何かを持ち。
この世界に、大いなる混乱を齎そうとする。
だが魔女自身は、平和を齎そうと動き、誤解だと嘆く事が多い。
根から悪人は少なく、善行と思い悪行を行う。
見慣れぬ者に警戒せよ。
不自然な者に警戒せよ。
例え女であろうとも。
例え幼い男児であろうとも。
注意せよ。
警戒せよ。
もしかすれば、その者は魔女かも知れないのだから。
《やっぱり怖いねー》
『でも気を付ければ良いんだよー』
「そうですわね、過度に恐れず気を付ける、それこそが警戒ですもの」
『はい、警戒しろです、怯ろでは有りません』
「ですわね、怯え、恐れては付け入られてしまいますもの」
《そっかー、じゃあ一緒に帰ろー》
「うん、一緒に帰ろー」
警報が出ました。
監督所から逃げ出した人種が居るからです。
『ヴァイオレット、お迎えは来ますね』
「はい、勿論ですわ」
今日はレンズが迎えに来る予定ですが。
ずっと物陰に隠れています、何故でしょうか。
「お嬢さん、近くに病院は無いかね」
頭に黒い星の付いたお爺さん。
コレが逃げ出した人種ですか。
『ご案内します』
「あぁ、助かるよ、すまないね」
レンズから聞いています。
悪人は様々な外見をしていると。
顔見知りだろうと初めて見たモノであろうと、1人で居る時は全てを疑え、と。
『ココです』
「そうかそうか、助かるよ、お礼をあげるからコッチにおいで」
私が案内したのは歯医者です、字が読めないのでしょうか。
『歯医者で良かったですか』
「あぁ、勿論。さ、おいで」
レンズから男が屈んで腹を擦っていたら逃げろと言われていますが、私は逃げません。
私は強いですから。
『私は防犯用にと、こんなモノを貰いました』
鞭の先が高熱を発しながら高速振動をしている、防犯用の鞭です。
「んー、それは何、か、あれ」
先ずは逃げられ無い様に、膝から下を切断しました。
『防犯用の鞭です、焼き切れる仕様です、膝下を切断しました』
「あ、あひっ」
『次は腕です、動かないで下さい、失敗して殺すと蘇生の手間が増えてしまいます』
「ひっ、たす、助けっ」
『あ、動かないで下さい、余計な場所まで傷付けてしまいます』
耳を切ってしまいました。
初めての失敗です。
「頼む、助けてくれ、悪かった」
『話は後です、無力化が先です』
足は一刀両断出来ましたが、腕は暴れるので2回に分けました。
「う、腕がっ、足が」
『はい、切断しました』
「なん、何で、まだ」
《まだ、な》
『レンズ、何で黙って見てましたか』
《いや、どうするかと思ってな、凄いなソレ》
『貰いました』
《成程。で、何をしようとしてたんだ》
「たす、助けてくれ、悪かった」
『コレは拷問にも使えるそうです、本当の事を言うまで少しずつ体を削り取ります。耳が良いですか、鼻が良いですか』
《出来るのか》
『はい、練習しました、でも動かれたので失敗しました』
《まぁ、アレ位は誤差だろう、ヤれ》
『はい』
「待った!何でも話す、だから」
《よし待て、で、何をしようとしてた》
「お、俺はただ」
耳を塞がれ下を向かされました、コレでは読唇術が使えません。
『何でですか』
《後で説明する、失神させる道具は有るか》
『はい、どうぞ』
《おう、どうも》
レンズに棒のスタンガンを渡したのですが、使ったらレンズも倒れてしまいました。
『シトリー』
《はい、魔力を一気に持っていかれたのでしょう、無制限型のスタンガンですから》
『そうですか、2人をお願いします』
《はい》
シトリーがポケットからベルトの様な何かを出しました。
『それは何ですか』
《リードを付けるベルト、ハーネスです、このまま引きずりますから》
『レンズに使いますか』
《いえいえ、コレはコッチ用です》
そう言ってシトリーが老人の体にハーネスを付け、手足を隙間に入れました。
ピッタリです。
そしてリードを付けて、レンズを肩に担いで歩き出しました。
後でレンズにスタンガンの使い方を教えようと思いました。
《ヒナ》
『レンズが倒れるとは思いませんでした』
《コチラ、アナタ用に用意させました。どうやら一気に魔力を放出し、軽いショック状態でしたが無事ですよ》
棒型のスタンガン。
そうか、コレで俺まで気絶したのか。
『レンズが制限出来無いとは思ってもいませんでした』
全く反省している様には見えないが。
いや、どうミスをしたかは分かってるんだ、しかも時間が経って叱るのもな。
《まぁ、使い方を聞かなかった俺も悪かった》
《いえいえ、お互い様と言う事で、コチラお詫びの品です》
《何だ、コレは》
『ハーネスです、次はリードを付けて引きずって持って行きます』
《手錠みたいなモノですね》
《はぁ、あ、アレは》
《もう既に拷問中です、見学しに行かれますか》
『ヒナは未だ見れないと言われました』
未だ。
《そうか、じゃあ確認しに行ってみる》
『はい、宜しくお願いします』
まぁ、まだ起きたばかりで何も考えて無かった俺も悪いが。
本当に、グロいとしか言いようが無かった。
「た、頼む」
《止めろと言われて止めた事が有りましたか?無いですよねぇ、分かりましたかねぇ、如何に嫌がっていたか》
横に居る筈のシトリーが、ガラス越しの拷問部屋の中にも居た。
「分かった、分かった、だから」
《でも、止めるワケが無いじゃないですか、アナタだって止めなかったんですから》
「ひっ、やめ、止めてくれぇえええええ!!」
老人に、どう見えてるか分からないが。
嫌悪と恐怖が全身から溢れている様な。
まるで汚物に虐げられている様な表情と、絶叫だった。
《アレにアンタはどう見えてるんだ》
《アレはマルバスの力です。最も嫌悪し、最も恐怖する姿、ですね》
どうやら、コチラの部屋に居る者がマルバスらしい。
《協力するもんなんだな》
《勿論。マルバス、ご挨拶を》
『マルバス、天使名Mahasiahだ。アレに俺は全く興味が無いが、頼まれ事は別だ』
《支配的であり影響力の大きい、地位の高い高貴なモノを愛する悪魔、ですからね》
『アレはその真逆だ、寧ろ、だからこそ興味が無いとも言えるがな』
濃い金髪を、適度な緩さでオールバックにした男臭い男。
もしコレに俺がアレをされていたら、間違い無く嫌悪と恐怖から失神しそうだが。
きっと、ソレ以上を見せられているんだろうな、アレは。
《あぁ、試しに見せて差し上げては》
『あぁ、そうだな』
悪魔は想像を遥かに超える。
暫く悪夢を見そうだ。
『どうでしたか』
《安請け合いをした、俺まで暫く悪夢を見そうだ》
《それはいけない、はい、忘れましょう》
拷問官の資質が有る人種は稀、ですからね。
《はぁ、助かった》
《いえいえ》
『そんなに嫌悪が出る拷問でしたか』
《あぁ、俺が思うに、最も嫌悪と恐怖が強い拷問だろうな》
《はい、だからこそのアレ、ですから》
サイコパスやソシオパスが向こうでは嫌われていますが、適材適所だと思いますよ。
何事も制御すれば良いだけですし、共感能力が無いと言う事はつまり、拷問官に最適。
となると、どうしても人手が足りなくなってしまうのですが。
あの鋸球体のお陰で、今日も悪魔には自由が有る。
ですが。
『ありがとうございましたシトリー』
《助かった》
《いえいえ、では、失礼致します》
私としましては、やはりこうして直に拷問出来る方が良い。
「ひっ、もう、勘弁してくれ」
《ダメですよ、そう言われても止めなかったんですから、絶対に止めませんよ》
私は軽率で嘘吐きで不誠実で、刹那的な快楽を求めるモノが大嫌いで、大好きなんです。
そう、折角こうして出会えたのですから。
魂が燃え尽きるその時まで。
いえ、私が飽きるまで、永遠に遊び倒させて頂きますよ。
だって、アナタもそうしていたんですから。
「頼む、頼む!!」
《いいえ、ダメですよ、自業自得で因果応報。ココは地獄、被害者の為の地獄なんですから》
悪魔は人の鏡。
我々はアナタ方の鏡に過ぎない。
もし嫌なら、しなければ良いんですよ。
しなければ、私がこんな事をする興味すら湧かなかったのですから。
さぁ、始めましょうね。
本当の地獄までの道案内ですよ。