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錬金術士ククルと妖精の国  作者: ラーメンカレーセット
始まり
12/121

リナリア1-1

 6限の終わりを告げる鐘が鳴る。

 ぞろぞろと立ち上がり、みな教室から出て行こうとする。

 その中に1人、逃してはならない人間を見つけた。

 ククルだ。

「あら、どこに行こうっていうの、ククルさん?」

 うげ、という顔を隠しもしないククル。

 そういう所に腹が立つ。

「どこだっていいでしょ、あんたに関係ないよリナリア」

 死んだ目。いつものククルはそういう目をしていた。

 だが、今日はどこか違っていた。

 それが気になっていた。

 まるで宝物を見つけたような無垢な目。

 端的に言って、今の彼女の目は輝いていた。

 腹が立つ。

 お前らしくないお前に腹が立つ。

「関係ありますよ、あたしは学級委員長。あなたが昨日サボった“理由”を知らなければならないのですから」

「肩書だけのくせに」

 ぼそりとククルは呟いた。

 そうだ、所詮お飾り。所詮家柄のため。そんなのはわかっている。だが、お前に言われたくない。お前にだけは。

 奥歯を噛みしめる。我慢。我慢よリナリア。

「聞こえてるわよ、ククル」

 ハァとため息をつくククル。

「では、」

 と彼女に対して肩に触れようとした時だった。

 ククルは一気に駆けだした。

 速い。

 昔から変わらない足の速さ。

 追いかけても追いかけても追いつけない。

 ――ああ、腹が立つ。

「待ちなさいククル!」


 無理に追いかけるんじゃなかった。

 あたしは今とても疲れている。

 もう本当に後悔している。

 こんなに疲れているのに、知らない森に迷い込んでしまった。

 上がった息を整えようと冷静になった時に気づいた。

「ここは…?」

 しかし、確かにククルはこの森に入っていった。

 そこまでは見たのだが…。

 来た道もわからない。

 四方はどれも同じ木々に見える。

 気づいたら動けなくなっていた。

 冷静になればなるほど、頭は恐怖で支配された。

 整えた息はまた上がり始める。

 自分の生唾を飲む音が良く聞こえた。

 ガサっと後ろで音がした。

 振り返れない。

 思考する。

 後ろにいるのは誰?動物?人間?はたまた…魔物?

 背筋がぞくりとした。

 だけど、足は震え動けない。逃げれない。

 だから、かけられた声で泣きそうになった。

「ダイ、ジョウブ?」

 言葉を操っている。

 人間。人間だ。

 あたしは安心しきって振り返る。

 そこにいたのは、小さな人型の魔物だった。

 ゴブリン。

 人語を操り子どもを攫う小さな魔物。

 知っていた、聞いていた。近くに最近出没しているとは聞いていた!

 だけど、まさかあたしが。

 あたしが標的になるなんて。

 気づいたら涙が流れていた。

 それを見てゴブリンは笑う。

 ニタニタと笑いながら近づいてくる。

 無理に走ろうとしたが、足は言う事を聞かない。

 バランスを崩して顔から泥に落ちる。

 お父様から貰った大切なプリーツスカートが汚れる。

 自分が汚れるよりも自分が死ぬよりも、その事実が自分を傷つけた。

「お父様…」

 必死に出た言葉。

 亡き父への想いだった。

「ダイ、ジョウブ?ダイジョウブ?」

 ヒタヒタと聞こえるゴブリンの足音はまるで終わりを告げるカウントダウンのようだった。

 ザクリと音がした。

 その後、ポタポタと水の滴り落ちる音がした。

「ダイジョウブ?ゲボ、ダイ、ジョ…」

 何かが倒れる音がした。

「大丈夫かい!?」

 顔を上げるとそこには剣を携えた金髪の青年がいた。

 こんな命の危機だったのに。

 大切な思い出が汚れたのに。


 あたしは、彼に一目惚れをした。


「大丈夫、君。立てる?ってうわ、めっちゃ汚れちゃってる…。近くに僕が使ってる家があるからそこに行こう」

 彼はあたしの手を取って、立たせてくれた。

 彼はあたしの手を引っ張ってくれた。

 だけど、今までの緊張感のせいか上手く足が動かなかった。

「おっと」

 倒れそうになったあたしを彼は抱きとめてくれた。

 彼の顔が近づく。

 なんて美しい顔なのだろうか。

 彼は不思議がった顔をした。けど、安心がらせようとしたのか、すぐににっこりと笑った。

 優しい人だと思った。

「大丈夫そうじゃないね、ちょっと失礼するよ」

 彼はそう言って、あたしを持ち上げる。

「うわっ」

 おんぶしてくれた。

 しかもただのおんぶではなく、お姫様抱っこだった。

 顔が蒸気する。

 恥ずかしい。けど、嬉しい。

 そんな感情が入り乱れた。

「それじゃ、行くよ。あ、えっと名前。自己紹介忘れてた」

「リナリア」

 即座に返事してしまった。

 そんな自分が少し恥ずかしい。


「リナリア、どこかで聞いたような?まあ、いいか。僕はコリウス。よろしくね」


 コリウスは意気揚々と近くの家へと走りだす。

 彼が使う家とはどういうものなのだろうか。

 期待に胸を膨らませていた。

 しかしその日、あたしは一目惚れと同時に絶望を味わうのであった。


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