壮絶な理由に断固たる意志
俺に聞いてほしいと言った唯だったが、話すことに躊躇しているようで中々話を切り出してはこなかった
「話、止めるか?また改めて聞いてもいいぞ?」
「ううん、話すわ、聞いて欲しいのよ、駿介に……ねえ【げんき保育園毒殺事件】って覚えている?」
唯の口から思わぬワードが出てきて少し驚いてしまった
【げんき保育園毒殺事件】とは五年前、かなり世間を騒がせた痛ましい事件である
当時保育士の一人が園児達に毒を飲ませ、四人が死亡、三人が重体というとんでもない事件だった。
容疑者の女性は無実を訴え、裁判では結局証拠不十分という形で不起訴となった
だがその判決に逆上した被害者遺族の一人が容疑者を弁護した弁護士を殺害するという悲惨な事件である
そしてその後、警察の捜査により真犯人が見つかって事件は解決する。
当時のワイドショーやニュースなどでも連日放送されていた衝撃的な出来事だったことをよく覚えている
だがこの話の流れだと、やはり……
「そうよ、あの時殺害された弁護士夫婦というのが私のパパとママよ……」
「ごめん唯、何と言っていいのか……さすがに言葉が見つからない」
「うん、そうよね、でも気にしないで、もう大分立ち直ったから……
パパとママは志の高い弁護士だった……だから私はパパとママの様な弁護士になりたいのよ」
そうか、唯のあの異常なまでの正義感はそういうバックボーンがあったのか……
「あの事件は色々な不幸が重なって起きた酷い事件だった
一時期はパパとママを殺した被害者遺族の事を恨んでいたけれど
今は自分なりに整理を付けたわ……でも、どうしても許せないことがあるの……」
唯は唇を震わせ言葉を詰まらせた、俺は黙って聞く事しかできない
少しの沈黙が流れ重い空気が漂う、そして唯は意を決したかのように口を開いた。
「当時無罪判決を勝ち取った容疑者の事をマスコミは批判した
状況的な事だけで犯人だと決めつけていたのよ、だから容疑者を無罪に導いたパパとママにも自動的に批判が向いた
それを見て被害者遺族の一人はパパとママを逆恨みして犯行に及んだの……
だけれどマスコミはその犯人に対して同情的なコメントを展開した
被害者遺族の心情的な事を考えれば同情できる……みたいな
まるでパパとママが悪いのだから殺されても自業自得だ、みたいな感じでね……
犯人の被害者遺族はマスコミの報道を鵜呑みにして犯行に及んだわけだからね
自分達の責任を少しでも軽減したかったのかもしれないわ。
でも警察の捜査で真犯人が逮捕されて、パパとママが正しかったことが証明されたにもかかわらず
マスコミはそれを取り上げなかった、真犯人が捕まったという事実だけを淡々と伝え
あれだけパパとママの事を悪く言っていたことに対して謝罪も訂正も無かった……私はそれが許せないのよ」
とてつもない過去と真実、この目の前にいる美少女がなぜこんな性格になってしまったのか少しわかった気がした
だがさすがに俺では何も言えない、何も言ってやれない……そんな自分の無力さに少しだけ腹が立った。
「すまない唯、俺は何と言ったらいいのか……」
「いいの、何かを言って欲しかった訳じゃない、聞いて欲しかったの、駿介に……
私がなぜ弁護士を目指しているかをね、この事を誰かに話すのは初めてだから、少しスッキリしたわ」
「そんな大事な事、俺で良かったのか?」
「うん、駿介でいい、友達とか仕事仲間にこんな話しても重たいだけだからね
ポジション的に駿介ぐらいがちょうどいいわ」
「お手軽な存在としてそれなりに役に立ったという事か、まあ、最初の変質者からはかなり出世したが……
ってお前、元々話す友達がいないじゃないか⁉」
「まあね、バレたか」
舌を出しておどけてみせる唯、強いな、コイツは……七つも年下の女の子がこれほど頑張っているのを見せられると
〈俺も頑張らないと〉という気にさせられる。
コイツに偉そうに言っている俺が情けない姿を見せる訳にはいかないという気持ちになったのである。
それからというもの、俺は仕事に一段と力を入れるようになった
唯に負けていられないという気持がそうさせていたのである。
「おい野崎、最近妙に張り切っているな、何かあったのか?」
「まあな、少し頑張らないと、という気になったというか何と言うか」
「何があったのだよ?」
「それは内緒だ、伊藤」
まさか女子高生の生きざまに触発されて張り切っているとはカッコ悪くて言えない。
「まあ大体見当がつくけれどな」
「何だよ、何がわかるというのだ?」
「男が張り切る理由なんか一つしかない、女だ」
その一言にギクリとする俺だったが、そんな俺の反応を見てニヤリと笑う伊藤。
「図星か、本当にわかりやすい性格しているよな、お前は、いよいよ彼女と結婚式でもするのか?」
そっちか?いや、そういう訳ではないのだが……まあそちらに話を合わせておいた方が面倒は無いな。
「まあな、大体そんなところだ」
「へいへい、朝からノロケ話を聞かされてごちそうさまですよ」
「お前が聞いて来たじゃないか、じゃあ得意先回りに行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、旦那様~」
俺は伊藤の冗談半分の言葉に答えることもなく張り切って営業の得意先回りへと出かけた
男とはつくづく単純な生き物だと思う、唯の様な賢い美少女に多少なりとも頼られているという事実は
俺に自信とやる気を与えてくれた、不思議なモノでそういった自信が仕事にも良い影響を与え
自然と成果につながっていった、そうなると上司である岡田課長からの嫌味もほとんど言われなくなり
全てがいい方向へと流れている感じがした。
〈仕事における一番重要な事はモチベーションである〉と考えを改める事になる
今度唯に会ったら偉そうに話してやろう……そんな事を考えて一人にやけていたのである。
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