102 ウヴァルとグレモリー。
白髪、金髪、黒髪。
赤い目、金色の目、薄い緑色の目。
三者三様の幼女様方と共に、お茶会をさせて頂いております。
うん、可愛い。
「私、とてもとても助けて頂きましたの。ヒナ様のお陰で、お祖母様の素晴らしさを再認識させて頂きましたわ」
《ふふふ、私も、先日助けて頂きました》
「そうなんですか?」
『はい、ヴァイオレットはお祖母様が虹の国に行く事を決めました、アンバーには小児性愛者が迫っていたので追い払いました』
「まぁ、それはさぞ怖い思いをなさったのでは」
《いえいえ、過度な贈り物を贈られたり、常に構われたりと。その程度でしたから》
『自分が同学年だと思い込んでいました、送り返されました』
「あぁ、直ぐに戻せる様になったそうで。アンバーさん、悪夢などは見てはいませんか?」
《はい、お陰様で。ただヒナ様にお礼が浮かばず、申し訳無い限りです》
「私もですわ、ヒナ様は欲しい物は全てお持ちになっているからと、何も要らないと仰るんですもの」
『はい、必要なモノは全て揃っています』
言いたい。
でも、この愛らしい景色の中、本当に提案して良いのだろうか。
知る事を恐れるようになったヒナちゃんに、普通の家庭なるモノを体験する提案をして、本当に良いのだろうか。
いや、知りたいと言うまで今は待とう。
今までが忙しなかっただけかも知れない。
ヒナちゃんのペースが、やっと出来上がってきたのかも知れない。
「いつか、必要とする時が来る何かを持つ事になるかも知れません、それまで保留と言う事ではどうでしょうか」
『はい、お婿さん探しのお手伝いを頼むかも知れません』
「是非、協力させて頂きますわ」
《なら、兄達をオススメさせて下さい、兄達は凄く優しいんです》
「羨ましいですわ、私の所は姉ばかりなんですの」
《ふふふ、私もヴァイオレット様が羨ましいです、兄ばかりですから》
「なら私とレンズ、ジュリアさんやロミオさんが居て、ヒナちゃんはお得ですね」
『はい、両方居ます、ですが皆違って皆良いです』
「ふふふ、ですわね」
《そうですね、ふふふ》
平和。
もう、正直、知らないでも良いんじゃないかと思ってしまう。
でも、あのウ〇コの事が有ったからこそ、知らないで済ます事が出来無いのも良く分かる。
影を落とすと言うより、本当にウ〇コ、ウ◯コのウ◯コが落ちている。
出来るなら、さっさと拾って消えて欲しい。
《お前が婿になるのかと思ってたんだが》
「使用人と主人ですよ、何を言ってるんですか」
《ダメなのか》
「ダメでは、無いですが」
《なら何がダメなんだ》
「ヒナ様には」
《相応しいって誰が決めるんだ、お前か》
「何を僕に八つ当たりしているんですか」
《八つ当たりも何も、それは流石に言い掛かりだぞ》
「では何がご不満なんですか」
《不満も何も、疑問に思った事を伝えただけだろ》
「ではご自分でしたら」
《使用人が居た事が無いから分からんが、何処の馬の骨かも分からない奴に譲るよりは、何倍も良い》
「ではご理解頂いてから、ご再考下さい」
《ならネネに尋ねるか》
「他の方を巻き込まないで下さい」
《いやアイツの家、使用人を使ってたかも知れないだろ》
「確かに使ってらっしゃったそうですが」
《なら聞いたって良いいだろ》
「勘違いされては困ります、それにそう、無理に方向付けられては困るんです」
《何でだよ、そんなに嫌か》
「ですから」
《ヒナに拒絶されるのが怖いか》
「では僕にどうしろと仰るんですか」
《議論の飛躍、否定、葛藤も何も無いならしない事じゃないのか》
半ば冗談だったんだが、マジか。
「僕は人種が嫌いです」
《俺もバカは嫌いだ》
「出来るなら、最高の方と一緒になって頂きたいんです」
《例えば何だ》
「ヒナ様を1番に思える方です、そして味方となり、もし間違える様な事が有れば止める事の出来る方です」
《なら、悪魔は》
「72柱の方々は其々をご家族だと認識しております、それは72柱で無くとも、そう認識されていると伺っております」
《なら純粋なユニコーンでも良いのか?アレは結構》
「ヒナ様が好いたなら、僕はお仕えするだけです」
《で解雇されても良いのか》
「ヒナ様が、そう仰るなら従うまでです」
弟の恋バナは嫌だったが。
何だろうな、コレは寧ろ。
『揺らぎの波動を感じました、イジメましたか』
ココまで気に入ってて、コレじゃないとか流石に無いだろう。
《少し意地悪しただけだ、悪かった》
「申し訳御座いません、少し動揺しましたが問題は有りませんよ」
『アズールにもあげます、コレでしっかり躾けて下さい』
「はい、ありがとうございます」
『では戻ります、仲良くして下さい』
《おう》
「はい」
嘔吐剤。
本当に、不味いからな。
《マジで使うなら言ってくれ、不意だと本気で吐く自信しか無い》
「レンズ様がしつこく何かをなさらなければ、僕は何も致しませんよ」
鬼に金棒だなおい。
《はいはい》
それににしても、勿体無いな。
ヒナが失恋だ何だを味わう必要が無さそうな相手が、コレじゃな。
いや、いっそアンバー嬢に男になって貰うのもアリか。
「あの」
《ん、何だ》
「アナタなら、どんな方が理想だと思われますか。僕は探しに出た事も有るのですが、納得が得られる方に出会う事が出来ませんでした」
《相手は幾つだ》
「似たご年齢の方を、5才から10才程度の方と接触させて頂きました」
《俺だったら、下の年齢だとギリギリ自意識が有ったかどうかなんだが》
「精霊種や魔獣種は、外見の年齢より中身が成長してらっしゃる方が多いので、そこは問題無いかと」
《人種の選択肢は無かったんだな》
「ヒナ様の寿命はほぼ決まっていません、失う経験は出来るだけ抑えるべきだと判断しました」
《なぁ、中身は大人、外見は》
「人種なら排除させて頂きます、成長した後に興味を無くされては困りますから」
《あぁ、年齢差を気にしてるのか》
「いえ全く、ヒナ様はいずれ更に成長なさいますし、そもそも僕とでは住む世界が違います」
《そうか?》
「僕に統治の事は全く分かりません、ですがヒナ様は女王になられるお方、使用人と女王では立場が違い過ぎます」
なら、自分の身分を上げれば良いだけだと思うんだが。
そこまで好いてはいないのか、本気で思い至らないのか。
《つまり、同志で有る事も重要だと思ってるんだな》
「はい」
そもそも、本当にそこは重要なんだろうか。
もし仮にヒナがほぼ万能なら、寧ろ能力は度外視になる筈。
ただ愛せる者だけを愛し、愛されるだけ、じゃダメなのか悪魔は。
《少し出掛けてくる》
「はい、行ってらっしゃいませ」
悪魔の問題は悪魔に、だろ。
《分かりますよ、私達に尋ねに来られた理由も経緯も》
《そうして愛を知る為に、アナタは私達を敢えて指名なさった》
《ですがグレモリー、彼は自身の事では無さそうです》
《そうですね、ですが良いでしょう、彼もまた悪魔の家族なのですから》
東欧美人とでも言うんだろうか。
黒髪に焼けた肌、金色の瞳の美女が艶めかしい民族衣装に身を包んでいる。
確か、サリー、だったか。
ウヴァルは学園の教師、グレモリーは監督所の指導員だった筈。
しかもウヴァルについては、先生らしい先生だとヒナから聞いていたんだが。
《随分と、聞いた印象と違うんだが》
《今は私用、今日はグレモリーに私の装いに付き合って頂いております》
《ウヴァルに性別は有りません、好きな時に好きな性別になれるのです》
《便利ですね》
《ふふふ》
《アナタこそ聞き及ぶ態度とは随分と違うご様子、さ、気を楽になさって下さい。我々はもう、家族なのですから》
《なら、いつも通りにさせて貰うが、俺に名が付いたから家族なのか》
《ふふふ、そうですよ》
《名すら与えられぬ雑魚はそこら中に居ます、ですが結局は自称に過ぎない、他者が認めてこそ名となるのです》
《雑魚か》
《ご安心下さい、いずれ悪魔が認める事は寧ろ決定事項でした》
《アナタが要求しなかったからこそ、与えられた素晴らしい名、役目から個へと移行した証》
《俺に個を与える意味は何なんだ》
《ふふふ》
《繁殖する権利を与えられた、番う事を定められた、と言っても差し支えないかと》
《困るんだが》
《あらあら、妖精種を誂っていたとは思えない自信の無さですね》
《アナタは見本、手本となるべく選ばれた存在、アナタが望まぬ道だろうと有るべき道が存在している》
だとしても、今の俺にはもう望めない。
《分かってるだろう》
《勿論》
《けれど、それは既に封印されている、アナタは新しく出会う事になる》
《違う、俺の事じゃ》
《アナタの思う通りです》
《悪魔は愛し愛されれば良い》
《それだけです》
《もう、全てが揃っているのですから》
ヒナには、確かにアズールで良い。
だが、俺には。
《そろそろ、お帰りになった方が宜しいかと》
《アナタの宝がアナタを必要としている》
《では、さようなら》
《またいつか、お会いする時が来るかも知れませんね》