ククル1-1
潮風でページがめくれる。
そっと、今見ていたページまで私は戻す。
潮風でページがめくれる。
また私はページを戻す。
潮風でページがめくれる。
また戻す。
まためくれる。
また戻す。
……。
ページはめくれる。
放っておいてもまためくれる。
……………。
うん、今日は風が強いみたいだ。
パタンと勢いよく読んでいた本を閉じた。
やめだやめ。こんちくしょー。
くそー、ちくしょー。私がどれだけこの時間を大切にしているのかわかっているのか潮風よ。
ふんす、と声を出してせっかく手に入れた朝の特等席を足早に立ち去ることを決意する。
ふざけるなと思う反面、仕方ないとは思う。思うが私は自分勝手なのだ。毎日の朝読書をお気に入りの場所で読むことが唯一の癒しなのだ。少ないストレス解消を奪われる苦しさはたとえ自然相手だろうと許されない。というか自然だからこそこの行き場のない怒りがあるのだが。
やめやめと本を持った手を振る。一旦帰ろうと決める。
本来であれば、ここでの朝読書を終えた後に学校に行くが、いかんせん朝読書の邪魔をする不届き者がいるせいで時間の余裕があった。
だが、その脚は重い。
「家、か」
家に帰るというだけで動けなくなる。いや、正確には学校に行くときも脚は重い。
私はここにいたい。もっと言えば、母親と学校の人間に会いたくない。
その理由は明白で、そして単純。
錬金術をバカにされるからだ。
先ほどまで読もうとしていた本もそうだ。
全て錬金術に関すること。
錬金術が私の全てで、錬金術こそが私の未来。
だけれど、誰にも理解されない。
まあ、それもそうだ。
だって錬金術は旧時代の力なのだから。