115 妹。
私は妹とココに来た。
そして様々な場所を見学した。
『ごめんなさい!邪険にするなんて最低だって言ってごめんなさい!こんなに大変だって知らなかったの!!』
真冬と呼ばれる場所には、私を批判した人達が大勢居た。
そして同じになって、私と同じ様に苦しんでいた。
ざまぁ、それしか無かった。
「ごめんなさい!許して!アナタは必ず後悔するだなんて言って本当にごめんなさい!!」
《ごめんなさい!後悔しないなんて言ってごめんなさい!!》
『想像力が無いんですよ、妹も、だから無理無謀な事もする。相手を慮れる程の積載量が無いから、謗ったり出来無い、想像力の土台が殆ど無いんですよ』
《あぁ、因みにですが彼女達の積載量や土台は妹さんより有りましたよ、確実に》
《ごめんなさい!許して!!》
「出して!」
『ココから出して!!』
ざまぁみろ。
ほら、思った通り。
だから嫌だったんだ。
だから私には出来無かった。
『本当に母親になれば、育てたかったと一生後悔する筈だ、産まないで酷く後悔している親は沢山居る』
《あぁ、まるで呪いですね。後悔しないなんて鬼畜だ、人の心が無いんだ、母親としては失格だ》
『ごめんなさい、本当にごめんなさい』
知らなかった、では済まされない。
知ろうとすれば知れる時代に生まれたのだから。
『アナタを選んでくれた、特別な命なのよ、頑張ればその分だけ幸せになれるの』
《ごめんなさい》
『産めば分かる、とっても幸せよ』
《偶々、運が良かっただけ、どんな子を産もうとも必ず幸せになるとは限らない。サイコパスやソシオパス、そんな子だって十分に産まれる可能性が有る事を理解し、正しく恐れただけ》
《ごめんなさい》
《彼女の2人目にココは合わないので、夏至に居ます、あのお花をくれた子です》
『私は、その両面を分かっていたから決断した、なのにアナタは片方だけ持ち上げ非難した』
《ごめんなさい、本当にごめんなさい》
稀に居るんですよね。
産んだだけで、偉くなったと勘違いする者が。
猫にでも子は産める。
問題は、どう育つか。
『幸せになってる人達だって沢山居る、その幸せを奪うだなんて可哀想』
《自身の常識とは違う、その常識を否定された、私を否定されたと思った。ですが自身の答えを正解だと思い込む為に、他者の答えを否定し蔑む行為は、歪んでいるとは言えませんか》
『言えませんよね、否定するなんて良くない、って言ってたんですから』
彼女は言っても分からない者が居る事を、良く理解している。
けれど、言わずにはいられない。
「ごめんなさい、謝るから、だから」
『不幸になるって決め付けるだなんて酷い、可哀想』
その時になれば分かる筈。
どうしたってその道は選べない筈。
《まるでその道を選べたら、人じゃないとでも言っているよう、まさに呪いですね》
宿した事が無いから分からないのかも知れないけれど、そんな事、私は選べない。
確かにアナタは大変だったかも知れないけれど、妹さんやご家族は幸せな筈、それが分からないなんて本当に可哀想。
「でも、あの時は、本当に、そう」
《マタニティハイで何かの決断を間違えた、と思う方って、一定数いらっしゃいますからね》
『だとしても、知れた筈、調べれば幾らでも後悔している人の言葉は知れた筈』
「ごめんなさい」
だがソレだけで分からない事だって有る、誰にだって多かれ少なかれ苦労が有るんだ、選んでたらキリが無いぞ。
昔は選べなかったんだ、覚悟が出来るだけマシじゃないか。
『コレこそが正解なんだ、純粋で穢れの無い魂を持っているだけ、家族なんだから寧ろ面倒を見られる事を喜ぶべきだ』
《純粋だから、それって他者に迷惑を掛けて良い言い訳にはなりませんよ》
『迷惑だって思う方がおかしい、狭量だ、愛情が薄過ぎる薄情者だ』
《批判、ですよね。頭ごなしに他者の意見への批判、否定、子供にすべき事でしょうか》
『産まれ育った後にだってどうなるか分からないんだ、君がもし事故に遭って同じ様になったら、君は切り捨てられて良いとでも言うのか』
《拡大解釈、針小棒大に物事を一括りにする事は、果たして親や大人として子に見せるべき姿でしょうか》
『確かに問題を起こす者も居るが、それは家族に覚悟が足りなかっただけだ、家族の愛情が足りなかっただけだろう』
《まさか言う事を一切聞かず、支え合いすら難しい、自分より巨大で長生きする強い子を育てるのはこんなにも大変だとは思わなかった。覚悟だけで、想像を超える問題が本当に解決するのでしょうか》
『君は考え過ぎだ、優しさが足りない、思い遣りが足りないんだ。受け入れられないお前が悪い、喜べないお前が悪い、幸せを感じられないお前がおかしい』
「すまない、本当に、すま」
『自分達には無い良さが有る、妹さんは素晴らしい、疎むなんてお前は優しさの欠片も無いのか』
「こんなに、大変だなんて思わなかったんだ、ココまでだとは思わなかったんだ。けど分かるだろう、自分の血を分けた家族だ、そう簡単に」
《成程、簡単に決断を下した、そう勝手に思い込んだワケですね》
「違う、だが、すまなかった、本当に」
『助けを求められない子は沢山居る、助けを求めただけで非難されるから、苦しいと思う事を叱られるから。アナタ達が知らない事を知っている私を、アナタ達は非難した、責めた、否定した』
《子供だから、幼いから、狭量で愛情の薄い子だから》
「悪かった、本当に、すまなかった」
『で?』
「だから、だから」
「ココから出して!」
『助けて!!』
《私達が間違ってた!!》
『で?だから?』
《やれやれ、謝るだけ、ですよね。お偉い私達が間違いを認めて謝ったんだから、許せ助けろ、ですか》
『散々、傷付けておいて、謝ったらハイ終わり。そんなんだから、妹は余計に差別されるのよ、ケジメを付けさせないから嫌な目に遭った人から避けられるのよ!!あの子は!何もしてない!大人しくて可愛い子なのに!!アナタ達が!しっかり!責任を取らせないからよ!!』
「だが」
「けど」
『でも』
《だって》
『帰ります』
《はい、では、さようなら》
愛されてたけど、産まれたく無かった。
「愛してたの!幸せにしたかったの!!」
「嘘だ、愛されたいから、幸せになりたかったから産んだだけだ」
大事にされてたけど、苦しかった。
痛いばかりで死にたかった、でも自分で死ぬ事も出来無かった。
「何とかなると思ってたんだ、本当にすまなかった」
選べるなら、嫌だ。
『ごめんなさい』
何故、どうして産んだの。
何故、どうして、分かっていたのに産んだの。
《ごめんなさい、本当にごめんなさい》
許さない。
絶対に許さない。
分かってくれるまで。
同じ年月、同じ苦しみを味わってくれるまで。
自分達も許せない。
きっと、傷付けられた人達も、きっと許せない筈だから。
だから償って貰う。
自分達の為に。
皆の為に。
僕らは、私達は、優しくて良い子だから。
『はい、似合うと思って買って来たんだよ、どうぞ』
「ありがとう、可愛い」
《ふふふ、お姉さんは恥ずかしいから言わないだけかしら、アナタの為に作ったのよ》
「お姉ちゃんありがとう、嬉しい、大切にする」
《なら付けようね、ココで大切にするは、大事に綺麗に使う事だから》
「うん、付ける」
《はい、良いって言うまでジッとしててね》
「うん」
小さい妖精が妹の世話をしてくれている。
綺麗な光景、可愛い光景。
《はい、出来た、もう動いて良いよ》
『鏡、気を付けてね』
「うん、あ、可愛い」
『うん、凄く可愛い』
「私可愛い?」
『うん、可愛い』
「リボンも可愛い?」
『うん、可愛い』
「両方、可愛い?」
『うん、どっちも凄く可愛い』
「うん、ふふふ、可愛い」
妹だから嫌に思った事も有る。
だから、大人になれば、親になれば分かるのかとも思ってた。
でも、他も知ってる。
妹とは違う子が大勢居るって知ってる。
豪語してたのに放置して死なせた親も。
結局は施設に預けたままで、1度も会いに来ない親も。
親が死んで、抜け殻みたいな顔で面倒を見る兄弟姉妹も。
苦労しか無くなって、この世からも消えたご家族も。
害を与えられた人も。
害した人も。
怖くて家族が作れない人が、大勢居る。
私達は幸運だった。
親にお金が有った、周囲の理解も有った、妹は本当に大人しくて純粋で可愛い子だった。
けど、もし、違ったら。
私には選べなかった。
だから家族を諦めた。
でも、親は支えるって言ってくれた。
だからこそ、板挟みだった。
どちらを選んでも、必ず否定される、非難される。
それが、本当に嫌だった。
『引き取れな』
《あのね、好きな子が出来たんだよねー?》
「うん、優しくて良い子なの」
『そ、それは』
《ココでの夫婦は、キスとハグと抱き合うまでだ、ってお勉強したんだよね?》
「うん、じゃないと追い出されちゃうの、言う事を聞かない子は悪い子だから」
《ココでは自分の事が全部出来る人だけが、その先に進める、そうお勉強したんだよねー?》
「うん、そうしないとお姉ちゃんが結婚しないって言われた、だから私そうするの」
『それは』
《火事が起きてたら安心して眠れないよね?》
「うん、燃えちゃうかもだから怖い、眠れない」
《お姉ちゃんの家が火事かもって言われたら?》
「いや、怖い」
《じゃあ、お姉ちゃんに家族が増えたら?》
「嬉しい、幸せ」
《どっちが良い?》
「嬉しいが良い、幸せが良い」
『今、幸せ?』
「うん、幸せ、嬉しい」
《前も?ずっと?》
「うん、前も幸せ、前も嬉しい、ずっと幸せ、ずっと嬉しい」
『そっか、良かった』
「うん、お姉ちゃんも幸せ、私も幸せ」
《そうだね、幸せだね。じゃあ、リボン見せに行ってらっしゃい》
「うん、行ってきます」
そうして妹が走って行ったのは。
『えっ、あの人って』
《ねぇ、誰なら納得する?どんな者なら、納得するのかしら?》
ずっと、考えてた。
もし妹が誰かを好きになったら、私がしっかり見抜かなきゃって。
でも、どう見抜けば良い。
恋人も居なかった私に、どう、見抜けと。
『分からない』
《同じなら納得する?じゃあ違ったら?》
『利用しようとしてるんじゃないかって、思って、しまう』
《違うから、そう勝手に決め付けるの?違うから、皆が皆、邪悪で穢れてるの?》
『そんなの、ダメ、差別になる』
《でも、そう思ってる》
『うん』
《知って、経験してみたらどう?きっと、意外な発見が有る筈》
私は、私に似た人達を良く知らない。
殆ど経験してない、分かって無い。
けれど、もう、関わる事が怖い。
『怖い』
《あのね、引き取れなくてごめんって、謝ろうとしたでしょ。だから止めたの、それが悪い事だって教える事になる、あの子はそれが理解出来るから》
『ごめんなさい』
《本当なら、全員が全員、幸福を追求して良い筈じゃない?誰かが犠牲にならないと誰かが幸せになれない世界って、不幸じゃない?》
『はい』
《本当に妹さんが優しくて良い子なら、お姉さんにも幸せになって欲しい筈。なのに、引き取れない事が悪だなんて教えたら、それを悪い事だって教えて恨ませる事になる》
『はい、ごめんなさい』
《良いの、そう言われてしまう場所に居たんだもの、分かるわ。でもね、ココは違うの、あの子は新しいルールの中で幸せに生きていくの》
少なくとも、お父さんとお母さんは分かってくれる。
私がココで妹と生きる事を、理解してくれる。
それに、きっと同じ思いをしてきた人達も。
いや、もしかしたら違うかも知れない。
私が何処かで何かを間違ったら、妹まで不幸になる。
だから、やっぱり、怖いけど確認しないと。
『私と同じ様な人達と、先ずは、会ってみたいと思います』
《うん、優しくて強くて、可愛い姉妹。良い子良い子、可愛い子達》
やっぱり、同じは嬉しい。
褒められる事も、喜んで貰える事も、同じは嬉しい。