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痴漢に間違われた⁉

目の前の息が白い、部屋の中だというのに今日は一段と冷える。

 

「寒いな~、昨日は結構暖かかったのに……」

 

俺はそんな独り言をつぶやくと、ふと窓越しに見える空を見上げると今日も雲一つないいい天気だ


こういう寒い日の空はどことなく透き通って見えるのは気のせいだろうか?

 

そんな事を考えた時ふとあの日の事を思い出した、あの日もこんな寒い日で空は澄み切っていたな……と。


俺の名前は野崎駿介、都内の会社に勤めるサラリーマン


当時二十五歳で会社勤め三年目だった俺はいつもの様に満員電車に揺られて通勤していた


その日の朝も非常に寒く、空が青かったことをよく覚えている。


 

いつも、いつもこんな満員電車で通勤とか……どうにかならないモノなのかな?

 

毎日のように解決できない問題、というより不満を頭の中で繰り返す


電車内は人ごみで溢れているので寒さだけは多少緩和されるが、いい点はそれだけかもしれない。


逆に夏などは汗かきの俺にとっては最悪で通勤しているだけでもシャツがベトベトになったりもする


帰りの電車は空いているがそれは遅くまで残業しているからであって、喜ばしい状況とはいいがたい。

 

都内のソコソコ大きな会社に勤める事になった時は友達から羨ましがられたが、まあ実際はこんなモノである


地方や地元で働いているアイツらの方が余程羨ましいとさえ思えた。

 

それこそ〈隣の芝は青く見える〉というヤツなのだろう、〈自分は恵まれている方なのだ……〉


と思い込まなくてはやっていられない……朝からそんなネガティブな思考を巡らせ一人で滅入っていた


そんな時、ふと横にいる女子学生の異変に気が付いた、顔を赤らめうつむいているが、明らかに様子がおかしい


〈どうしたのだろう?〉と思いよく見てみるとどうやら痴漢の被害にあっている様だ


こういう満員電車には付きものでいつの時代も無くならない破廉恥な犯罪行為である。


こういうモノを見てしまうと本当に〈馬鹿じゃないのか?〉と思えてくる


〈女の子のお尻を触りたい〉という気持ちは同じ男としてわからなくはない


だがそれが発覚し犯罪者として捕まった時のリスクは計り知れない


家族からも軽蔑され当然会社はクビ、おまけに前科まで付いてしまうという特大のブーメランが返って来るのだ。


それは社会的に抹殺されるといって等しい、もちろん必ず起訴されると決まったわけではない様だが


それには裁判で勝利し不起訴処分を勝ち取るか、多額の示談金を払って示談に持ち込むかの二択になるだろう


どちらにしても明るくない未来が待っているという事である


それをわかっていてなおかつ痴漢に走るというヤツの神経がわからない。

 

とはいってもこの場でどうこうする気はない、いらぬ正義感を出して余計な面倒ごとに巻き込まれても厄介である


何より会社に遅刻してしまうからだ。


隣の子には申し訳ないが、ここは知らないふりをして……そんな時である。

 

「ちょっと、アンタ、止めなさいよ‼」

 

真後ろにいた別の女の子がそう叫んだのである、何事かと思い振り向いてみると


眼鏡をかけた女子高生らしき人物が僕を睨みながら激しい口調で訴えてきたのだ。

 

念の為に辺りを見渡してみるが、俺に向かって言っているのは間違いなさそうだ。

 

「はあ?もしかして俺の事?」

 

「アンタ以外に誰が居るっていうのよ、この痴漢‼」

 

にわかに周りがざわつき始め皆の視線が俺に集中する、何だ、何が起こった⁉

 

「俺が痴漢なんかする訳ないだろう、いい加減にしろよ‼」

 

「痴漢は皆そう言うのよ、次の駅で降りなさい‼」

 

ちょっと待てよ、やってもいない痴漢で犯罪者扱いとか冗談じゃないぞ‼

 

「ふざけるな、そんなのに付き合っていられるか、会社に遅刻してしまう」

 

「往生際が悪いわね、逃がさないわよ‼」

 

その子は俺の腕を掴んで睨みつけて来きた。何だ、コレ、これが冤罪って奴か?

 

俺はなし崩しに次の駅で降りさせられた、もちろんこの子の腕を振り払って逃げる事も出来ただろうが


それだと完全に俺の犯行だと認めてしまう事になる


そして明日以降もコソコソと別ルートで通勤しなければならないだろう、そんな事は死んでも御免だ。


だが痴漢の冤罪を晴らすのは並大抵の事ではないと聞いたことがある


まさかこんな事で俺の人生終わりなのか?絶望にも似た感情が俺の胸に込み上げてきた。

 

完全に俺を犯人だと決めつけ、もの凄い形相でこちらを睨みつけている眼鏡の女子高生


コイツにしてみれば俺は女の敵というヤツなのだろう、だがこっちにしてみれば


お前の青臭い正義感で犯罪者にされては堪らない、俺の心に沸々と怒りがわいてきた。

 

「俺を痴漢に仕立て上げて、金でもせびるつもりか⁉」

 

「はあ?今度は逆切れ、いい加減みっともないわよ、もう観念して……」

 

火花を散らして激しく言い合う俺達だったが、そんな時


痴漢の被害にあっていた女の子が申し訳なさそうに口を挟んできた。

 

「あの……ちょっと、よろしいでしょうか?」

 

仲裁のような形で口を挟んできた被害者の女の子のおかげで一旦俺達の言い争いは水入りとなった


だが根本的な解決にはなっていいない、どうすれば……

 

すると俺を糾弾していた眼鏡をかけた女子高生が今度はその被害者の女の子に向かって強い口調で言い放った。

 

「貴方もこの痴漢野郎に言ってやりなさいよ‼どれだけ欲求不満なのか知らないけれど


無抵抗の女子高生に痴漢行為って、社会人として恥ずべき……」

 

この女、言わせておけば言いたい放題、一体何なのだ、コイツは⁉

 

だがこの物語は思わぬ展開で結末を迎える事になったのである。

 

「あの~申し訳ないのですが……実は私、女子高生ではなく痴漢にもあっていません」

 

「はあ?貴方一体何を言って……」

 

するとその子は再び申し訳なさ気な顔で、チラリと俺の方を見ると大きく頭を下げた。

 

「すみません、実は私を触っていたのはこの人なのです‼」

  

気が付くとその女の子の横に社会人風の男が立っていた、そいつは頭を抱え女の子と共に頭を下げてきたのである。

 

「ちょっと、何、どういうことなの?」

 

「実はこの人は私の彼氏でして、その……彼が〈一度、満員電車で痴漢をしてみたい〉


と言うので私が高校時代の制服を着て二人で満員電車に乗ったという訳なのです……」

 

「は?」

 

目を丸くして言葉を失う眼鏡の女、あまりの超展開に俺も驚きを隠せなかった


なんというはた迷惑なプレイを……

 

「何よ、それ……嘘でしょう?」

 

とんでもない告白にとても信じられなかったのか、改めて問いただすが


赤面したままうつむいて言葉を濁す女子高生風の女の子


確かに改めてよく見てみるとその子の年の頃は十代には見えず、精々二十代半ばといったところだろう。

 

こうしてテレビ番組のドッキリ企画の様な結末で冤罪が晴れた俺だったが


当然納得のできるモノではなかった。そして俺の怒りの矛先は痴漢プレイをしていた迷惑カップルではなく


青臭い正義感を振りかざし俺を変質者呼ばわりしたこの女に向いたのである。

 

だが当の本人はあまりの展開に思考が付いて行かないのか、困惑気味に迷惑カップルに向かって説教していた


俺はそいつの真後ろに立ち、見下ろしながら思わず声を掛ける。


「おい、そいつらに説教する前に、俺に言う事があるのではないのか?」


「あ……」


事態を把握したのかバツが悪そうに振り向いた眼鏡の女、もちろん俺は怒り心頭モードである


人を変質者扱いしておいてどういう謝罪をするのか、少しだけ意地の悪い興味がわいてきた。


「いや、その……悪かったわ……じゃなくて悪かったです、ごめんなさい」


「ほう、人を変態扱いした挙句、ボロクソ言ってくれたよな、その謝罪がそれか?」


「しょうがないじゃない、そう見えたのだから……だから謝っているじゃないの‼」


「それが人に謝罪する態度か?しかもさっきお前は俺に向かって


〈今度は逆切れ、いい加減みっともないわよ〉とか何とか偉そうなご高説を聞かせてくれたよな


今その言葉をそっくりそのままお前に送ろう、で?改めてもう一度聞こうか」


その眼鏡の女は唇を震わせ再び睨みつけてきたが、今度は完全にこちらの立場が上だ


一歩も引く気はないし、優しく大人の対応をしてやる気も毛頭ない。


この女とは知り合いでも何でも無いのだから今後の人間関係を気にすることも無い


だからコイツにどう思われても関係ないのだ、俺のされた仕打ちを考えれば


少しぐらいはいじめてやらないと気が済まないのである。


こんな女子高生相手にやや大人気ないとは思うが、俺はそれだけの事をされたのだ


もし相手が社会人なら俺が訴えれば〈名誉棄損〉に該当するかもしれない、これぐらいの事は当然の権利といえよう。


「どうした?相手に対して迷惑をかけたのならば心より反省し相手に謝罪する


社会に生きる人間として当然のことだし子供の頃に学校で習っただろう?そんな当たり前のことが出来ないのか?」


コイツは正義感が強そうだからこういう言い回しが一番効果的だろう


案の定、顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。


根拠もないのに青臭い正義感を振り回すからこういう事になるのだ


そもそも社会に出たら自分が悪くも無いのに仕事で頭を下げる事などしょっちゅう……その時、俺は気が付いた。


「ハッ、いかん、会社……完全に遅刻だ‼」


俺は慌てて電車に飛び乗る。もうあの女の事など頭から飛んでいた


時間が気になって思わずスマホを覗き込んだが、そこに刻まれていた時刻は間に合うか、間に合わないか?


という次元ではなく、どう考えても遅刻確定という時間だったのである。



頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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