心の傷
翌日、【佐山商事】の方から【今回は御社のシステムを採用することに決定しました】
という連絡が来た。普通こういった通知はもっと時間がかかるものだが
おそらく佐山会長の心象を少しでも良くしたいと思った猪端常務が
なりふり構わず早急に返事を送ってきたのであろう
こういった忖度と機敏さはさすがと言わざるを得ない、真似をしたいとは思わないが……
俺にとってこの結果は規定事実みたいになっていたのだが経緯を知らない会社のみんなは当然大いに盛り上がり
早速今日はみんな早めに仕事を切り上げ、祝賀会を兼ねた飲み会をしようと言う話になった
社長から〈全ての飲食代を払うから好きなだけ飲んでこい〉
というお墨付きをもらい、部署内は歓喜の渦に沸いている。
そんな中で俺だけは一人複雑な気分であった。
客観的に見てもウチのシステムが採用されるのは自明であり
みんなも俺も頑張った結果ではあるのだが、結局、決定打になったのは
唯の力を借りた佐山会長の圧力であったことには違いはない
当然昨日コンペの後にそんな話があったことは誰にも話していないし話す気もない
話したとしても信じてもらえるのだろうか?という内容でもある。
「どうした野崎、最大の功労者が随分としけた面をしているな、なんかあったのか?」
上機嫌でうしろから肩を組んできたのは伊藤であった。
「お、おう、伊藤か、別に何でもない」
「なんだ、なんだ?日向ちゃんと喧嘩でもしたのか?
〈君のために勝ち取ったぜ〉とか早速連絡してやれ‼︎
そうか、日向ちゃん【佐山商事】に勤めているのだから、もう知っているか、ハッハッハ」
陽気にはしゃぐ伊藤の言葉が胸に刺さる
伊藤には日向を二度ほど合わせた事があるから彼女のこともよく知っているのだ。
だが流石に昨日のことを正直に話すほどにはまだ精神状態が回復していない
だからこそ悪気もなく言ってくるのだが、そんな伊藤の言葉が胸に刺さるのだ。
「じゃあ、ちょっと電話してくる」
「おう、行ってこい、何ならそのままプロポーズか⁉︎」
俺は居た堪れなくなったので席を外すために咄嗟についた嘘だったが
そんな伊藤の言葉がイチイチ胸に刺さる、コイツ知っていてワザと言っているのではないだろうな?
だとしたら相当性格悪いが……そんなわけないか。
席を外した俺は会社の廊下でスマホを取り出した
本当にひなたにかけるわけにはいかないので、少し考えた後に唯にメッセージを送った。
内容は【コンペは我が社で採用となりました】という報告を兼ねた短い文章
すると一分も経たずに返信がきた、内容は【よくがんばりました】という短いもの
そのワードセンスについ口元が緩んだが【おかげさまで】と返信して部署へと戻った。
その日の晩、【企業コンペ】祝勝会という名目で部署を上げて飲み会へと出かけた
皆は大いに盛り上がり、みなそれぞれの検討を称え合った
いつも俺を目の敵にして嫌味ばかり言っている岡田課長でさえ。
「いや〜野崎はやると思っていた、野崎の成長の為に私がいつも言っている事が
こんな形で実になるとは、感慨深いぞ、よくやった‼︎」
まるで自分のおかげだと言わんばかりのこの態度には少し思うところもあったが
こんな席でワザワザ反論するのも場の空気を壊すので〈ハイハイ〉と聞き流していた。
同じ部署なのに普段あまり話さない人とまで話すこととなり
普段であれば非常に有意義な飲み会となったであろう
基本的に大人数での飲み会とかは大好きだし、俺自身、人と話すことは好きなのだ
しかし今日に限っては別である。俺の心は晴れなかったし、今は誰とも話したくはない
正直言って早く帰りたい、今日だけはそっとしておいてほしい……それが偽らざる本音だった。
「じゃあ、俺帰ります、また明日」
一次会が終わり、みな二次会へと繰り出そうと盛り上がっているとき、俺は早々に帰ることを告げた。
「何だよ、付き合い悪いな」
「主役が帰っちゃうの?」
「二次会行こうぜ、野崎‼︎」
色々な声が上がったが、その誘いを何とか断る。本音を言えば一次会に来る事だって辛かったのだ
正直もう勘弁してくれ、と叫びたいくらいである。
するとそんな俺に伊藤が助け舟を出してくれた。
「すいません、コイツ今から彼女とデートなのですよ
祝勝会は彼女としっぽりやりたいらしくて
若いもの同士そっとしておいてやってください、オナシャス‼︎」
伊藤自身、結構酒が回っているようで少しロレツが怪しい
だが同じ部署の人間は俺の事情を知っているので、それならば仕方がないと諦めてくれた
本当の事情は知らないだろうが……
「行けー野崎、日向ちゃんとしっぽりやってこい‼︎」
「ああ、すまないな、伊藤、じゃあ」
伊藤に悪気はないだろう、正直助かったことも事実だ
しかし猛烈に腹が立ったのも事実である、このやり場のない怒りの矛先は
お前が彼女に振られた時、倍にして返してやるからな、倍返しだ‼︎
俺はそのまま一人家へと帰る。もう疲れた、何もかも忘れて眠りたい
何かを考えようとすると日向のことばかり浮かんでしまうからである。
そんな俺が自分の部屋の前にたどり着いた時、視界に入ってきた人物を見て思わず息が止まった
部屋の前に立っていたその人物とは猪端日向、昨日ひどい振られ方をした元彼女である
なぜここに?俺は言葉を失いただ立ち尽くしてしまった。
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