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夢の時間と現実の厳しさ

「お待たせ〜、今日は早かったでしょう?」


「ああ、いつもよりは少しな、だが十五分の遅刻だ


唯……お前の時間感覚はどうなっているのだ?」


「男が細かいこと言わないの」


唯はそう言いながらいきなりガッツリと腕を組んできたのだ。


「お、おい、急に、しかもこんな人前で、恥ずかしいだろ⁉︎」


「何言っているのよ、さあデートへレッツゴー‼︎」


浮かれ気分でグイグイ俺を引っ張りながら進んでいく唯


コイツ、どこに行くのか行先も分かってないだろうに


どうして俺の前を進んでいるのだ?でもそんなところが唯らしい、そしてそんなところが……


「で、行き先どこだっけ?」


不意に立ち止まった唯が振り向きざまに問いかけてきた


ヤレヤレとばかりに俺は呆れ顔で答える。


「何も聞いていない状態で唯がどこまで行くのか、少し興味があったけれどな」


「なんで、早く言ってくれないのよ、そういうところよ‼︎」


「どういうところだよ?」


「そんなこと、自分で考えなさい」


プイッと顔を背け、わざとらしく怒った素振りを見せる唯。


「ハイハイ、ここからは私が、姫をエスコートさせていただきますので


これまでのご無礼、何卒平にお許しを」


わざと大袈裟に頭を下げた俺に対し、ふんぞり返って上から見下ろす唯。


「うむ、苦しゅうない、その情けない面をあげよ」


「こら、調子に乗りやがって‼︎」


「へへっ、ごめ〜ん」


そんな他愛のない会話をしながら目的の店へと歩いていく俺たち


再びすがり付いてきた唯の温もりが腕を通じて感じられ心まで温かくなる気がした


ずっとこんな時間が続けばいいのに……と考えずにはいられない幸せな時間が流れた。



「へえ〜あのお店か」


俺は今から行く店を唯に教えた。そこは有名なイタリア料理店で俺はもちろん初めて行く店である


ネットで調べた時たまたまキャンセルが出たのか、偶然二名で予約が取れたのである。


「何だ、唯、知っているのか?」


「うん……二度ほど行ったことがあるかな?でも、あそこは高いでしょ?」


「お、おう、まあな、でも今日ぐらいはいいだろ


今日はどうしても唯にご馳走したいのだから、俺にもちょっとくらい見栄を張らせろ‼︎」


「そうね、駿介くんの〈男らし〜い〉ところを見せてもらおうかしら、ふふっ」


意地悪そうな笑みを浮かべ俺の顔を覗き込むように微笑む唯


それはまさに小悪魔の笑顔であった。


「おい、唯、お前いつまでそのイジリを続けるつもりだ?いいかげん俺も怒るぞ」


「わかったわよ、そんなにムキにならなくてもいいじゃない」


「ムキにもなるだろ⁉︎人のトラウマを餌に面白がりやがって……


あの時ちょっとでも唯の事を〈優しい〉とか思った俺が馬鹿だったよ‼︎」


「ちょっとではなく、〈かなり優しい〉と思うのが正解でしたね


残念でした駿介くん、【もう少し頑張りましょう】のハンコを押してあげたいわ」


「ったく、本当に口が減らないな、唯は。俺も口には自信がある方だが、お前には負けるよ」


「よろしい、素直に我が国の要請に応じ【無条件降伏】を飲むというのであれば


こちらも寛大な心で対応することもやぶさかではないわ」


「はあ……もういいよ、好きにしてくれ」


「うん、でもそんなに嫌だったのならもうそのイジリは止めるね


一つおもちゃを取り上げられた気分だけれど……」


「唯にとってはおもちゃでも俺にとっては心に突き刺さるナイフなのだよ


心情的には【名誉毀損】と【精神的苦痛】で訴えたいね」


「わかったわ、裁判になったら私が弁護をしてあげる」


「被疑者と被害者の弁護を同じ人間がやるとか、どんな悪魔裁判だ⁉︎」


「ダメかな?」


「ダメに決まっているだろ‼」


ヤレヤレとばかりに軽くため息をつく俺だったが、気分は悪くない


無邪気に笑う唯の笑顔に心癒される、そして気分がいいのはこの会話だけではないのだ。


街中で俺たちが会話をしながら歩いていると振り向いてこちらを見てくる人間の多さに驚く


日向の時も少なからずあったがその数が全然違う


男性は年齢を問わずすれ違いざまに唯に見惚れるように視線を移す


さすがは国民的美少女をとっただけはある。


それに唯は出会った頃の女子高生の頃より確実に美しくなってきていた


あれから数ヶ月しか経っていないのに歩いているだけで


魅惑のオーラを撒き散らしているようにも見える、これだから女というのは怖い


そして何より驚いたのは、唯と年齢が近い女性も唯に思わず視線を移してしまうということだった


これは日向の時にはなかったことである。モデルをしているせいもあるのだろうか?


同性から見ても唯はとても眩しく映るのだろう


まあ見た目だけでは中身のあの性格は見えないだろうから、仕方がないが……


そしてそんな人達が唯を見た後の行動は一つである


〈こんな美人を連れている男はどんな奴だ?〉と俺を見てくるのである


その時の俺は正直悪くない気分だ、いや悪くないどころか最高に気持ちいいといえる


俺はそんな低俗でゲスな優越感にどっぷりと浸っていた。


店に到着し扉を開け、中に入るとモダンな雰囲気の中に


センスのいい家具やインテリアが飾ってあり、品の良さを感じさせる


案内役の物腰の柔らかそうな中年男性が出てきて頭を下げてきたので、俺は慌てて口をひらいた。


「あ、あの、ネットで予約した野崎ともうしま……」


俺がそう言いかけた時、その品の良さそうな男性は何かに気が付いたかのようにニコリと微笑んだ。


「これは佐山のお嬢様ではありませんか?またのご来店、心より感謝いたします」


丁寧に頭を下げる案内役の男性。


「今日はこの野崎さんのエスコートで来店したの、またご馳走になるわ、清水さん」


笑顔で答える言いに対し、にっこり笑って軽く頷く清水さん、あの〜俺の立場は?


「そうでしたか?唯様のエスコートとは、同性として羨ましい限りです、ではこちらへ」


何だこれ?これじゃあ完全に俺は脇役扱いだな。


しかも今の会話、唯がここに来たのは一度や二度じゃないだろ?


目一杯見栄を張ったつもりが、身分の差を思い知らされた気分である。


「少し遅くなったけれど、【企業コンペ】の勝利、おめでとう、駿介」


「有難う、経過を考えると少し複雑だけれどな」


「何を言っているのよ、それも全て駿介が頑張った結果じゃない、胸を張りなさいよ」


そうだ、色々ごちゃごちゃ考えるのは止そう


確かに仕事というモノは経過も内容も大切ではあるが結果が全ての世界である


【企業コンペ】において結果が出たのだから、素直に喜べばよいのだ


唯の言葉でまたもや吹っ切れた気がした。

 

そこからしばらく、俺たちは取り留めのない会話をしていると、料理が次々と運ばれてきた


最近はロクなモノを食べていないので、がっつく様に料理を口に放り込む。


「美味い、さすが有名店だけあるな」


「ここのシェフは本場イタリアで十年も修行したらしいわ


私、料理人が長い間修行する時間と料理の腕って、そこまで比例するのかな?


と思っていたけれど、この見事な料理を見せられると納得せざるを得ないわね」


「そういえば唯、修行といえばお前の方はどうなのだ?」


「どうって、何が?」


「いや、一応事務所との約束で学業に比重を置くことになっているのだろうけれど


まだモデルの仕事も続けているのだろう?」


「うん、まあね。実は明日も撮影なのよ、だから明日の朝は五時起きよ」


「おいおい、マジか、大丈夫なのか?」


「大丈夫よ、社長はちゃんと約束を守ってくれているわ


高校生の時より仕事の量自体は減っているもの」


「〈量自体は〉って、何か引っかかる言い方だな」


「うん、内容が濃くなっているというか


今まで一日で撮影していた所を半日で済ませてしまうとか、そんな感じかな?


だから仕事に取られる時間は減っているけれど


内容的にはあまり変わりないというか、むしろ増えている可能性もあるわね」


「それじゃあ、約束が違うのではないか⁉何ならまた俺が社長に言ってやろうか?」


だが唯は目を閉じゆっくりと首を振った。


「いいのよ、私が好きでやっているのだし……


知っての通りかなりの我がままを通してもらったのだから


社長も精一杯やりくりしてくれているみたい


拘束時間を減らしているという事は約束を守っていてくれるという事だからね」


どこか嬉しそうに語る唯、その姿は強がりや気を使っているのでは無く


本心でそう言っている様にみえた。

 

「それで弁護士になるって方はどうなのだ?


そんなにモデルの仕事が忙しいと時間はともかく体力や精神的にきついだろう


ちゃんと勉強できているのか?」


「何よ、その言い方、駿介は私のお父さんにでもなったつもり?」

 

「茶化すな、俺はド素人だが、司法試験に受かって弁護士になるという事が


どれ程難しい事か少しはわかるつもりだ。本当に心配だから言っているのだ、真面目に答えろ」

 

先程までと違って俺の真剣な口調に少し驚いている様子の唯だったが


向こうも真剣な顔で返してきた。

 

「うん、正直言うとかなり厳しいよ。覚悟はしていたつもりだったけれど


弁護士への道って、想像以上に険しいの」

 

「そうなのか?唯ほどの頭を持っていても、それほどに?」

 

「うん、かなり厳しいわね……」

 

今迄唯の弱音など聞いたことがない、助けを求められた事はあっても


〈辛い〉とか〈難しい〉という後ろ向きの言葉を唯の口から聞いたことはおそらくない


俺は口では〈心配している〉とか言いながらもどこかで


【唯は天才的な人間だから司法試験でも軽くクリアできるだろう】と思っていたのだ。


しかし唯の表情を見ると本当に厳しいという事が伝わってきて自分の考えの甘さを思い知らされた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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