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100 父親教室。

 私のお母さんは間違って無い。

 ちゃんとしてた、悪く言われる筋合いなんて無い。


 あれ位、出来て当然だ。


『では、始めましょうか、シトリー騎士爵』

《はい、教官》


《何よ》


《私のお母さんはちゃんとしてた、お父さんが悪いんだ。アイツは何もしなかったクセに、偉そうな事ばかり言って、浮気までした。なのに、子供の為に離婚はするべきじゃない、浮気を訴えるなんて論外だって洗脳した。お母さんが悪いんじゃない、お母さんは悪く無い、悪いのは全部アイツだ》


《なん》

『成程、暴れたくなる気持ちも分かりますが、であれば当事者に怒りを向けるべき』

《その正論は重々承知ですが、大概の犯罪者は当事者へ狂気を向けず、無関係な者を凶行へ巻き込む》


『それは何故か』

《言うな》

《もしも父親に刃を向け失敗したら、もっと恐ろしい事が待っているから。怖かったから、だから無関係な相手を巻き込んだ》


《違う》

《父親を殺す気は無かった。ただ謝らせたかった、認めさせたかった、自分が失敗したとお父さんに認めて欲しかった》


《違う!死にたいからやっただけで!!》

《ごめんと謝ってくれていたら、あんな事はしなかった。私は悪くない、私は被害者だ、お父さんが全部悪いんだ》


《違う違う違う!!》

《でも、非を認めてくれなかった、謝ってくれなかった。だから死にたくなった、もう何もかもが無駄だと思った、生きる意味が見出せなかった》

『どの面でも、父親に依存していたのね』


《違う!》

『なら、父親とは無関係な場所で生きれば良かった筈。単独であり個別の人格を持つ、所詮は他人なのだと割り切れていたなら、父親に過ちを認めさせ謝罪させる事に固執しなかった筈』


《でも、家族だから》

『家族って、何でしょう、自分の世話をさせる為に子供を産むのが家族ですか』


《そんなの、間違ってる》

『そうでしょうか、育てた対価の報酬では』


《違う!子供は皆、自立して、また新たな家族を作るものなのに》

『そうしてアナタには正しい価値観と間違った価値観が緻密に織り交ぜられた、だからこそ葛藤し悩んだ』

《そこまでは良いんですが、アナタは大勢を巻き込んで、知らしめようとした》


 あんな父親を取り上げ持ち上げるなんて、世間が間違ってる、社会が間違ってる。

 もう、こんな世の中で生きていたくない、父親を認める世界で生きていたくない。


 間違ってる。


 こんな血、私なら広めない。

 苦しい、もう生きてたくない。


 だから死のう。

 出来るだけ大勢を巻き込んで、あの教育学者の娘が死刑になってやろう。


 許さない。

 死ねば良い。


 皆死ねば良い。




『確かに、世の中には性善説も性悪説も有りますが、結局はその殆どが家庭環境に依存する。戦乱の世ならまだしも、平和な世では、より家庭環境が子供に影響を及ぼす。ですが、簡単に親のせいだとは言わない。実際、その生まれ持った生来から小動物を殺したり放火する者も居る、だからこそ一概には言わない。ですが、それだけ。良く考えてもみて下さい、子は育てられた様にしか育たない、果たしてそれは子供の責任でしょうか』


「あのー」

『はい、どうぞ』


「今の子、大量殺人で捕まった子じゃ」

『はい、劣悪な環境の老人介護施設で老人を殺して回った、教育学者の娘さんです。だからこそ、世論は賛否で分かれた、とお伺いしておりますが。皆さんは、どうでしょうか、成人した子の罪は親に全く無関係でしょうか』


「それは、時と事情によるかと」

『そうですね、ではどの様な事情なら、議論の余地有りの位置まで持って行けるのか。皆さんで話し合ってみて下さい』


《俺はリセットして育て直して問題が起きなかったら、100%親のせいだと思う。結局は生来の気質だろうと何だろうと、それらを見過ごし見誤ったままに育てた親の責任が有る筈だ、次いで親族だ教師だ医者の責任になるとは思うが。もう既に情報が溢れてる社会なんだ、調べもしない、誤認識したままで子供を作る方がどうかしてる》


「それは、そうかも知れないけれど、どんな親でも立派に育つ子だって」

《ならアンタは敢えて子供に苦労を掛けたいのか。例え子供が立派に育とうとも、その苦労をさせたくないのが親心なんじゃないのか》


「そうだとは思う、でも」

《立派に育ったんだから良いじゃないか。それは単なる無能な親の言い訳じゃないのか、子の苦労を汲まず計算しないのが親か、それがアンタの思う親なのか》


「それは、違うけれど」

《成人したら大人だ、それに過剰な規制を掛けたら、本当に良い大人を苦しめる事になる。だから免許が無い、だけ。馬鹿は抜け道を探してあらゆる難癖を付け逃げる、車で言う自賠責に入るのが前提の世界の筈が、保険に入らず人を殺す奴が常に居るよな》


「まぁ、うん、定期的に見るね」

《免許を取るには試験が必要になる、試験を受けるには勉強が必要になる。けど、そんな環境は無いが、産むには問題が無い者が居たらどうなる》


「機会が、失われると思う」

《そんな余裕が無いなら、作るべきじゃない場合も有るが。気が弱いだけ、良く考える者の為、敢えて余白を持たしてくれているからこそ免許制じゃない。とは思わないか》


「それに、良い意味での曖昧な部分を、白黒付ける事になる」

《しかも大人が、強者が子供と言う弱者へ、コレが正解だと押し付ける事にもなる》


「うん、そうだね」

《子への配慮を怠るなら、必ず因果が巡る、下手をすれば結局は血族が途絶える。なら出来るだけ苦労を掛けないでくれた、そう子に恩を売る方が、子は勝手に育つと思うより遥かに優しい世界じゃないか》


「それが理想だけれど」

《しかも、例え免許制にしても、結局は抜け道が有れば使う奴が出る筈。更には車と同様、自賠責が大前提の筈が、性善説故に賠償されない事故が起きる。なら性悪説を前提に法を作るべきだとする、じゃあ、何処まで疑って掛かる》


 疑えばキリが無い。

 そして厳しくすればする程、真面目な者は子を成さず、甘く考える者だけが違法に子を成す。


 免許制だけで、被害に遭う子供は減らせない。

 覚悟だけで、苦労する子は減らせない。


『回数を重ね解説する事を、殆ど言われてしまいましたね』

《すみません》


『いえいえ、コレを予習だと思って皆さんも良く考えて下さい。時に人は流れから判断を誤る事も有ります、今一度、親とは何かを良く考えてみて下さい』

《はい、すみませんでした》


『いえ、因みにですが、苦労した方が良いと思う方が居るかも知れませんが。アナタの苦労と子の苦労は違う、受け取り方も何もかも、子は自身とは違う事だけは確実に理解して頂きたい』


「あの」

『はい、どうぞ』


「あの子は、どうなったんでしょうか」

『返されました、その方があの子の為になる、そう悪魔が判断した結果です』


「そうですか、ありがとうございました」

『では皆さん、ご機嫌よう』


 この数日で、彼は随分と変わった。

 一体、何を見たのでしょうね。


《少し、良いですか》

『はい、どうぞ』


《自身を理解して子を作らない道を選ぶ者が居る、ソイツらは少なくとも犯罪者は産んで無い、なのに産まないってだけで責める社会は次代遅れ過ぎる。アンタはいつだって間違って無かった、凄い、偉いと気付かされた》


 あぁ、きっと彼は何処かで母親を知った。

 良かった。


『ありがとう』

《いや、出しゃばって本当にすまなかった、本当に為になる講義だった》


『コチラこそ、また次も是非参加して下さい。アナタには十分に、父親の才能が有るんですから』


《本当に、有るんだろうか》

『1人で生きてきた、その自負が有る方には難しい事かも知れませんが、偶には年上の言う事を一旦鵜呑みにする事も大切ですよ』


《違うんだ、悪かった》

『いえいえ、自信が無い事こそ、養育者の資格の1つだと思います。ただ、その割合は出来るだけ少ない方が良い、そして大きな自負はあの親同様に身を滅ぼす』


《あの後、どうなるか言っても良いか》

『はい』


《俺の知る流れは、あの子は歪んだ自叙伝を書き、結局世論は有耶無耶になった》

『なら、もしあの子に記憶が残っていたなら、もう少し違う未来になるかも知れませんね』


《その方が、少しは被害者や遺族の為になるんじゃないかと思う。単なる無意味な殺人より、誰かが何かを学べる方が、少しはマシだと思う》


『残念ですが同意します、マトモになるのは大変でしょう、否定されない苦しみが有る。いつか、勝手に自身を許せるようになります。ですから無理に許す必要も無い、許そうと思わなくても良い、いつか勝手に許せるまで責めまくって構いませんよ。誰も傷付けないなら』


《但し書きな、有る筈なのに、つい忘れる》

『それが人です、それにリスは餌を埋めた場所を忘れる。生き物の定めです、完璧では無いからこその生き物、私達は神でも悪魔でも無い』


《すまない、アンタを疑ってるワケじゃないんだが》

『いえいえ、消化には個人差が有る、日進月歩で参りましょう』


《ありがとう、本当に助かる》

『はい、では、また』


 免許制も、1度は私も考えました。

 ですが、コレは人事と同じく、誰かが誰かを査定する事になる。


 良いか悪いか、誰が決めるのか。

 その誰かを決めるのは誰か、では、その誰かを決める誰かを決めるのは誰か。


 仮に、国が定めたとしましょう。

 国を信じぬ者が反対すれば、その制度は成立しないか、破壊されるか。


 では、国連が決めるとしましょう。

 なら国連が決める事が全て正しいのか、何処かの国の影響を全く受けていないのか。


 違いますね。

 では、どう決めるのか。


 様々な地域、様々な場所により子育ての方法は変わってくる。

 しかも子の個体差も有るなら。


 答えは無数に存在する。

 だからこそ、手引き書が存在する。


 その地域、その環境、その子に合った子育てを考える為の材料に過ぎない。

 そして、それらを考えるのが親。


 まぁ、出来無いなら産むな、は同意です。

 その地域で子育てを代行する事になるのですから。


 あぁ、ですが訂正します。

 それらを許す地域で産め、ですね。


「先生、今、大丈夫でしょうか」

『はい、どうぞ』

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