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交渉開始

そして翌日、俺は唯に連れられほぼ情報もないまま交渉のテーブルへと向う事になった


緊張からなのかいつもより少し早くに目覚め、休みの日なのにスーツに身を固め、身だしなみを整える。


「さあ行くか」


鏡の前で気合を入れ、いざ決戦の場へ……と少し唯に毒されているな


危ない、危ない交渉事に気負いすぎは良くない結果を招くことが多い


気を付けないとな。これは俺の体験からくる経験則である。


「あっ、駿介、こっちよ〜‼︎」


待ち合わせの駅で俺の姿を見つけた唯が嬉しそうに手を振ってきた


デートに行くのではないのだぞ⁉︎お前の将来がかかっているというのに、どうしてそんなにお気楽なのだ?


それだけ俺に対する信頼が厚いという事なのだろうか?


まあそう考えでもしないとやっていられないが……


「おはよう駿介、今日は頼むわね‼︎」


「おはよう、やるだけはやってみるというだけだ、上手くいかなくても恨むなよ


そしてくれぐれも確認しておくが、俺のやり方でいいのだな?」


「うん、任せるわ、全権委任ということで大丈夫よ‼︎」


【全権委任】いえば聞こえはいいが、この場合は【丸投げ】という言葉が適切ではないだろうか?


唯に案内され現場へと到着する、オフィス外にある小綺麗なビルの一室にその事務所はあった。


その部屋の前には【オスカルプロモーション事務所】と書かれており


俺は思わず気圧された。以前唯の事を〈ウィキペディキュア〉で調べた時には気づかなかったが


【オスカルプロモーション事務所】といえば俺でも知っている超有名芸能事務所ではないか⁉︎


そんなところに全く業界の違う畑違いも甚だしい若造が交渉に来るとか


場違い感が半端ない、しかし今更そんなことを言っていられない、腹を決めていくしかないのだ。


事務所に入り唯の先導で社長室へと案内される、緊張で少し喉が渇くが


少しぐらいの緊張感はむしろいい交渉につながると思っていたのでちょうどいい感じなのかもしれない


もちろんこれは俺の経験則からくるモノだが。


コンコンとドアをノックする乾いた音が室内に響く


すぐに中から〈どうぞ〉という声が聞こえ扉を開ける唯、あれ今の声って?


中に入ると目の前にいたのは女性社長だった、年齢はそれなりに重ねているようだが、やはり美しい


天下の【オスカルプロモーション事務所】の社長ともなれば


流石に見た目や気品というものが違うのだろう、そのオーラの前で少し圧倒されてしまう。


「初めまして、私がこの事務所の代表取締役の岩本香と申します」


物腰の柔らかい口調とこちらを観察するかのような鋭い眼差し


会って数秒で只者ではないことを感じさせた、しかし交渉相手が女社長とは⁉


「初めまして、私は加納唯の親戚で野崎駿介と申します、いつもウチの唯がお世話になっております


今日お伺いしましたのは今後の唯の芸能活動の方針について話し合いたく


こうしてお邪魔させていただいた次第です、どうかよろしくお願いいたします」


「あら、若いのに随分としっかりしていなさるようね?」


「恐縮です。私、【株式会社TWSソリューションズ】という会社に勤めておりまして


そこで営業をしております


〈お客様の運用用件に合わせ総合運用管理ソフトウェアを基盤とした運用管理システムの設計から


構築までを実施するサービスを提供する〉というお仕事をさせてもらっています


もし御社でその様なご要望があるようでしたら、私にご一報ください」


俺はそう言って自分の名刺を手渡した、その名刺に視線を落としジッと見つめている女社長さん。


「中々商魂たくましいわね、さすが唯が頼りにしているだけはある様ね


立ち話もなんですからおかけください」


「はい、失礼します」


女社長に促され高級そうなソファーに腰かけた、そしてその後


女性事務員が湯気の立ったコーヒーを運んできて俺の前に置いてくれる


ここまでは問題も無く交渉のテーブルにつけた様だ


だが安心などしていられない、本番はここからである。

 

「さて加納唯さんの今後の芸能活動において話し合いたいとの事でしたが


野崎さんはどの様に伺っていますか?」

 

早速こちらの腹を探りに来たか、だが喧嘩をしに来たわけではない、とにかく穏便に


双方納得いくところで妥協点を見つけて落としどころと出来れば……


「はい、唯の方から大体の事は聞いております


この度唯が大學に進学した事をきっかけに事務所の方針として芸能活動を拡大していきたいと伺いましたが」

 

すると女社長は無言のまま大きく頷いた。

 

「はい、当社といたしましては、今後加納唯の芸能活動を


大幅に拡大していく方針でいる事に相違ありませんわ」

 

「今〈大幅に〉とおっしゃりましたが、具体的にはそういったモノなのでしょうか?」

 

「はい、今までのモデルのお仕事ももちろんですが、唯には舞台やドラマといったお芝居の仕事や


トーク番組やグルメレポートといったバラエティ番組への出演


レコードレーベルへ所属しCDリリースや音楽配信を伴った歌手活動


各企業や各地域とのタイアップ企画など幅広い活動内容を視野に入れております」

 

「嘘。そんなに⁉」

 

唯が思わず口走る、正直俺も驚いていた、この女社長さんが


ここまで唯を買ってくれているとは思っていなかったからである


俺の様な素人でも芸能人が売れる為には、どれ程事務所のバックアップが必要かはわかるつもりだ


そして同時にこの女社長の口調と態度から〈ちょっとやそっとでは引き下がらないぞ〉


という意志が見え隠れしていた、これは予想以上に苦戦しそうだ。


「お話はわかりました、ウチの唯をそこまで大きく評価していただき、本当にありがとうございます


しかし当人は以前から〈弁護士になりたい〉という夢を持っております


東大の法学部に入学したのもそのためです


どうかその意志を尊重し司法試験合格の時まで


お仕事を厳選させていただくわけにはいかないでしょうか?」

 

すると女社長は大きくため息をついてジッとこちらを見つめてきた。

 

「ではハッキリと申し上げましょう、当社といたしましては加納唯の司法試験合格に向けて


バックアップする気はありません」

 

キッパリとそう言い切った女社長、その言葉には明確な意思と有無を言わせない迫力があった。

 

「どうしてよ⁉事務所に入った時には〈それでいいって〉言ったじゃない‼」

 

唯が思わずソファーから立ち上がり反論した。


「ちょっと、落ち着け唯‼」

 

「だって、だって……」

 

納得できないといった様子で食い下がる唯だが、これはビジネスの話である


向こうもそれ相応の対応をしてくるはずだ、まずはきちんと話を整理しないと。

 

「少しよろしいですか?初めに唯がこの事務所でお世話になる時には


〈弁護士になるという夢を最優先で良い〉という条件で入ったと聞ききました


しかし今になってその条件を覆すというのは一体どのような理屈でしょうか?


私は芸能界という世界には疎いものですかすから


できれば私にもわかる様に説明していただけないでしょうか?」

 

「わかりました、ご説明いたしましょう、我々芸能事務所と所属タレントには


【契約】というモノがあります。その契約内容によって


仕事内容や今後の芸能活動に反映されていくと言っても過言ではありません。


今まで加納唯さんにはそういった内容の【契約】をしていましたから


その様に取り計らっていたのに過ぎません


しかし高校を卒業し大学生になった時期を皮切りに丁度契約更新の時期となりました


ですから今後の契約はそういった内容で提示させていただくとお伝えしたのに過ぎません」


「なるほど、お話は理解しました、しかしあなた方がその内容で契約したいと申し出て来たとしても


こちらがそれに応じなければ【契約成立】とはなりませんよね?」


「はいもちろんです、しかし今までは加納唯さんが〈受験を控えた高校生だったから〉


そういった内容で契約していたのに過ぎません、晴れて大学生となった今


その契約内容を再び継続してこちらが提示する事はありません


今後も当事務所に所属し芸能活動を続けたいというのであれば


その提示内容でご納得していただかないと契約を継続することは出来ないとお考え下さい」


「そんな……」


一瞬、絶望的な表情を浮かべる唯、口調は丁寧だが〈主導権は渡さない


芸能活動を続けたければ黙ってこちらの指示に従え〉という断固たる意志と


〈お前らの様な小娘とド素人が私を相手に交渉など百年早い〉という様な声が聞こえてきそうであった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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