表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

刻まれた宿命と男の性に抗う者

俺は【企業コンペ】がおこなわれる会場へと急いだ


もうすぐライバル会社のプレゼンが始まってしまうからである


コンペがおこなわれるのは【第一会議室】、しかし【佐山商事】程の会議室ともなれば


その大きさは学校の体育館ほどもある。


【佐山商事】の社員がズラリと居並び、その中心に猪端常務


つまり今回の最大の決定権を持つ日向のおやじさんが座っていた


俺と伊藤は舞台袖でライバル会社のプレゼンを観察するように見守る。


会議室の隅に目を移すと唯がちょこんと座っていた


どうして唯がここに居るのかさっぱりわからないが、まあいい、経緯はどうあれ俺にとっては追い風だ。


そしていよいよ運命のコンペが始まった、まず猪端常務が軽く挨拶をし


その後日向が出てきてゆっくりと頭を下げた後、優しく微笑み口を開いた。


「この度は弊社のコンペディションに御参加いただき、誠にありがとうございます。


プレゼンテーションの順番は、まず【株式会社HDR】様より行っていただきまして


五分ほどの休憩を挟んだ後、株式会社TWSソリューションズ】様のプレゼンテーションとなります


結果の方は弊社が検討し後程各社にお知らせ足しますので、よろしくお願いします」


丁寧な挨拶と気品のある所作、本当に日向は美しい


先頭で見ている猪端常務もそんな娘の姿に大満足の様子である。

 

進行役として一通りの説明を済ませた日向は軽くお辞儀をして場を離れる


その際に俺と目が合ったのでこちらは軽く右手を上げ、向こうは少し微笑んだ


そんなやりとりに少し幸福感を覚えていると、横にいた伊藤が俺に向かって肘で突いてきた。


「おい、こんな所で見せつけてくれるじゃないか」


「べ、別にそんなつもりはないぜ」


「ちくしょう、いいな〜、あんな可愛い子が彼女とか……」


「へっへ〜、羨ましいか、もっと悔しがってもいいぜ」


「まあ、あんな彼女がいれば、張り切るのもわかるな」


「別に日向のためだけに張り切っている訳じゃないぜ」


「〈だけ〉じゃないかもしれないが〈ほとんど〉だろ?


そんなの誤差の範囲だ、まあ分からんではないけれどな」


「どういう意味だよ、お前に何がわかるって言うのだ?」


「それは古今東西、男という生き物の悲しき性だ


【惚れた女の前でカッコつけたい】という永遠のテーマだよ」


その瞬間、俺はギクリとしてしまった。


「おい、ちょっと待て、それは違うぞ⁉︎」


「なにが違うのだよ、男なんてそういうモノだろうが」


いやいや、その理屈だと俺が好きなのは日向ではなく唯ということになってしまう


俺的にそこはキッチリ話しておかないと。


「あのなあ伊藤、俺は……」


「おい、もう向こうのプレゼンが始まるぞ」


肝心なところで話が打ち切られてしまった形になったが


考えてみれば、伊藤に唯のことをどう説明すればいいのかわからない為


結果的には良かったのかもしれない。

 

対戦相手として出てきたのは三十代半ばの男、小洒落た感じのイケメン中年といった感じか?


思っていたより若い感じの人選だったが、それでも俺とは十歳近く違うだろう。


「では、これから我が社の構築した【管理システム】の基本コンセプトと


従来システムとの相違点を説明させていただきます、まずは……」


理路整然と淡々とした口調で説明を始めるライバル会社のプレゼンター。


いかにも場慣れしているような落ち着きを感じさせる語りである


確かにこういった説得力は年の功といったところだろう


しかしこちら側にしてみればそれは想定内であり


逆にそこを逆手に取って若さによる勢いと情熱を全面に押し出す形でぶつかっていく方針である。


それは言い換えれば〈希望と成長〉という風にもとることができ


今回クライアント側から提示されたコンセプト【未来への発展】というテーマに合致する。


相手側の説明は滞りなく進み【佐山商事】側の反応も悪くなさそうだ


正直我々が聞いていても相手側のシステムもよくできていると思うし


我が社のシステムよりも優れている点もままある。


だが総合的に判断すれば、ウチの会社の方が上だと確信した


相手は【使いやすさ】を重視するあまり従来のシステムの発展型でしかない


いうなれば単なる【バージョンアップ】、もっと悪くいえば【マイナーチェンジ】に過ぎないのだ


それは【佐山商事】が掲げる今回のテーマ【未来への発展】に対して逆を行く行為であり


歪めた見方をすれば〈クライアント側が掲げたテーマに対するアンチテーゼ〉とも取られかねない。


流石にそこまでは無いだろうがピントがずれていることには変わりないだろう


こうなればもう〈俺が失敗しなければ勝てる〉という事である。


「ありがとうございました、ここで五分ほど休憩を挟みまして


【株式会社TWSソリューションズ】様のプレゼンテーションになります


開始は午後三時ちょうどになりますので、よろしくお願いします」


日向の説明で一斉に席を立つ【佐山商事】の人達


トイレに行く者や、飲み物を補充する者とそれぞれだが


相手側の説明を聞いてあれこれ話している者達がほとんどだった。


だが、もうすぐ俺の出番だ、みんな耳を澄ませてよく聞け


ここから俺の伝説が始まるのだ‼︎って、このノリはゲームのやり過ぎか……


「皆様お席に着いたでしょうか?それでは【株式会社TWSソリューションズ】様の


プレゼンテーションは【システム情報部営業サポート課】の


野崎駿介様に行っていただきます、では、よろしくお願いします」


日向に紹介され皆の前に立つ俺、会議室の一番奥には唯も見ている


ここでやらなきゃ男じゃないだろ、さあいくぜ‼︎


「ご紹介に預かりました【株式会社TWSソリューションズ】の野崎駿介です


二年前から御社の担当としてお世話になっておりますので


顔を見知ってくださっている方も多々いらっしゃると思います


今回のコンペディションのメインコンセプト【未来への発展】というテーマを考えた場合


若輩者ではありますがこの私が適任だろうと無理矢理会社側に頼んで


この大役を買って出た次第であります。


ですが皆様をガッカリさせるようなプレゼンテーションは絶対にしないと


お約束いたしますのでご安心ください。


長々と前口上を述べてきましたが早速弊社のシステムの説明に入らせていただきます、ではまず……」


俺は何度も頭の中でシミュレーションした説明を披露した


俺は焦ると早口になる癖があるので慌てず、ゆっくりと、噛み締めるようにプレゼンを展開する。


日向と唯が見ている……そう思うだけで自然と説明が出てくる


練習でもこれほど上手くいった事はないというほど軽快に口が回る


頭が冴える、そして相手の顔がよく見える、よしいける、いけるぞ‼︎


「……以上が我が社の提供する【管理システム】の全容になります


拙い説明でお聞き苦しかったかもしれませんが


このソフトに込めた当社の思いと理念が少しでも皆様に伝わったのなら嬉しいです


長々とご静聴ありがとうございました」


俺の説明が終わった途端、会場から大きな拍手が巻き起こった


明らかに相手側より高評価なのは間違いない


俺は見ている人達に見えないように右拳を握りしめ小さくガッツポーズをする


そして心の中で叫んだのである〈よし、勝った‼︎〉と。


両者のプレゼンテーションが終わり、ゾロゾロと引き揚げる【佐山商事】の人達。


ライバル会社やウチの会社の人たちも撤収を始めるが


だが俺だけはこのままここに残ることとなった、その理由として


この【佐山商事】は元々俺の担当会社だし


この後も相手側の心象を少しでも良くするためにフォローをする為である。


とまあ表向きの建前はそんな所だが、ぶっちゃけると


最終決定権を持つ猪端常務の娘である日向とイチャついてこいという事である。


恥も外聞もなくいえば〈猪端常務の娘に取り入って


少しでも我が社のシステムが導入されるように頑張ってこい〉ということだ


そんなことで採用企業が決まるのであれば


〈システムソフトを作った人達やプレゼンで頑張った努力は何だったのだ?〉となるが


悲しいかな、現実はそういうモノである


やや釈然としないところはあるが俺としては会社公認で


仕事として日向とイチャつけるのだから特に文句があるわけでもない。


それに最近日向とはすれ違いが多く、あまり会えていないのが現状だ


俺にとって最大のイベント【企業コンペ】が終わった今


何の気兼ねもなく日向とイチャつけるのだから、もうウキウキが止まらないといった所だろうか?


「さて、この後日向を食事でも誘うか。大仕事も終わったし、ステーキでも食べたい気分だな……」


そんな独り言を呟きながら控室で一人物思いにふけっていると


〈コンコン〉というドアをノックする音。おっ、もしかして日向か⁉︎


「はい、どうぞ」


俺の返事とほぼ同時にドアが勢いよく開いた


その瞬間、俺の期待していた人物とは違うとすぐに気がつく。


「お疲れ、駿介‼︎」


「唯か……そういえば居たな、お前も」


「何よ、その反応、せっかく勝利の女神が来てあげたのに‼」


「勝利の女神?俺には唯が黒のマントを着て【死神】の大鎌を抱えるに見えたぞ⁉︎」


「もう【死神】って言っちゃっているじゃない‼︎」


「あっ、ごめん口が滑った」


「そういうのは口が滑ったとは言わないのよ


まあいいわ、でも凄く良かったよ、駿介のプレゼン」


「そうか、本当に良かったか⁉︎」


「うん、内容はよくわからなかったけれど相手のプレゼンより良かったと思うよ、客ウケも良かったし」


「客ウケって……ネタバトルじゃないのだから。でも、そうか、やっぱり俺の方が良かったか」


「何よ、あんなに自信満々だったくせに、結構不安だったの?」


「そりゃあ自信はあったし俺の方が良かったという確信もあったが


立場上どうしたって客観的には見られないからな


第三者の目で見て〈俺の方が良かった〉と言ってもらえたら


そりゃあ嬉しいさ、それが例え唯の言葉でもな」


「最後の言葉は引っかかるわね、でも本当に良かったよ


初めて駿介の仕事している姿見て少し見直したし、ちょっとカッコ良かった」


〈ちょっとカッコ良かった〉俺にはその言葉が何より嬉しかった。


そうか、俺は唯の前でカッコいいところを見せられて……


その瞬間、俺の頭に伊藤の言葉がフラッシュバックしてくる。


〈それは古今東西、男という生き物の悲しき性だ


【惚れた女の前でカッコつけたい】という永遠のテーマだよ〉


いやいやいや、違う、それは違うぞ伊藤。


たとえそれが世界の歴史でも、人類に刻み込まれた遺伝子のなせる業だろうと


俺は真っ向否定する、そして抗って見せる、俺の好きなのはあくまで日向だ


この死神の大鎌を持った国民的美少女ではない‼


俺は心の中でそう叫んだのであった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ