表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/194

98 ジュリアとロミオと兄と抱っこ星人。

 あの長い夢のせいで、忘れそうになっていたが。

 ヒナの事だ。


 普通の家を体験した直後、第2回赤ちゃん返りが起き。

 俺が暫く目覚めなかった事で、第3回が現在進行中だ。


 しかも抱っこだけじゃなく、セミごっこまで。


 だからこそ、ジュリアとロミオに相談するべく、覚悟を決め図書館へ来たんだが。

 正直、あの2人に謗られるのは腹が立つ。


 ネネなら良いんだ、ネネなら。


『やぁ、ヒナは居ないのかな』

《執事とガラス工房だ、ココでも通う気らしい》


『そう、単独で来るとは良い度胸だね』

《頼めるか》

《良いわ、受けて立ってやるわよ》


 ロミオはどうだか分からんが、間違い無くジュリアは血反吐仲間だ。

 だから、俺はジュリアが嫌なんだろうか。


《実は、少し前なんだが》

《ほうほう》


 ざっと説明し、先ずは普通の家を見せるのが早かったのか、だが。


『それこそ普通を知り、何が違うのかを考えているだけじゃないんだろうか』

《んー、私もそう思う》

《だけ、なんだろうか。アイツ、悲しんでるのかどうなのか、さっぱり分からないんだ》


『あぁ、表情や仕草でしか人種は感じ取れないからね』

《しかも純粋な人種だし、不安なのは分かるけど、聞けない?》


《正直、俺の方の覚悟が出来て無い》

《どう》


《どれが、どんな事実が、最も辛いんだろうか》




 私に、もしこの図書館が無かったら。

 シルキーもバンシーも居なかったら。


 私が、同じ様にされていたら。


《うん、どれも嫌、全部嫌。私が嫌いでも無理、私が嫌いじゃなかったのに放置も無理、父親も母親も全部大嫌い》


《俺も、そう思う》


《つまり、ヒナが許せない場合、どうしたら良いかって事?》

《必ず殺すだろう、でも俺やネネは、そうして欲しくない》


 確かに、ネネさんは嫌がるだろうし、私も嫌だけど。


《嫌だけど、私なら全く同じ目に遭って、1回は死んで貰いたいな》

《そうなるのを避けたい》

『なら君が殺せば良いんだよ、誰かの手を汚させたく無いなら、君がやれば良い。僕はそうするよ』


《えー、んー》

『ヒナが止めるかは賭けだけれど、止めて初めて説得出来るんじゃないかな』


《あー、うん》

『それとも、今更善人ぶるのかい』


《償いは、してきたつもりだ》


《ん?どう言う事?》




 女王ヒナの為なのか、彼の為なのか。

 精霊が力を貸し、向こうで償わせ、言葉を与えたらしい。


《償いきれたとは思わないが、もう、手を汚すつもりは無い》


 どうやら、彼は最後まで生きたらしい。

 そうなると、話は変わる。


『なら、君は君を信じるしか無い』

《だが、俺は向こうでも、家庭も子も持たなかった》

《何となくは分かるけど、何でよ》


 畏怖、恐怖。


《奪われるのが怖かった、どちらも中途半端にするのが嫌だった、その気になれなかった》


《アンタ、まさか、禁欲的に生きて最後まで生きたって言うんじゃ》

《戻って来れた事に、罪悪感と安堵感が有る》

『だからこそ、余計に償いきれたかどうか不安だ、自身の判断に不安が残る』


《あぁ》

《バカ、早く言いなさいよ、絶対に凄い大変だったじゃない》


《同情しないでくれ、頼む、責められてる方がまだ楽なんだ》

『だから言わないつもりだった、認められると不安になる、苦痛が無ければ安心が出来無い』


《あぁ》

『ドMだね』


《じゃあ、そう言う性癖の相手と一緒になれば》

『幸福が怖い、失ったモノが与えられ、また奪われ与えられた』


《こうなるなんて、幸せが怖いとか馬鹿な事だとしか、本当にこうなるとは思わなかった》

『原理は分かっているね、なら先ずは君が克服すべきだ、ヒナの事はその後』


《いや、せめて同時並行させてくれ、今はヒナの事を考えたい》

『まだ日が浅いんだね』


《あぁ、眠る時が1番、怖い》


 精霊は残酷で優しい。

 償いの機会を与え、言葉を与え、失う恐怖と幸福感への恐怖を与えた。


『なら、話を戻そう。突き詰めると、ヒナに幸福な家庭だけを見せるべきかどうか、じゃないだろうか』


《極論》

《だが、事実だな》

『君はどう思う』


 例え母親が居ようとも、辛い思いをする者が居る。

 居れば良いだけなら、子が親から離れる事はしない筈。


 けれどココですら、子が親から離れる事は有る。


《いや、色々な家庭を知るべきだ》

『なら、どの程度、どの位』


《分からない、分からないが、暫くそのままに》

『良いね、実に人種らしい視野狭窄だよ、君は今も子供のままなんだね』


 自分を重ね、今でも視点は子供のまま。

 けれど、君はもう大人の筈だ。


《あっ》

『彼から出るまで待ってあげて』


 知る事には多面性が必要となる、様々な家庭を知るのは確かに正しい。

 けれども、問題は誰の視点か。


《酷い母親の視点を見せるのは、流石に》

『なら大勢の母親の中に放り込めば良い、母親教室に連れて行ったらどうだい』


《それは、血反吐の海を作るのは流石に》

『すっかり向こうに染まっているね、ココの倫理観や死生観は向こうとは違う、君も体験すると良い』

《も?》


『ヒナも君も、だよ』

《まさか》

《違う違う、でも、いつかは行くべきだとは思うんだけど》


『先ずは他を見て、ヒナが行く場所も大丈夫かどうか、確認しないとね』

《あー、ぅうー》

《単独で行くのは構わないが、ヒナの言葉はかなりキツいぞ》


『事実なんだから仕方が無いよ、産んだ子に恨まれない、だなんて言うのは夢見がちな理想に過ぎない。だからこそ、ココにだって施設が有る、手引き書が有るんだから』

《流石にコレは失敗しないだろう、考えさせ過ぎても良い事は。お前、俺に言わせる為に》

《えっ、何、どう言う事》


《アンタを褒めさせる為に、コイツは無茶を》

『いや、行って貰おうと思っているのも事実だよ、確認せずヒナに行かせた方が遥かに後悔する筈だからね』


《まぁ、そうだけど。って言うか、認めてくれてるの?》


《悔しいけどな》

『自分より苦労していないのに、分かってる、じゃあ俺の苦労は何だったんだ』


《そこまでは言わないが、似た感情が無いとは言い切れない》

《歯切れ悪い、似た話し方になってるよ?》


《こう敬いの欠片も無いのが、どうしてか腹が立つ》

『それは認められていると思っていないから、けど違う筈、最後まで突き通せた事に感服している筈だよ』

《って言うか馬鹿だよ、何でそこまでするの、何処かで区切らないとずっと辛いだけだよ?》


『楽になるのが怖かった、ジュリアにはまだ分からない事だろうけど、分からなくても良いよ』

《それは本当に、分かってくれなくて良い》

《分かんないけど、辛かったでしょ?ネネさんだってそこまでして欲しいって思わないんじゃない?》


《いや、アイツなら。もう良い》

『コレだよ、本当に好いているらしい』

《えっ》


《だから嫌だったんだ》

『大丈夫、言わないよね?』

《何で》


《ほらコレだ》

『まぁ、考えておいてよ、ヒナも行く前提でね』

《ちょっと》


『はいはい、今から教えるから、彼は放っておいてあげよう』

《ちょ、私、アンタの事は認めてるから》

《はいはい、じゃあな》


《ちゃんと認めたからね!》

『はいはい、行こう』


 認められると、自分を疑いたくなる。

 幸福になると、幸せや現実を疑いたくなる。


《何でよ》

『以前の君と同じ、不安なんだよ。いつか壊れるだろう、その事ばかりで頭がいっぱいになり、幸福を受け入れられなかった』


《でも、言わないなんて》

『何度も何度も、繰り返し考えた。そうすれば良かったか、どうすれば出会えたか、どうすれ振り向かせる事が出来るか。でも、答えは見つからない、有っても本当に得られるか怪しい』


 何年も何十年も、彼はその妄想を支えに生きた。

 もし行動し、想定と違ったら、彼は更に悲しみを抱える事になる。


 やっぱり無理だった。

 そう絶望する事になる。


《でも》

『無いよ、彼は賢い、しかも僕らより彼女を知っている』


 だからこそ出た答を、だからこそ正解を封印し続けたい。

 諦めた想いを、諦めたままにさせる為に。


 もう、絶望しない為に。


《でもまだ、結婚もして無いのに》

『時間の問題、だから諦めようと改めて考えた、僕ら外野は触れない方が良い』


 死に物狂いで諦めたなら、焚き付けるのはあまりに酷だ。

 彼の努力を踏み躙る行為となる。


《私には、分かんない》

『知らなくても良い事が有る、僕は知らなくても問題が無いと思う、寧ろそのままであって欲しい』


 君の恋焦がれる相手は、僕だけで良いんだから。

 僕は、そんな思いはさせないのだから。





《ヒナ、明日俺は勉強に行く、母親の勉強をしに行く》


『産むんですか』

《いや、俺は向こうでも子供が居なかった、だから先ずは母親になる準備をする教室に行ってみようと思う》


『向こうには、無いんですか』

《有るには有ったが、妊婦自身か妊婦が家族に居る場合のみなんだ》


『何が知れると思いますか』


《ココの母親、向こうの母親、その違いだな》

『知ってどうなりますか』


《ヒナに俺が正しいと思える答えを出す材料になる》

『今は不足してますか』


《あぁ、足りないと思ってる》

『いつ足りると思えますか』


《分からない、分からないが、全く分からないが少し分かったに変わる時期が来る》

『それまで通いますか』


《あぁ、そうするつもりだ。ヒナは、知りたいか》


 知るのが怖くなりました。

 お兄様は2回も知って、2回泣きました。


 私も同じ様に泣いた事が有ります。

 アレは苦しくて悲しくて、いっぱいになるので嫌です。


『怖い気がします、前も、その前も泣いてました』

《あぁ、大泣きしたな》


『私の意図せず嫌な思いをして欲しくは有りません、私も嫌な思いをしたく有りません』

《なー、言語化してくれて、本当に助かる》


『私が傷付くべき言葉を言って傷付くのは当然です、でも他はダメです、どうすれば良いか分かりません』

《そっか、そこか、悪かった。次からは気になったら先ずは尋ねてくれ、俺も言語化出来たら出来るだけ要望を言う、因みに今はもっと思う通りに言って欲しい》


『自分から傷付きに行く事は、今は避けて欲しいです、今は落ち着いて平穏です』

《だよな、分かる、けどロミオからの助言なんだ。ヒナも同行させる前提で考えろって、だから考えた、ヒナにも知る権利が有る》


『知って悲しいは今は要らないです』

《だよな、けど悲しまずに知れるかも知れない》


『けど悲しいが起きるかも知れない』

《なら一緒に悲しんだり、構ったり、構わない様にすれば良い》


『どうして欲しいか言って下さい』

《おう、悪かった、次からはちゃんと言う》


『私は抱っこしたくても出来ませんが』

《確かにな、ならハグをどうぞ、だな》


『ハグをどうぞ』

《おう》


 高いです。


 抱っこは好きです。

 暖かいし匂いがします。


『悲しいを一緒にする意味は何ですか』

《共感、意識の一致、仲間意識を強める》


『家族なのにしますか』

《家族でもする、でも違っても良い、何でも一緒じゃなくても良い》


『家族って何ですか』

《それな、俺も分からない、けど支え合ったり一緒に何かをするのが家族だと思う》


『じゃあ一緒に行きます』

《なら約束だ、悲しいが来たらウ〇コって言う》


『いきなりウ〇コって言って良いんですか』

《おう、合図だから分かり易い方が良いだろ、そうウ〇コって大人は言わないしな》


『ネネさんは言います』

《アレはもう、ネネとの合図は違う言葉にしよう、次にネネと一緒に考えよう》


『はい、そうします』


《ウ〇コ》

『何で悲しいですか』


《いや、ウ〇コしてくるわ》

『紛らわしいです』


《だな、なら挙手からのウ〇コはどうだ》

『それもです、どっちのウ〇コですか』


《マジな方》

『分かりました、降ります』


《ダメだ、家族なんだから一緒で良いだろ》

『それは良くないと思います』


《いやいや、家族各々、其々だ其々》

『コレが何か分かりますか』


《嘔吐剤、1人で行ってくる》

『はい、行ってらっしゃいませ』


 悪戯を抑えるのには最適です、流石ネネさんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ