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112 人助け。

『どうしましたか』


 ハンカチを差し出してくれたのは、ハンカチの様に真っ白で赤い目をした少女でした。


「ただの、失恋です。ごめんなさい、ありがとうございます」

『忘れれば元気になりますか』


 どうしたいのか、どうすれば良いのか。

 悲しみの中だけで苦しんでいた私は、どうしたいのかを理解しました。


「そう、ですね、はい」

『何処から何処まで消しますか』


 子供の例え話でも、私は私のしたい事に次々と灯りが灯る様でした。


「その方の顔と声、言葉、ですね」


 あの方の顔も声も忘れられたら、あの言葉が忘れられたら。

 私は、新しく人生を始められる。


『分かりました』


 パンッと、目の前で手を叩かれた後。

 何故、私がココに居るのか一瞬だけ分からなくなった。


 けれど、とても嫌な事が有った事だけは覚えている。

 そして、その事を忘れさせてくれた事も。


「あぁ、本当に」

『もう元気ですか』


「はい、本当に、ありがとうございます」

『お礼は結構です、誰かを幸せにしてあげて下さい』


「はい、ありがとうございます」


 彼女は悪魔や精霊種だったのだろう。

 私は嫌な事が有った、その事は覚えているけれど。


 もう、悲しい気持ちはすっかり無くなっていた。




《本当に消せるんだな》

『はい、ですがまた直ぐに戻ります、互いに名を知らないと完全には消せません』


《あぁ、そう言う制約が有るのか》

『はい、何でもは出来ません、悪魔は万能では無いですから』


《だな》


 どんな問題が起こるのか、メリットやデメリットに正直興味が有った。

 だからこそ介入しなかったんだが。


 数日後、先ずはデメリットからやって来た。


『君が、彼女の記憶を消したのか』

『はいそうです』


『何故なんだ』

『泣いていました、元気が無かったので消しました』


『どうか戻してくれ、頼む』

『嫌です、元気が無いのは良くない事です、悲しいは遠ざけるべきです』


『違うんだ』

《コレの兄だが、何が違うんだ、失恋したと泣いていたぞ》


『違うんだ、誤解だったんだ、全て』


 話を聞くに、稚拙で幼稚な確認不足からの行き違い、だったが。


《アンタが勝手に暴走しただけだろう、貴族なら確認は重要なんじゃないか》


『面目無い、だが』

《親友だか幼馴染だか知らないが、庶民だからと蔑ろにしても良いのか、何処か誰かの大事な子供だとは思わなかったのか》


『本当に、すま』

《答えろよ、どうなんだ》


『思わなかった』

《なら、それを目の前で本人に言えたら少しは仲介してやるが、どうする》


『どうか機会を、お願いします』

《どうする》


『分かりました、同行します』


 そこでヒナが記憶を戻すかどうかに触れず、同行する事にのみ言及した事に少し違和感が有ったが。

 何故なのかを、その後直ぐに理解する事になった。




「あぁ、巻き込んでしまったのですね、申し訳御座いません」


『いえ、もう記憶は戻っていますね』

「はい」

『何故なんだ』

《おい、先ずは説明からだ》


「説明?」


『それは』

『貴族なのに親友や幼馴染の為に、庶民だからと蔑ろにしても良いのでしょうか、誰かの大事な子供だとは思わなかったのでしょうか』


《それとも、所詮貴族は単なる金持ちかよ》


 言えない。

 言ってしまったら、きっと。


「私も、それが聞きたいです」

『どうか謝罪を』


「受け入れます、ではご説明をお願いします」


『いや、間違っているが、俺はとんでもない事をした』

《何処か誰かの大事な子供なのかも知れない、そう微塵も思わなかったのか》


 思わなかった。

 正義感に囚われ、そんな事を思いもしなかった。


『頭の片隅にも、無かった』


 終わった。

 もう終わりだ。




「貴族としても男としても、生き物としても最低ですね。もう、あの言葉は絶対に忘れない、そしてアナタの事も一生忘れません」


『本当に、すまなかった、だが君を愛し』

「こんな男に愛されていた事は実に不名誉ですが、貴族の中にも未だに、こんなにも愚かしい者が居る事は事実です。それを全て消してしまうのは、寧ろ他の者への警告を怠るも同義、絶対にアナタを許さない」


《だな、しかも、どうせ悪評を広められたく無いから復縁を迫っ》

『違う!!』

「ですが、そう受け取られても致し方無いのでは。それとも、お貴族様なら、そんな事を気にして当たり前ですか」


『違うんだ、本当に君を』

「でしたら尋ねるか、その貴族の力で、もっとしっかりとお調べになれば宜しかったのでは」


『本当に、すまなかった』

「いえいえ、コチラこそ。まさか、貴族にアナタの様な下世話で下品な方が居る、だなんて庶民としては全く考えもしませんでしたから。はい、お互い様だと言う事で、もうどうか私に関わらないで下さい」

高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)が果たせないなら貴族位を辞退しなさい、そしてココから出て行って下さい』


『本当に、すまなかった』

「コチラこそ、では、さようなら」


 男はもう倒れそうだが。

 女の方はしっかりしてる。


 賢い女程、1度嫌になると何をしようが戻っては来ない。

 だからこそ、慎重に行動すべき、なんだがな。


『嫌でしたか』

「いいえ、ごめんなさい。ありがとうございます、やっと、本当に嫌いになれました」

《出しゃばって悪かった、アンタみたいに賢かったら、いずれ気付いてただろ》


「いいえ、言われるまで、私も考えられていませんでした」

『でも気付けた事は良い事です』

《だな、まだ若いんだし大丈夫、もっと良い男が現れる》


「ふふふ、ありがとうございます」

『いえいえ、では、さようなら』


「はい、さようなら」


 それにしても。

 まだ、貴族にも馬鹿が居るのは驚きだな。


《除籍と辞退は違うのか?》

『はい、辞退は不名誉では有りませんが、除籍は不名誉です』


《なら、俺のお願いを聞いてくれるか?》

『事と次第によります』


《俺なら除籍になって欲しい、単なる金持ちじゃない、貴族は政治家なんだから》

『シトリー』


《はいはい、直ぐにも》


 影から頭だけ出して、直ぐに戻った。

 便利だな、シトリー。


《ありがとう、彼女の祝いの門出にアイスを食おう》

『はい、食べます』


 にしても面白い出来事だった。

 試しに手紙でも出してみるか。




「あぁ、凄い方が居ますね、何処にでも」

《ネネ、何か問題かい?》


「はい、恋文です」

《本当なら出した男を殺すけど?》


「レンズです、馬鹿な貴族が貴族位を取り上げられたそうです」

《そう、居るんだね、地獄(ゲヘナ)にも》


「あの男は風俗で説教するタイプだ、身近に居たら近寄るなよ、だそうです」


《そんな者が向こうに居るのかい?》

「らしいです、嫌いでは無いけど、事後又は最中に説教する方が一定数居るそうですよ」


《何故、辞めたからと言って、命を取られるワケでは無いんだろうに》

「はい、ですが分かりません、私にも全く」


《また行くとか言わないでね?》

「浮気されたら行きます」


《レオンハルトは関係無いのだし》

「連帯責任です、管理者責任です、連名で除籍です」


《じゃあ、レオンハルトが浮気をしても》

「はい、連座です」


《ちょっと、話し合ってくる》

「はい、行ってらっしゃいませ」


 手紙が勝手に暗号文になってしまうのは助かりますが、本当に誤解されても困る。

 せめて、文字だけでも覚えて貰った方が良いかも知れませんね。

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