ククル0-1
それは、ちょっと勇気を出して、森へと出かけた時の出来事だった。
ガサゴソと草が擦れる音がしたため、背後を見た時、目に入ったその光景に絶句した。
魔物がいた。
と言ってもさほど脅威のある魔物ではない。
小さな液状の魔物、いわゆるスライムだった。
だが、幼い自分には十分脅威だった。
「あ、」
人は本当の危機に陥った時、悲鳴すら出ないと痛感した。
足が震え、まるで自分は石像になってしまったかのように動かなかった。
死ぬ。そう直感した。
絶望し、何もかも諦めた。
死を待つために、死ぬ瞬間を目撃しないために、私は目を瞑った。
だが、その死は訪れることはなかった。
代わりに大きな爆発音が聞こえた。
ゆっくりと目を開ける。
目の前に立っていたのは、それまでいた凶悪なスライムではなかった。
爆風になびく長く美しい黒髪を持った女性だった。
「あっつ!あつ!いや火薬の量間違えた!」
途端にジタバタとし始めた。
その女性は颯爽と駆けつけ、カッコよく助けてくれたのだと思っていたが、途端にマヌケに見えた。
「あっつ、あっつ!あ!!!君、大丈夫だった!?」
振り向いた女性は私に手を差し伸ばした。
顔と白いブラウス、そして赤いネクタイは爆弾で煤汚れていたが、それでもわかる美しさがあった。
私は差し伸ばされた手を握って起き上がった。
「だい、じょうぶです」
「良かった」
煤汚れた顔でにっこりと笑った。
「私はララ。こっちはペットのアリー」
彼女の長い黒髪からかき分けて肩に乗ったのは、小さなトカゲだった。
「よろしくね、えっと…」
「ククル、ククルっていいます」
「よろしくね、ククル」
懐かしい私の恩師との出会い。そして、錬金術の出会いだった。