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錬金術士ククルと妖精の国  作者: ラーメンカレーセット
始まり
13/121

ククル1-7

「姉さん、開けてくれる?」

 ドンドンと扉を叩く音が聞こえた。

 一体外で何があったのだろう。


 あれは、私がアトリエに着いた時の話だ。

「姉さん、遅いよ」

 ぐったりと、顔が青ざめたコリウスがいた。

「ど、どうしたのコリウス」

 まあ、聞くまでもないが。

 原因はわかってる。あのコリウスの隣でフワフワと浮いてる羽虫のような女のせいだろう。

「サラが質問攻めするんだ。確かに、軽率に外へ出ないよう監視をする必要はあったけどさ…」

 自分の鍛錬の時間を奪われるし、何より疲れたと。そう言った。

 サラはサラで「え、私が悪いんですの?」と言っていた。

 まあ、そうなることは若干予想がついていた。

 何せ記憶が無いのだ。何もわからないということは、全てが未知に溢れているということ。

 未知は恐怖だ。

 無知は1だが、未知は0なのだ。

 この道の先に何があるのかを知っていて、そこから逃げることが無知であるのに対して、未知はこの先に何があるのかを知らないまま突き進むこと。

 だが、何かが起こる。それだけは理解できるのに進むことしかできない。そんな生活を送れるわけがない。

 だから、知識を欲する。生きるために。

 だから、私はコリウスに言った。

「まあ、許してあげなよ。記憶無いんだから」

「そうだけどさぁ…」

 少し不服な様子だが、理解はしてくれる。

 そんなコリウスが私は好きだ。

「でも、姉さんがもっと早く来てくれたら、もう少し早く鍛錬できたんだ」

 こういう反論は嫌いだけど。

「ごめん、ごめん。私が悪うござんした。じゃあ、この後は私が引き継ぐからコリウスは鍛錬しておいで」

 何より、サラには私も聞きたいことがあった。

 だから、別に引き継ぐことに関して文句は無かった。

「ありがとう、姉さん。行ってくるよ」

 コリウスは立ち上がり、近くにあった自分の剣を手に取って、玄関に向かう。

「それじゃあ、姉さん。変なことはしないでね」

 変とは何のことを言っているのかはわからなかった。

 それを問いただす前に、コリウスはさっさと出て行ってしまった。

「変って何よ、変って」


 コリウスが鍛錬に出て、1時間もしない内だった。扉が鳴ったのは。

 早い帰りに自分で扉を開けられない。

 何かがあったに違いない。

 私は焦って、扉を思いっきり開けた。

 すると、そこにはコリウスが1人の女性をお姫様抱っこしていた。

「あ」「あ」

 その女性と同時に声が出た。

 まあ、だってその女性は先ほどまで追いかけられていた相手で。

 私が苦手とする人物。

 リナリアだった。

 そっと扉を閉める。

「ククル?今の誰です?」

 後ろで本を読んでいたサラが聞いてきた。

「知らない人。うん、私の知らない人」

「そうですか」

 サラはまた本を読み始めた。

 というか、私が帰ってきてからサラは大体コリウスから聞けて満足したのか、私とは話をしてくれなかった。こっちは錬金術をしたいのに。

 ドンドンとまた扉が鳴る。

 無視無視。無視に限る。

「居留守でーす」

 ついでに居留守も宣言しておく。

 バンと扉を開け放たれる。壊れるって。

「居留守を宣言するバカがいるか!」

 ぜえぜえと肩で息をするリナリアがいた。

 後ろでは何事かと困惑しているコリウスがいた。

「うるさい、私が相手したくない相手には居留守を使う。これ生きる上での必須テクよ」

 ムキー!という効果音が聞こえる。いや、自分の口で言ってない?あの人。

 というかまさかコリウスがリナリアを連れてくるとは思ってもいなかった。

「まさかこの家にあなたがいるとは思ってもいませんでしたわ!」

 あっちも同じ気持ちだったようだ。

「それで何の用なの?見たところ汚れてるけど」

 ジトっとリナリアを見る。

 彼女がよく履いているプリッツスカートとブラウス、そして顔は泥で汚れきっていた。

 私を追いかけている途中で転んだのだろう。まさに自業自得だ。ざまあない。

「用なんてありません!あなたに施しを受けるくらいなら惨めに帰ります!」

 それは助かる。めんどくさい相手が自分から消えてくれるならありがたい。

「はい、それじゃあお帰りください。村までは右の林道を道なりに進んでもらって」

「姉さん」

 ぴしゃりとコリウスが口を挟む。

「知り合いなら助けてあげなよ、リナリアは魔物に襲われてたんだ。このまま1人で帰せないよ」

 魔物に襲われた。

 思い出すあの時の記憶。

 無力感と絶望感。

 あの時を思い出すと今でも震える。

 懐かしい気持ちと恐怖が混在した記憶。

 ハァ、同じか。

 彼女も恐怖したのだ。

 それで見捨てるようじゃララさんと肩は並べられない。

「わかったよ、入りなリナリア」

 手招きをする。

「あなたには感謝しませんわ、ククル。コリウス…さんは別ですが」

 少し顔を赤らめるリナリア。

 おっと~?なんだこれ?

「一応、姉さんにも感謝してあげてほしいな」

 と苦笑いで頬をかくコリウス。

 え~と嫌な顔をするが、小さな声で「コリウスさんが言うなら」と言って、

「あり、がとうございます。ククル」

 と言った。

 その顔はずっと赤らめていた。

 私はこれ以上考えないようにした。

 アトリエの奥に進むリナリア。それを追うコリウス。

 すると当たり前のように声がかかる。


「あら、お客様ですかククル。いらっしゃいませ」

 サラは広げていた本に立ち、まるでスカートの裾を両手で軽く持ち上げるような形で歓迎のあいさつをした。

「え?」「あ」

 当然リアリアは知らないわけで。

 私もサラの存在をすっかり忘れていたわけで。

 あちゃ~という顔をしたコリウスがいたわけで。

「あれ?おかしかったでしょうか」

 何も理解できていないサラがいるわけで。

「ククル、えっとこの人は?」

 ギギギと首を回すリナリア。

 私はその動きに合わせて目を背ける。

「妖精」

 それだけ答えた。

「妖精、へぇ~」

 リナリアは疲れていたのか。もしくは今日の連続した出来事のせいでキャパオーバーしたのかはわからないが、失神して倒れた。

「リ、リナリア!?」


 この出会いが始まりだった。

 そう、全ての始まりだった。


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