表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/196

105 魔女狩りと精霊の物語。

 この世界には魔法が有るのに、傷や病気を治す魔法を使える者が居なくて。

 そうした魔法が使える私は、転移した近くに有った村で喜ばれた。


 そして王都に行くべきだと言われ、王都へ。


「凄い」


 亜人も人も着飾っていて、華やかで綺麗な場所。


『アンタ、観光かい』

「あ、はい、出来ればお城も見たいんですが」


『なら、真っ直ぐ行けば着くよ』

「そうなんですね、ありがとうございます」


 怪しまれるかも知れないけれど、歓迎されると思っていた。

 亜人も人も一緒に生きられる魔法の世界。


 だから不思議に思わなかった。


『何故、治療魔法が無いのか』

《何故他の者が使えないのか、考えた事は》


「えっ」

『捕らえよ』

《最下層のジュデッカへ投獄せよ》


「いやっ!誰か助けて!!」

《ふふふ、助けてあげる》

『ウンディーネ様』

《よせ、下がるんだ》


 そうして私は精霊に助けて貰い、他の国へと逃がして貰った。




「どう、でしょう」

《おぉ、腰の痛みも、動きもすっかり良くなった》


「良かった」

《いや本当に助かりました》

『どうだろうか、コレからこの国で、その力を貸してはくれないだろうか』


 私が以前に行った国は多分、変な宗教や何かのせいでおかしかったのだと思う。

 ココの人は誰もが歓迎してくれて、国の偉い人も受け入れてくれた。


「でも」

『アレは魔女狩り、異端者狩りだ。君は何も気にしなくて良い、必ず僕が君を守る、どうか協力してくれないか』


「はい」


 それから私は何人も何人も治し。

 貴族にまでなれた。


 それに。


『もし良ければ、婚約してくれないだろうか』


「でも、まだ私達、何も知らないままですし」

『では、先ずは一緒に出掛けて頂けますか』


「はい」


 私の様な外見は珍しいのに、とても優しくしてくれて。

 本当に幸せだった。


『結婚してくれるね』


「はい」


 結婚式の準備の最中だった。

 以前に腰を治した大臣の方の息子さんが、屋敷に押し掛けて来て。


《父に何をしたんですか!!》


「私は、ただ、腰を治療魔法で」

《治療魔法の正規の資格をお持ちですか》


「えっ?」

《良くも》

『何事だ!』


「彼が、資格がどうのと」

『あぁ、君は気にしなくて良いんだ、君は星の子なのだから』


「星の子?」

《では何故!父は黒点病で亡くなったのですか!!》


「黒点病?」

『乱心したらしい、直ぐに方を付けるよ』


「えっ」


 目の前で人が斬り殺された。

 初めてあんなに大量の血を見て、気を失いそうになった。


 けれど私は、ただガタガタと震えるしか無かった。

 そして結婚式当日、私は夫となる筈の人と共に、捕らえられた。




《アナタは数多の病を広げ、国家転覆に加担した》

「私、何も」

『はぁ、失敗したのか、コレだけしたのに』


「アナタ、何を言って」


『この女が全て、計画した事です』

「知らない!私はただ、傷を、治しただけで」

《追って沙汰は伝えます、牢へ》


「いやっ!誰か助けて!!」


 誰も助けてはくれなかった。

 そして私は牢へ入れられ、拷問され、隙を見て逃げ出した。


 幸いにも最初に助けて貰った村の近くに幽閉されていて、私は自分で自分を治し、なんとか辿り着いた。

 けれど。


『おまえ!』

《かあさーん!》


『ばあちゃんをかえせ!!』

《アイツがきたよ!かあさん!!》


「な、なんで」


 私は子供達に石を投げられ、直ぐに村を出た。

 けれど、誰かにあっと言う間に追い付かれ。


『良くも、ウチの母さんを殺してくれたな』

《あの人を返して!!》


「なんで、何が、起こってるの」


『お前が母さんの腰を治した後、黒点病になったんだ』

《ウチの人もよ、もう、あっと言う間に痩せて》


『もう、村は全滅だ』

《もう、私達だけに、なってしまった》


 私が逃げた先は、墓場でした。

 新しいお墓が、何個も何個も有った。


「私、ただ、怪我を治しただけなのに」


 なのに、何で。


『どうかされましたか』

『あ、アナタ様は』

《どうか、彼女に罰を!!》


『そうですね』

「何かの誤解なんです!助けて下さい!!」


『では、彼女は私が頂きます。代わりに正規の治療師をココへ向かわせます、迎える準備をしてあげて下さい』


『ありがとうございます!!』

《ありがとうございます!!》


 私は綺麗な天使に助けて貰った。

 そして綺麗な洋館で、綺麗な服を着せて貰い、美味しい食べ物も頂いた。




「ご馳走様でした、本当にありがとうございました」


 やはり罪悪感は無い。


『アナタが隣国の者達を魔法で治療した者』


「あの、確かにケガは治しました、でも病気にさせてはいないんです」


 意図して、は。


『では、治療の魔法の原理はご存知ですか』


「原理、ですか」

『どう治したのですか』


「それは、ただ。腰のケガなら、腰に、治れ、と」

『ご存知でしょうか、黒点病、癌にはマッサージや温熱療法は禁忌とされている事を』


「えっ、でも」

『癌とは常に体内で生成されますが、健康な細胞体が排除してくれている。ですが一定数を超えると癌の症状が現れ、刺激によって更に増殖する』


「でも、それとコレと」

『実際に怪我が治る原理をご存知でしょうか、要は細胞増殖です、しかもアナタは全身の癌細胞まで増殖させた。アナタの治療魔法は曖昧なまま実行され、癌を発症させるに至らしめた』


「そんな」

『事実です、アナタは怪我を治すと同時に病へと推し進めた』


「そんなの、だって、私、知らなくて」

『確かにアナタは利用された、ですが慎重に経過を観察していれば気付けた筈。最初の国で話し合えば、知ろうとすれば、誰も苦しむ事はなかった』


「そんな、魔法に原理だなんて」

『何故、治療魔法が無いのか。何故人種が使えないのか、何故、考えなかったのですか』


 彼女の顔色はみるみるうちに白くなり、青くなると、今度は震え出した。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

『謝っても死人は生き返らない、謝っても大切な者を失った者の悲しみは、罹患者の苦痛は癒えない。一体、何を治療した、と言うのですか』


 幾ら待とうと、償いについての言葉は出ない。

 あぁ、星屑か。


 私にはもう、その感慨しか無かった。


《もう、そんなに追い詰めて、可哀想じゃないシルフ》


『あぁ、ウンディーネ、欲しくなったか』

《そうなの、さ、行きましょうね》


 星屑と言えど、ウンディーネに引き渡してしまったのは、些か同情すべきだろうか。




「あ、あの」

《大勢を殺した分際で、良くそんなに綺麗で可愛い服を着ていられるわね?》


 あぁ、なんて可愛いのかしら。

 怯えた瞳を大きく開いて、肩を竦め黙ってしまった。


 本当に、可愛い。


「す、すみません」

《あら、今だけの事じゃないわよ?王侯貴族にチヤホヤされていた頃、アナタを助けてくれた村の人々は苦しんでいた、苦痛に苛まれ食べる事も眠る事も出来無かったの。本当に可哀想よね?》


「すみません、本当に」

《そう謝るだけで済んだ世界、平和な世界で生きていたのは分かるけれど、償いの概念は無いのかしら?》


「すみません、出来るだけの事を」

《いつ、するのかしら、どう償うのかしら?》


「出来る事は何でも、直ぐに」

《ココで下手な治療魔法以外、何が出来ると言うのかしら?》


 ふふふ、また黙ってしまって。

 本当に可愛い子。


「すみません」

《どんな気持ちで美味しい料理を食べていたのかしら、ねぇ、教えて?》


「それは、私、何も知らなくて」

《あら、知ろうとしたの?何故、治療魔法が無いのか考えて、知ろうとしたの?》


「いいえ」

《何故?》


 ふふふ、恥ずかしくて言えないのね。

 可愛い。


『ウンディーネ』

《あらシルフ、取り返しに来たの?》


『いや、何故知ろうとしなかったのか気になっただけだ』

《そう。で?》


 あぁ、気まずそうな所が本当に可愛いわ。

 ありがとう何処かの神様、この子でじっくり、楽しませて貰うわね。


「わ、私はただ」

《ただただ褒められて嬉しかった、人の役に立てて嬉しかった、ココに居て良いんだと思えた。後は、何かしらね?》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ