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116 お母さんの先生。

 ヒナちゃん兄(伯父)にオススメされ、今日は母親教室へ。


『最初からお伝えしておきます、どちらかと言えば寧ろ私は、私と同じ方々に対して差別意識を持っています。折角、手足が有るんだから自分でしてよ、考えられる頭を持ってるんだから自分で考えて何とかしなさいよと』


 女教師は白髪の同郷の先達でしたが。

 かなり、強烈な方の様です。


《分かります》


 えっ。

 思わず声が出そうになりましたが。


 成程、この為だったんですね。


『(反応を)ありがとうございます、では、始めます』


 流石、老人には白髪の数だけ叡智が詰まっている、それを具現化なさっている方の様です。





『ですが、言葉だけに重点を置き過ぎてもいけません。子供が愛してると言ったからと言って、本当にそう思っているとは限らない。妹は誰かがお姉さんは偉いね、と言うまで絶対に言わない事を知りました、ある種の刺激に反応して言っているに過ぎない』


《そんな、試す様な事をするなんて、酷いと思います》


『正確に状態を把握する事の何が酷いのでしょうか』


《でも、試すのは》

『アナタが今使ってらっしゃるだろう石鹸は、先人達が試し安全性が確保された品物、ですが試す事が悪ですか』


《それは、物はまだしも、生き物に》

『では、何の動物か分からない生き物の面倒を見るとします、何を食べるのかを試さないんですか』


《すみません》

『いえいえ、叱ったり怒っているのでは無く、ただ訊ねているだけです。お答え頂けますか、そう試す事は悪ですか』


《いえ》

『遠慮なさらなくても大丈夫ですよ、皆さんとっても大人で賢い方々ですから、誤解なんて有り得ない。さ、思った事を、思った通りに仰って下さい』


《その、気持ちを試すのは、良くない事かなと、思って》


『何故、良くないのでしょう』

《それは、試されると、嫌だから》


『では、それは何故、嫌なのでしょう。正確な状態、情報を得られてしまう事の、何が嫌なのでしょう』


《それが、嫌かなと、思って》


『正確な状態、情報を得られてしまう事が、アナタは嫌だ』


《もしかしたら、誤解されるかも知れないのが、嫌です》


『誤解が有ったなら解けば良いだけでは』


《でも、それが、上手く出来無い人は、嫌かもって》


『誤解かどうか、誰が判断なさるんでしょう』


《それは、私だけ、自分だけが出来る事、かと》


『では、他人は正確に状態を判断出来無い、そう思ってらっしゃると言う事で宜しいでしょうか』


《そうとは、限りませんけど、誤解って、多いので》


『では、アナタの判断に間違いが有り、アナタが誤解していたら』


《それは、避けたい、ですけど。でも、それが誤解かも、ですし》


『では、アナタの判断基準は何でしょう。立場でしょうか、職業でしょう、それとも年齢でしょうか』


《それは、色々、です》


『大丈夫ですよ、時間が掛かっても良いですから、思い付く限り挙げてみて下さい』


《職業、立場、年齢もですけど。その、家とか、働いてる会社とか、です》

『成程、では仙人か無職の放蕩者か分からない少し汚らしい謎の老人が現れました、そこでとても為になりそうな事を話し消えた。そうですね、例えばですが、その先の大きな岩の下を掘ると金が出るぞ。アナタは、どうなさいますか』


《一応、掘って》

『あぁ、因みにですが土には数多の細菌や微生物が存在しており、アナタの周りにも道具が無い場合です。失礼しました、さ、どうぞ』


《悩み、ます》


『ですがアナタは今、お金が必要、どうなさいますか』


《木も、無いですかね》

『いいえ、有りますね』


《じゃあ木で掘ります》

『では、何処まで掘りますか』


《それは》


『はい、そろそろ休憩時間ともなりますし、少し早いですが休憩にしましょう。皆さんも答えを用意しておいて下さいね』


 問い詰められた。

 見世物にされた。


 イジメられた。

 酷い、私は何もしてないのに。


《あの、お腹が痛いので》

『あぁ、少し待ってて下さい、直ぐに治療魔法師を呼んで来ますね』


《あっ、でも》

『大丈夫ですよ、タダですし腕も確か、遠慮なさらなくても大丈夫』


《いえ、ちょっと横になれば》

『そうですか、授業を遅れると困った事になるかと。ですが治療にも選ぶ自由が有る、どうぞ、お休みになって下さい』


《はい、すみませんでした》

『いえいえ、お大事にどうぞ』


 何日か休めば、授業を飛ばせると思ったのに。

 今度は、私だけだなんて。


《先生、何で、私だけ》

『アナタだけお休みしていたからですよ、さ、アナタは何処まで穴を掘りますか』


《正解って、本当に、有るんですか》

『正解とは何でしょう、コレは考え方の問題についての講義です』


《正解って言うか、答えって》

『有りますよ、色々と、ですがある程度は纏められる偏りは確かに有りますね』


《もし、私の答えがそれと違ったら、どうなるんでしょうか》


『それを欲するモノが求める、ですね』

《私、需要が有るんでしょうか》


『それは分かりかねます、なんせ判断材料を提供して頂けていませんから』


《何で、私ばっかり》


『何がですか?』

《どうして、そんなに問い詰めるんですか》


『コレは授業の一環であり、皆さんに回答を頂いておりますが』


《でも、私にばっかり、質問して》

『アナタが興味深いご意見を仰って下さったので、どうお考えなのかを尋ねただけですが、それが問い詰める事になるのですね』


《違うかも、知れませんけど。でも、私ばっかりで》

『賛同者の方が手を挙げるなりして下さっていれば、その方にお伺いしますが、居ませんでしたので』


《じゃあ、私が間違ってるって》

『決断は人其々、答えもまた其々、正解のまま常に変わらず存在し続けているモノはそう多くは無いかと』


《じゃあ、何で聞くんですか》

『興味深いご意見を仰って下さったので、どうお考えなのかを尋ねただけ、です』


《私は、正解だけ、知りたいんです》


『では、無いなら、どうなさるのでしょうか』


 私は、何も言えなくなって泣いた。

 けど先生は、ただ黙って私を見下してるだけだった。


 冷たくて、まるで責める様な態度だった。




「あの、質問を宜しいでしょうか」

『はい、何でしょう?』


「私も泣き虫だったので、言えずに泣いてしまう事が有ったのですが。何か、それとは少し、違う気がして」

『はい。アレは何を言ったら良いか分からない、困っている、その状況を打破する為の涙。何も言えないからこそ泣いたのでは無く、涙を利用し脱出しようとしたに過ぎない』


 では、何故その結論に至ったか。


 ただ黙って見下してるだけだった、冷たくてまるで責める様な態度だった、と仰っていましたが。

 他責的結論、要するに単なる擦り付け、でしか無い。


 なんせ当の私は、頭の中で夕食の献立の整理をしながら、いつ泣き止むのか様子を見ていただけ。

 そしてこの映像を他の者にも確認して頂きましたが、特に他との差も無く問題無いとの結論を頂いておりますから。


「私もそう思います、ありがとうございます」


『客観性より、自身の感情を最優先する、そうした者が増えては社会が揺らぐと。まぁ、分からないからこそ、自身の感情を持ち出すのでしょう。ではココで、コチラから質問させて頂きます、何処に違和感が有ったのでしょうか』


「私は、ですが、相手が困っているのに涙が止まらず申し訳無かった。言った後、更に分かって貰えないかも知れない、それが怖くて悲しくて言えなかったので。随分と、考えの違う方がいらっしゃるなと、単純な対比からの違和感でした」


『はい、ありがとうございます。ココで1つの違いが何故有るのか、です。言っても理解して貰えないから怖くて言えない、どれが正解か分からないから言えない、には違いが有ります。叱られるのが嫌か、分かって貰えないだろう事が嫌なのか、先ず1つに拒絶か悲しみかの違いが有る』


「先生、拒絶も、それこそ面倒だとも思う理由も分かるには分かるのですが」

『問題を解決したい、それは確かに同じですが、公式を飛ばすかどうか』


「あぁ、はい」

『そして中には、否定語の理解が難しく、時に自身を否定されたと受け取る者。想像力が乏しく、変動する概念、約束等について理解が難しい方も居る』


「誰にでも存在しているそういった性質の、強弱」

『はい、そしてもう1つ。更に面倒な時間が増える、考えてもどうせ分からないだろうから、単刀直入に答えから欲しい。コレは真面目で誠実で、優しい対応、でしょうか』


「いいえ」


『叱られるのは嫌だ、それは誰だって同じです、ですが根本を理解すれば似た失敗は防げる筈。ですが、根本を理解出来ぬ者は、それが表層的だろうが深かろうが、1つの答えとして定める。大雑把に言うとこうです、人其々』


「それだと、あまりにも答えが無限大数になるかと」

『そう、その通り、なので1つ1つ学習するのは面倒だ。あぁまたか、さっさと答えを言ってくれ、ソレを覚えれば良いんだろう。そう、根本的に理解が出来無い、ですから当然話し合いに価値を見い出せない』


「でも、それだけ、なんでしょうか」

『いいえ、それだけでは無い。人には元来、魂、個性や性質が備わっている。根本を理解出来ぬ者のメリットは、死を恐れず言われた通りに動く。何事においても自身の考えが最も優れていると思える者も、同じく利を認めれば死を恐れず突撃する、何かに特化しているとは思いませんか』


「狩猟や戦争、問題解決に、でしょうか」

『はい、変革者は勿論、捨て駒には最適です。ですが、捨て駒を良しとする様な環境でも有りません、では最も有効的な手段は何か』


「逃げる」

『はい、逃げです。その場からの逃げ、問題からの逃げ、ですがそれだけでは責められてしまうかも知れない』


「だから、後付けでも言い訳をする」

『はい。問い詰められた、何も言えなくさせられた、見下された。怒られてると感じた、責められていると感じた、繊細だから怖いと感じてしまった。確かに本人はそう思っているでしょう、ですが傍から見たら、どう見えるか』


「分からないものでしょうか」

『歪んだ鏡に映ったモノは、全て歪んでいる、そして歪んでいる事を知らなければそれが当たり前となり。最終的には、周囲が間違っている、と言う事になる』


「では、そうならない為には」

『当たり前を疑う。ですが、そういつまでも、常にし続ける事は難しい。なら、1つの指標を信じる、そして指標を増やし特に重大な問題について当たり前を疑う』


「幸せとは良い事でしょうか」

『ありがとうございます、はい、幸せとは良い事ですよスズランの姫様』


「はい」


 私はココで教官となった。

 母親になる心構えや、所々の悩みについて解決の糸口を教え、一緒に考える。


 あの頃には考えられなかった、こうして私が母親について、誰かに教える立場になるなんて。


「あ、お姉ちゃん」

『良い子にしてた?』


「うん、良い子にしてた」

『そう、はい、お土産』


「わぁ、可愛いリボン」

『でしょ、似合うと思って』


「ありがとうお姉ちゃん、大事に使うね」

『うん』


 1月に1回、私は夏至(サマーソルティス)へ妹に会いに行っている。

 お互いに髪が真っ白になるまで、一緒に楽しく過ごせるなんて、本当に思って居なかった。


「お姉ちゃん大好き、ありがとうお姉ちゃん、ばいばい」


『ばいばい』


 妹は安らかに眠った。

 もし、今度は違う姿で生まれて来たら、妹は私になんて言うだろうか。


 恨んで無いと、幸せだったと言ってくれるだろうか。

 また、私の妹に生まれたい、そう言ってくれるだろうか。

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