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目には目を、倍返しのディナー

唯との電話があった翌日の事、俺は会社のある企画のプロジェクトチームに参加することになった


それは俺の担当する【佐山商事】への新しい管理ソフトの提案である。


【佐山商事】は佐山グループの中でも中枢を占める一大企業であり


その【佐山商事】が今回、企業買収によりある会社を吸収合併する事となった


その際に管理ソフトのプログラムを一新し


吸収合併する会社との一本化を図ろうという事になったのである


その際にわが社ともう一社で【企業コンペ】をおこなう事になったのだ。


【企業コンペ】とは、発注元の企業から指名された業者が依頼内容に沿ったプレゼンを展開し


最終的に最もマッチする企業を選んでもらうというモノである。


そのコンペに勝てば正式採用となり、負ければ苦労だけして何も得られないという


正に天国と地獄、〈オールオアナッシング〉という訳である


しかも【佐山商事】はかなり大手の一流企業なので正式採用となればその利益はかなり大きく


そしてそれをきっかけに【佐山グループ】のシステム管理をすべて任されるという事にでもなれば


その利益は計り知れない、正に社運を賭けた一大プロジェクトなのだ。

 

だがいくら俺が【佐山商事】の担当だといっても、普段の仕事内容は


特に責任のある業務を任されている訳ではなく、営業活動も【御用聞き】に毛が生えた様なモノである。


入社三年目である若手の俺にとってこのプロジェクトへの参加は〈単に座っているだけ〉のはずであった


特に今までの傾向を聞いてもこういった大きな【企業コンペ】は


システムソフトを作るエンジニア側とそれをコンペで発表する営業側とのすり合わせであり


プレゼンする営業側の人間も中堅以上のベテラン営業マンと相場が決まっていたのである。


しかし俺の心の中には熱いモノが込み上げて来ていた


一昨日【オスカルプロモーション】の女社長とやり合った興奮が


まだ体の中でブスブスと燃え残っていたのだ。


唯があれ程大きな期待をかけられ頑張っているというのに


俺だけ何もせずただ傍観している事に耐えられない


しかも【佐山商事】といえば俺の彼女、猪端日向が勤めている会社であり


今回の【企業コンペ】の最終決定権は猪端常務、つまり日向の親父さんである


ここで男を見せないでどこで見せるのだ⁉などと


柄にもない男気を出してしまった俺は重役陣が居並ぶ会議室で颯爽と手を上げた。

 

「そのプレゼン、俺にやらせてもらえないでしょうか‼」



「お待たせ~‼」

 

相変わらずの30分遅れでご到着された【未来の大女優様】である。

 

「唯、お前はどうして時間を守れないのだ、待ち合わせは十時って言ったよな?」

 

「相変わらず細かいわね。今から行く店も十一時からしか入れないし、丁度いいじゃないのよ」


「知るかそんな事、だったら最初から待ち合わせ時間を十時半にしておけよ


そして、今回も俺にお礼がしたいのだよな?だったらそっちが先に来ていろ‼」


「だって待つのは嫌なのだもん」


「俺がいつ〈待つ事が大好きだ〉と言った?自分が嫌なら他人も嫌だと気づけ」


「だって、人が待っていてくれるって、何かいいじゃない……」


急に寂し気な表情でボソリと呟いた唯。そうか、コイツは両親も友達もいないし


人が待っていてくれることは無いのか、確かにそう考えると俺もやや言い過ぎたかも……ん?


俺がそんな申し訳ない気持ちになっていた時、唯は口に手を当てて笑いをこらえていたのである。


「このアマ……やりやがったな?」


「ぷぷっ、駿介って思ったより単純よね~、どう【村人A】の演技力は?」


「ちょっとでもお前に悪いと思った俺が馬鹿だったよ、金輪際唯には甘い考えを持たないと決めた」


「あら?そんなこと言っていていいのかしら?何せ私は【世界的な大女優】になる女でしてよ


今の内にわらわの御機嫌を取っておいた方が良いのではなくて?」


「その喋り方はどこの英国貴族だ?」


「待ち時間が長いというならケーキを食べていればいいじゃないの‼」


「それはどこのマリー・アントワネットだ?しかもマリーはフランスだ⁉」


「知っているわよそれぐらい、英国貴族でパッと名前が思いつかなかったのよ」


「だったらやらなければいいじゃないか、何と戦っているのだ、お前は?」


「戦ってなどいないわ、さあ馬鹿なこと言っていないで、さっさと行くわよ‼」

 

まるでたしなめるように言い放ち、俺のうでを引っ張るように歩き出す唯


いや、馬鹿な事を言い出したのは貴方ですが?……と


いう言葉を必死で飲み込み、目的地へと移動する俺達


そういえば唯に先導されて付いて行くのはラーメン屋と芸能事務所とこれで三回目か……


つくづく自分が先頭じゃないと嫌なのかな?確かにこの性格は女優向きかもしれない、知らんけど……

 

「着いたわ、ここよ‼」

 

連れられて到着した店は俺でも知っている有名フランス料理店だった


何度かテレビでも紹介されており、ミシュランの2スター店だと聞いたことがある。

 

「おいおい、ここかよ、よく予約とれたな?」

 

「そうよ、予約を取るのも結構大変だったのよ、まあ社長の力を借りたのだけれどね」

 

なるほど、そういう事か……って待てよ?


という事はあの女社長も今日の俺と唯が二人で会っている事を知っているという事だよな?


別にやましいことは無いが、何か嫌だな……

 

複雑な思いを胸に中に入るとオシャレな中にも伝統を感じさせる店内


落ち着きと高貴さを兼ね備えた優雅な雰囲気


俺の様な若造にはとてもじゃないが敷居が高く場違い感が半端なかった。

 

店内を見渡し呆けていると案内の店員が姿を見せた、そしてニコリと微笑みながら話しかけてきたのである。


「ブ ゼットゥ コンビヤン?」


うげ~、明らかに日本語でも英語ではない言葉、まぎれもなくフランス語である


何を言っているのかサッパリわからん、どうする?そうだ、スマホの翻訳機能で……


俺が慌ててスマホを取り出そうとした時、唯が何気なしに口を開いた。


「ヌ ソム ドゥー 」


うわ~い、こいつフランス語で返しているよ。こう言っては何だが初めて唯に知性を感じたな。


こうして俺達は店内を案内されテーブルへと着くが、とにかく落ち着かない


シックで落ち着きのある店内の雰囲気なのにそれと相反するように舞い上がる俺


すると店員と思しき男性がメニューを持ってきたが


開いたところで何が書いてあるのか勿論わからない


俺は捨てられた子犬の様な目で唯を見つめると


俺の状態を察してくれたのか、軽く微笑み注文をしていた


どうやら俺の分も注文してくれている様である。


「助かったよ、唯。しかしこんな高級店だと、緊張するな~


ウエイターさんにもフランス語で話さないとダメとか、俺には敷居が高すぎるぜ」


「あのねえ駿介、フランス料理の場合はウエイターじゃなくてギャルソン


それにフランス語がわからないなら日本語で話せばよかったじゃない」


「は?」


「だって、ここ日本よ?日本語が通じるに決まっているじゃない」


「だって、お前、さっきからずっとフランス語で……」


すると唯はサディスティックな笑みを浮かべながら


こちらの表情を覗き込む様にニヤニヤとこちらを見ていたのである、やられた⁉またコイツに……


「こら唯、お前また俺をはめやがったな?」


「さあ、何の事かしら?わらわにはまっこと身に覚え無き事ゆえ


何を言っているのかわかりかねるのでおじゃるよ」


それはもはや日本語もおかしいだろ⁉もういい、コイツに振り回されるのはいつもの事だ


緊張のせいで喉が渇いたので、テーブルの上のコップの水を手に取り一気に飲み干す。

 

「ふ~、唯、お前は俺に感謝する為に今日呼んだはずだよな?俺を笑い者にする為じゃないよな?」

 

「そんなに怒らなくてもいいじゃない。私の事、散々もてあそんだくせに」

 

「人聞きの悪い言い方をするな⁉電話で少しからかっただけだろ?」

 

「私がやられたまま、黙って引き下がる女だと思わないでね⁉」

 

おい、その言い方も聞き方によってはどうかと思うぞ?もういい、疲れた……


コイツと張り合うのはもう止そう。

 

そんな俺の様子を見て少しは悪いと思ったのか、唯はペコリと頭を下げた。

 

「ゴメン、もうしないから、そういえば水を一気に飲み干していたけれど


駿介そんなに喉が渇いていたの?」


「ええ、おかげさまで、咽カラカラですよ」


「わかったわ……すみません、ちょっといいですか‼」

 

日本語で店員を呼ぶ唯、すると先程注文を聞きに来てくれたギャルソンの人がまた来てくれたのである。

 

「ドウシマシタ?」

 

「お水をください」

 

「カシコマリマシタ、少々オマチヲ」

 

本当に日本語でしゃべっていやがる……何だ、これ?シュールなコントですか?

 

それから俺達は気を取り直し、次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打つ、さすがに美味い


おそらくこんな高級店に来ることはもう無いだろうから、一生の思い出になるのかもしれないな。


そんな複雑な思いを抱えながら未来の大スターとともに素晴らしい料理を口に運んだ。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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