103 揺り戻し。
「ひゃっ」
『お帰りなさい』
《おう》
某映画のシーンみたいに、急に地面から湧くとか。
有り得る、ココは異世界、しかも地獄。
「あの、何が」
《怖いキャバクラか宗教施設に居た気分だ》
『どうどう』
《2人はどうした》
『帰しました、2人は2人を知る時間が必要です』
《成程な》
『動揺しています』
《あぁ、すまん、色々と驚かされた》
「地面から湧くのは私も初めて見ました、どう、ですか?」
《眩暈からの、コレだな》
「成程」
《少し休んでくる》
「はい、お気を付けて」
『付き添います』
《おう、ありがとう》
相当、移動で具合が悪くなったんでしょうか。
覇気らしい覇気が無い。
本当に大丈夫でしょうか。
『私はどうすれば良いですか』
グルグルしてます。
《取り敢えず、罵ってくれ》
『アナタの弟は本当に可哀想です』
《褒めてくれ》
『優しいです』
《ありがとう》
『何が有りましたか』
《ヒナや悪魔の相手について尋ねに行ったら、俺の事を言われた》
『何が問題なのか分かりません』
《ヒナも悪魔達も望んでいるが、俺はまだ、ヒナの事だけを考えていたい》
『レンズはココでは行き遅れです』
《確かに》
『人種の寿命は短いです』
《ご尤も》
『私が不安ですか』
《いや》
『では何故ですか』
《好きな相手が居たが、一緒になれなかった》
『分かりません、相談してきます』
《あぁ》
私にそうした好きは分かりません。
でも今は相談相手が居ます。
『好きな相手が居たけど一緒になれなかった、だからまだ私の事だけを考えていたいそうですが、私には良く分かりません』
「成程」
『ネネさんは分かりますか』
「少し、ただ良い思い出の場合なら、更に量は少ないですね」
『私には全く分かりません、教えて下さい』
「悪い思い出ならこうですが、もし良い思い出だったなら、きっとまだ忘れられないんだと思います。だから、暫くそのままにしておきたい、綺麗な押し花やドライフラワーになるまで置いておきたいんだと思います」
『分かりました、ありがとうございます』
「いえいえ」
元気だな。
ダッシュして、ダッシュで帰って来た。
『良い思い出ならそのままで良いです、無理は良くないです』
クソ、理解が早いな。
しかも正解だ。
真っ直ぐ生きてたら、こんな事にならず一緒になれた可能性だって有ったのに。
近くに居ると後悔ばかり頭に湧く。
無理だと分かり切っているのに、目が勝手に追う。
《すまん、ありがとう》
『私はどうすれば良いですか』
《取り敢えず、罵ってくれ》
『アナタの家族は本当に可哀想です』
《褒めてくれ》
『賢いです』
《実は、そうでも無かった》
『人種は自身を全て理解する事は難しい筈ですが』
以前にも同じ問答をしたが。
付き合ってくれるのか。
《結構、出来る方だと思ってた》
『後悔していますか』
《凄く。巻き込むべきじゃない相手を、味方かも知れない相手を巻き込んで、傷付けてた》
『私はネネさんを困らせたウ〇コの家族を敵だと思っています、知らないなら間違いでは無いと思います』
《俺に、知る気が全く無かった。敵の敵は味方かも知れないのに、同じ大人で女だからと、敵味方の区別をする為に知ろうともしなかった》
『アナタは強い、味方は必要有りませんでした』
一言一句、違わず言うんだな。
けど、確かにな、改めて同じ事を言われるのは寧ろ安心感がある。
《だが弟には必要だった。大人なら、保護者なら、敵味方の区別を付けるべきだった》
『なら愚かな行動をしたと思います、ですが愚か者では無いと思います、愚か者は間違いを認めません』
《認めざるを得なかった、アレが夢だろうと現実だろうと、俺の間違いは明白だった》
『では直しませんか』
《いや》
『愚か者は違いが分かりません、自己と他者を比較せず、違いを認識しないか気にしません。なので尊大です、でもアナタは違います』
ヒナは俺を信じてる。
全てを知っても、過分に謗らず責めず、けれど不満に思わず傍に置いている。
《謗ってくれ》
『大人なのに間違えた馬鹿です』
《本当にな、どうして俺を兄にしたんだ》
『賢いからです、間違いが何かを知っているからです』
《親を知る為の準備か》
『そうだと思います、それと家族です』
《もし俺が何か間違いそうになったら、教えてくれ》
『はい』
《俺はどうしたら良い》
『償って下さい、そして教えて下さい、間違いと正解と理由を教えて下さい』
《俺が気付ける事、知ってる事だけで良いなら》
『はい、構いません』
《取り敢えず、優しくさせろ》
『はい、ハグをどうぞ』
《はぁ、本当にごめんな、本当に》
何故、どうして母親が女を捨てきれなかったのか分かった。
あんなクソ親父でも、母親は好きだった。
好きだったから、親父の悪口は言わなかった。
グダグダでも俺達を育ててくれた、手を挙げたりせず飯を食わしてくれた、抜けは有っても世話をしてくれた。
好きだったからこそ、悲しんで荒れた、女を捨てられなかった。
分かった。
やっと分かった。
「尾を引いているのは、憤怒の図書館の事だけですか」
戻って来ないので心配していたんですが。
ヒナちゃんは爆睡で、レンズは、また泣いている。
分かりますよ、箍が外れると泣き易くなりますけど。
一体、どうしたんですか。
《いや、その後も、少し有った》
正直、何も知らなければ既に絆されていたでしょう。
ですが、もう色々と知ってしまっている身。
しかも立件されてはいないけれど、彼はほぼ犯罪者。
いや、詐欺師だ、と言う感覚はかなり薄れてはいますが。
それもコレも、その後を知っているからこそ。
きっと、何処かで自分が被害者だからこそ、多少は加害者に回っても構わないだろう。
そんな意識が、無意識に無自覚に有った筈。
「1つお伺いさせて下さい」
《あぁ》
「被害者なら加害者になっても良いんですか」
《いや、だが前はそう思っていた、多かれ少なかれ誰だってそう思ってるだろうと思ってた》
「今は違うんですね」
《あぁ、被害者なら加害者にだけ、ぶつけるべきだ》
身内だったなら、もう責めないでしょう。
ですが、コチラは赤の他人です。
二次的被害者の可能性も有る。
彼が本当に潰れるまで、責める側で居ます。
本当に後悔しているなら、そうされたい筈ですから。
「何が有りましたか」
《戻らされて、一生を体験した》
想定外でした。
最近では戻らされるだけか、ココに留まるかだけ。
まさか、行き来を。
いえ、ユノちゃんだっていつか戻って来るかも知れない。
なら、彼が行って戻って来た可能性は十分に有る。
ですが、事実は分からない。
あの試練の間でシミュレートしただけ、かも知れない。
「償えましたか」
《償いはしていても、終わりが見えなかった》
「殺人犯でも無いのに、過度な償いは気を引く為ですか」
《いや、それも向こうで言われたが。コレは後悔の重さ、選択を間違えた後悔、その重さ》
「分離出来ませんか」
《無理だな、未だ未消化なせいかも知れないが、罪のせいで選べなかった選択肢への後悔も一緒に混ざってる》
「そんな事も許してくれない、理解してくれない相手ですか」
《いや、殆ど完璧で、俺より遥かにマシな相手が既に居た》
「なら幸福を願うしか無いのでは」
《ガキが》
「オジサンの粘着質ウザい」
《アンタが1番攻撃力が高い》
「加減する機能をクズ男に壊されてしまいましたの、ごめんあそばせ」
《すまん、振り切る努力はする》
「別に、そこは好きにすれば良いんじゃないですか、誰にも迷惑を掛けないなら思う事は自由なんですから」
《アンタなら嫌だろ、思われたままは》
「いえ、私の幸福な姿を歯嚙みしながら草葉の陰で悶え苦しめば良いと思います、そしてアナタだったら草刈りついでに拾われて結婚でもすれば良いんじゃないですか」
《雑な展開だな》
「草刈り鎌で指でも吹き飛べ、ほら衝撃的、好きですよね詐欺師って劇場型の展開」
《もう詐欺師じゃない》
「はいはい、じゃあ誠実マンなら好きに生きれば良いんじゃないですか、被害者が納得するなら」
《じゃあ、アンタが二次被害者だったとする、そこにも賠償金を払って偽被害者にも別口の私財から賠償金を払ってすっからかんになって。本を出して、その収入も被害者の会に払ってたらどうする》
「私なら、生き様を見た上で許します、鬼畜では無いので」
《でも結婚はしたくないだろ、信用ならない》
「まぁ、無難な相手を見付けるでしょうね、関わる度に嫌な事を思い出すでしょうし。適度で平凡で平穏な結婚をして、そこそこ平和の普通の結婚をして、終わりでしょうね」
《だよな》
「結婚が全てでは無いですし、孤高を貫くのも良いですが、アナタ程度が幸福を追い求めてはならないとは思いません。精々苦しめ、それだけです」
《ありがとう貧乳、心が広いんだな》
「貧乳はダメです、本当に許しませんよ」
《気にするなよ、好みは其々だ》
「見栄えの話です見栄えの、分かりますか、たかがコレで着て似合う服装が限られるんですよ。如何に和装が優秀か良く分かりましたよ、本当に」
《いや巨乳でも似合わない服装は有るからな?》
「太って見える、程度じゃないですか、足りないより溢れてる方がマシです」
《出た、巨乳差別、其々似合う似合わないは有るだろうがよ》
「はいはいはい、正論正論、凄い凄い。私は平均が欲しいだけですー」
《コレで、良く姉妹で喧嘩にならなかったな》
「もう一方的に拗ねてるだけですからね、姉の胸に抱き着いて、コノヤローって叫んでましたから」
《本当に仲が良いな》
「あぁ、流石にチ〇コにコノヤローはしないでしょうね」
《堂々と言うな》
「寝てますし」
《だな》