表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

人の弱さ

なんだかよくわからないやりとりで一通り笑った後


急に深刻な表情を浮かべた唯は、思いつめたような目でジッとこちらを見てきたのである。


「どうした、急に?」


「別に……何でもないよ」


又何か言いたい事でもあるのだろうか?言いたくない事ならば無理に聞かない方がいいのだろうが……


だが俺は今までの会話で少し気になったことがあった


この加納唯という美少女はやや思い込みが強いモノの決して人とコミュニケーションが苦手というタイプには見えない


だが人と関わる事をやや怖がっている様なところが見受けられるな、少し聞いてみるか。


「なあ唯、一つ聞いていいか?答えたくなかったら答えなくていいから」


「何よ、あらたまって」


「唯を見ていると人とのコミュニケーションが苦手な様には見えない


【コミュ障】 と呼ばれる人間にはどうしても見えないという事だ、しかしお前は電話で言ったよな?


〈私友達がいないから……〉と、どういう事だ?」


すると唯は顔を歪めて視線を逸らした。


「言いたくなければいい、人には色々な事情があるしな」


「言いたくはない……でも聞いて欲しい気持ちもあるの……」


「言いたくないのなら言わなくていい、聞いて欲しいのなら聞く


俺で良ければ意見や感想も言う、あくまで唯の意向次第だ」


その言葉を聞いてさらに目を細めこちらを見てきた。


「何か、ズルい、今の流れなら強く聞いてくれれば話してしまうのに……大人の対応って感じ」


「大人だからな、でも人に促されて言わされるのはダメだ


言うのならば自分の意志で言え、俺は唯にはそうあって欲しいと思っているからな


これが正しいのか間違っているのかなど知らん、俺が勝手にそう思っているからそう言っただけだ」


「本当にズルいね……でもありがとう、冷たいのか優しいのかよくわからないけれど」


「そういうモノだ、優しいも冷たいもモノの取り方次第って事だな」


「わかった、じゃあ聞いてくれる?」


「ああ、話してみろ」


唯はコクリと小さく頷き静かに語り始めた。


「私ね、仲の良かった友達いたの、でもある日から急に話さなくなった」


「何かあったのか?」


「うん、実はクラスに嫌な女がいてね、クラスの中心的な人物って奴?


わがままで気が強くて、自分が中心じゃ無ければ嫌ってタイプ


そいつがある日クラスの子をいじめていたのよ


いじめられていたのはおとなしい子で何も言い返す事は出来なかったの。


私そういう事大嫌いだから、代わりに言ってやったのよ〈アンタのやっている事は最低だって〉


そうしたら次の日から誰も私と話さなくなった、今まで友達と思っていた人まで私を無視したのよ


信じられなかった、友達だと思っていたのに……」


なるほど、唯の性格上、弱い者いじめとか我慢できないのだろう


持ち前の正義感でそれを咎めたらクラスの中心人物に嫌われてクラス中から無視された……という訳か


自分は正しい事をしているのに友達にまで裏切られたのがショックだった訳だな。


「それで、どうなったのだ?」


「どうもなっていないわ、それが高校二年生の時よ、クラスで無視された私は遊ぶ相手もいなくなったから


以前スカウトされた事務所に連絡してコンテスト受けたの」


「それが【国民的美少女コンテスト】という訳か……なるほど」


「そうしたらクラスの連中、手のひらを返したように私にすり寄って来たのよ


今まで散々無視してきたくせに、信じられる?」


「それで、クラスの連中や友達とは仲直りしたのか?」


「するわけないじゃない、あんな裏切り者たち、どんな神経しているのかしら?


それ以来クラスの連中とは一切口を聞いていないわ」


「なるほど、大体わかった、それで、何か言いたい事とか聞きたい事はあるか?


それとも言えただけでスッキリしたか?」


「わかんない、私は間違っていなかったと思う、でも正しかったのか?と言われると


自信を持って〈あの時の対応は正しかった〉とは……」


「それが正解だよ」


「それって、どれよ?」


「その言葉の通りだ、唯のやったことは倫理的に正しい、いじめなんか最低の行為だしそれを咎めたお前の行為は正しい


だが世の中というのは理不尽なモノだ、いつの時代もいじめはなくならないし


強い奴が弱い奴をいじめるのは人間の本能みたいなものだ


しかもあいつらはそれを悪いと思っていないから質が悪い。


自分が悪い奴だと認められるほど強い精神を持った人間などそうはいない


だから悪いのは全て他人のせいにする、つまりいじめていた奴からすると


【いじめられている奴が悪いし、それを咎める唯が悪い】という理論が成り立つのだよ」


「何よ、それ⁉滅茶苦茶じゃない‼」

 

「ああ滅茶苦茶だ、しかし本人がそれを滅茶苦茶だと思わないから厄介なのだ


悪いのは全て他人だからな、要するに頭が悪いのだ、だからお前がやった行為は言い換えれば

 

〈九九の出来ない子供に方程式を教えている〉みたいなモノだ


理解のできない人間に理解させようとした事自体がそもそもの間違いなのだ」


「じゃあどうすれば良かったのよ?」


「世の中で犯罪が起きたら警察に通補するだろう?だから唯もそうすれば良かったのかもしれん


理不尽な力を振りかざす奴にはもっと大きな力で対抗する


教師とか教育委員会とかいじめ対策の電話相談とか、よく知らないが


そういった大人の力を借りる以外多分解決は無理だろう」


「でもそれって、告げ口しているみたいで何か嫌だな


教師だって薄々気づいていたはずなのに何もしてこなかったし……」


「相手が小ずるい手段を使って姑息に立ち回っているのに、どうしてこちらだけが正当な手段で


しかもたった一人で立ち向かわなければならないのだ?


しかも向こうは卑怯なのに対しこちらは正当な手段だ、何も後ろめたいことは無い。


まあそうはいっても、教師や学校が全て解決してくれるのなら世の中いじめなんか無くなっているよ


あくまで効率とか確率の問題だ、自分でやるより大人に任せた方が確率的に良かった……


というだけの話で解決できたか?と聞かれたらかなり怪しいな」


「身もフタもないわね……」


「当り前だ、数十年前から未解決の教育問題を俺が解決できる訳無いだろう?


それにいじめというのは学校だけじゃない、会社に行っても普通にある


上司や得意先の理不尽な言い分の前に悪くも無いのにどれだけ頭を下げた事か……


だが会社にも労働組合の対応やパワハラ問題で近年は良くなった方だ


【正義は必ず勝つ】とは言わないが【勝つために最も効率の良い手段はある】といったほうがいいかな」


「何か力づけられる話ではなかったけれど、何となくすっきりしたわ」

 

「そういう事だ、要するに〈馬鹿の相手をすることは時間の無駄〉これに尽きる


そういういじめをしていた人間が大人になってワイドショーなどを見て


〈いじめって嫌だわ……〉とか言っているのだ、頭がおかしいだろ?」


「確かに、馬鹿ね……」


「あと、友達の事だが、俺にも似たような経験がある。


自分は親身になって友達の事を思いアレコレやっていたのだが


相手はそれほど気にしていなくて平気で裏切る、よくある事だ」


「よくある事なの⁉」


「ああ、昔の知り合いで俺が思い当たるだけでも三人いる


人間なんてそんなものだ、ほとんどの人間は弱い、肉体的ではなく精神的に


そして自分が可愛い、だから自分を守る為ならば平気で人を裏切る


そしてそれを自分の中で正当化する、さっきと同じだ


だがそうでない人間も確実にいる、そういった人間を見極める事が重要だ


滅茶苦茶難しいけれどな、だが裏切られたことがある人間はそれが少しわかる様になってくる


人間は経験し学ぶ生き物だからな、だから学生の時に裏切られた経験をしているというのは


ある意味貴重な事なのかもしれないぞ、騙された事の無い人間は人をすぐ信じるからな


そして大人になる程騙された時、取り返しがつかない事になるモノだ。

 

将来弁護士になりたいのなら聞いたことぐらいはあるだろう?


【依頼人は嘘をつく】と、人間根っから悪い奴はほとんどいないが


弱さゆえに悪い事をする人間は結構いるという事を覚えておくといい」


「わかった、頭に入れておく、それにしても駿介は独特の考え方をするのね」


「まあな、そして俺の考えもあくまで〈個人的見解〉という事を覚えておいてくれ


あまり夢のある話ではなかったが参考になったか?」


「うん、ありがとう……それでね、駿介、ついでと言っては変だけれど、私がなぜ弁護士になりたいか、聞いてくれる?」


「ああ、もちろん」


「じゃあ話すね、私の両親は弁護士だったの……」


「そうなのか、じゃあ唯の頭の良さは親譲りという訳なのだな」


「そうなるのかな……私のパパとママは正義感が強くて志の高い弁護士だったのよ、だけれど……」


その時、唯が見せた表情は非常に悲しいモノであった


何か余程辛いことがあったのだろう、言葉にするのにも決意を必要としている、そんな印象を受けた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ