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女心と星の空

「遅かったのね、駿介」


彼女は以前と変わらぬ笑顔で話しかけてくる


以前と変わらない仕草、以前と変わらない口調、以前と変わらないその姿


しかし以前とは違うのだ、なぜ?どうして?そんな言葉しか浮かんでこない


それも当然だろうと思う、そんな空気を察したのか日向は静かに口を開いた。


「突然押しかけてごめん、本当は会わす顔もないのだけれど……」


しおらしげに顔を伏せた日向、だがその仕草が逆に俺を苛立たせた。


「何しにきた、もう俺に用はないのだろう?例の彼のところに行けよ


元カレと会っていたとか知られたら問題になるぞ」


「うん……あの人とは別れた、というか振られたわ


結局あの人、【企業コンペ】目当てで私に近づいてきたみたい」


「で、俺とヨリでも戻しにきたのか?」


「そうしてくれるのなら、そうしたいけれど……無理よね?駿介の性格からして」


「ああ」


「だから、一言だけ言いにきたの、ごめんなさい……


昨日、私ひどいこと言ったわ、言い訳も弁明もできないくらいだけれど


どうしても貴方に謝りたかったの」


「どうして、ワザワザそれを言いにきた?」


「うん、五年間も付き合って、あんな別れ方嫌だったから……


あのまま別れたら色々あった思い出も汚されてしまうみたいでさ、全部自業自得なのにね……


別れてもずっとあんな嫌な女だと思われたくなくて……


随分と自分勝手なことを言っているのはわかっているわ、でも……」


日向は言葉を詰まらせた、もう以前のように彼女を見る事はできないだろう


でも目の前にいる日向が辛そうな顔をしていることに何故か罪悪感を覚えたのである。


「ごめんね、じゃあ、今までありがとう……」


俺の目の前から立ち去ろうとした日向を見て思わず手が伸びた。


「待てよ」


俺は日向の腕を掴み引き止めた


驚いたようにこちらに振り向いた日向の目にはうっすらと涙がにじんでいた。


「何、駿介?」


「一つだけいいか?どうして俺じゃなくアイツだったのだ?


昨日お前が言ったことが全て本音じゃないとは思っている


日向が気楽に二股かけてホイホイ男を乗り換えられる器用な女だとも思っていない


だからこそ聞きたい、どうして俺じゃなくあいつだったのか?」


俺は今、かなりみっともないことを聞いている。振られた彼女にその理由を聞くとか


以前の俺では考えられなかった事だ。


だが昨日唯の前であれほどの醜態を晒したのだ、もう俺に怖いものなどない


そんな俺の質問に日向は目を閉じしみじみと語り始めた。


「私、駿介の事が大好きだった、大学で出会った駿介は明るくてポジティブで


先輩が相手でも全然物おじせずガンガン言いたいこと言って、そんな駿介がカッコ良かった


だから私駿介の好みとか色々調べて、友達の協力も借りて貴方に猛アタックをかけたの


初めて会った時もアレ偶然じゃないの、私があなたを待ち伏せしていたのよ」


「そうだったのか?知らなかった」


「そう、教えなかったものね、駿介がそういう女は嫌いだと思ったから……


だから駿介と付き合うようになってもいつの間にか


〈駿介の好みの女でいよう〉ってそう思うようになった


別に嫌じゃなかったし、それが間違っていたとも思っていなかったわ。


それは私が勝手にやったことだし、それをあなたに責めるつもりもない


でも駿介が会社勤めしてからは以前とは違ってきた


あなたはいつも会社の不満とか上司の愚痴ばかり言うようになって……


するとあんなに好きだった駿介のことドンドン好きじゃ無くなっていくのが自分でわかったの……」


「だからあいつだったのか?」


そう問いかけると日向はコクリと頷いた


「うん、あの人はね私を子供扱いするの、実際十二歳も年が離れているから


あの人にとって私は子供なのだろうけれど、それが新鮮で嬉しかった


私、駿介の前だと優しくて包容力のある女を演じなければいけないから……」


思い当たる節があった、確かに俺は日向にそういうことを求めていた


一方的に甘えて癒しを求めていたのだ、会社での不満や鬱屈を全て日向にぶつけて……


こうして改めて聞かされるまで気づかないとか、どれだけ鈍感で無神経だったのだろう、最悪だ。


「私ね、本当は結構わがままで気が強いのよ、子供の頃から〈可愛い〉だとか〈賢い〉とか


チヤホヤされて育ったから……でも駿介の前だとそれは我慢していたの」


そう言いながら日向は自分の長い黒髪を何気なく触った。


「本当はこの髪もパーマあてたり茶色に染めたかったのよ


でも駿介が〈私のこの髪が好き〉って言うから学生時代からずっとこの髪のまま……


私だって本当はもっと貴方に甘えたかった、我がまま言いたかった


〈私はあなたのお母さんじゃない‼︎〉って言いたいこともあったわ」


「言ってくれれば……」


すると日向はゆっくりと首を振った。


「言えないよ、怖いもん、そんなことを言って、もし……」


日向は再び言葉を詰まらせた、もうこの時点で日向に対する怒りは消え去っていた


俺の男としての器の小ささがこれほどひなたの苦しめていたのだ。


「でもそれならば、どうしてすぐに俺と別れると言わなかった?


俺を好きじゃなくなってきていて、アイツに心惹かれ始めていたのだろう?


日向の性格ならば二股とか嫌だろうに」


「うん、そうなのだけれどね……私の心が駿介から離れていって


あの人に惹かれ始めた時、駿介が変わってきたのよ」


「俺が?」


「うん、昔みたいに輝いてきた、愚痴とか不満とか言わなくなって仕事にも前向きというか


ポジティブで積極的な姿勢が見えてきて生き生きし始めたというか


どうしてだろう?とは思っていたけれど、あの子が原因だったのね……」


そうか、俺は唯に出会って再びやる気を取り戻した


あいつに負けていられないと頑張りだした、だからか……


「そんな駿介を見て中々言い出せなくなっちゃったの


昔大好きだったあの頃の駿介に戻ってきている


でもあの人にも惹かれ始めていて、だからズルズルと……」


そういうことか、ようやく合点がいった。


「だからね、あの子に言われた時、腹が立ってしかたがなかったの」


「あの子って唯のことか?」


「ええ、そうよ。若くて、怖いもの知らずで、真っ直ぐで


余計なことを考えず、感情だけで向かってくる、世間知らずな子供


そんなあの子を見てどうしようもなく怒りが込み上げてきた」


「どうして、そんなに?」


「あの子、どうせ駿介相手でもあんな感じなのでしょう?」


「ああ、まあな。あれほど怒った姿は初めて見たが」


「そういうことよ、私は駿介の前でずっといい子で過ごしてきた


でもあんな感情剥き出しで何も考えていない女がズケズケと割り込んできて


言いたいことを言ってきたとき、すぐにわかったわ


ああ、この女が原因で駿介が変わったのだと、変えてしまったのだと


五年も一緒にいて私ができなかったことをあんな子が……


私は周りからいい子と言われて駿介の前でもいい彼女でいようと頑張って


その様に過ごしてきたけれど、結局はああいう何も考えていない空気も読まない女が


最後は美味しいところ全部持っていくのよ、本当に大嫌いなタイプ‼︎」


唯もそうだったが日向も……ウマが合わないというか、お互いこれほど嫌い合うとは、男にはわからない感情だ。


「だからあれほどムキになって唯と言い合ったのか?」


「ええ、私も頭に血が上って感情的になってしまった


だから売り言葉に買い言葉って感じでつい……


駿介には本当にひどいことを言ったわ、御免なさい


謝って許してもらえることではないけれど……」


「その事はもういいよ、唯にも言われたし」  


俺のその言葉に日向は少し驚きの表情を浮かべた


「あの子が、何を?」


「日向さんの言ったことは多分本心じゃないって


あんなことを言ってしまった事をおそらく後悔しているだろう……ともな」


「なんか釈然としないわね、あの子に見透かされていると思うと……」


思わず視線を逸らし険しい表情を浮かべる日向、本当に合わないのだな、日向と唯は。


だが次の瞬間、何かを吹っ切ったようにパッと明るい顔で俺の方を見てきた日向。


「で、駿介はあの子と付き合うの?」


「いや、そんなことは考えていないが……」


「でも、あの子、相当駿介に熱上げているわよ」


「そうなのかな?単純に俺に同情して感情的になったようにも見えたが……


そもそも一度しか会っていないのにわかるのか、そんな事?」


すると日向は再び顔を伏せしんみりした口調で返してきた。


「わかるよ……女だもん……」


それから少し沈黙が流れた、重苦しい空気が俺を責め立てているようにさえ感じた


耐えられなくなった俺はその空気を破るように口を開く。


「でもあいつは弁護士になる為に司法試験合格を目指しながら


芸能活動もしていくつもりみたいだからな、俺と付き合っている暇なんかないだろう……」


俺は視線を逸らし、頭をかきながら誤魔化すように説明した


すると日向が急に振り向いて真剣な表情で俺に顔を近づけてくると切迫した口調で語りかけてきた。


「だったら‼︎……」


日向はその先は言わなかった、俺も何も答えなかった


流石の俺でも日向が何を言いたいのかは分かったが、俺は何も言わずにただ日向を見つめた


それは時間にして数秒だったはずだが俺たちには悠久の時にすら感じたのである。


日向は瞳を潤ませながら俺を見つめていたが、俺が何を言いたいのか理解したのだろう


目を伏せると再び顔を上げて明るい口調で言い放った。


「ごめん、何でもない、忘れて」


俺は心の中でつぶやいた〈忘れるわけないだろ、絶対に……〉と


「でもそんなのでいいの?あの子はかなりのジャジャ馬だけれど


駿介もあの子にかなり惹かれているじゃない?」


「そんなことないよ、俺にとって唯はそんなんじゃないし……」


「嘘ばっかり」


日向は悪戯っぽく笑った、日向の笑顔を見るのは久しぶりのような気がした。


「嘘じゃないよ、本当に俺と唯は……


大体日向は俺たちの事を何も知らないだろう、何がわかるというのだよ?」


俺のそんな質問に対し、日向は精一杯の笑顔で答えた。


「わかるよ、だって元カノだもん」


弾けるような笑顔、そしてとてつもなく悲しい笑顔だった。


そんな日向の姿を見て、自分がどれほど小さい男だったのか思い知らされた


もう日向に対しての怒りやわだかまりはない、だがもう二度と元には戻れない


そんな思いが胸に込み上げてきて言葉が出なかった


日向はふと空を見上げて目を閉じる、幾つもの星が輝く夜空を見上げる日向の姿がどことなく悲しげで


なんとも言えない気持ちが俺の胸を締め付ける


しばらく無言のまま空を見上げていた日向だったが、思い立ったように口を開いた。


「じゃあ帰るわ、今までありがとう駿介、楽しかったわ。そしてごめんね……


これからもお仕事頑張って、陰ながら応援しているわ。あの子とのことは応援しないけれど」


まるで〈また明日〉とでも言うような口調で立ち去ろうとする日向だったが


少し歩いたところでふと立ち止まり、振り向く事なく俺に告げてきた。


「プレゼンの時の駿介、カッコよかったよ、じゃあね……」


そう言ってそのまま立ち止まる事なく去っていった日向


色々な思いが俺の中を駆け巡る、しかし不思議と涙は出なかった


だがはっきりわかったことは〈これで俺の恋は完全に終わった〉ということだった


そして日向の背中を見送りながら心の中で告げる〈今までありがとう日向、ずっと好きだった……そしてさよなら〉と。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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