表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/193

101 ヒナと父親。

 父親教室では、ヒナはずっと黙っていたが。


《どう思った》

『分かりません、父親と母親、何が違いますか』


《産む事の違いは分かっているんだよな》

『はい、でも別々にするのは何故ですか』


《何故なんだジュリア》


 この教室は全てが日本語。

 だからこそ、ジュリアは教室の外で記録係が書いた文章を読んでいたんだが。


《役割が違うから、女は家で働いて男は外で働く。家の中で男が働いてる場合も有るけど、微妙に仕事の内容が違う、それは子育ても同じ》


『何処が違って何処が同じですか』


《子供が寝込んだら世話をする、お父さんだからしない、お母さんだからするってワケじゃない》


『でも、お父さんが居ないとお母さんだけがする事になる筈ですが』

《うん、だからココでは親戚や祖父母も子育てする》


『居たけど遠くに居ました』

《うん、手伝ってって言われないと手伝わない、だからお母さんは言わなかったんじゃないかな》


『何故ですか』


 ジュリアにも合図を教えたんだが。

 言うのか、本当に。


《ウ〇コ》

《代わる、俺が説明するが良いか》

『はい』


《1つは手助けが不要だと思っていた、コレはかなり可能性が高い。ヒナが泣いたり騒いだりしてなかったお陰で、母親は困ってるとは思いもしなかった、気付けなかった》


『もう1つ有りますか』

《ヒナをヒナと見えていなかった。脳の病気で顔が認識されなくなる事が有る、それこそ精神的な負担から、そもそも姿が認識出来無くなる場合も有る》


『病気だったかも知れない』

《それか、あの公園に居た親みたいに、自分の事ばかり考えてたか。だがどちらにしろ、何かしら理由が有る、母親だっていきなり単一で産まれたワケじゃない。必ず、何かしらの理由が何処かに有る筈、後は納得する材料を後から揃えるか先に揃えるかだ》


『はい』


《悔しい、ちゃんとしてる。この、元詐欺師》

《おう、だろ》

『褒められるより喜んでます』


《素直じゃないから褒められて喜ぶのが難しいんだ》

『頭を撫でられて屈辱を感じてました』

《本当に素直じゃない、褒められたら喜ぶの、ちゃんと誤解してませんよって示すんだよ?》


『はい、こうします』

《指で、成程》

《先ずはココからな、でも苦い顔は直ぐに出来るもんな》


『アレは不味いです、こうです』


《可愛いっ》

《ほら、やっぱり可愛いんだよ》

『ちょっと不服です』


《だよねぇ、でも可愛い、良く出来ました》

『ハグをどうぞ』


《うん、ありがとう》


 コレで不安になって産まない、と決断されるのは。

 本当に、不本意でしか無いよな。


 本当。


『じゃあ、僕らはウ〇コに行こうか』


 連れウ〇コかよ。


《分かった》

『ジュリアと一緒にウ〇コはちょっと嫌です』

《分かるー、私も》


 いや、俺も本当なら嫌だ。




《1つ良いか》

『どうぞ、その為に離れたんだからね』


《本当に、俺で良いのか》

『うん、君の考える通りで良いと思うよ』


《本当に、良いんだろうか、俺のやり方で》

『僕は同意するよ、けれど綺麗事を言う君の中の反抗する者が騒ぐ』


《俺は子供を育てた事は》

『弟を守り育てた、そして君が育てた通り、真っ直ぐに育ち君との縁を切った。それに、経験が全てなら、君の母親の言う事が正しいと言う事になる』


《有り得て堪るか》

『しかもヒナは兄を望んだ、親じゃない、君は兄として居れば良いだけ。けれど、もしかして間違いじゃないのか、だね』


《あぁ、例えその場は良かれと思って言っていても、常に考える》

『万能の神では無い事は明らかなのに、何故、どうして完璧でなければならないと思い込んでいるんだろうか』


《失敗し、失望される事を恐れているから、だろうな》

『そうだね、しかも既に失敗した事が有る、失敗を恐れるのは当然だ。けれど、ネネが信頼し、悪魔達が。そう、悪い意味で、信頼していないんだね』


《アレは、今までで最も、苦しい罰だった》


 歳月には濃度が有る。


 薄まった塩味を感じない程度の海水か。

 砂糖も塩もすっかり溶け込んだ、ドロドロの何かか。


『歳月は液体だと思う、その中で泳ぐ時間が長ければ長い程苦しい、しかも傷にトウガラシが入ってしまう様なら。それはとても地獄で、罰で、償いであれと思わざるを得ない』


《もう、2度と、同じ思いはしたくない》

『だから失敗が怖い、戻される事が怖い』


《けれど、コレは俺への》

『人を殺したなら、心を殺してしまったなら分かる、けれど君は殺していない。見せて貰ったけれど、確かにアレは凶器にも成り得る、けれど人との関わりに不安を持つ者には薬となる』


《だとしても、資格も問わず俺は劇薬を売った》

『ダメだよ、被害者の言葉だけを信じるだなんてどうかしてる。時には被害者が間違う事だって有る、必ず正しく正確に証言出来るワケじゃない、と分かっている筈だよね』


《だとしても、被害者は被害者だ》


『まぁ、君がカモにされるのは構わないけれど、その偽被害者は味を占めただろうね』


《正直、どうだって良い》

『半ば自棄だった、けれど運が良かったのか守られたのか、君に被害は無かった。そこまで自棄になっていたんだね』


《いや、それで気が済むならと、その分は違う金から出した》

『違うかも知れない、それでも君は払った、償いになるかも知れないからと』


《俺だって八つ当たり先が欲しかった、困らないなら、俺がされても良いだろ》

『家族は、どうだったんだろうね』


《どうか分からない》

『見ないフリをしたんだね』


《ただただ、病人と思われない様に必死だった》

『償う為に、罰を受ける為に。けれどもし君が子供なら、ヒナの立場なら、それを君は許せるんだろうか』


《いや》

『何処かで夢だと思いながらも、償う事だけに捧げた。けれど、だからこそ君は歪んでもいる』


《何処かで何かを間違えても、気付けないかも知れない》

『言いたく無いんだね、彼女には』


《一生、言いたくない》

『そうだね、ジュリアがあんなにも態度を変えたんだからね。けれど、そこは心配しないで、言えば彼女は分かってくれるよ』


《どうすれば償いは終わると思う》

『なら君は、誰に終わったと言われたら納得が出来る』


《神、だな》

『それに近い存在なら居るよ、聞きたいかい』


《いや、まだ良い》

『けれど、先に進めるかい、しかもいずれ言う事になるかも知れない』


《すまない、煮え切らなくて》

『そうした姿を晒すのも良いと思うよ、ヒナが何故不安定になったのか。それは大人が泣き崩れたり寝込んだから、やはり何処かで大人は完璧な存在なんだよ、だから大きな基礎が揺らぐとは思わなかった。それだけ、誰にでも起こる事、親や大人は必ず完璧では無い事を知ったに過ぎない』


《確かに、母親が寝込んだ姿を見た事は無いらしいが》

『幸か不幸か、そうした機会が無く、似て非なる何かにしか思えない。だからこそ知りたい、分からない何かは不安な存在、だからこそ知り不安を払拭しようとしている。別に正しさばかりを示す必要は無い、ただ違う事は違うと言えば良い、それだけだよ』


《かなり、だらしない兄だぞ》

『それでも良いんだよ、裏表を知るのも女王の役目、良い面だけしか知らない者に統治なんて出来無い』


《虹の国が復活するらしいが、何か聞いてるか》

『面白い事が起こったらしいよ、いつか君も知れると良いね』


 少し彼は煮詰まっただけ。

 大丈夫、ゆっくりと濃度を適正に戻せば良い。




『長いウ〇コでした』

《だな、2mは出たな》


『そんなに入ってましたか』

《腸は長いからな》

《はいはい、で、コレからどうしようか?》

『僕らは僕らで話し合う事が有るじゃないか、今日も大変だっただろう、だから今日はもう休もう』


『はい、そうします、ジュリアもそうして下さい』


《うん、分かった、じゃあね》

『はい』

《ありがとう、助かった》

『いえいえ、またね』


『はい』


《ヒナ、父親と母親の違いを聞いたか》

『いいえ、聞いてません、好きな食べ物の事を話してました』


《そっか、何が好きなんだ》

『ビーフストロガノフだそうです、高いけどクリームが大好きだと言っていました』


《あぁ、高いんだよな、バター》

『嫌な事が有ると手作りするそうです、嫌な事が美味しくなるので楽しいと言っていました』


《ヒナもやってみるか》

『はい、生クリームも泡立ててみます』


《マジか、アレは大変だぞ》

『はい、頑張ります』


 流れに身を任せるのが、本当は1番なのかも知れない。

 ヒナは知る事に慎重になった。


 後は、俺が如何に歩幅を合わせるか。

 また、周囲と馴染めるか、だな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ