魔性の女?
「どうしたのよ、駿介、最近機嫌いいわね、何かいいことあったの?」
彼女である日向との会話、彼女曰く週末には予定があるとの事なので
金曜の夜に二人で食事に出かけた時の事である。
「そうか?別に何もないぜ」
伊藤の言う通り、どうやら俺はすぐに態度に出るらしい
だが恋人の前で唯との事を話すのは躊躇した。
もちろん唯に対してやましい気持ちはないのだが現役女子高生を相手に
浮気ととられかねない深い話をしてしまったからである
あと数か月でアイツも大学生だし女子高生という際どいワードよりはマシになるのだろうか?
いや女子大生というと浮気相手としてはやや現実味を帯びて来るし、変にリアリティがある……
というか何を考えているのだ⁉アイツはそんなんじゃないし‼
「どうしたの、駿介?」
「いや、何でも無いよ。それよりひなたも大変だな、それって休日も仕事みたいなモノなのだろう?」
「まあね、パパの付き合いで……あ~あ、こんな事ならパパのコネで会社になんか入らなければ良かったわ」
天を仰いでため息をつくひなた、彼女の父親は〈佐山商事〉の常務取締役である
どうやら今年入社した自慢の娘を色々な所に引っ張り出して見せつけたい様だ
まあひなたは美人だし頭もいいのでその気持ちはわからなくはない。
「猪端常務の気持ちもわかるさ、自慢の娘を色々な人に見せつけたいのだろう?」
「私はブランド物のバックとかじゃないのよ、休みの日までパパの娘自慢に付き合わされたらたまらないわ……
でも駿介、パパの事知っているのね?」
「ああ、一応〈佐山商事〉は俺の担当だし、猪端常務には二度ほど会ったことがある、挨拶程度だけれどな」
「ふ~ん、何か世間って狭いわね、でも明日も仕事だと思うと気が重いわ」
「休日出勤ご苦労様、まあ頑張れよ」
「他人事だと思って……休日出勤でも私の場合、休日手当は出ないのよ⁉一応私だって社員なのに……」
頬を膨らませながらすねる日向はとても可愛い、今の俺はこれ以上ない程
仕事とプライベートが充実していた、これも唯のおかげかもしれないな。
それから一週間ほどが過ぎた日のことである、再び唯からこのようなメールが来た。
「駿介にどうしても頼みたいことがあるの、電話ください」
というものであった、そんなメールの内容を見て。
「ヤレヤレ、しょうがないなあ」
などと独り言を呟いてしまう俺、何やらまた面倒くさいことに巻き込まれそうだが
それは決して嫌な気分ではなかった、唯のような可愛くて頭のいい女の子から
頼りにされるという事に自尊心がくすぐられるというかどこか嬉しく感じていたのだ
まあ先日のような〈合格祝いをして欲しい〉という類ではないだろうか?
と、タカを括っていたせいもある、しかしそんな予想に反して今回の頼み事というのはもっと切実なものだった。
金曜の夜、俺は仕事を早く切り上げ、直接唯と会うことにした。
「ごめん駿介、度々呼び出して」
「いいよ、別に、で、今回はどんな用件だ?入学祝いでもして欲しいのか?」
四月を過ぎ、唯は晴れて大学生となった。あれから数日しか経っていないというのに
女子大生と思って改めて見ると、少し大人っぽく見えてきてしまうから不思議である。
そんな唯が少し申し訳なさそうに口を開いた。
「実はね……」
唯から今回の相談内容を聞き、あまり深刻に考えていなかった自分の愚かさを思い知ることになった
前回が〈大学の合格祝いをしてほしい〉だったので、自然とそのレベルの相談だと思ってしまっていたのである
だが考えてみればこの加納唯という女は普通ではなかったのだ、そう色々な意味で。
「ちょ、ちょっと待てよ、俺が⁉︎」
「うん、こういう事を頼めるのは俊介しか思いつかなくて……」
そんな唯が俺に頼んできたのはこういう要件である。
「実はさ、今モデルとして所属している事務所から
〈大学受験も終わった事だし、これから本格的に芸能活動を進めていきたい〉と言われたのよ……」
まあ事務所の意向もわからなくはない、受験を控えた女子高生を引っ張り回すのは何かと問題があるのだろうが
晴れて大学生となり、そういった縛りがなくなった今、本格的に唯を売り出したいと言うのだろう
考えてみれば【東大法学部の国民的美少女】だからな、肩書きだけでも芸能人として面白いだろう。
「で?なんでそこで俺が出てくるのだよ」
「だ・か・ら 事務所と交渉して欲しいのよ、正直そんなにお仕事増やしてもらったら困るの
私弁護士を目指しているじゃない、司法試験ってものすごく難しいでしょ?
だからどちらかというと勉強に力を入れたいのよ、学業優先というか……」
「だったら事務所にハッキリそう言えばいいだろう⁉︎そもそも
〈モデルはそんなに続ける気はない〉とか言っていたじゃないか⁉︎」
「まあ、そうなのだけれどさ……」
何とも歯切れの悪い言い方だ、性格的に白黒ハッキリつけたがる唯らしくない
これは何かありそうだし、どうやら面倒臭そうだ。
「おい唯、お前何を隠している?何かあるのなら言ってみろ?」
「えっ、べ、べ、別に何も隠してなんかいないわよ、変な言いがかりつけないで」
明らかに動揺し、挙動がおかしくなっている唯、露骨に視線を逸らし目が完全に泳いでいたのである
何というわかりやすい態度、これで隠せているつもりだろうか?
「ほう、お前がそう言う態度なら俺は協力しないぞ、唯、お前も弁護士を目指しているのならわかるだろ?
ちゃんと依頼人の意向と内容を全て開示してもらわないと勝てるものも勝てないと」
「うっ、それは……」
痛いところを突かれたのか、返答に困っている様子だ
ただコイツの本心がどういうつもりなのかわからないうちは協力もアドバイスもできないからな。
すると唯は逃げきれないと観念したのか、軽くため息をついた後に自白を始めた。
「わかったらよ、全部言うわ。実は私、モデルは続けたいの……
最初はあまり乗り気じゃなかったのだけれど、やってみると楽しくて
自分を綺麗に撮ってもらえてチヤホヤしてもらえるのって嬉しいのよ、やっぱり私も女の子だから……」
なるほど、ようやく話が見えてきた。要するにこれから大幅に仕事を増やし大々的に唯を売り出そうとする事務所と
モデルは続けたいが仕事の量は抑えたいという唯の要望がぶつかったわけだな
確かにこいつの性格からして、真正面から事務所とぶつかったら感情的になって
〈もう全部止める‼︎〉とか言い出しかねないからな。
「唯、お前はつい先日〈モデルはずっと続けていく気はない〉みたいなことを言っていなかったか?」
「だから、それは、その……ゴメン、嘘でした」
「素直でよろしい、わかった、その事務所との交渉を俺に頼みたいと言うわけだな?」
「うん、お願いできる?」
「まあ唯の頼みだし、別に事務所と交渉するだけならば俺が出て行くこともやぶさかではないが
でもいいのか?俺は無関係の赤の他人だぞ⁉︎」
「そこはほら、親戚のお兄さん的なポジションということで」
「わかったよ、だがもう一度確認するが、結果は保証できないし
やり方は俺に任せると言う事でいいのだな?」
「うん、全然いいよ、私、両親いないし、こういうこと頼めるのは駿介しかいないのよ」
「マネージャーとかいないのか?」
「いるにはいるけれど、マネージャーってやっぱり会社側の人間じゃない、どちらかといえば敵側というか……」
敵って……やっぱりそういう考え方をするのだな、コイツは。
「それに少し頼りないというか、駿介ほど頼りにはならないのよ」
何という嬉しいことを言ってくる奴だ、そんなことを言われて断れる男はいないだろう
もう既に男を手玉に取る手段を身につけていやがる、本人は無意識なのだろうけど……
この見た目でそんな技を身につけたら将来とんでもない魔性の女になるぞ、多分性格的にならないとは思うが。
「わかったよ、やるよ」
「本当⁉︎ありがとう駿介‼︎」
交渉が成功したわけでもないのにこの喜びようは……でも悪くない
コイツの期待に応えられるようにここは腹を据えて頑張らないと。
「でも唯、もし司法試験に受かったら将来、弁護士とモデルを両方やるつもりか?」
「うん、そのつもりだけれど」
随分とあっさりいうな。
「しかし大変だぞ⁉︎できるのかそんなこと?」
「大変なのはわかっているわ、でも両方やりたいのだもん、ダメかな?」
「いやダメじゃないけれど、すごく大変なことをやると自覚しているなら構わないだろう、やれる、やれないは別としてな」
「うん、大変だからやりがいもあるじゃない、若さとは可能性よ‼︎」
何だか少しニュアンスが違う気がするし変なところでポジティブなのは気になるが
まあいい、確かにこいつならアッサリとりやれてしまうかもしれない。
「で?俺はいつどこにいけばいいのだ?」
「明日の土曜日の10時にウチの事務所に来て」
「明日の10時だと?約半日後じゃないか⁉︎
俺がOKするかもわからないうちに事務所側には明日の10時でアポを取っていたのか⁉︎」
「うん、駿介なら引き受けてくれると思って、信じていたから」
〈信じていた〉って……意味合いが違うだろ⁉︎
そもそも俺に明日予定が入っていたらどうするつもりだったのだ⁉︎まあ予定ないけれどさ……
まあ今更だな、コイツはこういう奴だった、唯には本当に振り回されてばかりだ、おかげで退屈はしないで済むが……
俺はそんな事を考えつつヤレヤレといった思いを抱え目の前で嬉しそうに笑う美少女を見つめた。
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