デート未満
「遅いな……何をやっているのだ?」
スマホに視線を移し時間と着信を確認すると時刻は10時20分
電話もメールも着信は無い、待ち合わせは確か10時のはずだが……
待つこと30分、電話で催促してやろうかと思っていた矢先やっと姿を見せた加納唯。
「お待たせ~待った?」
「おせーよ、何をやっていたのだ⁉」
「そんな風に言わなくてもいいじゃない、女の子は色々準備があるのだし……」
「デートじゃないのだぞ、そんな言い訳が通じるか‼そもそも今回はお前が謝罪とお礼がしたいっていうから……」
「お前じゃなくて唯‼」
「ああそうだった……悪い、じゃなくて、モノの道理を話しているのだ」
「いいじゃない細かい事は、じゃあ何処に行く?今日はお礼として私が何でもおごるわ、好きな所でいいわよ駿介」
コイツはそれほど仲がいい訳でも無い年上の男性の事を下の名前で呼び捨てする事に抵抗は無いのだろうか?
俺の様な体育会系で育ってきた人間にしてみるとどうにも理解できないのだが……
まあいい、そんな事を言い出したらまた言い争いになるし、どうせ今日だけの話だ。
「別にどこでもいいよ」
「何それ、こういう時には普通、男がエスコートするモノじゃないの?」
「だ か ら 俺とお前はデートしている訳じゃないと何度言えば……」
「お前じゃなくて唯、何度言えばわかるのよ‼」
「ああ、悪い……じゃなくて、何処でもいいのだな?」
「ええ、いいわよ」
俺は仕方がなくある店へと移動する、そんな俺の後ろでどこか嬉しそうについてくる唯だったが
その店に着いた途端、不機嫌な表情へと変わったのである。
「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりですか、ご注文は?」
「ホットコーヒー、サイズはTallで」
「かしこまりました、そちらのお客様は?」
まだ不機嫌な表情の唯、目を細めてジッとこちらを見ている。
「どうした?早く注文しろよ」
「じゃあ、クラシックチョコガートで……」
「かしこまりました、ご注文の方を……」
飲み物を持って店内の席へと移動するが最初のテンションは何処へ、懐疑的な眼差しでジッと俺を見つめて来る唯。
「何だよ、何か文句でも言いたいのか?」
「どうして、【スターボックス】なのよ?」
「どこでもいいと言ったじゃないか」
「どこでもいいとは言ったけれど、私はお礼として招待しているのだから
普通はもっと高級な所とかオシャレな店ではないの?どうして【スタボ】なのよ⁉」
「いいじゃないか、安く済むのだし、【スタボ】には毎日のように来ているから雰囲気的に落ち着くのだよ」
「毎日来ている所に、何でわざわざ来るのよ‼︎意味が分からないわ、どういう神経しているのよ‼」
「俺がここでいいって言っているのだ、大体俺に決めろと言ってきたのはお前じゃないか⁉
そっちこそどういう神経しているのだよ」
「お前じゃなくて唯‼」
「ああ悪い……じゃなくて、俺は一応社会人だぞ⁉女子高生におごられるのに高級店とか行けるか‼
女子高生のお小遣いなんか、たかが知れているだろう」
「私、働いているし、お金あるもん」
「バイトでもしているのか?でも学校行きながらのバイトとかだとそれ程大金がもらえる訳でも無いだろうし……
それともお嬢様なのか?」
「違うわよ、私モデルのお仕事をしているの、だからそれなりに収入はあるわ」
モデルの仕事?確かにコイツは見た目だけは可愛い、今日は眼鏡も無いしコンタクトなのか?
アレ?そういえば、コイツの顔、どこかで……
「今日はメガネはないのだな?」
「まあ、アレ伊達メガネだし」
「ふ〜ん、じゃあ元々目は悪くないのか……あれ?
そういえばお前……じゃなくて唯の顔、どこかで見たことがある様な……
そうだ、テレビのCMに出ていなかったか?確かどこかの企業のイメージ広告で……」
「そうよ、テレビCMも三本させてもらっているわ、だからお金あるの、どう?少しは見直した?」
「いや、少し驚いたが、それとは別に見直すどころか逆に呆れたよ」
「どうしてよ‼」
「あのなあ、テレビのCMをやっているのならばイメージというモノが一番大事だろうが
なのにあんな誰彼構わず噛み付くような真似しやがって
問題にでもなったら莫大な違約金を払わされるのだぞ、どれだけの人間に迷惑をかける事になると思っている」
「うっ、それは……」
「わかったならあんな事はもうしない事だ。いいな、約束しろ」
「わかったわよ……約束する」
「よし、ならいい、で?お前……じゃなくて唯は一体いくつなのだ?」
「私は今年で十八歳、高校三年生よ」
「えっ、高校三年生といったら受験真っただ中じゃないか⁉こんな所で油売っていて、大丈夫なのか……って
モデルの仕事なら学歴は関係ないか」
「別に、モデルはずっと続けるつもりも無いし、受験はするわよ」
「だったら、こんな所で遊んでいたらダメだろ⁉家に帰って勉強しろ‼」
「大丈夫よ、私頭いいもん」
何だよ、それ……だが自分で頭がいいとか言っている奴は天才か馬鹿かのどちらかだ
どうみてもコイツは後者だろう、まあ今は名前さえ書ければ入れる大学もあるしな。
「で、大事な時期の受験生がこんな所で油を売っていて、親御さんは何も言わないのか?」
「大丈夫よ、ウチ、親いないし」
「そうか……それは悪い事を聞いたな、スマン」
「別にいいわよ、隠してないし……私はおじいちゃんと二人暮らしなの、じゃあ今度は私が駿介のこと聞いていい?」
「えっ、別にかまわないが、俺のこと何か聞いても退屈なだけだぜ」
「いいの、じゃあ年齢、職業、特技、趣味、自分の性格などを簡潔に述べてみなさい」
「何だよ、それ?就職面接か?」
「就職面接ってこういう感じなの?」
「いや、ちょっと違うが……まあ似たようなモノか、でも何でそんな事知りたいのだ?」
「いいから、言いなさい、さあ早く‼」
何でコイツはそんな事が知りたいのだ、俺に気でもあるのか?
いやそれは無いな、何せ俺の事を変質者扱いした挙句、言いたいこと言って来たから結構いじめたし、単なる好奇心か……
「え~っと、俺の名は野崎駿介、年齢二十五歳、独身、青山田学院大学出身
会社員、仕事は客の運用用件に合わせ総合運用管理ソフトウェアを基盤とした運用管理システムの設計から構築までを……
ってわからんわな、お客に管理ソフトを提案して管理する営業だ。」
「ふ~ん、仕事は営業をしているのか……」
「名刺にも書いてあったろうが、まあいい、趣味は漫画読む事とゲームする事
その辺は高校生の男子とそう変わらないだろう
特技は子供の頃から大学までずっと柔道をやっていたので一応黒帯の三段を持っている」
「あの時言っていたことはハッタリじゃなかったのね?」
「ハッタリって……俺の事を何だと思っているのだよ?」
「最初は嘘つきの変態野郎と思っていたわ」
「じゃあ今はどうなのだよ?」
「まあ普通かしら、可も無く不可も無く……いい人とは思っているけれど」
「あのなあ、男にとって〈いい人〉とか、最悪の評価に等しいぞ、それはつまり〈どうでもいい人〉ということだからな」
「わかっているじゃない、で、駿介は将来の夢とかあるの?」
「とくには無いな、今付き合っている彼女と結婚したいな……とは思っているが」
「ふ~ん、彼女いるのか……」
「いないと思ったのか?どうせ俺は欲求不満の変態野郎に見えたのだろうよ
だがもし俺に気が合ったのならば残念だったな、今の俺は彼女とラブラブだ」
「じょ、冗談じゃないわよ、私こう見えてもモテるのよ⁉誰が貴方みたいな嘘つき変態野郎と、うぬぼれないでよ‼」
「冗談だろうが、ただ唯の反応が面白そうだから言ってみただけだ
予想通りの、いや予想以上の反応で中々楽しめたぞ、ハッハッハ」
「ムカつく……駿介、アンタって人は、本当に性格悪いわね、私これでも結構プライド高いのよ
それを子ども扱いしてからかってばかり……後で後悔しても知らないわよ‼」
「ハイハイ、だが何の後悔だよ?俺が唯に惚れるとか?無い、無い」
「どうしてよ?私結構可愛いと思うけれど」
「唯……忠告までに言っておくが自分で自分の事を可愛いとかいう女は引くぞ」
「客観的に見てそう判断しているだけよ、一応モデルとしてお仕事している訳だし
逆に自分の事を内心可愛いと思っている癖に〈え~、私なんかダメですう~〉
とか言っている女の方が余程ムカつくと思うけれど」
「そこは男と女の感じ方の違いだな、確かに〈ぶりっ子〉とか女には嫌われそうだが
自信満々に〈私は美人〉とか言っている女よりはマシだ」
「ふ~ん、駿介はそういう女の人が好みなの?もしかして彼女もそういうタイプ?」
「いや、そういう訳じゃない、あくまでどちらかというと……というだけの話だ
ちなみに俺の彼女もそういうタイプではないし、唯と同じく〈ぶりっ子〉が嫌いだ」
「その彼女の何処に惚れたの?」
「ば、馬鹿、そんな恥ずかしい事言えるか⁉」
「どうしてよ、好きなら言えばいいじゃない」
「ええい、もうこの話は止め、終了、お仕舞い‼」
俺と唯はしばらくそんな他愛もない話をした、唯はとにかく感情が目まぐるしく変わる
つい先ほど満面の笑みを浮かべていたかと思えば数秒後には激怒している
とにかく感情が態度に出やすい、よく言えば素直、悪く言えば単純といった印象を受けた
日向とも違う、女友達の誰とも違う、今まで味わった事の無い何か不思議な楽しさと高揚感
不思議な心地よさとでもいうべきか、ここのところあまり仕事は上手くいっておらず
日向ともややすれ違いの中で久しぶりに新鮮で楽しい週末を過ごせた気がした。
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