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118 調香師とネネ。

《作った事有るか》

「いえ、こんな完全フルカスタムオーダーメイドなんて、流石にそこまで上流じゃないですから」

『そうなんだ、光栄だな』


「あの、どんな、匂いが」

『水、それと少し静電気の匂いがする、何だろう』


「あぁ、多分守護を得ているから、かと。東の国で兄が出来たので、水に困らない、らしいです」

『そう、ならもう少し良いかな』


「はぃ」


 恥ずかしいよな、分かる。


『うん、犬と水、水とイオン。静電気とか空気清浄機って言えば分かるかな』

「あぁ、はい、何となく分かります」

《犬》


『犬との相性が良い匂い、だね、犬と生きてきた遺伝子の匂い』

「成程、飼った事無いですけど」


『どうして?』

「父が医師で、しかもアレルギーなので」


『あぁ』

『水に匂いがしますか』


『うん、コレは嗅ぐモノ其々で印象が変わるんだけど、基本的には舐められる。僕も水と木の実なんだ』


「美味しそう」

『その通り、生きる糧としてはどちらも大切なんだけど、だからこそ当たり前に存在していると蔑ろにされ易い』


「当たり前に有るから」

『けれど木や土に属するモノには貴重だと分かる、そして海や潮風に至っては、似て非なる全く別の生き物に見える』


「あぁ」

『けど、砂浜や浜辺には分かる、それが如何に重要か。けれどスパイシーなモノには大して必要とは思われない、水が少ない土地で育つからね』


「結構、理屈が有るんですね」

『匂いはフェロモン、それを際立たせたり抑える相性が有る、東洋の陰陽五行と似た様なモノだよ』


「博識でらっしゃる」

『どうも、頑張ってココで勉強したからね、僕も向こうの住民だったんだ』


「あぁ、にしても凄いです、私には専門知識と呼べるモノは」

『遊園地が有ります』


『遊園地、存在は知ってたけど、僕行った事が無いんだよね』

「あ、是非、完成の際は招待状をお送りしますので来て下さい」


『そんな、ちゃんと払って行くよ』

「いえ、代わりに感想を頂きたいんです。簡素なモノでも構いません、楽しかった事や足りない部分を補いたいんです」


『専門家だね』

「あ、いや、好きが高じて、でして。ですので、お願いします」


『じゃあ、受け取らせて貰うよ』

「はい、ありがとうございます」


 本当に、遊園地の事となると途端に人格が豹変すると言うか。

 嬉しそうに話すんだ。


 コレだと、相当に相手も気を揉んでるだろうな。


《顔が好みか》


「綺麗なお顔ですけど、見る用ですかね」

『率直な意見をありがとう、彼にも褒めて貰ったんだけれど、どうにも自覚が無くてね』

『悪魔が後見人だと良く有る事です』


「あぁ、確かに、分かります。アレは別格です」

『本当に、妖精種もね、人種の劣等感を感じた事も有ったよ』


「彼でコレです、アナタ良く平気ですね」

《個性だろ、寧ろ完璧さには窮屈さが同居するんだ、少し歪なのは寧ろ個性だろ》

『だね』


『少し太ってみたいと思います』


《急に、どうした》

『体験です、違う何かになって暫く入れ替えたクラスで過ごす行事が有ります』


《あぁ、そう言えば有ったな》

「何故、太る事にしたのでしょうか」

『プニプニの方が安心すると聞いたので、試してみたいと思いました』


「健康な範囲内だと安心ですが」

『はい、そうするつもりです』

《まぁ、成長してから体重を増減させるよりは良いだろ》


「無いとは思いますが、健康体重範囲内なら、好きな体型で生きる事は自由ですからね」

《何か言われたら俺に言うんだぞ、どんな事でもだ》

『はい、報告します、日誌にも書いて学校に提出します』


「面倒だと思ったら逃げ出す」

『はい、走って逃げます』


「宜しい、では後でお洋服を見に行きましょうか」

『はい』

『あぁ、調香は未だ先だから、もう行っても大丈夫だよ』


「私も、少しご相談が有るので、お願いしても宜しいですか」

『勿論』

《じゃあ、俺らは裏庭で休憩するか》

『はい、構いませんか』


『なら今日は君達のオススメを良いかな』

『行ってきます』

《おう、後でな》

「あ、はい、ありがとうございます」




 どうやらココでお茶をしてお昼寝する、そうしたルーティンが完成しているらしく。

 そこまで時間が経ってはいない筈なんですが、ヒナちゃんはレンズの腕の中で既に爆睡していました。


『ふふふ、今日は特に早いね』

《買い物を満喫したいんだろ》

「にしても、安心しきってますね」


 全身の脱力具合が可愛い。

 もう、マジでお人形。


《で、お相手用の香水か》

「流れ的には貰う予定でしょうから、拗ね防止の為です」

『妥当だね、向こうの女性が思う以上に、ココの男は嫉妬深いから』


「ですよね、何か、凄い。いや、理由は何となくは分かるんですが、何ですかねアレは」

『先ず、人口が向こうより少ないからね』


「ご存知でしたか、全人口、5億人ですよ」


《結構、少ないな》

『更には人種となると更に少ない』

「そこに人種好きとなると、更に少ないんですよ、ね」

「まぁ、はい。妖精種は妖精種を、魔獣種は魔獣種を、その傾向が存在していますから」


「約5000万人のウチ、更に自身と年齢が近く、人種を好く人種となるとかなり限られる」

《それこそ、人種に拘る必要は無いんじゃないか》


「そうです、そこです、何なんでしょう?」

『似た要素の多さだね、匂いが乖離し過ぎていても、似過ぎていても人種の血は忌避する傾向に有る』


「やはり遺伝子ですか」

『そうだね、逆に妖精種や精霊種は気にしないんだけど、人種の方が気にするんだ』


「選択肢が多いのに狭い、謎です、不思議です」


『もしかして番いの概念かな』

「あ、はい、そうです」


『アレはあくまでも1つの体系に沿った解説なだけ、僕ら調香師としては、遺伝子だけじゃないと言い切れるよ』


「あぁ、そうなんですね」

《何だその番いって》

『理屈抜きに惹かれるかどうか、遺伝的な相性が良いから惹かれる説、なんだけど。浮気の古典的な言い訳とも言われてる』


「やっぱり」

『けど実際に相性が悪いと、そうなる危険性は有る。結局は本能が警告を出し続ける事になるから、その不快感から逃げ出したくなる、例え理解していてもね』


「本能が強いなと思うんですけど、寧ろ向こうが抑え過ぎなんですよね」

『葛藤は操作するには便利だからね』

《しかも隙が有れば突ける、弱味を握れる、集団を管理するには楽だしな》


「そこ、それ以外で何とかなりそうですが」

《コレこそ低きに流れる、損を見誤った結果の氷河期、人手不足。どっちの姓を名乗るんだ》


「どうやら私のらしいです」

《凄いな》


「あ、ココのですからね、フォアマンかサリバン」

『作業長か黒、かな』

《あぁ》


「ですね」

《サリバンは分かるが、何か違うよな》


「そうなんですよ、コチラなりのイメージが有る」

《ならフォアマンか》


「それか、ノート、音の意味が有るので」

《書くのに楽そうだな》


「なんですよ、けどだからこそ反対されてるんですよ、偽造されても困るから」

《大変だなぁ》


「いやマジで悩んでるんですが」

《ノート一択だろ、根源に関わるんだ、サインは何とかしろ》


「本来なら、違う姓にする気で居たので、何だか少し不思議なんですよね」


《それ、どっちの意味でだ?》

「響きの方です、変わる前提で付けられたので」


《そうなのか》

「はい。ですが、もしかすればココで継ぐ事になるんですよね、少し形は違いますけど」

『折角の良い思い出が有るなら、残した方が良いと思いますよ、僕は縁を切りたくて全て変えましたから。僕は子供の頃に観光客を怪我させたんです、イスタンブールって分かりますか』


「あぁ、あー、経緯も何となく分かります。友人が嘆いていたと言うか、泣いて怒ったそうで」

『僕も、そんな相手だったら良かったんですけどね』

《けど刑期は終えて、相手は軽症だろ》


「なら気にしないで良いと思ってしまいますね、その関係者でも何でも無いですから」

『ありがとうございます』

《俺とは違って優しいな》


「それこそ子供のした事です、どれだけ就学歴が有るか分かりませんが、そうなる理由に納得がいく。アナタのはガチの悪用です、境遇で許されない範囲、私が被害者なら未だ許せませんから」


《なら、どうしたら許せる》

「マジで惚れてフラれて後悔の海で溺れる寸前になれば、まぁ、それを乗り越えて新しい家族を作った辺りで許しますね。自分の娘の心配でヒヤヒヤするが良い」


『ふふふ、ならまだまだだね』

《だな》

「あ、何かご存知なんですね、コレに好いてたのが居たって本当ですか」




 気付いて無いんだ。

 凄い。


 それだけ大切にしているし。

 鈍感さが功を奏してもいる。


『本当だよ、けどまだまだ、未練たっぷり』

「良い気味ですわ、ざまぁ見ろ」

《疑似被害者さんどうも、お陰で救われてるわ》


「はー、憎たらしい、この方の想い人の匂いもお願いします。いざという時に振り撒くか配り歩きます」

『ふふふ、承りました』

《承るのかよ》


『だって、後悔したいでしょ、罪を忘れたくない』


 断り辛い言い方をしたんだけど。

 本当に嫌らしい。


《後悔はしたい、けど本当に、勘弁して欲しい》

『拒絶しても良い事は無いよ、思い出は思い出に、消し去らない限り美化ばかりされていく。そして当初とは全く違う形になり、本来とはズレた後悔と執着になる。本当にそのまま残したいなら、綺麗な思い出として残した方が良い』


《箱に、余裕が出来るんだろうか》

『それは君次第、けど保存剤になる、変形する劣化は防げるよ』


 箱の中の繊細なガラス。

 けれど影響を受け易い、脆くも綺麗な存在。


《はぁ、分かった》

「よし、是非、器もお願いします」

『はい、承りました』

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