表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/255

11 特別授業。

 地獄の感想文。

 と言いますか、はい、感想戦です。


《如何でしたか、地獄は》

《先ず時間が同じじゃないのが驚きでした》

「ですね、あそこまでズレるとは思いませんでした」


 地獄での時間経過は現世とは違う、そこまでは知っていたんですが。

 あそこまで違うとは。


 ざっと言うと、コチラの1秒が向こうの100時間。

 正しく、精神と時の。


《休憩を挟みましたけど、それでも疲労感が無かったので、出てからも不思議な感じでしたね》

「眠気も何も無かったですからね」

《生者として入りましたからね》


《それと、意外と臨機応変だった》

「ですね」


 先ずは賽の河原が有り、三途の川が有る。

 そして渡り終え暫くすると3つの門が有り、浄玻璃鏡(じょうはりきょう)が扉に貼り付けられており、読み込みを終えると戸が開く。


 意外とシステマチックだった。


 そのまま列は3列のままに、秦広王(しんこうおう)の前に立つ事になるが。

 悪人の列には、稀に亡者が降って来る。


 その落ちて来た亡者が良い子にしていれば、左の道へと進めるのだが。

 大概はぶつかった者に謝りもせず、割り込む形になろうが構わず並ぶので、そのまま地面に穴が開き落とされる。


 地獄に居る、亡者はその観念が薄い。


 悪人の列では喧嘩が絶えなかった。

 けれど真ん中の、それこそ中位の亡者は、びくびくしたり時には仲裁にも入ったりする。


 そして善人列はもう、綺麗に整列し、必ず仲裁に入ろうとしてか獄卒に相談する。

 けれど獄卒は涙を流しながら止める。


 牛頭と馬頭が泣きながら止める。

 きっと無駄になる、感謝すらされず罵るか奪おうとするだけだ、供養の品を無駄にしてはいけない。


 そう泣きながら止めるのだ。


《牛頭や馬頭、時に獄卒は罪人が役割を担う事も有りますからね》

「あと一歩、改心する方、ですよね」

《アレに名を付け難いけど、アレも地獄だよね》


 牛頭と馬頭は一種の被り物。

 そうして罪人は亡者の真意を理解する装置を付けられ、その涙が枯れるまで悔いる事になる。


 そして涙が枯れると、人道・天道から刺す光に吸い込まれ。

 未だに涙の枯れない者は、羨めば涙の備蓄が増え、祝えれば涙の備蓄が減る事になる。


《直ぐ横は血盆地獄だったかと、如何でしたか》

《最初は胸糞でした》

「改良して頂けて助かります」


 秦広王(しんこうおう)の斜め前に血盆地獄が有り、相応となる者は秦広王(しんこうおう)の目の前に立った瞬間、即座に血盆地獄へと獄卒が連れて行く。

 一種の見せしめ効果も有り、悪人の列ですら静かになる、一時的に。


 そして秦広王(しんこうおう)の真後ろが、次の初江王(しょこうおう)の司る部屋に行く事になり。

 横を通る際、軽く一礼すると手を挙げて下さった。


 生者として入っても認識されているらしく、以降は一礼して通り過ぎる事に。


《後で気付いたけど、秦広王(しんこうおう)だけ、机が無かったんだよね》

《それだけお忙しい、と言う現れですね》


 声も発さず、手で指示すら無く捌く。

 ひたすらに亡者を振り分ける様は、違う意味で恐ろしいと言うか何と言うか、威厳が凄かった。




「この絵の通り、次の初江王(しょこうおう)には小鬼が2人。侍従が2人、獄卒顔の侍従が1人、でしたね」

《確かに、次の宋帝王(そうていおう)は小鬼が2人、侍従が2人に獄卒が1人。でしたけど》

《はい、多ければ良いと言うモノでも有りませんからね》


 秦広王(しんこうおう)御簾の後ろには、初江王(しょこうおう)の間に続く道が有って、今度は門も無しに目の前に行くんだけど。

 大きな椅子の後ろにも、実は侍従が1人居て。


 多分だけど、あの人がスイッチを押してるんだろうって言ったら、ネネちゃん肩を震わせながら黙って笑ってた。

 いや、マジでアレはそうだと思うんだけど。


「以降は、必ず机が有りましたよね」

《鏡も、有ったり無かったり、侍女付きの方も居たね》

《区別、違いを示す道具の1つでも有りますからね》


「あぁ、目安」

《はい》


「この十三王、室町以降の成立だそうですけど、お金の匂いを感じざるを得ません」

《仏僧が仏僧としての生活だけ、をして下さっていれば、その感想は抱かれ無かったかと》

《あー》


 で、その十三王巡りの後に、等活地獄へ。




「夏を感じましたね」

《暑く無かったんだけど、何かね》


 最初は配慮されており、陽炎の中を亡者が死にまくり。

 心地良い風が吹くと生き返る様を見せて貰い、ユノちゃんはそこでギブアップ。


 なのでユノちゃんは分荼離迦(ふんだりか)処、ココで言う白蓮(アルブムロータス)(ラクーネ)で休憩となり。

 コチラは興味本位8割で、じっくり眺める事に。


 コレが良かったのか悪かったのか、自分にはグロ耐性が幾ばくか有る事を、確信するに至った。


 確かに悪夢は見そうでは有るけれど、かなりじっくり見ないと、偽物に見えたからだ。

 匂いは勿論、暑さもほんのり程度。


 しかも絶叫も耳当てによりかなり妨げられていたし、獄卒が罪を解説しながら責め苦を行っていたので、ちょっとしたショーにしか感じられなかったからであって。

 あの配慮フィルターが無ければ、留まる事は出来なかったと思う。


《ですよね》

「ほら」

《いやー、あの配慮が有っても難しいよぉ》


「多分、クソ憎い相手が居るかどうかかと」

《あー》


 そのまま黒縄、衆合、叫喚。

 大叫喚、焦熱、大焦熱。


 そして阿鼻、又は無間地獄を巡ったんですが。

 まぁ、殆どは罪状の解説に興味が有っての事でした。


 獄卒の方が大変に親切で、少しでも疑問に思うと聞き出してくれるんですよ。

 何故、どうして、そんな事をしたのか。


 特に大焦熱の方にはお世話になりました。


 苦鬘(くまん)処、ココで言う皮革工場(タンネリ)なんですが。

 脅すか誘惑に失敗しようが成功しようが、襲われたと妄言を吐いた者が落ちる地獄、でして。


 滅多打ちにし、動けなくなると次は鉄のヤスリで皮から剥ぎ、その最中も熱風により幻覚と焼け付く痛みが襲い続ける。


 何故、襲われた、と妄言を吐くのか全く分からなかったんですよ。


《それで、如何でしたか?》

「かなり罰を受けている方の解説で、何とか、ギリギリですね」


 思ってたのと違ったから、下手だったから、嫌になったから。

 思ってた以上に不快だったから、好きじゃないと確信したから、好きになれないと思ったから。


 後になってムカついたから、フラれそうになったから、好きな人が出来たけど別れるのが面倒になりそうだったから。


 全く、相手の人生がどうなるかを考えていないのが殆どで。

 他の者も、ちょっと何を言っているか分からなかった。


《例えば?》


 金や仕事になるから、金や仕事になると後で思ったから、可哀想に思われる良い切っ掛けだと思った。

 身内に知られると不味いから、好きな人に変な相手が居た事を知られたく無いから、暇潰しだった。


 身内がそうされたら困らないのか、と獄卒が問うと。

 絶句したり、身内はそんな事はしない、だとか見当外れな答えが多かった。


「獄卒の方が親切で助かりました」

《正に地獄、そりゃ草食になっちゃうよね》


「姉の知り合いの男性の妹さんが、実際に気に食わないから、とホテルを出た直後に相談されたそうです」

《うへぇあ、どうなったの?》


「仕返しにお兄さんがそんな事をされても良いの?で、何も無かった事になったらしいです」

《ひぇえ》

《地獄とは、身勝手な者が落ちる場所、ですから》


 アイツに似合う地獄を探してたんだけど。

 どうにも、しっくりこなかったのが残念ですが。


「まだ、地獄って有るんですよね」

《はい、あの地獄の門の先の1つは、インフェルノです》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ