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女の想いと男の言い分

暗い表情で俯きながらポツンとベンチに座っている唯がいた


俺はホッとしたと同時に〈ここに居てくれた〉という事が嬉しかった


だがどうしてこうなったのかは全くわからない、本人に確かめたい、確かめずにはいられない


俺だって唯に会いたいのを我慢して唯の夢を応援すると決めたのだ、それなのに……


俺は複雑な心境のままゆっくりと唯に近づいていく


ベンチでうなだれて下を向きながら座っている唯は俺の存在に気が付かない


唯の目の前に立ち無言のまま見下ろすとようやく気が付いたのか


唯はゆっくりと顔を上げ俺の顔をマジマジと見つめてきたのだ。


「駿介……どうして、ここに?」


「どうしてじゃない、唯の事務所の女社長さんから電話があって、〈唯がいなくなった〉と聞いて探しに来た


俺にはここしか思いつかなかったからここに来た、それだけだ」


「そう、なんだ……」


「どうした唯、仕事をほっぽり出すとか唯らしくない、何があった?」


「私らしくない、か……何か無いとダメ?」  


まるで寝ぼけているような力無い言葉を発する唯、俺にどんな言葉をかけて欲しくてその質問をしたのだ?


普段がわかりやすい性格だけにこうなってしまうとサッパリわからない。


くそっ、やっぱり俺は唯の事もまるでわかっていないじゃねーか⁉︎


だがここは……


「意味が分からない、とにかくここを出るぞ」


唯の手を引っ張り駅の外へと連れ出す事にした、外は雨が激しくなってきていたので


カバンから折り畳み傘を取り出し、二人で傘の下へと入る


無言のままうつむいている唯の雰囲気がどうにも事情を聞きづらくしており俺も言葉を探していた


傘を弾く雨の音が更に激しさを増し、沈黙の空気をより重く感じさせる。


しかしこのまま黙っていてもらちが明かないので俺は思い切って話を切り出す事にした


「社長さんも心配していたぞ、家の方にも連絡したみたいだから、唯の無事だけでも伝えておいた方が……」


そう言いかけたが明らかに唯の様子がおかしい、仕方がないがここは……


「わかった、事務所と唯の家の方には〈唯は無事〉だと俺から連絡を入れておく」


「有難う、やさしいね、駿介……」


「そんなことは無い、誰にでも優しい訳じゃないぞ」


すると唯が突然立ち止まる、そのまま歩いていた俺は慌てて唯に傘を差し出すが


一瞬傘から外れただけでずぶ濡れになる唯。


「おい、何やっているのだ、びしょ濡れになってしまったじゃないか⁉」

 

俺は急いでハンカチを取り出し唯の頭を拭こうとするが、唯はその手を払いのけた。

 

「な、何を……」

 

俺は驚きを隠せなかった。今までの唯は考えている事が顔と態度に出る人間だったので


ある意味安心していたのだが、今の唯は何を考えているのか全く分からない


何がどうなっている、俺に怒っているのか?理由は?何をすればいい、どうすれば……

 

困惑し固まってしまった俺に対し、顔を上げ睨むように俺を見上げる唯、その目には薄っすらと涙がにじんでいた。

 

「平気なの?」

 

「な、何が?」

 

「駿介は平気なの?平気なのだよね?」

 

「だから何の事だよ⁉」

 

「私と会えなくても、私なんかいなくても平気なのだよね?


私の事なんか大して好きではないのでしょう?」

 

「どうしてそうなる?俺はお前の為を思って……」

 

「だったらどうして‼」

 

いつの間にか唯の両目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた、またやってしまった


どうして俺は好きな女を泣かせてしまうのだ、自分で自分が嫌になる……

 

「わた、私だけ……一方的に駿介の事を好きで、どうせ駿介は……私の事なんか……」

 

「違う、そんなことは無い、俺は唯の事を……」

 

「嘘よ、日向さんと別れたから……とりあえずキープしておこうとか……そんな感じでしょ⁉︎


それとも同情⁉︎私なんて、友達もいない、すぐに感情的になってしまう、どうしようもない女だと思って……」


感情をむき出しにして訴えかけてくる唯

 

この瞬間、これはマズいと思った。唯の奴、完全に勘違いをしてしまっている


元々思い込みの強い女だけに、これ以上おかしな方向へと行ってしまうと取り返しがつかない事になってしまう……

 

俺は咄嗟に唯を抱きしめた。

 

「そんな訳無いだろ、俺はお前の事が好きだ‼」

 

だがそんな俺の軽い言葉は唯には通じなかった、唯は抱きしめた俺の手を無理矢理引きはがし


両手で突き飛ばすように距離を取ると、泣きながら訴えかける様に語り掛けてきた。

 

「嘘、嘘よ‼だって、私と会えなくても平気じゃない、私がどんな思いで毎日過ごしていると思うの?


仕事と勉強を頑張りながら最初は〈今頃駿介何をしているのだろう?〉とか


〈頑張っていたら駿介喜んでくれるかな?〉とか考えていた


でも会えないと嫌な事ばかり思い浮かぶのよ……〈今頃日向さんとヨリを戻していたらどうしよう〉とか

 

〈私の事、痛くて重い女だと思っていたらどうしよう〉とか考えちゃうのよ


そうするとドンドン悪い方に考えちゃうの、〈こんなことしていて司法試験何か受かる訳がない〉とか


〈ワガママばかりの私なんて事務所にも呆れられてそのうち見捨てられる〉とか嫌な事ばかり……」  


ヒステリー気味に叫ぶ唯に対して一瞬どうしていいのかわからずただ呆然と立ちすくむ俺

 

まさかの言葉だった、唯はやや精神的に不安定な所があったが、基本的にはポジティブな人間だと思っていた


これ程ネガティブで繊細な部分があったとは……


これでは俺のやったことは完全に逆効果だったと言わざるを得ない、いかん、早く誤解を解かないと。

 

「聞いてくれ唯、俺は本当にお前のことが好きだ、唯に会わなかったのもお前の為を思ってだな……」

 

「だったら、そう言ってよ‼お前ならできるって言ってよ‼


司法試験なんか楽勝だって、モデルの仕事も軽くできるって、私の事好きだって言ってよ……


駿介がそう言ってくれたら私は何だってできる、駿介が信じてくれたらどんな事だって乗り越えられる


駿介が好きだって言ってくれたら私は……」

 

大雨の中、びしょ濡れになりながら叫ぶように訴えかける唯、俺は日向の時と同様に、また間違えてしまったのだ。

 

「ゴメン、唯、俺は……」

 

傘を差し出しゆっくりと近付いたが唯はその傘を払いのけた。

 

「もう信じられないよ……」

 

そう言って唯は背中を向け走り出した、俺は呆気に取られて一瞬何が起こったのか頭で理解できない


しかしどんどん遠ざかる唯の背中を見てハッと我に返った。

 

「これで終わりとか、冗談じゃないぞ‼」

 

俺は唯の後を追った。傘などさしている余裕は無い、ちくしょう、どうしたら良かったのだ、どうしたら……


大雨の中で走りながら、そんな思いが頭を駆け巡るが、同時に沸々と怒りも沸いて来たのである。

 

「俺だって、会いたい気持を必死に抑えて頑張って来たのだ、唯の為を思えば……って


それなのに……ちくしょう、どうして女って奴は〈言わなくてもわかってよ‼︎〉とか無茶な事を要求するのだ


こっちは普通の人間だ、そんな特殊スキルを習得している訳ないだろうが‼」

 

天から大量に降り注ぐ雨のせいで頭から全身に至るまでびしょ濡れである


今日おろしたてのスーツも雨に濡れてビショビショだし


大量の水分を含んだ靴も走る度にグチャグチャして非常に気持ち悪い、そんな状況も俺の心のモヤモヤを加速させた。

 

「あ~、ちくしょう、面倒臭い、本当に面倒臭いぞ、唯‼」

 

大雨の中、誰も聞いている相手もいない中で俺は叫び、そのまま唯の後を追った。

 


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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