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錬金術士ククルと妖精の国  作者: ラーメンカレーセット
病の村
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疑問

 目を覚ますと霧は晴れていた。

 太陽は平原を照らし、まるで前日の霧が無かったかのように錯覚する。

「おはよう、ククル」

 ララは先に起きていたようだ。

 身支度を終え、今にでも出発できそうな装い。

「おはようございます、ララさん」

 きょろきょろと辺りを見回し、ずいっと私に体を寄せるララ。

 耳元に口を寄せ、ララは言った。

「モルブス村に行ってみない?」

「え?」

「私、あの村で何が起こってるか気になる」

「でも、意味がないじゃないですか」

 そう、意味がない。私達が向かう先はクムイ。それなのにモルブスに寄る?

「うん、でも私の勘ではあの村には何かある」

「はぁ…」

 ララの髪からアリーが顔を出す。

「諦めろ、ククル。こうなったララはもう止められない」

 それだけ言ってまた髪に隠れるアリー。

「そういうこと。それじゃ行きましょ」

 私の手を取り、ベッドから引きずり降ろそうとするララ。

「待ってください!一応、乙女だから!準備があるから!」


 部屋を出ると、一室貸してくれた老婆が椅子に腰かけていた。

「聞こえてたよ、モルブスに寄るんだってね」

 あちゃーという表情をするララ。

「ま、止めないけどね。あたしにはもう関係こった」

 そう言って立ち上がる老婆。

 ララに近づき、立ち止まる。

「お前さん達、本当に村をどうにかできるのかい」

 首を傾げる。本当にあの村には何があるのか。

「私達は錬金術士。できないことは多分あまりない。だから調査して解決する」

 老婆はララの手を握り、涙を流す。

「お願いだ、あの村を救ってくれ」

 ララは老婆の手を握り返す。

「それが錬金術士の役目だから」


 老婆は一つ小瓶を渡してくれた。

 昨日飲ませてくれた薬だ。

「この薬が役に立つかはわからないけど、持っていきな」

 薬をまじまじと見るララ。

「これは何の薬なの?病の霧とか言ってたけど」

「それは魔物化を防ぐ薬さ」

「え?」

 老婆はもう一度椅子に腰かける。

「どういうこと、お婆さん」

 私は老婆に問いかけた。

 魔物化?どういうことだ。

「文字通りの意味さ、あの霧を吸い込みすぎると人が魔物に変貌するんだ」

 そう言って、老婆は自身のスカートを持ち上げる。

 そこにあったものを見て、私は絶句した。

 いやあったものというのは正確ではない、正しくは“そこにあるべきはずのものが無かった”。

「あたしも霧を吸い込みすぎた元人間の1人さ。今はなりそこないのゴーストの魔物ってとこかね」

 本当に人が魔物になっている。霧を吸い込んだだけで。

 私はララの顔を伺った。

 そのララの顔は見たこともないほどに、怒っていた。

「お婆さん、本当に人が魔物になる霧なんだね」

 ララはお婆さんに問うた。

「ああ、そうさ。霧が出るまでは平和な村だった。だがある日、突然霧が出て次々と人が魔物に変貌した。変貌した魔物はこれまでの記憶が消えたように人を襲うようになったのさ」

 あれ、と疑問に思った。

「じゃあ、お婆さんはどうして人を襲わないの?」

「それは」

 遠くを見る老婆。

「霧が出て数日後のことさ、王都から派遣された1人の貴族がやってきたのさ」

 そう言って、ララの持つ小瓶に指さす。

「その薬を持ってさ。その薬のおかげで症状はみな回復した。一瞬でその貴族は英雄扱いさ。でも、魔物化が進行していた者を完全に人間に戻すことは叶わなかった。あたしみたいな奴らがそうさ」

 目を手で覆う老婆。

「あたし達はね、自ら村から出たのさ。こんな化け物と一緒に暮らすのは怖いだろうからさ」

 老婆はこれまでで一番の大声をあげた。

 それがどれだけ辛いか。その言葉だけで感じ取れた。

「あたしからしてみれば、あの貴族が怪しいんだ。頃合いを見て薬を持って現れる。何かあるに違いない。なのにあたしは何もできない。悔しいよ」

 ララは終始無言だった。

 そんなララが私の手を引く。

「ちょ、ララさん!?」

「お婆さん、お世話になりました。必ず霧を止めるから」

 老婆は顔を向けないまま、窓を向いている。

「ありがとう」


「ちょっと、ララさん。もう手を離してください!」

「ああ、ごめん」

 そこにあったのはいつもの表情のララだった。

「ごめんね、らしくないとこ見せた」

 ふぅと一息つくララ。

「ねえ、ククル。おかしいと思わない?」

「何がですか?」

「なんで、その貴族は薬を持ってたのか。どうして村人は薬を持っていなかったのか」

 立ち止まる。

 それが疑問?確かに貴族が薬を持っていたのは怪しい。でも、村人が持っていないのは当たり前じゃないのか。

「どこかに疑問する余地がありますか?」

「あるよ、今はイグニスがある時代だ」

「はい」

「それじゃあ、村人が何をするかはわかるよね?」

 確かにイグニスがあれば、まず薬を作ることから始める。

「でも、それがおかしいことですか?単純に村人の知識じゃ作れなかっただけでは」

「違うよ、全然」

 ララは私に向き直る。

「イグニスは錬金術なんだ。錬金術を万人に与えた。だからあなたもサラから聞いたでしょ」

「サラから…」

 サラは言っていた。錬金術は知識と技術、その他に重要な要素がある。人の身ではそれが足りない。

「願いの力…」

「そう、願いの力。それが必要なの。イグニスは知識と技術をカットして、願いの力を増幅する機構があるの。だからね」

「願っても作れない物は作れない」

「うん、それは全てのイグニスに共通してる。だから、貴族が持っている薬がどこからどうやって作り出されたのか。それが謎なの」

 また村へと向き直るララ。

「私達は貴族と話をしなければならない」


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